表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/50

鱗木SF(番外編)鱗木エンジン





アリアはあらためて旅を振り返る。

長かった旅も、もうすぐ終わり。沢山の予期せぬ出会いがあった。


たとえば温泉で鉢合わせしたエルザさんとナタリーさん。

氷河に囲まれた植民都市コンゲラード(凍った町)の街で温泉にくつろいでいたところ、ケイを男の子だと勘違いしてパニックになり、さらに2人の前でサンプル採取という名の奇行を続けて唖然とさせたっけ。あまりにも申し訳なかったので、その後リリィと二人で謝罪に行った。

それが、この惑星最大のエネルギー会社 であるeCarbo の技術者たちとの出会いだった。


それからしばらくして、熱帯雨林の水上集落で偶然再会する。

そこでは、彼女たちがリンボクの胞子を大量に買い付けていた。


「何に使うの?」

そう尋ねると、エルザは悪戯っぽく微笑んで言った。

「聞いたら驚くわよ。」


彼女たちは、 リンボクの胞子を燃料にしたエンジン開発 に携わっていたのだ。

それを聞いた瞬間、私の心は躍った。

これまで数多くの技術革新を見てきたが、これほど夢のある話は久しぶりだった。


すぐにエルザに連絡を入れた。

「この技術、動画にしたいんだけど」


返事は早かった。

「社長なら多分取材を受けてくれると思うわ。ただ……」


彼女は一拍置いてから続けた。

「社長、夢を語るときはセールストークみたいになって胡散臭いのよね。それでもいい?」


もちろんだ。

"夢" というのは、語る者の熱量が大きければ大きいほど、時に誇張に聞こえるものだ。

私は「問題ない」と返事を送った。

すると、10分もしないうちに次のメッセージが届いた。

社長は快諾。取材のタイミングは、私たちが本社近くの宇宙港に戻る頃。


つまり、この取材が、今回の旅の最後の動画撮影となる。

最高の締めくくりになりそうだ。


「皆さん、こんにちは!」

ルイスさんは背筋を伸ばし、舞台に立つ役者のように堂々と話し始めた。声には自信が満ち、彼の周囲の空気まで熱を帯びるように感じる。決めた。この動画はノーカットでいこう。

「今日は、石炭紀の惑星が持つ驚くべき可能性と、それをあなたの利益に変える革新的なチャンスをお届けします。この惑星の特徴は何と言っても、酸素濃度35%の濃厚な空気と、リンボクの森が織りなす壮大な景色。でも、そこにはちょっとした「厄介者」が潜んでいます。

リンボクの一生をご存知ですか?普通の木とは違い、ずっと育ち続けるわけではありません。成長のピークを迎えると、胞子を残して枯れてしまうんです。ご覧ください、この枯れかけのリンボクの森から立ち上る、もくもくと舞う小胞子を。この小さな胞子、実はとんでもないエネルギーを持っているんです。

目を閉じて想像してみてください。ある朝、静かな村が突如として閃光に包まれ、次の瞬間には黒煙と炎だけが残る。遠く離れた森林では、わずかな火花が落ちただけで、炎の波が木々を飲み込んでいく──そんな光景が、ここでは決して珍しくないのです。

この石炭紀の森で起きるそんな事件の原因は、まさにこの小胞子と高濃度の酸素が引き起こす「粉塵爆発」なんです。実験で見てみましょう。1平方メートルあたりたったこれだけの胞子を攪拌して火花を散らすと…ドカン!一瞬にして火球が広がります。軽くて舞いやすいこの胞子、酸素豊富な環境では火種一つで大惨事を起こすほどの威力を持っています。


さらに、この惑星にはもう一つの「隠れた宝」があります。リンボクが沼地に沈み、嫌気的に分解されて生まれるメタンガスです。沼の底からふつふつと湧き上がるこのガス、発熱量は驚異の55MJ/kg。弊社でも様々な環境から燃料として回収していますが、酸素35%の環境に揮発性の燃料がたくさん、それがこの惑星の現実です。


でも、私たちは思います。この「厄介者」を放っておくのは、あまりにももったいない!

危険でしかない小胞子とメタンを、逆に「金の卵」に変える。それが私の提案する、革新的な内燃機関なんです。

考えてみてください。1平方キロメートルあたり25kgしか回収できないこの小胞子、実は粒径25~40マイクロメートルで、セルロースと脂質からできていて発熱量は17~20MJ/kg。森では山火事の原因ですが、私たちはこれを「燃料」に変えます。そこに、メタンを1:1でミックス。1台のトラックが24時間走るのに必要なのは、たった64.8kgの胞子と同量のメタンだけ。これぞ自然の恵みを最大限に活かすソリューションです。

このエンジンの設計思想はシンプルかつ大胆。小胞子の粉塵爆発の力を制御し、メタンと混ぜて安定したエネルギーに変換します。ディーゼル型の圧縮着火エンジンで、圧縮比16~18。酸素35%の環境なら、小胞子は圧縮熱だけで即座に着火し、メタンを誘発燃焼。混合比1:1なら発熱量は37.5MJ/kgに跳ね上がり、熱効率は驚異の45~50%。森で無駄に燃えるエネルギーを、ピストンを動かす力に変えるんです。性能面でも申し分ありません。小胞子の爆発力はメタンが安定化させ、ノッキングも抑制。効率よくパワーを引き出します。原油価格が高騰する今、この技術なら原油を温存し、高価値用途に回せます。さらに、供給システムの自動化やリンボク栽培の開発も進めており、燃料供給はますます安定する予定です。

最後に、私たちのビジョンを聞いてください。

この石炭紀の惑星で、私たちは「厄介者」を「価値ある資産」に変える挑戦をしています。山火事で失われるエネルギーを回収し、メタンと組み合わせて高効率な動力源に。重機から発電まで、この惑星の産業を支え、原油依存からの脱却を加速させます。このエンジンは単なる機械ではありません。森のリスクを富に変え、次世代のエネルギー基盤を築くプロジェクトなんです。

投資家の皆様、この惑星の未来を一緒に切り開きませんか?自然が供給する資源を活かし、リスクを利益に変える——そんな夢の第一歩に、あなたの力を貸してください。ご質問があれば、ぜひお聞かせください。ありがとうございました!


ルイスさんが熱弁を振るうたびに、私は少し冷静にその言葉を吟味していた。彼の話し方には確信が感じられるが、どこか計算されたものを感じずにはいられなかった。過剰に自信を持ちすぎているように見えるが、その抑揚や間の取り方が妙に整いすぎている。まるで何度も練習したプレゼンを聞いているような感覚を覚える。もしかしたらこの技術が本当に新しい世界を切り開くのかもしれない…でも、私は警戒している。彼の目の中に一瞬だけ見えた光に、ちょっとした違和感を覚える。


ケイはゆっくりと立ち上がった。椅子がわずかに軋み、室内に一瞬の静寂が落ちる。

微かな沈黙が続いた後、ケイの低く落ち着いた声が響いた。

「……小胞子の回収量が、産業規模の需要を満たせるとは思えません。」

ルイスが言葉を発するよりも早く、ケイはすぐに続けた。 「理論上は燃料になり得るでしょう。しかし、回収効率をどう向上させるつもりですか?供給が安定しなければ、結局この技術は絵に描いた餅に過ぎません。」

彼女の目は鋭く、ルイスをじっと見つめ、まるでその隠された意図をすべて見透かしているかのようだった。


ケイはこの講演を真剣にメモしている・・・ように見えて、じつは手元のメモに数字を書き込みながら、じつは計算を始めていた。

1本のリンボクからは種類にもよるけれど、胞子嚢穂は450本。胞子嚢穂には平均して1900個ほどの胞子嚢があり、その中には2600粒の胞子がある。となると胞子嚢穂1つで494万粒の胞子、1本の木から放出される胞子は22.2億粒。一見大きいけど、胞子重量は1個あたり4~5ngしかない…

つまり、1本のリンボクからの胞子は重さにしてわずか11.1gにすぎない。1㎢に生えるリンボクの本数は4500本(胞子嚢穂にして202万5000本)…つまり1平方キロメートルあたり50kg…いや、雄株と雌株が1:1でいるから25kgしか胞子が回収できない。計算は合っていそうだ。問題は回収量…少なすぎる。労働力を含めてどうやって賄うんだ、これ…?

1トンの胞子を得るためには40平方キロメートル、約十万本のリンボクの雄株が必要だ。


「ルイスは一瞬、視線を彷徨わせた。だが、すぐに笑みを取り戻す。

『鋭い指摘ですね。では、これを見てください。』

彼はスクリーンに一枚の写真を映し出した。そこには、水田に整然と並ぶリンボク類の姿が広がっている。人の背丈ほどにコンパクトに収まったそれは基部で2~3回分岐し、長さ1mはあろうかという胞子嚢穂を立てている。その姿は森というよりも、畑のようだった。穂の形や大きさは、西アフリカでよく見かけたトウジンビエの畑によく似ている。

次のスライドでは自動収穫装置がそれらを刈り取り、同時に不要な残渣を漉き込んで胞子を蒔く様子が映る。スライドには「この収穫装置は残渣から得られたバイオエタノール100%で稼働します」とある。


『私たちは選抜育種によって、密植可能で成長の早い種を開発しました。雄株だけを植え、1平方キロメートルあたり1000万本の胞子嚢穂を確保。つまり、自然林の5倍の収量を達成しています。』

ルイスは視線をケイに戻し、微笑んだ。

『あなたの計算は正確ですが、前提条件が違っていたんです。』


ケイは目を細め、指先でノートをトントンと叩く。自分の計算と照らし合わせながら、少しだけ口角を上げた。興味深い。だが、まだ疑問は残る。

「つまり、年間75kg/平方キロメートル程度ということですか」


ルイスはスライドを次々と切り替えながら、身振りを交えて説明した。目が輝いている。まるで自分の研究そのものに命を吹き込むかのように、熱を帯びた声で語る。


「穂の大きさも大きくできているのと胞子嚢の含有量もあげているので、150㎏/平方キロメートルを超えてきています。これは1台のトラックが24時間走るのに必要な量(64.8㎏)を超えます。さらに不要な部位からバイオエタノールや炭粉燃料を作ったり、CO2供給で成長を1年サイクルに短縮する研究も進んでいて、これらを足すと供給量はさらに増えます。

産業ニーズに対しては、人口50万人未満のこの惑星なら、年間3000トン——約4万平方キロメートルの農園で十分賄えます。例えば、CO2供給で成長サイクルを1年に短縮する研究も進んでおり、これが実用化すれば供給量は倍増。需要を確実にカバーするプランは、着実に形になっています。」


ケイは矢継ぎ早に次の質問を用意した。

目を細め、腕を組んで冷静にルイスを見つめながら、言葉を選ぶ。

『バイオエタノールやメタンの利用技術は古くから確立されていると思うのですが、それらとの比較はどうですか?』

ケイの声は冷静で、しかしその鋭さがひしひしと伝わってきた。


「素晴らしい視点ですね。」

ルイスは指を組み、少し間を置いてから続けた。

「たとえるなら、バイオエタノールは水を汲んで運ぶバケツのようなものですが、小胞子燃料は、それ自体が水を生み出す泉なんです。違いはわかりますか?それぞれ比較してみましょう。」

まず、バイオエタノール。地球ではトウモロコシ由来で一般的な燃料ですが、発熱量は26.8MJ/kgと低くエネルギー効率が劣ります。さらに、この惑星の高緯度や砂漠では凍結しやすく、低温始動性が課題。現時点では実用性に欠けますが、低緯度開発が進む将来を見据え、弊社でも研究を加速しています。次に、メタン。発熱量55MJ/kgで、現在この惑星で最も普及しています。ただ、ロケットや航空機燃料としての需要が急増し、価格が高騰。国内需要を抑えて外貨獲得につなげたい中、胞子を添加することでメタン使用量を減らしつつ効率を維持する——これが私たちの戦略です。

原油はさらに高額で、コスト面では使い物になりません。輸出で外貨を稼ぐ手段としては有効ですが、内需向けには非現実的。

結論として、胞子+メタンのハイブリッドは、地元資源を最大限に活かしつつ、メタン依存を減らせる。つまり、安定供給とコスト削減の両立が可能になるんです。」


ケイは次の質問を投げかける。

「炭粉燃料について、少し詳しく教えてください。」

その質問には、ケイ自身の洞察が込められている。


ルイスの口元にわずかな笑みが浮かぶ。

「鋭いですね、ご興味ありがとうございます。炭粉燃料とは、その名の通り微細な炭の粉。収穫残渣や泥炭を粉末化して作られます。発熱量は20〜25MJ/kgとバイオエタノールより高く、メタンとの二段燃焼によって高い効率を実現します。

泥炭が豊富なこの惑星では、炭粉燃料の供給はほぼ無尽蔵。そして、排ガスに硫黄や窒素化合物をほぼ含まないという環境的な利点もあります。実は、私たちの技術開発の出発点は、この炭粉燃料エンジンでした。しかし、ある実験で小胞子を加えたところ、燃焼性能が飛躍的に向上したのです。実は、私たちの技術開発の出発点は、この炭粉燃料エンジンでした。しかし、ある実験で小胞子を加えたところ、燃焼性能が飛躍的に向上したのです。」


彼の声には確信が宿っていた。


「このエンジンは、状況に応じて炭粉と小胞子を使い分ける設計になっています。炭粉が豊富な地域ではそれを基盤燃料にし、小胞子が収穫できるエリアでは高性能燃料として活用する——この柔軟な運用が、私たちの技術の大きな強みです。」


ケイはその話に耳を傾けながらも、心の中でまだ何かが引っかかっているのを感じ取っていた。腕を組み、しばし考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。

「その炭粉燃料って、炭鉱の炭塵を使おうとした最初のディーゼルエンジンのアイデアの復活ってことですか?」ケイはそれがうまくいかなかったことを知っている。

「まさに仰る通り、炭粉燃料は、地球でも古くから注目されてきたアイデアです。驚くことに、最初のディーゼルエンジンは粉末石炭を燃料に設計されたほどで、その歴史は数百年に遡ります。ただ、当時は粒径のバラつきや、酸素濃度が低い環境での燃焼効率の悪さがネックで、主流にはなれませんでした。

それを、この酸素濃度35%の惑星で現代技術と組み合わせることで復活させたのが、弊社の炭粉ハイブリッドエンジンです。

しかし、私たちの技術は、ただの延長ではなく、ジャンプです。

ルイスは指を鳴らす。

スクリーンには、従来の炭粉エンジンと最新型の燃焼プロセスの比較映像が並ぶ。片方は黒煙を上げ、もう片方は透明な炎が揺らめいていた。

泥炭層から簡単に取れる炭粉は発熱量20~25MJ/kgで、メタンと組み合わせれば安定した出力が得られます。供給もコストも申し分ない、まさにベース燃料として理想的です。


ケイは腕を組み、ゆっくりと目を閉じて考えた。炭粉燃料が理論的に理想的だというのは理解できる。だが、それだけでは解決しきれない問題がどこかに潜んでいるはずだ。なぜこの小胞子が、それほど重要な技術だと言えるのか? 疑念が彼女の頭を巡り、そして答えを求めて口を開いた。


「炭粉燃料の方が、どう考えても持続可能性が高いですよね? 回収コストも安く、供給も安定している。それでも小胞子を推す理由は?」


ルイスの目が鋭く光る。


「なるほど。そこを突いてきますか。」


ルイスは2本の試験管を掲げ、ケイに見せる。

2本の小さな試験管には、片方には淡い金色の粉末、もう片方には黒い粉末。

「軽く振ってみてください」

言われるとおり、それを静かに揺らした。

小胞子は微細な金色の粉末で、ほんの少しの振動で静かに舞い上がる。

いっぽうで炭粉はと言えば、確かに舞い上がるが底にまだ少し溜まっていた。

なるほど、燃料として噴射するのならば胞子の方が優れていそうだ。


「あなたの指摘は正しい。炭粉燃料は、低コストかつ持続可能な優れた燃料です。しかし——」


ルイスは試験管を掲げると、その目に一瞬だけ誇らしげな光が宿った。

「この技術はただの延長線ではない。私たちは新しい時代を築こうとしているんです」


「小胞子の燃焼特性には、まだまだ未知の可能性があるんですよ。」

彼は手元のデータパッドを軽く指で叩いた。「そして、何より——」

言葉の重みを意識するように、一拍置く。


「炭粉エンジンには一つ課題がありました。炭粉は酸素濃度が低い環境だと不完全燃焼を起こしやすく、性能がガクッと落ちてしまうんです。炭粉は熱効率が40%だせる試算にはなるんですが、それはこの惑星での話で、地球ではとても期待できません。つまり、せっかくいいエンジンができても、他の惑星への輸出が難しい。」


彼は胸ポケットから小さな試験管を取り出した。中には淡い金色の粉末。

彼は試験管を光にかざす。軽く振ると、試験管の底に溜まっていた胞子がふわりと舞い上がった。

「そこで登場するのが、小胞子です。見た目はただの胞子。でも現状、自給可能なバイオ燃料としてもっとも高性能で可能性があるのが、この小胞子だと考えています。同じエンジンでこれを燃やせば、メタンと混ぜることで熱効率は45~50%に跳ね上がる。」


「その軽さと即時着火性が大きな違いを生みます。メタンと混ぜると熱効率が45~50%に跳ね上がり、驚くべきことに通常の酸素濃度(20~21%)でもガソリンエンジン並みの性能を発揮するんです。さらに、酸素濃度に依存せず安定した出力が出せるから、このエンジンは地球や、もっと酸素濃度の低い惑星でもそのまま使える。つまり、輸出可能な技術に化けるんです。」


「実は、このセールス、すでに地球や他の星でも展開しているんです。


彼はスクリーンに地球の都市と宇宙港の映像を映し出した。

彼は満足げに笑う。「このデータを見た投資家たちは、すぐに動きました。すでに3つの惑星で試験契約が成立しているんです。」

「たとえば、この三畳紀の前線基地。ここでは酸素濃度が15%以下。しかし、小胞子エンジンなら従来の燃料より30%も効率よく燃焼できる。二酸化炭素が多いので胞子の生産にも適しており、すでに試験圃場での生産も始めています。」


「なにより、リンボクがトレードマークとも言えるこの惑星で、「リンボクの胞子で動くエンジン」というストーリーが、顧客にものすごく刺さるんですよね。「自然の厄介者を力に変える」——そのコンセプトが、技術的な優位性以上に、ブランド価値を高めてくれています。

炭粉は確かに安定した土台ですが、小胞子は「この惑星らしさ」を武器に、市場で差別化できる存在感を持っているんです。単なるコスト競争を超えた「付加価値」が、ここにあると思いませんか?」


「誤解のないよう補足しますが、炭粉を捨てるつもりはありません。このエンジンは炭粉と小胞子の両方に対応可能で、地域や用途に応じて使い分けられます。炭粉は地元の安定供給を支え、小胞子は高性能と輸出で攻める——この二段構えが、持続可能性と成長性を両立させる鍵なんです。

短期的なコストでは炭粉が有利かもしれませんが、長期的な利益と市場拡大を考えれば、小胞子がもたらす「飛躍」が見えてくるはずです。」

「ありがとうございました。なるほど、様々な惑星で小胞子を栽培する研究もしている・・・となると、農業のエキスパートにもなれそうですね。」

「勿論。弊社はリンボクの栽培にかけては最もノウハウがあることを自負しております。まだ試験段階ではありますが、「リンボク栽培キット」の開発も行っております。石炭紀の魅力を地球のご家庭でも楽しめるよう、誠心誠意開発中です。試供品もございますが、試されますか?」

「動画で成長過程を紹介させていただいてもよろしいですか?」

「是非ともよろしくお願いします」


撮影が終わり、宇宙港へ向かう。

途中、私はケイに言った。「ねえ、ケイ、今回もすごかったよ。質問連発で私ちょっとドキドキしたけど、視聴者に響く内容になったと思う。」

ケイは「そうかな…失礼だったかも」と気まずそうだった。

私は「いや、君の鋭さが石炭紀を面白くしてくれたよ」と笑った。


石炭紀の惑星での旅はこれで、おしまい。

でも旅はまだ終わってない。あと一週間もかけて地球に還らなきゃだから。


どいつもこいつも粉塵爆発をテーマにしすぎだという指摘があるので今回は粉塵爆発をテーマに。


最初の内燃機関って、じつはヒカゲノカズラの胞子を燃料に使っていたんですよね。

今回、ケイが計算に用いたリンボクの胞子数はThomas, B. A. (2021). Why Lycospora dominated many Pennsylvanian spore assemblages. Fossil Imprint, 77(1), 11-16.をもととし、これに最大級の胞子嚢穂をつける例としてあるLepidostrobus sternbergii型の胞子嚢穂(親植物は不明、太さ10㎝近く、長さ1m近い)をベースとした。もちろんもっと小さな胞子嚢穂をつける種もいるので、そういう種は1/10程度になっただろう。(B.A. Thomas (2021) 本文参照)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ