Episode4:土地をもらい領主になりました(村おこしの始まりはじまり…)
翌朝アユムは領地の確認のため王城へと来ていた。
「アユム子爵っ、お待たせいたしました、こちらが、アユム子爵領の地図にございます。あのー、この領地はなんとお呼びすればよろしいのでしょうか?」
「私の性は”ワタリ” 名が”アユム” なんですよね、本当は。」
「では、これを機会に名を改められてはいかがでしょうか?”ワタリ・フォン・アユム”と、そして領地は”ワタリ領”と。」
「あぁ、それで頼むよ。」
「はっ、それでは通達をお出ししておきます、ご発展がありますように!」
アユムは、改めてこの世界の地図を見た。
この世界には5つの大陸があり、中央に位置するのが、アトラ大陸で世界で一番大きな大陸であり、その面積の7割を占めるのが、この王都グレシアもあるグレイシア王国である、残りの3割は、武装国家ワルシャーで、虎視眈々とグレイシアの領土を狙っている国でもある。
さらに東西南北に海を隔ててアトラ大陸の5分の1程度の大陸があり、西側にジング国、南側にメリア国、北側にモスナ国、東側に魔王の治めるグナン魔国が存在している。
”ワタリ領” は、グレイシア王国の15分の1を占める大きさであった。
「しっかし大きい領地だな、たしか馬車で3日かかるとか言ってたもんな、西側だけでもこんなにでかい、西の端には山岳地帯、その向こうはすぐ海か、それと山から流れる川がある、決して肥沃な土地ではないが、大きな平野と牧草地か…。」
「農業を始めるにしても、土壌改良からだとなると時間がかかりそうだな、別に山でとれる鉱物か何かで工業を先に進める方が早いかもな。」
「では、主さま、ドワーフ族の力が必要になりますな」カタストロフは答えた。「如何でしょう主さま、褒章も頂いたことですし、屋敷も建てなければなりません、ドワーフ族の奴隷を数人お買い求めになられては?」
「それもそうだね、それが早いかな、…そうしよう」アユムは奴隷商へと向かった。
「おやおや、これはこれはアユム様、早速のご来店、誠にありがとうございます、本日はどのような奴隷をお探しでしょうか?」
「領地を国王から頂いたんだ、だから、屋敷や工場を建て、山の採掘などもしたいと思ってね。」
奴隷商はいつものように手を擦りながら「それでしたらドワーフ族の奴隷がよろしいでしょう。少しお待ちいただけますか?お掛けになってお待ちください。」
10分ほど待つと奴隷商は四人の男と一人の女を連れてきた。「この者たちは皆同じ村の出身です、飢饉により税を納められなくなった村が、この者たちを借金奴隷に落としたのです。」
「みんな苦労しているんだね、そっちの端から得意なことを言ってくれるかい。」
「へい、あっしは道具作りが得意で、ちらっとモノを見れば大体は作れまさぁ、”観察” のスキルを持っていやす。」
「私は、建築が得意です、どんなご要望でも実現できます。」
「オラの得意は馬車つくりだな、基本ドワーフはなんでもやるが、得意を言えと言われれば馬車作りだべ。」
「あのう、お役に立つかはわかりませんが、私は酒造りが得意です。」アユムはすかさず反応した「酒ってなんでもできる?」奴隷は「へい、必要なら道具も作りますぜ。」
アユムはかわいらしい幼女のようなドワーフに「じゃっ、君は?」アユムが目を向けると、今まで答えてきたドワーフたちが一斉に「だんな、そいつはやめておきな、村でもキテレツなことばかりやって仕事をしねぇんだ。」
アユムは首を傾げて「キテレツなことって何さ?」
「できもしねぇことをやろうとするんでさぁ、空を飛びたいとか、水の上を走りたいとか,,,。」
「そうそう、そういや、馬のない馬車を作りたいとかも言ってやした。」
アユムは微笑みながら「いいじゃない、それ、僕もやってみたい。」
アユムのその答えに、ドワーフの女は顔をポーッと赤らめて、かわいらしい声で「ホント?やらしてくれるの、やってもいいの?」と口を開いた。あまりのかわいい声と言葉の内容に、アユムは「今の、もう一度、今の言ってくれない!」と口走ってしまった。
それを制したのは、アヴァランチだった「ア・ル・ジさま!」
奴隷商は「それにこの女は少し年は経つが、冒険者C級の実力です、お買い得ですよ!」と話した。
「今回はあんたの言い値で買うとしよう、いくらだ?」
奴隷商は手を擦りながら「えーっと、どの奴隷を?」
アユムは「全員だ!」と答えた。
奴隷商は目を丸くして「全員をお買い上げで、それもこちらの言い値で、ありがとうございます。では全員で白金貨2枚で如何でしょうか?」
「言い値でとは言ったが、それはちょっと高すぎないか?」
「えぇ、承知しておりますとも、アユム様は先ほど他にも、”山の採掘” とも仰られましたな、西の山の向こうは海もあります、ですからトンネル堀に長けたものと造船の心得のあるもの二人をお探ししてお付けいたします、その前金込みでございます。」
「さすが商売人だな」アユムは奴隷商と握手を交わし、白金貨2枚を支払い奴隷紋の処置をした。
店を出たアユム達は帰りにいろんな店に立ち寄り必要なものを揃えて、最後に食事をたらふく食わせて宿にもどった。宿屋の主人には隣の部屋を借りることにして、その料金はこちらが支払うことで納得してもらった。もちろん隣は男部屋にして、女ドワーフは自分と同じ部屋とした。
翌日、彼らはやはり名前を付けろと言ってきかなかった、捨てられるのを恐れたのかもしれない。少し面倒だったので男連中は演歌歌手の名前から頂いた「えっと、お前は春雄からもらって”ハル”、そして三郎から”サブ”、で、お前は”シン”、最後は”タカ”、いいね、これで!」
「ははっ、ありがたき幸せ、誠心誠意お仕えいたします。」
「それと、女の君は、そうだ親父が好き経った歌手の昔のアイドルの綿丘めぐみ?だっけか、だから”メグ”だ!いいね、キテレツは良いけどやる前にちゃんと言ってね。」
メグは少女の容姿とかわいらしい声で「はい、ご主人様」と返事をした、その返事を聞いたアユムは溶けるようにデレーッとなった。
やはりここでもアヴァランチが「ア・ル・ジさま!」と気合を入れてきた。
今日は領地を見に行こうとアユムはみんなを都市の門の外に集め、領地の川の近くに移動魔法で移動させた、「旦那様は移動魔法が使えるんですかい、大したお方だ!」とドワーフたちは驚いていた。
「へへっ、Lv3までだけどね!」
「レベルですかい?ちょっと何のことかわからないですが…」
「それじゃぁ、みんなの目利きで、まず、拠点となる領主館とそのそばに迎賓館、少し離れてみんなの家、それから川のそばに工場、グレシアとの中間に村、それぞれをつなぐ道路なども整備したい、どこが最適か思ったところを言ってくれ。」指示されたドワーフたちは散らばって土壌や風向き川の幅などと観察しながら歩き出した。
「タカ!タカは農地が決まったら酒蔵を作ってもらうからそのつもりで、あとメグも専用の研究所を作ってもいいぞ」そういうとメグは顔をポーッと赤らめて、かわいらしい声で「ホント?ありがとう!ご主人様」と呟いた、デレーッとする間もなく「ア・ル・ジさま!」とアヴァランチの声が聞こえた。
「それからユイ、これからもっと人は増えると思う、料理もたくさん作る必要が出てくるだろう、調理場については一任するし、必要なメイドの人数も少しづつだが増やしていくから、メイド長をお願いしとくね」
「アキナは守備隊長を任命する、領地防衛や場合によっては戦争に行くことになるかもしれないからゆっくりでいいから隊を育ててくれる?」
「みんなにも言っておくぞ、奴隷かどうかなんて僕は気にしていない、みんなそれぞれ役割を持った仲間なんだ、なんだったら奴隷紋を僕たちの旗印にしたっていいと思っている、気にせず言いたいことは言ってくれ!」
「旦那様」サブが声をかけてきた、「領主館とそのそばに建てる迎賓館はちょうどこの辺のがよろしいかと、川もまっすぐ流れていますので、ここに橋をかけ、ちょうどあの辺に建てることをお勧めしやす。」
「そうだね、良いでしょう、ただ、重要拠点だから、ここから上流に向けて護岸工事を頼めるか?」
「はて?護岸工事とは何です、旦那様。」
聞かれたアユムは、スマホを取り出し、河川の氾濫や侵食を防ぐための石などの構造物の写真を調べて見せてみた。「なるほど、川の反乱もこのようにすれば防げた訳なんですね、やりましょう旦那様。」
次にハルがやってきた、「だんな道具作りの工場は村や拠点より下流に作りやしょう。」
「わかった、そうしよう、だけど使った汚れた水をそのまま川に流さず、浄化設備を作り、きれいにして川に戻したいね。」
「ほぅ、使った水をきれいにね、いっそスライムに水を洗浄してもらいやしょうか、なんて!」と冗談を言い笑っていると、「いや、いい考えだよ、チップ、仲間を集めて指示してくれるか、どうせなら拠点や村にスライム浄化槽を配備しよう」と言い、ハルにも浄化槽の写真を見せた。
今度はシンがやって来て「旦那様、オラ馬車の工場をどこに作ったらいいだべか、できれば牧場のそばがいいんじゃねいべか?」
「いいだろう、但し、普通じゃない馬車も作ってもらうよ!魔獣馬が引くような企画外の大きさのね。」
「旦那様は魔獣馬をお持ちなんで?」
「まだ、卵だけどな、魔獣馬の牧場をどこにすればいいかアヴァランチと相談するから、それまでは領主館と迎賓館作りを手伝ってくれ。」
日が落ちかけたとき、ドワーフたちは宿に戻らず作業したいと言い出した。なんでも、早く領主館を建て恩返しをしたいそうだ、そこで僕もこの場所でテントを張り、みんなと共同生活をすることになった。建物の図案はスマホからいろいろな城の写真を見せて良い物を取り入れていった。
三か月後、僕の保管材料とクラフト、いろいろなスキルを駆使して、王城までとはいかないが、こじんまりとした2階建ての領主館と少し離れて迎賓館が完成した。
実は当時の技術にはないが地球の技術を取り込んだ大きな地下施設も見えないところで完成していた。
続いて、護岸工事、村の建設に手を付ける前に、ドワーフのリーダー的な存在となったハルから提案があった。
「旦那様、これからいろいろやっていくのに人手が足りやせん、如何でしょう、私たちの村の全員40名ほどを、ここで新たに作る村へに連れてきたいんですが?」
「もちろん、皆が良ければかまわないよ、当面、税はとらないし…」
「連れてくるのに時間がかかっちまいます、如何しますかい?」
「そうだ!あれ使ってみよう!ハル、故郷を思い浮かべて。」
「はい」
「肩に触るよ、”移動魔法Lv3”」とアユムは移動魔法を唱えハルと共に移動した、そこはハルたちの村だった。
「なんてこった、こんな魔法見たことねぇ」驚くハルにアユムは、「時間がないよ!村長に伝えることがあるだろう、急ごう!」少し駆け足で村長の家に向かった。
ハルは、これからの事を村長に話し、アユムからもこれからやりたいことをじっくりわかりやすく、スマホの写真を見せながら丁寧に説明していった。
翌日、村長は村の移動を決断し、村人全員に話をした。
村人たちも農業よりは工業などのモノづくりには好印象のようだ、ここでアユムは各人と面談をし、やりたいことや得意なことを聞き、領地運営に有用な者にはその得意分野を伸ばすよう、そうでないものには日本の会社制度のような物を作り月給制を取り入れた企業で働くように勧めた、もちろん今の生活の収入より十分多い賃金だった。
アユムは何日かをかけて村人全員と必要な物資などを移動魔法で運びきった。これで工業分野の人員の目途は一先ず立ったのである。
アユムはハルと村の整備計画を立て、量産する小さな庭付きの一戸建て住居を建築するためのモデルハウスを建てていた、今でいう2LDKの平屋がイメージの基本だ、家は燃えにくい素材でつくり、一軒ごとを柵で囲み、柵の中であれば自由に園芸を楽しめるように考えた。
ハルはアユムに「これを必要な数建てるわけですな旦那様、しかし同じ家が並んでちゃ、酒好きのドワーフは家を間違えちまいそうでさぁ。」
「だから、柵で囲み好きなようにアレンジしてもらうんだよ、花壇を作ったり、シンボルツリーを植えたりね、たぶん個性が出るだろうね。」
ハルは驚いて「旦那様の土地を好き勝手にしてもいいんですかぃ?」
「あぁ、但し柵の中だけだよ!」
そこへサブは慌てて走ってきた「旦那様、ハル、大変だ!」相当な距離を走ってきたんだろう、汗と泥、息を切らしてゼイゼイと言っている。
「何があったの?サブ。」
「へい、農業地帯とする土地を見てまいりました、あのぅ、旦那様?旦那様が放った魔法は、メテオの類ですよね?それが落ちたところが候補地なんですが…」
「あぁ、そうだな、土を耕す手間が省けるだろうって、皆も賛成しただろ?」
「わしゃ魔法の事はようわからんが、そもそもメテオとは、何でできているんですかね?」
「へっ!メテオとはなんだと、イメージだと隕石なのかな~、知らんけど、ん?隕石?」
「見たことのねぇ鉱物も混じってやして、石どうしでくっついたり、柔らかかったり、ありゃなんですかね、ちなみにいくつか拾って来てみやした…」
「ハル、サブ。今ある鉱物ってどんなのがある?」
「金、銀、銅、白金の金のもととなるもの」、「青銅、鉄、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネなんかで武器防具を作ります」、「魔石、それが集まった魔石鉱」、「あとは、宝石のルビー、サファイア、トパーズ、エメラルド、水晶ですかね」
「ダイヤモンドって無いの?」アユムは一番有名な宝石の名を言った。
「あぁ~ありやすぜ、あんな硬いだけの石っころなんぞ、なんの価値もねぇですぜ」
アユムは考えた ”ダイヤはカットして磨けば価値がでるよな、原石だけでも将来地球にもどれたら売って資金を作れる、なにより硬い物の加工に使えるよな” 「そうだっ、ハル、みんなにダイヤモンドの石!見つけたら捨てずに集めるように言っといてよね!たのんだよ!」
「へぃ、わかりやした。」
「それと、サブ、持って来た鉱石?ちょっと見せて」アユムは手に取り鑑定してみた、それは磁石とアルミニウムだった。”それにしても、この世界に無い物がなぜ僕の鑑定でわかるのだろうか?” 疑問に思いながらアユムは尋ねた「サブ、他にはなかったかい?」
「ありやした、さっきあっしらが話したもんでさぁ」
”そうだ、これらを無限収納で認識させて、横着モードで集められたらいいんじゃないか!”「サブ、この世界にある鉱物、宝石なんかの原石をすべて小さくてもいいから、一つづつ集めて、持ってきてくれる、最優先でね!」
「すぐに、やりまさぁ。」一週間後のそれらはそろった。
「よーし、異空間収納に入れてっと、収納条件に追加して、そしてメテオを落としたあたりに照準定めて、”収納!”」数秒ののち、”ピロリン”と音がなりだした、「おおーっ、横着モード最強だよ!」
「サブ!よくやったね、今度は建築なんかで使われている石のサンプルを持ってきてね!急がないよ」アユムは横着モードをいろいろ試してみた、生きた動物や魔物はダメ、生えている草木もダメ、つまり生きているものは収納出来ないとわかった。「おっと、残りの二ヵ所も後でやっておくか…」
「さて、あらかた回収は終了かな、みんな、これから農業地区の整備、区画割、収穫物倉庫の建築をお願いするよ、よろしく。」すると一部のドワーフから「また農業をやるの?」と言う声が上がったので、アユムはそれは人を雇うから心配しないようにと説明した。
「と言うわけで、ハル~。」
「へぃ、わかっておりやす、家ですね!」
「さっすがハル、わかってるねぇ~、でも、ドワーフって人間と同じ場所に住むことって平気かな?」
「そんなもん、分ける必要もありゃしませんぜ、慣れりゃいいことですから。」
「そうだな、僕は種族の壁なんかない方がいいと思うし…そうだ、こういう時はよくある祭りをやれば良いんだよね、たまには ”アユム村祭り” を開催しようかな」