作者のひとりごと:石炭紀で生きるには?/ 文明を拒む惑星
石炭紀という環境自体がSFなのです。
本作も50話を超えてきました。
本作では石炭紀の環境を地球レベルで考察し、そのうえでどのように人間が移住するか、ということを主眼としています。
石炭紀は、陸上生態系のある時代の中でもとりわけ人間の暮らしにくい時代です。
「石炭紀は生物ではなく環境そのものが一番の問題」
そうなのです。
たとえば中生代であれば、ほとんど人間の生活に支障はないでしょうし、ペルム紀やデボン紀もそこそこには生活できると思います。カンブリア紀~シルル紀は嫌ですね。「恋人以上酸素ボンベ未満」、とかタイトルをつけた話を作らざるを得なくなりそうです。
では、なぜ石炭紀は暮らしにくいか。
ここまでかなりのネタを出してきたので、一旦まとめてみようと思います。
①高酸素環境による燃焼、劣化問題
酸素濃度が30%近いため、燃焼の危険性が非常に高い。
これは深刻な問題です。エンジンの燃焼温度が上がるために地球型エンジンは危険にさらされます。したがって、エンジン開発から行う必要があるかもしれません。そもそも製鋼技術や鋳造技術などから新規開発する必要があるように思われます。耕作技術に関しても大きな問題が生じますし、せっかく作った部品も寿命が短くなってしまう。結局のところ高酸素濃度によって製造コストと耐久年数がともに悪化し、機械文明の存続すら困難になるかもしれません。
こうした考察から、先進的な技術開発は一部で行われているものの、生活必需品ですら自給が怪しい。全体としては文化レベルを退行させることによって工業の内需を減らしつつ、資源輸出を行う。ただし輸出も量が限られるし、高くは売れない…と、非常にジリ貧な産業構造であると描いています。
これが特に壊滅的な影響を及ぼすのが泥炭地帯です。
軟弱な泥炭地地盤を干拓するのは開発にあたって必須と言っていいですが、石炭紀の高酸素環境でそんなことをやろうとすれば、たちまち鎮火困難な地下火災を起こします。自殺行為です。こうした考察から、本作では初期に築かれた植民市は既に壊滅したとして描いています。
燃える以外にも様々な素材の腐食、酸化、劣化がおこりやすくなります。
⁂使用エピソード:多数
②高酸素環境による光合成問題
くわえて、高酸素濃度によるルビスコ阻害によって、現代型の植物はまともに育たなくなります。
つまり、地球の作物を石炭紀に持っていっても、そもそも育ちません。
だから、植物一つとっても現地の植物をもとに作物開発からしなければならないのです。
⁂使用エピソード:食事全般
そのため、食事は人工的な製造プラントからの配給制か、狩猟採集生活となります。
Bumbudendronを栽培化しようという話が出てきたり、水上集落民が狩猟採集に回帰しているのもこのためです。検疫の観点から現代の作物や家畜を持ち込めない、と設定していますが、そもそも持ち込んでも育たないんですよね。光合成効率が4割減する試算になりますので。
③高酸素環境による電離層問題
ついでに、電離層の変化も挙げられます。高酸素濃度によって大気圏上層の電離層が現在より分厚いと思われます…が、後述するキアマンスーパークロンの影響によりそもそもの厚さが予想困難です。無線通信は現在よりもやや遠くまで通じるかもしれませんが、すくなくとも通常通りには無線が使えないでしょう。さらにいえば、GPSのような衛星航法システムを使うにしても電離層を用いて信号遅延補正を行うので、そもそもの電離層の厚さが違うとしたら設計しなおす必要があります。
⁂使用エピソード:いまだに慣性航行が全盛な理由
④キアマンスーパークロン
キアマンスーパークロンによる強力な地磁気。これは磁気ディスクに影響を及ぼす可能性すらあり、そもそも電子機器が正常に動く保証がありません。さらに、これは宇宙線の進入抑制により電離層の厚さを予測困難にします。実測により補正を行う必要があるでしょうね。工学系の人なら山ほどトラブルを思いつきそうですね。
⁂使用エピソード:いまだに慣性航行が全盛な理由
⑤パンゲアによる海運阻害
あと、パンゲアが単純に海運を壊滅的に阻害する。低緯度がパンゲアに阻まれている以上、海運は北の高緯度地域か南の高緯度地域を通らざるを得ません。これでは西から東にものを運ぶだけで、バルチック艦隊のごとき艦隊移動を行わなければならないことになります。
⁂使用エピソード:なし
⑥パンゲア形成に伴う造山運動による地震多発
さらに、地震の多発も深刻でしょう…
パンゲアが成立している真っただ中ですからね。赤道付近から亜熱帯にかけて、つまり氷河に覆われていない地域ほぼ全体において造山運動が行われている有様。
耐震構造が必須です。海沿いなら津波対策もほしいです。
泥炭湿地ではそもそも建物を建てること自体が困難なので論外ですが、他の都市でもそうです。
そして最悪なのが、インフラ破壊された時の破壊規模です。万が一ガス漏れやショートでも起こしたら出火したら最後止められません。
⁂使用エピソード:なし(日本人なので地震って異世界感ないんですよね)
⑦極端な気候
気候も非常に問題です。
石炭紀の地上は「砂漠か泥炭湿地か氷河か」といったありさまであり、居住に適した地域が極めて少ないです。だいいち、氷河期レベルに寒冷なので居住権は亜熱帯から熱帯域に限られます。そして熱帯域にはベルト状に泥炭湿地が低地を覆っており、そこはもはや人の踏み入れがたい領域です。
砂漠に暮らすか氷河に暮らすか、が割とましな選択肢でしょう。
⁂使用エピソード:氷河縁辺の植民市
氷河縁辺は生存権としてわりと希望があるように思われます。(火の制御は必要ですが)埋蔵資源を使って火力発電や地熱発電でエネルギーを確保し、水は氷河を溶かして確保、食料生産は…生産は…なんとかすれば。というわけで氷の都市は、ある意味この時代で最も暮らしやすい土地(!?)として描いています。
熱帯の高地は比較的乾燥しており、植民に適した場所でしょう。しかしながら、火の制御が難しいことや水の確保の問題、さらには乾燥した陸上に適した植物がまだ少ないこと、さらには山火事による地盤崩壊の危険が大きいです。こうした環境を好んで生育したコルダイテス類がしばしば木炭として発見されることからして、常に延焼の危険にさらされ続けるということを意味します。
石炭紀の(比較的)乾燥地はそこまでお勧めできる環境ではありません。
⁂使用エピソード:高地の植民市
熱帯の低湿地は最悪です。そもそも21世紀の人類ですら泥炭湿地をどうすることもできていないのが現状です。熱帯泥炭の恐ろしいところは「一歩踏み出すと肩までズボッと埋まる」ことであり、道一本通すだけでも困難な”偽りの大地”です。そのため現代の東南アジアにおいてすら干拓や盛土技術が発展するまで道を通すことすらできず、舟で移動するしかない状態でした。
石炭紀の場合、さらに問題が増悪します。干拓すれば高酸素濃度により出火リスクが増大しますし、盛り土をしようにも基質はキロメートル単位で堆積した有機層の底にあり、いったいどこまで掘ればいいのやら、ということになります。なんとか出火を防ぎつつ干拓して上に居住区を立てようとしても、今度はキロメートル単位で堆積した泥炭が徐々に圧縮されて変形し、基礎を破壊します。
つまり熱帯の低湿地は「人が立つことすら困難」であり「ましてや建物など」という有様です。
東南アジアでは高床式住居が使われていますが、これに近い水上住居を設け、ほぼすべての交通を水運に頼るほかないだろう、と思います。
ただ、個人レベルの移動であれば木道(とはいっても木を倒しただけのようなもの)が東南アジアの泥炭湿地で使われており、このようなものであれば個人クラス・狩猟採集民クラスのインフラは可能でしょう。こういうものを用意しないと「そもそも地面に立てない」のが泥炭湿地ですから…
泥炭湿地での生活を他にも脅かすものは沢山あります(たとえば海嘯や洪水、大規模なハリケーンなどですね、石炭紀からもどれも証拠があります)。こうした者からどうやって身を守るのか、も、大きな課題になっていくでしょう。
⁂使用エピソード:多数
あとはハリケーンか。古テチス海って地形的に、いかにもハリケーン起こしそう。というか巨大ハリケーンが石炭紀の植物化石保存に深くかかわっていたという説すらある。
・・・こういうことを考えてたらゾクゾクしてきたので書き始めたSFです。・・・
こういう環境で暮らすのに一番無難な方法、それは文明の放棄と狩猟採集への回帰。
なんて言っても面白くないので、どうにかして「ローテク技術の再活用」あたりで乗り越えたいところですね!読者の皆様、もっとヤバい石炭紀!みたいなのがあったらご応募を。
たしか、あと幾つか思いついてたはず…思い出します、がんばる。
ちなみに、ためしにChatGPTに聞いてみたら半分も出なかったです。
あと高湿度とか高温とか、地域変えればなんとかなる問題が多かったので残念。
そしてパワーワードを吐いてきました
・・・「こうした環境で何が“文化”として生まれうるのかを考えましょうか?」
文化ってのは最低限、人が生きられれば生じるので何かしら生じるんです。
これは技術依存による障害にすぎないのです。
技術は便利だけれども、ひとつ、ひとつふえるごとに脆弱性を孕むものなのですよ。




