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フィールドノート:メドゥロサ類

今回は最も軽視されがちな石炭紀の怪物、シダ種子植物のメドゥロサ類について。

あまりにも巨大な植物である。


リンボク類に比べればその高さで遥かに及ばないが、迫力では決して見劣りするものではない。

シダのような葉は、ごく小さなものでも1m近く、通常の場合4mほど、ものによっては7mを越えてくる。

その巨大な葉はちょうど人の背丈ほどから高くても5mほどの間に展開されるため、じつに見ごたえがあった。

足を運んでみて痛感する。

この驚くべき植物についてもまた特集すべきである、と。

ユーラメリカではごくありふれた植物である。

数が多いだけではない。種類も、その生育環境もまた多彩だ。

一つ一つの羽片をとってみても、さまざまな種類があることがわかる。

おもにリンボク類やコルダイテス類が高木の樹冠を作り、その下層にはメドゥロサ類が低木層を作っている。土があるていど湿っており、冠水していない環境ではほとんどどこでもなんかしらのメドゥロサ類がみられる、といっても過言ではない。

リンボク類は”柱のような”生育を示し樹冠が極めて疎である。コルダイテス類もまた、現代の被子植物ほどの密度を持った樹冠を作るわけではない。石炭紀の林床は基本的に明るい。

そして、その下方植生として巨大な葉を広げるメデュロサ類が繁栄しているのだ。


メドゥロサ類が”花”を咲かせる種子植物であるということは見逃せないことだろう。巨大なシダ植物のような葉をもち、被子植物のような虫媒”花”と巨大な種子をつける裸子植物。それがメドゥロサ類である。花粉は直径が0.5㎜もあり、もはや風に運ばれることは不可能だ。メドゥロサ類をよく吸汁するムカシアミバネムシ類はこの雄”花”を吸汁し、花粉をつけて運ぶ。そして雌”花”は大量の受粉液滴を分泌してムカシアミバネムシ類を集め、受粉させる。しかしながら雌花が吸汁されて被害を受けると本末転倒などころか、致命的である。そのため雌花や未熟な種子には化学防御として特殊な毒を含んでいて、それに独特の効果がある・・・ということまでは、化石からわかる範囲ではなく、訪れて初めて気づいたことだった。本当にこうした適応意義があって種子に特有のまやk・・・いや、幻覚成分を持っているのかはわからないが、花に集まったり吸汁したりしているムカシアミバネムシ類を捕まえて試してみると忌避反応を示すのはチェックできた。この薬効のせいで、ちからシダと呼ばれている。ちょうど感覚としては、コカの葉を噛むのに近いらしい。種子は比較的短時間で結実して脱落してしまう。大きさはちょうど爪くらいのものが多いが、10㎝もあるものもあり壮観だ。強い光沢をもち簡単には割れないが、強力な種皮により長時間生存できるようだ。あまりに大きな種子のため、四足動物による何かしらの動物散布があると考えるのが自然だが、はっきりしたベクターは見当たらず今後の検証が必要だろう。


メドゥロサ類の樹形は、シダのような葉から想像される木性シダのような樹形よりもむしろ、巨大な草本と言った方が近い。もし木本にたとえるならば、タラノキの幼木に少し似ている。そして新芽は鮮烈に赤いものが多く、非常にインプレッシブだ。

巨大な羽状複葉に対して茎はごく細く、全く分岐しない。

そして、大抵の場合葉の長さと茎の長さは等しいか、しばしば茎の方が短いほどである。

放射状にのびた葉はこの植物の直径をしばしば10m以上にするにもかかわらず茎の長さはふつう5mほどにすぎないので、結果として縦より横に大きな概形になる。

茎は短いだけでなくアンバランスなほどに細く、しばしば葉柄の太さの2~3倍程度しかないようにみえる。この事実は、伝統的に広く流布していた復元画とは全く違っている。メドゥロサ類の茎が実際にはかなり細いことは20世紀にはすでに知られていたはずだが、なぜか現在にまで茎が太い復元図がコピーされ続けている。化石記録からするとかなりバランスが異なる復元画が100年も使われ続け、コピーされるうちにどんどん茎が誇張され、ついには搾菜のようにまでなってしまったのはじつに不思議だ。さて、実際の植物や化石記録を見てみれば、最も大きなものでも茎の直径は20㎝を越えることはなく、1mを越える葉が太さ5㎝しかない茎についていることはしばしばである。


このアンバランスなデザインは、一部の種では非常に特徴的な生育パターンをもたらす。

たとえばネウロプテリス(広義)は丸みを帯びた、あるいは先端のみ尖った羽片をもち、単一の中脈からアーチ状に二分岐する二次脈によって特徴づけられる、ごくありふれたメドゥロサ類といえる。

しかし、その幼木の葉は全く異なっている。

扇状の脈をもつ丸っこい羽片をもち、赤銅色の色合いは目にも鮮やかだ。この丸い葉を、キクロプテリスというが、さまざまなネウロプテリス科のメドゥロサ類がもつ陰葉ないし幼形葉である。

脈の入り方はイチョウに似ていて、成木のもつ中脈は影も形もない。

葉全体の大きさはべらぼうに大きく、しばしば5mを越えてくる。

シダのような葉ははじめ、ワラビのように巻いた状態で上方に生えてくる。

そして成長するにつれ水平に向きを変え、ついには斜め下を向くようになる。これはごく一般的に現在の植物にもみられる成長パターンだが、メドゥロサ類の強靭な葉柄が状況を複雑にしている。

葉柄および羽軸は極めて頑丈にできていて、強く木質化している。

そのため、地面に着いた葉はその剛性ゆえに支柱のような役割を果たすのだ。この巨大な葉はやがて落葉するが、そのころにはまた次の葉が垂れ下がってきて植物体を安定させる。そして、こうやって支えられたところに太い気根がのびてきて、しだいにタコノキのような気根が茎の下部を支えることになる。

そして成長が進むと、新たなタイプの葉が現れる。これは細かい羽片をもつ長さ2~4mほどの比較的小さな(⁉)葉で、途中で大きく二分岐を繰り返しながらネウロプテリス型の葉とキクロプテリス型の葉を両方つける。このころから茎はさらに細くなり、自立したまま育つ種もないことはないようだが、周囲の植物にもたれかかって育つ種も多くなる。

葉は育つにつれてネウロプテリス型のものに置き換えらえていき、赤みを帯びるのは新芽だけになる。

二分岐を繰り返す葉は成長の過程で周囲の植物に絡まり、しばしば抱きかかえるようになっていくようで、もたれかかって育つ際に安定性を高めるのに有効なようにみえる。ただ実際の適応意義は実験をもとに検証されるべきだろう。


アレトプテリス型のものもまたよくみられる。羽片が三角形を示し、しばしば基部で広がって隣の羽片とつながるのが印象的だ。ネウロプテリス型のものとはほんの少しだけ好む条件が違うようで、日当たりがよく、かつ少し乾燥した場所でよりよくみられる。非常に印象的な大きさになる植物で、葉の長さは5mを越えてあたりまえだ。成長による葉の形態の変化は乏しいようである。羽軸は大きく二分岐していて、その双方から3回羽状複葉がつき中央で交わる。そのため全体としては4回羽状複葉となり、遠くから見ると概形は巨大なしゃもじ型となる。シダの葉は概形が三角形を示すものが多いが、これは葉どうしが重なり合いやすく葉が重なることを前提とした植物によく見られる。しかしアレトプテリスなどの巨大なシダ種子植物や、中生代の木性シダは大抵が葉の概形がしゃもじ型となっており。これは葉の重なり合いを最低限に抑えるデザインといえるだろう。

石炭紀を訪れる前からこのような葉のデザインの性質は予想していたが、ではなぜ巨大な葉にしないのだろうかと思っていた。しかし、この森のスコールの激しさを知ると納得だ。もし巨大な葉を作った場合、中央に水が溜まって葉が大きな抵抗を受けることになる。隙間の多い羽状複葉とすることで水を受け流しやすくしているのかもしれない。ただ、これも実験が必要な案件だろう。


ところで、メドゥロサ類の葉には強い芳香がある。

その香りは種によっても異なるようだが、石炭紀の森ではスパイスとして最適な植物といえる。

驚いたことに、メドゥロサ類に芳香があることは21世紀にはすでに予想されていた。3億年の時を経て保存された化学組成をもとに、たとえばNeuropteris ovataなどに多量のテルペノイドを含むことが予想されていたのだ。さらに、葉の表面にはしばしばトリコームが発達し、油胞らしきものすらあり、植物体が大量の油を含むことまで知られていた。その香りがレモンに似た柑橘系であることはもちろん、当時にはわからなかったのだが。

香りがあるからと言って、葉軸まで使うのは禁物だ。葉はあくまでちぎって入れる。葉軸は硬いだけでなく強い渋みがあり、タンニンに富む。入れればスープが黒くなってとても食べられたものではなくなるので、ここの住民は料理下手のたとえとして”ちからシダの茎を使うような”というほどらしい。


茎は細いながらもかなりの強度がある。断面をとってみると巨大な維管束がまるで縄をなうかのように合流と分岐を繰り返しながら柔組織の中を走行しており、切る断面によって維管束の帯の数と位置が異なっている。こんな植物は現在には全く存在しない。さらに言えば維管束はいびつなまでに一本一本が太く(仮道管がしばしば直径0.3から0.5㎜もある)、機械的強度にあまり寄与していないようで、引張強度は確かにあるが、曲がりやすい。それを支えるのが柔組織と周皮で、1㎝におよぶ周皮によって外から茎を支え、柔組織も名に反してかなりの強度を持っている。木を切ると強いヤニ臭があり、樹脂が非常にべたつく。それを分泌すると思しき分泌管も材に豊富にみられる。これは、ムカシアミバネムシ類をはじめとした大型吸汁昆虫にたいする対抗策なのだろう。

逆に、茎が途中で折れた場合あっけなく枯れてしまう。これはリンボク類もそうで、茎が分岐したり、折れたところから再生するというのは石炭紀の巨大植物には滅多に見られない概念のように見える。

現代の植物に見られる”ほとんどどこからでも再生する”ような再生能力は昆虫や脊椎動物による葉や新芽の摂食に応じて獲得されたものなのだろうか。葉自体を齧る昆虫すらほとんどいない石炭紀においてはあまり必要なかったのかもしれない。



メドゥロサ類はネタの宝庫です。

あまりにも軽視されていますが、最も語りがいのある化石植物の一つかもしれません。

知られている情報量も多く、信じられないほど奇妙です。


本稿での設定としては、香りがレモンっぽいのと種子の毒性と幻覚作用、成木の新芽が赤くなる以外は元ネタとなる研究があります。幼形葉は赤かったのでは?というのは現生種からの憶測でかなり根拠不十分なようにも思いますが・・・一応元ネタはあります。

メデュロサ類にかぎらず石炭紀の植物がしばしば赤い理由に関しては、本編のエピソードでまたやります。



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