Episode11:戻るぞ地球へ(移動魔法Lv4)
「神さま、ご無沙汰しています、アユムです。」
「おおっ!おおっ、久しぶりじゃのぅ、楽しんどるか?」
「ええ、おかげさまで、頼れる仲間に囲まれて、楽しく生活して、もう2年も経ちました。」
「見とったぞ、いろいろな技術を、わしが管理する世界に根付かせてくれて感謝しておるゾ。」
「必死に生きてきただけですよ、神さま。ところで今日連絡したのは・・・」
「わかっておる、移動魔法じゃろ!Lv4だから、そろそろ来る頃と思うておったわ。」
「では、やはり、僕は地球へ行くことが?」
「ああ、可能じゃな、じゃが注意することが沢山あるぞぃ。」
「地球に帰れる!、そうなんだ。・・・注意する事?」
「そうじゃ、お前は地球では、死んだとされている。こちらの世界で魔法やスキルを習得しており、もうその体は地球の時の体ではない、こちら側の人間と言う訳じゃ、仮にお前がお前の家族に会ったとしても、よく似た他人として見られることじゃろう。それに地球で生きて行くための身分も必要になるじゃろう。」
「そうだ、もう僕は死んだことになっている、ちょっと見に行くだけならともかく、生活なんて、身分の証明が出来ないと何もできやしないだろう。」
「わしも使う事じゃが、ここに親類縁者もなく行方知れずとなっておるが、実はすでに亡くなっておる者たちの戸籍がある、それを使えば生活はできるじゃろう。」
「でも、それは・・・」
「ためらいはあるじゃろうが、その手しか無いぞぃ、勿論、その者たちの死体はもう見つからんようになっておる。」
「そうか、ためらってなんていられない、地球に戻りたいんだ、僕は!」
「意思は固いわけじゃの。んで、こっちの者たちはどうするのじゃ?」
「また、戻ってこれるでしょうか、神さま!」
「解っておらんようじゃから、話しをするが、おまえは全てのスキルがLv4じゃ、神の中でもすべてのスキルを持つものはそうおらん。いわばお前も神なのじゃよ!神は世界を渡れるのじゃ、いつでも行き来できるじゃろうて!」
「いざってなると勇気が出ないもんだな、みんなと相談してみよう。」
アユムは領主館にみんなを集め思いを告げた。真っ先にカタストロフが「是非、私をお供に!」、アヴァランチもそれに続いた。
「いや、カタストロフとアヴァランチは今回は留守番だ!、地球では、と言うか日本では武器を携帯しているのは問題があるんだよ、初めて戻っていきなり警察沙汰は避けたいからね、申し訳ないけど、こっちをしっかり守ってくれる?」
カタストロフは肩を落としているように感じた、しかしアヴァランチは諦めていなかった、「小さな剣である私なら問題は無いかと思いますが、世界は違えどカタストロフと念話ができるかも知れませんし。」
「そうだな、短剣なら問題がないかもしれないな。」
「はっ、有難き幸せ、悪いわねカタストロフ!」
「あぁ、アヴァランチ、主さまをしっかりお守りするんだぞ!」
「そして行くのは、ハル、アキナ、ユイ、メグ、ソアラ、セリカ、カムリ、カロラ、ルビアの9人だ、滞在が長くなるかもだから、仕事は後任にしっかり引き継いでくれよ!、出発は1週間後だいいね!」
1週間後。
「よし!みんな揃ったね、じゃあ僕のいた地球の日本っていう国に行こうじゃないか、 準備はいい、行くよ!”移動魔法Lv4”」と唱えた瞬間、”あすき”と”きなこ”が飛び込んで来た。
「お前たちまで?…行こう!」しばらくの間ワームホールのような空間を くぐり抜けた感じがした。気が付くと、地球の、それこそ日本の風景の小高い丘にみんなは立っていた。
「ここは日本のどこだ?僕は、千葉県ってところで生活してたんだけど、そんな感じはしないな、そうだ!」アユムはスマホを取り出して、地図アプリを検索した。ここは横浜の港の近い 小高い丘っていうことになっていた。
「そうか全然知らない 神奈川県の方が生活しやすいかもしれないな、知り合いに出会う確率も少ないだろうし…それより、みんなどんな感じだい?それぞれ体調など変わったところがあったら報告して!」
するとアキナが「ご主人様、私、魔法が使えません!」
「なに!魔法が使えない?」
「はい、剣術や武術は使えるんですけれど…、それに私耳がないです!」と慌てるアキナにアユムは「いや、人間と同じところに耳が!ひょっとして人間になったんじゃないのか?」そう言うと、ソアラたちも「私達も普通の人間になったみたいです。」みんなを見ると角だとか羽だとか、さっきまであったものが無くなって、普通の人間、それも八頭身美人でモデルのような人間になっていた。
「これは、どういうことだ。魔力も無いなんて!」
「はい、魔法が使えません!!」
アユムは「困ったな」と言って、振り返りメグを見ると、メグも八頭身美人になっていた。
もしかすると…ハルを探すと「はい!私はここです。」なんてこったイケメンになってる。
「ユイは?」
「私は、魔法が使えます、いつも通りです。」
「アヴァランチは…」アヴァランチから返事がない、ただの短剣のようだ。
「そうか!元いた世界から地球に来た時、地球に合わせた種族に、つまり地球には、ヒト型は人間しかいないから、みんな人間になったんだ。
もともと人間のだった僕とユイは、そのまま変わらずってことで、魔法も使えるのか、これは 困ったぞ!…そうだ、みんな、スキルはどうだい?」
「スキルも無くなっています。」
「なんと、まぁ!となると、ここで魔法とスキルが使えるのは僕とユイだけか。で、鍛えられた技や技術などは使えるという事だね、だからアキナは武術を使える。分かってきたぞ! 」
「となると、ここ地球では、僕とユイ、あとはアキナがみんなを守る立場になるわけだな!…それと、こんな所に突っ立っていると”あっ”という間に夜になる。野宿もしたくないが、お金もない、先ずは金策と住むところが必要だな」そう言うとアユムは、みんなに身分証明書を確認させた「神様からもらった身分証明書は、みんな持ってるね」
「はい、持っています。 」
「お金が必要だな、アイテムボックスは使えるから中に入っているこの小さなダイヤモンドの原石でも売ってみようか」アユムは、いきなりね大きなもの売ると目をつけられるから、こういう小さな原石を小出しに売っていこうと考えていた。
アユムは、スマホで町のあるところ、それも結構大きな町がいいだろうということで” 横浜みなとみらい都市”に向かって歩き始めた。
町が近づくにつれ、人とのすれ違いが多くなる、そのたびに、みんなが僕以外を見て振り返る。なんか悔しいけど、まあそれもしょうがない。中には ”ピュー” と口笛を吹くものもいる、写メを取ろうとするものもいる、振り返って近づいて来る者もいるが、僕の睨みにみんな怯えて引き返していった。
”そんなに僕の見た目は怖いのかね” と思いながら、「ここでは僕とユイがみんなを守らなきゃいけないからね。」とユイに言うと「はい、承知しました。ご主人様。」と少し硬い表情で返事を返した。
そしてスマホの地図を見ながら、お宝とか色々買ってくれる店へと歩いてきた。
そして、店主に「こんなダイヤの原石みたいなのは買い取ってくれますか?、これは、おばあちゃんからの形見なんだけど!」そう言いながら原石を店主に見せてみると、「なんとこんな純度の高いものを?これは本当に日本で見つけたものなんですか」と店主は驚いていた。
「ああ、これが一番大きいやつかな」とアユムはごまかした。本当は一番小さい原石だった。
「身分証明をお持ちですか?」
「 はい、ここに!」と言ってアユムは身分証明書を見せた。
「本来なら、こういうものはあんまり買い付けないのですが、滅多に出ないものだから…こっそりですが買いましょう!」
「いくらになる?」
「 3000万円でいかがでしょう」なんだか足元を見られている気もしていたが、背に腹は代えられないとアユムは考えた。
「いいでしょう!3000万円で売ります、ただ、こういうのがまだ いくつかあるんですが、持ってきたら、また買ってくれますか」とアユムは用意された現金を受け取りながら尋ねた。
「時と場合にもよります。私どもは小さな店ですから、いきなり何億っていう金額は、さすがにご用意出来ないと思います。」
アユムは「今すぐじゃないよ!でも、なんとか頼むよ。」と店主に手を合わせた。
「お互いに win-win でということですね」店主は何かを察したようだった。
「そう、僕もやっぱりね、こういう形見を売った ってなると周りの人間がとやかく言うから、こっそりやりたいんだよね。」
「 わかります、承知しました。では、次回もまたお待ちしております。」
「僕の良き理解者で、協力者になってね、損はさせないから。」
「かしこまりました、それではまた。」
「次は落ち着く場所、拠点が必要だな、出来れば一軒家を買えるといいんだけどな。」と言うとアユムは小さな不動産屋に入った。
「いらっしゃい。」
「あのー、古くてものいいので、大き目の一軒家はありませんか?」とアユムが尋ねると店主は「あるにはあるが・・」と言いにくそうだった。
ハルが口を挟んだ「何、壊れているんならわしらで直すから問題ないぞ」それでも店主は口ごもっている。アユムは「ははーん、もしかして出るとか?」とかまをかけると店主は「ハイ、さようで」とばつが悪るそうに答えた。
「僕らは気にしないよ、で、間取りは?」
「はい、築60年の7LDKの木造二階建てございます、そこは山の中に立つ一軒家でして、山も一緒になっております。」
「それは賃貸ですか?」
「正直私ども、これを扱ってからと言うもの、よくないことが続きまして、山と家をお売りしたいと考えております。」
「へぇー、で、いくら?」
「千五約万円程で・・・」
「見てみないと何とも言えないけど、とりあえずキープで・・・今から見に行けますか?」
「住所と鍵をお渡しいたしますので、ご自由に、何でしたら本日お泊り頂いても結構です、お返事は明日にでも連絡いただければ・・・」
「そうですか、ではそのようにさせて頂きますよ。」
アユム達は店を出ると人目の付かないところで、スマホで住所を検索し地図上にマッピングすると移動魔法を使った。
すると目の前に木々が生い茂る中に古びた一軒家があった。
「見た目は思っていた程ではないな、何が出るのかな?、一応鑑定しておこう」アユムは建物を中心に鑑定魔法を使った。
ハルが「どうです?旦那様、何か魔物でもいやすかい?」
「いいや、ただちょっと、呪いのようなものが山全体に掛かっているみたい、昔ここで大勢亡くなっている感じだな、とりあえず解呪すれば、大丈夫だろう」と言いながらアユムは解呪を行った。
「みんな、家に入ろう!」
みんなは、まだ人の感覚に慣れず口数も少なく、ただアユムの指示に従っていた。
「どうした、みんな元気ないぞ!」
アキナが口を開いた「ご主人様、どうしても体の感覚がおかしく感じてしまうのです、動きも鈍くなった感じがします。」
「そうだろうね、獣人から人間になったのだから、それでも人間の中においては、相当凄い力を持っているとは思うぞ、みんなもそうだと思うよ。しばらくはここで人間の体に慣れる必要があるだろう。その間にみんなはこの地球で何がしたいのかを考えてくれ」
アユムは不動産屋に ”ここに決めた” と一報を入れた。
アユムは「向こうの世界での人間はこっちの世界でも変化は無く魔法も使えるようだ。ドワーフは外見は人間らしくなるが、技術や経験はそのままだね。ただ、魔法を主として使う種族は、こっちではただの人間という事か。ならば、こちらの世界に連れてくる者とすれば魔法を使えるようにした人間がよさそうだね。あすきときなこも普通の犬と猫だから、魔物もこっちでは、こっちに生存する近しい動物になるようだね。」とみんなに話した。
数日後、みんなはやっと人間の体に慣れ、戸惑いはなくなっていた。
その間に、アユムとユイは不動産契約、銀行口座の開設、全員の携帯電話契約、PCとインターネット環境を整え、生活用品を揃え、リペアによる家の内部の修復と補強、地下施設の建設など考えられることを全部行った。
「みんな、大分生活に慣れてきたようだね、じゃぁ、これからの事をみんなで考えよう。まず、大きな問題がひとつ、アヴァランチがただの短剣になってしまったことで、当初考えていたカタストロフとの念話が出来ないという事だ、このままだと向こうの世界と地球とで分断した生活を送ることになってしまう、たまに僕が行き来をして情報共有するだけにね。」
ユイが不思議そうな顔をしてアユムに尋ねた「ご主人様、こちらに来る前に、神さまから、ご主人様も神さまになられたと仰ってましたが、神さまならこちらとあちらの世界をつなげることが出来るのではないでしょうか?」
「そうだな、コッチとアッチを繋ぐ門?なんかこれもマンガで見た気もするが、そんなイメージで作ってみるか!」
するとソアラたちが、「ご主人さまから頂いた、このスマートフォンも使えるようにして、みんなに持たせては?ビデオチャットなるものが使えますから…」
「それもいいね、じゃぁ、準備に取り掛かろうか」みんなが口を揃えて「ハイ!」と答えた。
さらに数日後、アユムは地球世界の家の地下に大きなゲートを作った、それを向こうの世界の領主館の地下にもゲートを作り行き来を可能にしたのだった。
行き来できるものには、地球での身分証明を作成し、望むものには運転免許や様々な資格を取らせ、技術を学ばせることにした。
アキナには運転免許を取らせ、本人の希望により自衛隊に入隊した。
メグは発電関係の仕事につかせ同時に自身の興味のあるものを研究するようにさせた。
ルビアは製薬会社に務めさせた。
ソアラ、セリカ、カムリ、カロラの4人はYouTubuユニットを結成させユイをそのマネージャに置いた。
ハルは町工場に務めさせ加工技術の腕を磨いた。
後から地球を訪れることとなったサブは工務店に、シンは自動車会社に、タカは地球でも酒造に、ジョージは建設会社に、トバは造船会社にと働く場所を決めた。
アユムはこの間、向こうの世界で20名ほどの人間の奴隷を雇い、スキルや魔法を取得させ地球の世界に連れて来ては、一部を各人のサポート役に付け、残りを商品買い付けグループとし地球の商品を元居た世界に輸入させる役目を任せたのだった。
二つの異世界で、どのような二重生活を送ることになるのかは、これからの事となる。




