Episode7:トンネルを抜けると…開通に難アリ?(棚から牡丹餅がたくさん)
ワタリ領開発をはじめ、早10ヶ月が過ぎた。
「もう、ここに来て10ヶ月もたったんだな、決して順調とは言えないけど、どうにかこうにか領地運営出来ているのも国王からもらった報奨金が結構大きいし、みんなの協力もあっての事、あとは僕が選んだ神さまからもらったスキル、つまりは沢山ある異世界モノの代表的なお決まりスキルは伊達じゃないってことだね。」
「ソアラ!ワタリ領の自治関係はどんな感じだい?」
「ご主人さま、ワタリ領には今、500人ほどの定住者がおり、事件もなく平和に暮らしております。さらに ”未来工業” の名で商業ギルドに登録しております。ご主人さまの言われる ”会社” も順調に社員も増えており、いくつかの製品登録から、利用料収入を得ることもできています。」
「それでご主人さま、二つほどお願いがあります。」
「何か問題でも?」
「いえ、問題と言うより、アイデアを聞いて頂きたいのですが。ワタリ領はまだ人手不足の状態は続いています、なのでもっと働き手が来やすい環境を整えたいと思います。”未来工業” は、ワタリ領に住む事を条件に入社し働いて頂いていますが、短い期間でも働けるように、さらに、一時的に入居できる住居があればと考えたのですが。」
「うん、良い考えだ、短期雇用の社員、そんな人が住む宿屋のような宿泊施設か。ソアラ、早速取り掛かってくれる!」
「防衛省のアキナはどうだい?」
「はい、ご主人様、500人の領民のうち軍事訓練を経験したものは100名と少し、全員B級以上の冒険者登録も済ませています。ですが、今の状態では常に攻めと守りを担っており、休む暇がありません。人員を増やし攻め50名、守り50名、休暇50名で一定期間で回せるようにしたいのです。」
「戦士には休息も!か、そうだね、少し報酬を上げて希望者を募ってくれるかい?」
「ユイはどんな感じかな?」、「はい、ご主人様、迎賓館の運用はゲストの皆様に大変高い評価を頂いております。ご主人様のお国の料理も大変好評です。私としましては、もっと、ご主人様のお国の料理レシピを増やしたく思います。」
「そうだね、レシピはまた考えるよ。この国の食べ物や調味料なんかは似ているようで違うものも多いから、自信を持って出せるようなものになるまでは、試作が必要なんだけど、時間がなくてね。」
「それとユイ、ゲストのおもてなしはしっかり頼むよ!あと ”聞き耳” スキルで情報もね。」
「かしこまりました、ご主人様」
「次、セリカどうかな?」
「はい、ポーションと毒消し、麻痺消しは、量産してアキナのところで使っています。まだ、販売できる程量産は出来ておりません。それとご主人さまが言われます漢方薬についてはまだ調査段階です。ですがこちらの世界でも、様々な効果を示す薬草がありますので、その採取についてもアキナの兵に依頼をしているところです。」
「そっか、病院についてはどうかな?」
「今はまだ小さいもので、入院できるのも5名程度ですので、私を含めヒーラー3名で運営しています。」
「まだまだ、少ないな。最低でも、50名ほどの入院施設が必要だよ、それに見合うヒーラーのお医者さんもね。」
「準備を急ぎます。」
「カムリは農業の方で成果が上がってきているね!」
「漁業はまだですが、農業は精霊の力を借り、土壌の改善、土壌魔力の増強、何よりご主人さまの知識による肥料の力で収穫期間が早まり、収穫量も当初の2倍となっています。収穫物は米、小麦、モロコシ(とうもろこし)、トウキビ(サトウキビ)、バレイ(ジャガイモ)、カンショ(サツマイモ)、ケール(キャベツ)、キャロル(人参)、ヒガネギ(玉ねぎ)を収穫しています。これからはもっと研究し、ご主人さまの仰います香辛料の栽培にかかろうかと存じましゅ。」
「精霊にお願いして、ハチミツみたいなもの集められないかな?」
「確認いたしましゅ。」
「カロラ、他国の状況はどうだい?」
「ご主人さま、こちら側から、まだ交易ができるほど商品の取扱品目が多くありませんので、まだグレイシア王国内の交易に留まっております。先日、ご主人さまがお連れ頂いた各国の奴隷については、教育、戦闘、スキルの獲得など順調に進んでおります。」
「わかった、連れてきたもの達が、辛い思いをしないよう、十分に気を使ってくれよ。」
「まだ来たばかりだけど、ルビア、魔道具と付与魔法の解析はどう?」
「はい、生活魔法の解析は完了しています、初歩的な火、水、風、光魔法は魔石と組み合わせて使う方法と、魔力を流して使う方法が、すでに可能でございます。」
「もうそんなにか、それだけでもいろいろな生活魔道具が作れそうだ、期待しているよルビア。」
「メグたんは、お仕事進んでいますか?」
「はい、ご主人様、水車を2つ作って、川から水を汲み上げながら、一つは小麦をすり潰すのと、もう一つは、皮や布を叩いて鞣すのに使っているよ、みんな大喜び!、風車の方は、ワタリ領の目印となって、それから櫓としても使おうと、大きなものを作っているの。」
「うん、うん、そうか、すごいね~。」
「後はー、手短にね!」
「なら、私ハルが代表して、農工具はこちらで使っているものをはじめ、旦那様の国で使っているものを量産して、ギルドにも登録済でやす。また、スプリングやベアリングは解析が済んで試作も終わっていやす、有刺鉄線はワタリ領の外周を覆うまでには、まだまだ、時間と材料が足りません。サブの建築ですが、領民のすべてに住居がいきわたっておりやすが、今、話に出た人員増加のための施設がこれからとなりやす。シンの馬車に関しましては、魔獣馬用馬車と一般の荷馬車の試作で、どちらも旦那様のサスペンションとやらの試作品も組み込み、試験走行を行っておりやす。酒造りのタカからは、この国で一般に飲まれているエールとワインの生産は交易ができるほど量産出来ているそうです、今、四つの工場を造っておりやして、ビール、ウィスキー、酒、焼酎を作るべく準備を進めておりやす。あとは...」
すると、ジョージとトバが進み出て「それは、わしらがお知らせします、一つは山の中腹に大きな洞穴がありました、かなり深そうで冒険者ライセンス持ちの方に一度入って頂きたくお願いしたいです、うまくすればその洞窟を掘り進んだ方がトンネル工事が早いと思われます。」
するとアユムが「それにしては、ずいぶん手こずっているようだね?」
「へい、洞窟の右側から湧水が、左側から熱湯が出ております、それらの処理から初めておりまして…」
「ほぅ、それってワタリ領にとって重要な資源だから大切に扱ってほしいナ、湧水は酒造りに欠かせないし、熱湯は、オ・ン・セ・ンだからね!」
「へぃ、おんせんですかい?どちらも、どこかに貯めるようにしておきます。」
「あぁ、頼んだ、じゃぁ、明日から僕も洞窟探検に行かせてもらうよ!」
翌日、アユム達は洞窟に来ていた「これは、でかいな、聞いた通りだね。」アユム達は洞窟に足を踏み入れた「みんな、気を付けて!魔物の気配がする、それも数がものすごく多いぞ!」
「アヴァランチ、様子を見てこれる?」
「はい、状況は随時カタストロフに伝えます。」そう言うとアヴァランチは大きく円を描くように周りを確認しながら奥へと入っていった。
「待っている間に、この辺の調査をしようか、あそこの大きな水たまりは何だ?」
するとジョージが「旦那様、あれは水ではないようです」と周りに横たわり朽ち果てている死骸を指さした。
「一体何だろう、”鑑定”・・・」
『不明』
「”不明” って、どういうことだ?、この間はこの世界に無い磁石やアルミニウムが鑑定出来たのに、今度は不明?なぜかな?、神さまに聞いてみるか」アユムはスマートフォンで神さまに連絡してみた。
「久しぶりじゃのぅ、楽しんどるようじゃが、今日はどうしたんじゃ」
「なんだか、鑑定のスキルが変なんだ、そもそも鑑定スキルはこの世界のモノはわかるはずなんじゃないんですか?」
「勿論そうじゃが、この世界でも認識されていないものは、鑑定出来んな!、名もなく、使い方もわからずでは、解析しようがないからじゃ。」
「今、ここにある液体を鑑定したら、『不明』となったんです。」
「それなら、お前さんか名をつけてやればよかろ?!」
「でも、何なのかがわからなければ…」
「そうじゃ、お前さんの無限収納庫をレベルアップしてやろうかのぅ、折角スマートフォンで、元いた地球の情報が見られるんじゃ、その情報も使えるようにすれば、結構『不明』で無くなるかもしれんのぅ。」
「スマホの知識か・・・じゃぁ!」
「じっ、じゃぁとな、やれやれまたか・・・なんじゃ」
「解析力もレベルアップして、地球の化学方程式としても解るようにしてくれる?」
「それから」
「それからっ!」
「地球に有って、この世界に無い物であれば、それに代わるこちらの世界の物がわかるようにして欲しい。」
「はぁ~、まぁよいじゃろう!、ほれ、レベルアップじゃ。」無限収納庫から”パッパラー”と数回音が聞こえた。
アユムは液体を収納庫に取り込み鑑定してみると『硝酸カリウム(化学式KNO3)を多く含有する液体。硝石や動物の糞尿などから採れる。木炭と硫黄と混合すると火薬が作成可能』という結果が出た。
「なんと火薬の材料だ、あとは硫黄と木炭か・・・木炭は作れる、なら硫黄は!?、横着機能で”硫黄”を検索!!」すると入口横の熱湯が湧き出ている付近で検知され、”回収” された。
「おおぅ!、横着機能もレベルアップしてるぞ!、スマホの情報からだけで検索し回収できるようになってる!、なら ”木炭” も ”検索、回収” だ!・・・よーし、火薬の材料がそろったな、クラフトでーっ!!」ピロリロリン「黒色火薬」がクラフトされた。
「それじゃぁ、ワタリ領内で、地球の資源を見つけて回収だ!」すると”ピロリロリン”とレア度の高いアイテム入手の音が続いたのである。そうこうしているとカタストロフがアヴァランチからの情報を伝えてきた。
「主さま、中にいる魔物はBランク程度の魔物達です、スキルが取れるかもしれません、私が掃討してまいります、それとアヴァランチが言うには、少し掘れば貫通するようだと申しております。」
「そっか、じゃ、お願いね、今回の探索は、棚から牡丹餅が沢山だったな!」
「ジョージ、トンネル工事よろしくね、こういうやり方で!」と言いスマホの ”山岳トンネル工法” を見せた、コンクリートも、もうこの世界でもあるからね!」
アユムは半径5メートルのトンネルを掘るようにジョージに命じ、労働力としてゴーレムを魔法で数十体出現させた。
「こりゃぁ、たまげた!」
「ゴーレム達!ちゃんとジョージの指示に従うようにね。そしてトバくん、ジョージがトンネルを掘っている間、温泉施設を完成させてくれますか?」と言って、老舗温泉旅館の写真を何枚か見せた。
「わかりました、良い物作ります!」
「イヤー、待ったかいがあったという事かな?」
2カ月後にトンネルは開通、温泉施設も完成した。ジョージとトバとゴーレム達は、このまま西側の港湾施設の工事に移った。
その後、アユムは温泉施設に必要な石鹸、シャンプー、トリートメントなどをはじめとし、道具もいろいろ作成し、それをハルたちが解析し、この世界の材料で同じものを作れるようにレシピと製法を確立した。
また、温泉もアユムの様々な提案で数が増え、領民の憩いの施設として喜ばれ、中にはそれを噂に領民になりたいと願い出る者たちも増えていったのだった。