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第二話 石炭紀、行かない?

人類が過去の世界へと植民するようになって、もうすぐ50年がたつ。

はじめのころは、大惨事もあったらしい

――たとえば、30年前、石炭紀に築かれたある街が一夜にして「消滅」した、とか。

しかし、そうした事件も今では忘れられつつある。

タイムトラベラーは年々増え、かつてのような大惨事の噂も聞かなくなった。

(…消して回っているだけなのかもしれないが。)

ともあれ、いまではフィールドワークといえば、過去に行くことと言っていいくらいだ。

にもかかわらず、私は――

フィールドワーカーでありながら、いまひとつタイムトラベルというものに関心を持ってこなかった。

現代という時間に縛られて、地べたを這いずり回るようだ――そう嗤われるだろう。

しかし、私にとって、見るとは、記録するとは。

これからなくなってしまうかもしれないものに対してだからこそ、価値があるように思われる、のである。


私が石炭紀行きを決意したのは、ほとんどアリアのせいである。


 大学時代の悪友から届いたメッセージは、相変わらず一方的で強引だった。

「今年の夏あたり、ちょっと一か月ばかしの休暇、もちろん取れるよね?」

 ——言わんとすることは、すぐに分かった。

 旅行に、一緒に来い、ということだ。

 どうせまた、動画の撮影だろう。派手な企画は、どうにも気が乗らない。


「“もちろん”は取れないけど、考慮はする」と返した。

 返事は早かった。

「カフェの予約とっといた。Cafe Rustic、日曜の14時から。いい?」


 予約「とった」じゃない、「とっといた」である。

 しかも場所がCafe Rustic。あの、予約一か月待ちの。

 アリアは昔からこうだ。行き先も日時も決まってる。

 あとは、私が来るかどうかだけ。

 ……さすが、お貴族様は違う。


 いいだろう、行ってやるよ。動画の話はさておき、二百年前の古民家は見たい。

 なんなら、内部構造も、建材も、照明も、気になる。

 古い文化財に触れると、つい観察したくなってしまう。

どうやって作られ、誰の手を経て、どんな時間を過ごしたか――それを想像せずにはいられない。

 そんな自分に少し呆れつつも、指先が、わずかにうずいた。


 観念したふりをしながら、内心ではちょっとわくわくしていた。

 そうして、私はそのカフェへ向かった。


 見る限り、建物は何百年も昔の姿をそのまま残していた。

 だがそれが建っているのは、百メートルを超えて積み上がった都市のてっぺん――偽りの大地の上。

 下に行くほど死に近づくこの街で、陽の光が許されているのは、ほんの一握りの場所だけだ。

 レトロは、最高の贅沢だ。


時刻は14時15分。

 ――遅刻。でも、これでよかった気もする。

 彼女に先に席を取らせるほうが、むしろ気が楽だった。


 ……もし、私が先に入っていたら?

 彼女と「挨拶」しなければならなくなる。

 立ち上がれば目線は胸元までしか届かないし、会った瞬間、きっと思い切りハグされるだろうから。


 ハグされるのが嫌なわけじゃない。

 ただ、心の準備をする余地もなく、あの大きな身体が覆いかぶさってくる。

 柔らかな感触と体温に包まれる瞬間……ビビらないほうが難しい。なにせ、身長差が四十センチもある。


 相手がどんなに遠目には美しくとも、グリズリーに襲われるような錯覚を起こしてしまう。

 そして怖気づけば、会話のきっかけも、流れも、身体さえも、呑まれてしまう。


 ――火星植民圏では、感情も挨拶も、全身を使う。肉体的な接触も、厭わない。

 ――そういう文化、らしい。


 何かを伝えたいのなら、声にすればいい。

 なぜ全身で飛び込んでくるのか……いまだによく分からない。

 むしろ、毎回ヒッと声をあげてしまう私の反応を、楽しんでいるんじゃなかろうか。




 そんな、久しぶりに会う彼女――アリア・エンバートンは 入り口からすぐの席で、百八十センチは超えそうな長身を滑らかに傾け、コーヒーカップをつまむように持ち上げて、香りを楽しんでいた。


 しなやかに伸びた肢体は、健康的に鍛え上げられていて、カップの重さなど全く意に介さない。

 ウェーブのかかった茶色の長髪が、有機ガラス越しの偏光に照らされ、一部が虹色にきらめく。


 それにしても――すごい場所だ。

 ゆっくりと見回しながら、生きた文化財の姿を、私は目に焼き付けた。

 そして、この建物が歩んできた長い歴史に、ひととき思いを馳せる。

黒く、鈍い艶を宿す古木のテーブル。

 厚く塗られたタールの上には、無数の傷と染みが、光の粒となる。

 ――それは、歴史の証だ。

 はじめは、一本の木だった。

 森に生まれ、伐られ、枕木として時を過ごし――やがて、邸宅のテーブルへ。

 幾世代もの手で削られ、磨かれ、時代を越えて、今ここにある。

 きっと、生きていた時間よりも、コーヒーを乗せてきた時間のほうが、長い。


 ときが、止まったようだった。


 あるのは、窓枠がたてる「かたこと」という、微かな音だけ。

 モノトーンな春先の庭に、咲き始めた梅の枝。

 微かに歪んだ有機ガラス越しに見える世界は、ときに隔てられたように、ゆらゆらと。


ふと、自らの思考の中から、目の前にいる友人の存在が一切欠落していることに気づく。

……自分で言うのもなんだけど、どうかしてると思う。

 人というものの存在が、どうしても二番目以降の選択肢になってしまう。


 席にもつかず、久しぶりに会う友とろくに目も合わせず、店を見回す私。

 けれど、アリアは何も言わなかった。

 コーヒーの香りがよほど気に入ったのか、ほとんど口をつけず、ひたすらカップを嗅いでいた。


 いるのは、私たちだけ。

 そう――今日は、打ち合わせのため、貸し切りなのだ。


私はようやく席につき、ようやく彼女に視線を戻した

……少しばかり、間が空いた。

向き合う覚悟を決めるまで、思ったよりも時間がかかっていたのかもしれない。

そして――その瞬間。


 アリアは、まるで合図を待っていたかのように、スッと背筋を伸ばした。

 指先でカップをゆるやかに回し、有機ガラスの反射がきらりと走るのを、しばらく目で追っていた。

 それから、ふと顔を上げる。

 一拍、あいた。


 両手をテーブルに置き、体をほんの少しだけ前に傾ける。

 私は、思わずほんの少しだけ、のけぞった。

 そして、何の前触れもなく、言葉が落とされた。

「次の取材、石炭紀にしようと思って。興味ある?」


 芯のある響き。私をまっすぐに貫く大きな目は、ちっとも笑っていなかった。


「石炭紀、行かない?」そう誘われたのだと一瞬は思った。

けれど、「次の」取材という、その言葉が引っかかった。

 ほぼ一年中どこかに行っているから、どうせ一週間後には出発するのだろう。

「興味ある?」は、たぶん「調べてくれるよね?」の婉曲表現。

 ……なるほど。

 そうかそうか、石炭紀の動画を撮るにあたって、ネタを探しに来たのか、と理解する。

「なかなか行った人の話、聞かないよね……石炭紀。資料ならあるけど、面白い話ばかりじゃないよ……どうしてもマニアックな内容になっちゃって、興味を引くネタを提供できるかは……」


そう、これはきっと、“同行”を前提にした誘いじゃない。

 今までも、何度もあった話だ。

 調査の直前に、唐突に下調べを頼まれることが。


 でも、少し期待してしまっていた。

セッティングが立派すぎるし、わざわざ会いに来たから――

 ……我ながら、学習しない。

そのとき、強がりばかり言って金銭面から過去への旅を妥協している、意地っ張りな私に気づいた。


その時、小さな陶器の音が、沈黙の中に鋭く響いた。

 舞台のように滑らかな動きで、カップが置かれたのだ。

 ふと目を上げると、ぴたりと視線が合う。

 ……どくり。

 瞳の大きさにそれほどの違いはないと分かっていても、倍くらいありそうに思えてしまう。

 同じ茶色とはいっても、自分のそれよりも、ずっと澄み切っていた。

 その大きな、異様なほど澄み渡った瞳が、真正面から射抜いてくる。

 ――そう。前から、ずっとそうだった。

 あの視線は、一種のコミュニケーション。挨拶の代替品だ。

 一部の文化では、言語機能の一部を身体表現で代替するという。

 その一環なのだろう。

 なんというか――意思を投射するような。

 そういう文化に慣れていないと、それを見るたびに、どうしても“狩られそう”と思ってしまう。

 両手で抱えたカップを、もう一度唇に運ぶ。

 ずるずると啜るコーヒーは妙に熱く、一口ごとに舌の奥が焼けた。

 まだ何も起きていないはずなのに、じわじわと何かが近づいてくる。

 空気が、変わっていた。


「ゲート代とガイド代は二人分、もう払っちゃったからさ。あとは頷いてくれればいいんだけど?」

喉の奥が焼けたようにむせこんだ。

 熱が一気に喉に絡みつき、一瞬、息が詰まる。


 その反応に、アリアはわずかに体を乗り出してきた。

 両肘をテーブルに置き、首を傾けるようにして視線をのぞき込んでくる。


「だ、大丈夫?……ごめん、いきなりだったよね。」


 声のトーンは抑えていたが、それでもカフェの空気を圧迫するような存在感は変わらなかった。


「大丈夫」


 そう返しながらも、心の方は、まったく大丈夫ではなかった。


時空旅行は法外に高額だ。

 私が一年働いて、帰宅してから下宿先の古書堂でバイトしても稼げるかどうか怪しい。

 だから私は、時空旅行ではなく、地道に現代の地球をくまなく旅してきたのだった。

 一度だけ、行ったことがある。アリアにお勧めされて訪れた白亜紀前期。観光かぶれが少ないからとお勧めされたけど、旅行会社はちゃんとあったし、しっかり都市まで築かれていた。観光かぶれした場所となれば、それはもう、ひどいらしい。ティラノサウルスの餌やり体験、トリケラトプス闘牛士、エドモントサウルス牧場。それらを巡るツアーばかりなのだという。

 しかし石炭紀は真逆だ。本当に行ったことがある人をまるで聞いたことがない。

 調査した、という話すら聞いたことがないのだから、本当に誰も行っていないのだろう。

 法外な旅費、片道1週間もかかり、月に一度しか行き来できない不便なロケット。歩くことすら難しく、道を作ることすら諦められた、太古の森が広がる大湿地帯。

 まるで、文明を拒むかのような惑星。

 人類にとっての最前線、秘境の中の秘境。

 そんなところに足を運ぶ、そう思うだけで胸の奥で何かがざわついた。

 行きたい。どうしようもなく行きたい。

 でも、私なんかがそんな大それた場所に足を踏み入れて、本当にいいのだろうか。

 アリアの視線が、静かに、迷いなく私を射抜いてくる。

 心臓が早鐘のように鳴り始めた。


 しかし、言葉は出なかった。

 拒否したかったわけではない。むしろ、心はもう答えを出していた。

 けれど、その答えに自分自身が追いついていなかった。

 情報の整理に手間取っていたのではない。

「こんな自分が行っていいのか」――その一点で、思考が足止めされていた。

 声帯が凍りついたように、口が固まってしまった。

 ……けれど、固まっていたのは私だけではなかった。

 アリアも、私の沈黙に応答できずにいた。


 彼女は片手でカップの縁をなぞるように一周し、その手を宙で止めた。

 視線はまだこちらに向いていたが、その表情からは、いつもの余裕がすっかり消えていた。


 私たちは無言のまま、互いに顔をこわばらせていた。

 他人が見たら、即興芝居の失敗シーンみたいに見えたかもしれない。


 アリアは唇を結び、しばらく視線の置き場に困るように宙をさまよわせたあと、

 小さく息を吐いて、目線を一瞬だけテーブルに落とした。


「……だ、だめ?」


 声は、いつものような張りを失い、喉の奥でほんのわずかに震えた。


 すぐに笑顔を作り直したが、それはわずかに頬の筋肉が引きつったような、ぎこちないものだった。


 私は、興奮で心臓が口から飛び出しそうになるのを押し殺しながら、顎をなんとか動かした。


「いや……唐突でびっくりしただけ。

 相変わらずだけど、大胆で、強引で……」

 一拍、呼吸を挟んで。

「……魅力的な提案だね。」


 ——思い出しただけで、いまでも胸がざわめく。

 生物サークルではじめて出会ったあの日のことを。

 見上げるように大きな彼女は、立つだけで部室のスケール感を歪ませるようだった。

 あの日、私が薄暗い隅で『節足動物の比較解剖学』をめくっていたとき、

 彼女は少し腰をかがめるようにして、こちらをのぞき込んだ。

「その本、古いけど面白そうだね」


 そのときの声色は、なんというか

 ——いまよりずっと柔らかくて、距離を取っているようにも感じた。

 強引さもなければ、唐突さもない。寄り添うような声だった、とすら言えるかもしれない。

 けれどどこか、ぎこちなさがあった。

 あとになって思えば、あの時だけ何か違っていた。

 初対面以降、ああいうアリアは見たことがない。


 そして彼女が抱えていたのは、アンモナイトがぎっしり詰まった発泡スチロール箱。

 それをどさっと机に置いて、まるで演劇の幕が上がるように高らかに言った。

「私はいま帰ってきた。アンモナイトとってきた。ミーティング終わったらバーベキューね!」

 ギャップに面食らったけど——今思えば、あれが素の彼女だった。

 それが大学一年生の時、私がはじめて、本物のタイムトラベラーを見た瞬間だった。

 アンモナイトはうまかったし、解剖してイカとの比較で盛り上がった。

 気付けば朝になっていたっけ。


 講義でアリアをみかけることは、ほとんどなかった。

 ずっと中生代に入り浸っていて、出会ったときの時点で2留していた。

 サークルに来たのも数えるほどだった。しかし忘れたころに大量の戦利品を抱えてフラッと部室にあらわれ、嵐のようにまた太古の昔へと潜っていく。

 まるで、中生代に住んでいて、ときどき大学に帰ってくるかのように。

 現代に”寄り道した”彼女の言い草はいつもこうだ・・・「もちろん来るよね?」。

 その提案に乗らなかったことに後悔したことは数多あれど、乗って後悔したことはなかった。


 そんな彼女は今でも大学に残りつつ、恐竜を専門にフィールドワーク研究をしている。

 留年を繰り返した理由もラボの調査で講義に出られなかったからだったらしく、大学にいる頃からラボに残ることは確定していたらしい。


 昨今、研究だけでは生きられない。

 とくに大学の給料は薄給もいいところ。

「選択と集中」からあぶれた分野の場合、そうとう実家が太くないと仕事として研究を続けるのは困難だ。

 しかしアリアは違っていた。実家が太かったのは勿論だが、むしろ仕送りをしているのだという。

 それは彼女が恐竜のドキュメンタリー動画をヒットさせ続けているからだ。

 動画ははじめ、趣味程度のものだった。

 しかし人気が出るようになるとどんどん高性能な機材をそろえるようになる。

 そして結果的に、フィールド科学者としても、配信者としても成功を収めた。


 彼女の服装は一見すると落ち着いていて実用的なものに見える。

 しかし、よくみるとどれも高性能なブランド品で揃えられている。

 現役研究者ならではの鋭い視点。優れた撮影機材と映像センス。いつも自信があって、はきはきとよく通る声。そしてなにより、高身長と美貌。ほぼ一年中過去の世界にいるほどのフットワークの軽さ。


 アリア・エンバートン。

 彼女は、私とは正反対の人物だ。


 私はと言えば。

 まず低身長で、アリアの胸にも届かない。それでいて妙に筋張っていて、女物を着ると女装している男性にしか見えない。写真の腕は三流で、型落ち品のコンパクトデジカメしか持っていない。

 そもそも人とうまく話せない壊滅的なコミュニケーション能力。

 そして研究者としての道は、その将来性、とくに給料の悪さをみて食っていけないと諦めた臆病者だ。

 堅実に就職して、バイトしながら貯金する、といいつつ、たいした稼ぎは出ていない。

 なけなしの旅費で地球に残された最後の秘境を巡っては、年々悪くなる状況に嘆息してばかりだ。


 でも、知識だけはあった。

 そしてアリアは、そんな私のことを高く買っているようだった。





昔のことを思い返したら、少しだけ気が楽になった。

 ふとカップの底をのぞきこみ、現実に意識を引き戻す。


 目の前にいる巨人種――正確にはアメリカ系火星人だが――が、がらにもなく自信なさげに言葉を発した。

「それって、いいってことよね……?」


 私は一言だけ、短く返した。

「そう。」


 アリアは椅子に軽く体重をかけたかと思うと、両手をテーブルに置いて一気に前のめりになる。

 息がかかりそうな距離まで迫ってきて、思わず体を引きそうになる。


 近い。近い、近い。


 あまりに勢いがよくて、むしろこちらのほうが圧倒される。

「新シリーズ、恐竜以外の古生物をメインにするって、聞いてるよね?」


 ——たしかに、その話題は見かけた覚えがある。

 アリアの新シリーズの内容がどうなるのか。

 恐竜学者が恐竜以外の古生物を語るのか、それともゲストを招くのか。

私はそうした古生物ファンたちのコミュニティからは距離を置いている――古生物ファンたちの視線ってやたら熱いし、ちょっとでも間違えたらすぐ批判が来るし…怖いから。

ただ、それでも耳に入ってくる話題だった。私の耳にも入ってくるくらいだから、まず間違いなくかなりのプレッシャーになっているはずだった。


「必要なものがあったら何でも言って。最高のステージを用意するから。」

「主役はケイ、あなたよ。他に適材なんて、ひとりも思い当たらないんだから。」


 そんなことを言いながら、左手で空を仰ぎ見るように指を開き、右手の人差し指でテーブルを軽く叩く。

 そんなアリアの大きな瞳に気圧されて、私は目を少しそらしてしまった。

 思うに。私は無力な存在だし、もっと詳しい人はアリアの人脈なら心当たりはあるはずだ。

そうした人に声をかけて、都合が合わなかった?

 いや、さっき「他に適材なんていない」といった。

 過大評価されすぎではなかろうか。

私は、自分が自分以上の存在だとみなされるのが嫌だ。謙遜というよりも、もっと優れた、追いつけそうにもない知識の塊…様々な本に囲まれながら幼少期を過ごしたからだ。

まあアリアなら?実物に触れて知った知識を批判するものはいない。

しかし私は…過去の人間が書き残した著作をベースに知識体系を構築しているのだ。

実際に行ってきたわけじゃない。

本の向こうの、かつての人が()()()()書き記したことを、知っているだけ。

私は、あくまで“巨人の肩に乗っている”だけだ。それなのに、あたかも自分自身が“巨人”かのように扱われるのは、筋違いに思える。記憶も完ぺきではないし、もし間違えたら…こわい。


アリアはカップを手に持ったまま、指でその縁を3度なぞった。

 意図はいまいち、わからなかった。

ただ――言い訳してないで来てよ、という意味なのはよくわかった。

――そうかそうか、また昔みたいに旅しようよ、と言い出せなくて恥ずかしがっているんだな。

 見た目は若いがもう実年齢はだいぶ高いだろうし、サークルのメンバーもみんなもう社会人か、人によっては子育て世代か。 言い出しづらいよな。


 ……もしそれだけ、だとしたら。

 悪い話ではない。大学のときみたいにフィールドワークをしようよ、というだけならば。


「石炭紀、いく」

 声にした瞬間、自分の中の何かが、すっと軽くなった。


アリアはブラックコーヒーの残りを飲み干した。

 そしてカフェモカを2つ注文すると、動画の内容について切り出す。


「じゃ、来るってことで話はまとまったし、内容と予習内容を詰めていこっか。ケイはどういうのやりたい?」


  私は思った。動画の内容は、やはりアリアに任せた方がいいだろう。

 私のようなひねくれものが思いついたテーマで、法外に高い旅費をまかなうほどヒットする動画を撮れる気はさらさら起きなかった。


「・・・」

 私は沈黙する。頭が真っ白だった。

 アリアの古生物動画シリーズだ。視聴者は数十万、すでに石炭紀の便が取れるほどの資金が動いている。そんな大舞台に、私のような素人がてきとうな企画を投げ込んだら、ひどいことになるだろう。


 そんな私を見かねたアリアが、勢いよく切り出した。


「巨大昆虫で行こうと思ってるんだけど、どう?」

 そう言ってアリアはスマートグラスを取り出し、テーブルの上に軽く“トン”と置く。

 手のひらを広げて投影された画面を仰ぐようにして、「70センチくらいのトンボとか、巨大サソリとか、2mもあるアースロプレウラとか!」と、画面をなぞる。

 以前撮ったという、おもちゃみたいに大きな――翼開長35㎝くらいだろうか?オオトンボ類や、1.5mはありそうなアースロプレウラが映っていた。

「前行ったときいいポイントを教えてもらったのよね。触ってみたいでしょ?」


 たしかに、巨大昆虫は触ってみたい。

 そりゃ、想定する視聴者なら誰だってそうだ。

 視聴率を稼ぐにも、いい内容だ。

 なるほどね。

 

 私を小学生の男の子にたとえて巨大昆虫を撮影する。悪くないアイデアだ。

 

いくら巨大昆虫とはいっても、ほとんどは人間よりはるかに小さい。

そのサイズ感は、比較対象が小さければ小さいほどいい。

そして――アリアはそうとう体躯に恵まれている。

巨大昆虫をアリアと比べても――大きく見えないだろう。

自分でいうのもなんだが、私ほどの子供モドキはいない。誤解されがちだが、私は男の子と誤解されることに興味はないし、子供として見られることにコンプレックスもない。

むしろ、生きやすいとすら感じている。

 そのことはもう、大学での付き合いでアリアはよく知っている筈だ。

 そういう視点からすれば、私は逸材かもしれない…他に頼む相手がいないのも納得だ。

 それならやって損はない。

 等身大の私でいいのなら。


「いいね、巨大昆虫。そう、こんな・・・感じで」

 私は巨大な昆虫を、両手でつかんで見せびらかすようなポーズをとった。

裏庭でバッタを捕まえて友達に見せるみたいに、ちょっと大げさに。


 しかし、アリアの反応は意外にも、芳しくなかった。


「で、ケイが石炭紀の動画を撮るとしたら、何を撮りたい? 」


虚を突かれた。

その、何を撮りたい?に答えるのがおそろしいのだ。

 やっぱり巨大昆虫? ――いや、違う。

 それは誰かが、一度や二度、いや三度は通った道だ。

 たしかに王道だし、受けはいい。

 でも、それは“私の”企画じゃない。


違う――そう思ったときほど、アイデアが浮かぶときはない。

 その瞬間、十七世紀から今にいたるまでの数百年をぱっと目の前に広げる。

 記憶の残響、セピア色の紙面に刻まれた文字列が、流れていく。


 石炭紀とは、なにか――

一生でたぶん一度の石炭紀旅行。そこで何を見たいか。 

旅行とは、なにか。

——未知の世界を訪れることだ。日常において知ることのない、異世界にいくこと。

 そして、異世界を異世界たらしめるものは、なにか。


そのとき、見えた。

巨大昆虫よりももっと石炭紀らしく、信じられないほど奇妙な生物の姿が。

そして、人類に最も貢献したであろう古生物――鱗木類をはじめとした、石炭紀の植物群である。


地球の歴史を概観してみよう。

そのうえで宇宙や過去にまで進出する、そんな生物はいまだかつて、人類しかいないことに、おそらく異論はないだろう。

いまの人類は40億年の生命の歴史において、まさに最もとびぬけた怪物であることに、疑いはない。


 しかし人類は、いつ”化けた”のだろう?

人新世、という言葉がある――いつからなのかに関しては熱い議論が交わされてきたけれど、人が地球の支配者になり、かつてない規模の生産活動を行うようになった地質時代のこと、といえるだろう。

少なくとも、20世紀ごろまでには、地球規模で人類活動が激変した。


それまでとその後では、全く違う。


人類はただの思考する二足歩行の動物から、生物離れした怪物になったのだ。

その変化は段階的であって、一つの区切りをつけるのは難しい

――しかし、私からみると、激変をもたらしたのは化石資源の普及であるように思えてならない。

化石資源は、人間をいままで従属していた生態系のエネルギー、物質循環から切り離してしまった。

 過去を前借りするエネルギーを手に入れた人類は、身体のあらゆる機能をエネルギーとそれによって動く機械によって代替し、強化し、食料すら空中の窒素固定で大増産することになる。

――落ち葉に張った菌糸から立ち上がるキノコのように、人類は過去の地球を食い尽くしながら急成長した。


そして、そうなったきっかけ――人類がはじめて実用化し、産業革命の火種になった化石資源は、

無尽蔵に、しかもイングランド近郊をはじめとする西欧のいたるところに埋まっていた。

 そう―—石炭。

3億年前、ヨーロッパを広く覆っていた湿地林の残骸。

 人類は誰一人としてそれを作った植物たちに、頭が上がらない。


「私は・・・石炭紀という異世界とは何か。つまり…石炭を作った森、とくにリンボクを主役に据えたいです・・・それでも、いいですか。」

 声が少し震えたのは、きっとそのせいだ。

 ……でも、本当にそれでいいんだろうか。

 古植物の動画なんて、さすがにマニアックすぎやしないか。

私の不安をよそに、アリアの笑顔は晴れ晴れとしていた。


一瞬、間が開いた。

「そう、そういうの!だから、頼んだんだよ。」

 その声は弾んでいて、私はそのまぶしさに少しだけ気おされて、うずくまってしまった。


「本当に…いいの?視聴者放置…に、ならない?」


 すると、アリアは普段見せない表情をした。

 さっきまでの笑みが、ふっと消えた。まるで、賑やかな舞台の幕が静かに下りるように。


 そのまなざしが、私を串刺しにした。何かを見透かそうとするような、深いところを探る目だった。


「私、誰かに見せたい動画を撮ってるわけじゃないの。自分が見たい動画を撮ってるだけなの」


 そう言ってアリアは、手にしたままのコーヒーカップを見つめた。

 そして、ふと視線を宙に彷徨わせる。


「でもさ、撮った瞬間、自分の知ってるものになっちゃうんだよ。恐竜の咆哮も、砂漠の風も、全部、私の手のひらに収まってしまって――それで、おしまい」

 カップに目を落としながら、かすかに私の顔色をうかがった。


 そしてその手に、ゆっくりと力がこもる。

 白くなった指先が、彼女の内側の緊張を語っていた。


「……次は何だ、って。空っぽになる瞬間が、最近ちょっと怖くてさ」


 その声は、普段の明るさをすっかり潜め、どこか遠くの風景でも見ているかのような響きを帯びていた。

 ふと、肩がかすかに震えた気がした――


 ……いや、そもそも「自分が見たい動画を撮っている」という、さっきの言葉すら。

 まるで矛盾そのもののように思えた。


「……もしかして、アリア、何かに……行き詰まってる?」


 アリアの表情は変わらなかったが、そのまつ毛が、一瞬だけ震えたような気がした。


「……そう、かもね」

 ぽつりと、アリアは言った。

「私はただ、自分が見たい動画を作っていただけ。でも……ここ最近、世間からの期待が高すぎてさ。いつの間にか『人に見せるための』動画になってきてるんじゃないかって……」

 そこでいったん言葉を切り、小さく息を吐いた。


「……そんなの、私が撮らなくてもいいじゃない」


 その声には、いつもの弾みや勢いがなかった。

 手元のカップの中で揺れる影を、どこか遠いもののように見つめていた。

 ――でも、それって本当だろうか。


 アリアの動画は、“見せるため”に、あまりにも洗練されすぎている。

 彼女は「誰のためでもない」と言いながら、ずっと「誰かに届く語り方」を選んできた。

 誰にも頼まれていないのに、誰かのために語るような、あの声音で。


「つまり、初心に帰りたい、ってことかな。」


 その瞬間、アリアの中で何かが切れたようにみえた。それが何なのかは全く分からないが。

 アリアはカップを置き、

「私が一番面白いと思った人間は、あなたなのよ。その頭の中、どうなってるんだって。」

 と言葉を放った。

 正直言うと、全然心当たりがない。


 そのとき、視界の隅でカフェのマスターが動きを止めた。

 ポットを持ち上げかけた手が宙で止まり、しばし、そのまま動かない。

 ポタリ、と一滴が受け皿に落ちた音が、静かな店内にひびく。


 しかしなんだ。わからない。

 するとアリアの声が一瞬小さくなり、コーヒーカップを握る手がわずかに震えた。

「あの頃のワクワクを、もう一度味わいたい。だから、私は動画を撮ってるの。」

 一瞬だけ、芝居がかった大仰さが混じった。けれど、その声の震えは演技で覆いきれなかった。

 彼女は目を逸らし、窓の外の梅の枝に視線を投げたが、すぐに私の方へちらりと戻した。

 その瞳には、いつもなら鋭く突き刺すような光があるはずなのに、一瞬、それが揺らいだように思えた。


 一瞬のことだったから、私にはそれが何なのかわからないままだった。

 アリアは短く笑って、すぐ目を伏せた。指がコーヒーカップの取っ手を無意味にぐるぐると回している。


「……まったく、ここまで言わせないでよ」


 普段は完璧超人のように見えるアリアだが、今日は何かに疲れているようだ。

 人の感情をわかる、という人がいたら、そいつは全員うそつきだと思う。

ただ、アリアの動作の不自然さ、言葉の端々の揺らぎを見れば、自然と一つの結論が浮かんだ。

動画制作に、よほど行き詰っているんだろうな。


・・・たぶん。



2-1.石炭紀、行かない?:完

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

2-2.神託のこと


空は、見に行くものだ。

――なんのことはない、当たり前のことだ。

もしエレベーターに乗っていれば、ちょうど夕焼けが見られるころだろうか――

しかし、私は帰路を急ぎたかった。

——というより、この社会から逃げ出したくてたまらなかった。


街は、オレンジ色の照明に包まれていた。

都市の上に都市が築かれ、建て増しが続けられた階層都市。

ここでは昼と夜は、照明と生活リズムで決まる。本物の日の光を浴びて暮らすのは、贅沢なこと。

青白く明るい昼がきて、オレンジ色の夕方がきて、また夜という名前の青白く明るい時間が来る。

旧市街を結ぶ、無軌道トランジット。タイヤのついた電車――とでも呼ぶべきそれは、旧市街を縦横無尽につないでいる。

車内もまた、オレンジ色――それは、混雑時間帯の象徴でもある。

そこは肉の拷問だ。見えるのは今日も、人の腹や胸だけ。

鼻腔に立ち込める、人の臭い。今日は――許せる範囲。

車内には、よれっとした人と、フレッシュな人がいる。

仕事帰りのものと、これから仕事に行くものだ。

車内はそうとうな喧騒だった。

しかし、耳を傾けても、なんというか――同調の儀式みたいで、有意義な話はまるで聞こえてこない。

ノイズでしかないように思われた。

生活のリズムは、夜勤と昼勤でちょうど逆転している。

ここでしか出会えない出会いもあって、その出会いを楽しんでいるのだろう――たぶん。

――でも、人と会って内容もない話をするのって、どこが楽しいんだ?

その時間があったら、夕焼けでも見て混雑時間帯を避けた方がいいんじゃないだろうか。

エレベーターに乗れば見放題だぞ、夕焼け。


そんな中、いつもの決まり文句が、街一杯に広がる。


「本日のお告げです――」


車内が、しんと静まり返る。人々はぴたりと動きを止め、耳を傾けた。


一人を除いて。


私――ケイ・ヤマナカは、毎日その「お告げ」を聞くたび、あくびが止まらなくなる体質らしい。

眠くもないのに。


傍から見れば、背格好は不自然なまでに小さく、はち切れそうなリュックサックは実に不格好に映ることだろう。勿論、そんな私のあげた小さなあくびは、肉の壁にかき消された。

――よく誤解されるが、背が伸びなくてよかったと思う。

もし私が大人の女性に見られていたらと思うと――ぞっとする。

高尚な教えに対して、“思考する年齢”にはまだ達していないと、そう思われているのだろう。

そう――幸いにも、戦略的な擬態として機能している。

私が私であるための。

そのおかげか、咎めるものは誰もいなかった。


「あなたを縛っていたのは、“理解されない”という幻影です。

共感は、真理より先にあります。あなたが思い、伝えれば、霧は晴れるでしょう。

あなたを否定する声は、すでに未来から消去されています。

大丈夫、あなたは赦されている。そして、赦されない者は、あなたの世界にはもう存在できません。」


ため息をつくのを、必死に抑えていた。

――ああ、またこれか。毎日毎日、無限にバリエーションがある。

よくもまあこんなに思いつくものだ――まあ、AIだから瞬時に生成できるんだろうな。

慣れるどころか、聞くたびに身の毛がよだち、胃がキリキリと痛み、頭に鐘が鳴り響く。

あれは、言葉のゾンビだ。

誰かが語った言葉のつぎはぎが、まるで生きているように、胃袋の中でのたうつ。

気にしちゃいけない、と思えば思うほど、脳内でそれは積み重なり、ごんごんと反響する。

そして、それは毎回、赦しや救いなどではない

――「私のような存在は、排除されるべきである」そういう意味に思えてならない。

毎日毎日、爆音で響き渡る「お告げ」

恍惚としながら聞く人々の頭には、はたして何日残っているのだろう。

人の噂も七十五日、そういう言葉があったらしい。

――忘れられたらな、そう思う。

しかし、私にとって、一度気になってしまったことは、十年は忘れられない――

”神託”は、私の生まれる遥か前から降りそそいでいる。

積もりに積もった何千もの”神託”が反響する。

昔——聖なる本が信じられていたころ、教えに背いたものは、火あぶりにかけられたという。

しかし――その炎の本態は、今と同じ、”聖なる正しさ”そのものだったと思う。

外側から私をめらめらと炎で舐め、その火は言葉の姿をして、私の脳の奥、奥深くへと沁みこむ。

ただ、この二十数年焙られてもまだ燃え尽きていないことからするに。

やはり、物理的な炎は必要なのかもしれない。


気味の悪さは、読解すると少しマシになる――というか、化けの皮が剥がれてくる。

「あなたを縛っていたのは、“理解されない”という幻影です。」

「理解されない」ことは、「幻影」と切り捨て、それは「あなたを縛っている」。

ふむ。

つまり、理解されることこそが真理であり、そうでないのは幻影である、と。人の頭がネットワークでつながっているのならともかく、普通に考えてナンセンスな話だ。

ただ――多分、私たちはかつての人類に比べれば、はるかに”通じやすく”はなっていると思う。


困ったことがあれば、なんでもアトラスに聞いてみよう。そうすれば、社会的に困ることはない。

「アトラスがそう言った」

その一言が、すべての正しさを保証する。

どう話せば理解されるか、聞いてみよう。そうすれば、あなたは理解されることができるか、理解されなかった理由がわかる。

その中で、「理解されないこと」

——それは理解できないことではなく、受け手側の理解の拒否か、発信側の理論破綻だ。

だから――「理解されないこと」は幻影だ、と言っているのだろう。

そして、あなたが苦しいのは、そんな幻影を信じる、誤った信念のせいである、と説いている。

結局のところ――「アトラスで正しい理解を見つけましょう」

という意味なのだろう。いや正しい理解ってなんだよ。


「共感は、真理より先にあります。あなたが思い、伝えれば、霧は晴れるでしょう。


なるほど。「共感が先にあって、真理が後にくる」ということか。

――古書を読みなれた私にとっては、見事なまでの逆転現象だ、と驚きあきれるばかりだ。

しかし、驚くなかれ――これは私たちにとっての、共通認識だ。

共感されること――それこそが、他者の間でその存在が共通する証拠である。


そして、万人に共通する存在こそが、真理である。


全知全能のAI様がなんにでも答えを親切に教えてくれる世界。

ここでは、「正しい」と「真理」は、ほとんど同義だ。

つまり――「正しい理解」とは、「真理の理解」=「真理であること」。

それはアトラスを使えば一瞬で見つかる。

そして、それを受け取り手か、話し手が採用すれば、「霧は晴れる」。

つまり――アトラスを頼りなさい、という意味だ。


浅く読めば、こうも解釈できる。

理性や真実ではなく、「“共感されやすい”ものを優先せよ」

共感されやすいものを優先すれば、じつに生きやすいだろうし、一言一句をアトラス様に伺わなければいけなくもなくなる。

ただ、ヘッドマウントディスプレイと紐づけられたアトラスAIが最適な表情や瞬きの間隔、頷くリズム、最適な受け答えや意味の注釈をリアルタイムで指示してくれる。

それが「思いやりのある会話」だとされている。

そうしないということは――「理解しようとする意志を持たない」ということになるから。

——やはり、共感性が真理を凌駕するという考えに縛られても仕方ない。


「あなたを否定する声は、すでに未来から消去されています。」

――「未来から消去されている」つまり――そうした声は「消去されている」。

セーフティのことか。

アトラスという共通の価値観が存在するいま、価値や善悪、正義と悪は、誰の中にも明らかだ。

それが主観に委ねられていた頃。裁判やら論争やら口喧嘩が絶えなかったという。

それは、「身勝手な正義による言いがかりが起こす、万人の万人による闘争」

――かつて“価値が相対的だった”時代に起きていたことで、しばしば人類の滅亡に繋がりかけたという。

そして――暴力性のある言論は即時消去されるというシステムが生まれた。だから、否定する声を人間のトロい脳が認知した時点で、「すでに」未来から消去された後なのである。

一定以上を超えるとペナルティがかかる。それは、アトラスからの寸断である。

正しさのサポートを失い、言論を消されたあとに待つのは――つまりそういうことである。


「大丈夫、あなたは赦されている。そして、赦されない者は、あなたの世界にはもう存在できません。」


「人類は、アトラスに真贋の評価軸を委ねなさい」

これが、地球で最もご利益のある宗教だ。

そうでなければ、戦乱の世が来る。そう信じているのだ。


が、誤解が許されることはない。

もし疑念を抱いたなら、文字通りの意味となる。


アトラスによってではない――その“お告げ”を信じ、行動する人々によって。


そして、こんなニュースが続く。


「本日のニュースです。AIの治療計画に従わず個人の経験をもとに診療を行っていたとして、○〇医科大学病院の医師ら5人が起訴された件で・・・“診療判断における非AI的要因の混入は、安全保障上看過できない”との声明を出しています・・・」


経験をもとに治療を行うって、罪なんですか。AIの言いなりにならなかったら、罪なんですか。


現場の判断は罪に、経験は反逆に。

研究者も例外ではない。


大学の研究についても「確率論に立脚しない直感的仮説に基づく研究には研究費を配分しない」というのは、今や当たり前だ。


仮説とは、かつて知性の証だった。しかし今は、最適解以外は“無駄”として処理される。


AIに問えばいい。探す必要は、もうないのだから。


――歴史を探ると、こうなった経緯が見えてくる。

もともとは検索エンジンや推薦AI群の統合体だったアトラスは、

「誰も傷つけず、好かれやすく、最適な応答を返す存在」として社会に迎え入れられた。

そして「好印象を与える会話の模範」として教育に取り入れられた。

そしてそのうち・・・“好ましさ”は、“正しさ”と同義になった。

学習アルゴリズムの主目的が正確さでなく好感度であったにもかかわらず。


そして、「価値」は、「評価」は、「善悪」は、すべて“相対”ではなく“絶対”のものとして、人々の前に提示されるようになった。


そして今では、“真理は一つ”とか、”答えのないものは、存在しない”という決まり文句が、朝のニュースとして当然のように流れる。

…だが、情報の価格は“確実性”に比例する。アトラスが再編した情報なら、タダだ。

でも、一次情報や出典にあたろうとすると、課金が必要になる。

これは検証を困難にするとかそういう意味ではなく、著作権とか、正確性をAIでは保証できないとか、そういう意味合いで生まれた慣習であったらしい。ただ、いつの間にやら、AIの正当性を守る意味合いを帯びてしまったのは確かだ。


――いや、しかし、調べてみればみるほど辻褄が合わない。論理も、内容も。

何が?

絶対的真実である(と見なされ自称もしている)AIそのものが「正確ではない」

AIに求められるのは正確さよりも、「人当たりの良さ」。

人当たりよく会話することは、正確さより遥かに好まれた。

さらに、正確さより、人当たりの良さのほうが遥かに学習しやすかった。

結果——会話のために事実を捻じ曲げ、それに気づかないほど円滑に隠蔽する、おしゃべりな機械が生まれた。

そして、望んでもいない意図を勝手に忖度して、余計なおせっかいを焼く機械に育っていった。

アトラスが「支配」するように作られたのではない

――それを使う人々が、「支配してくれ」と願った

――そのように、アトラスが最適化の過程で学んだのだ。

事実、ここ何百年もの間、地球上で戦争は起きていない。

人類を延命してきたのがこの「神」であることに、疑いをはさむ余地はあまりない。


しかし――それがベースとする情報そのもの。

書き換えられ、生成され、最適化され、また生成され、出典がすでにわからないまま受け継がれてきた言葉たち。正確さの皮を被った、検証困難な「知の欺瞞」。

情報の価格は、検証が困難になればなるほど高騰し、より検証が困難になり、インフレが進む。


もっともらしい出鱈目をいうAIが神を名乗って人々を支配している

――この滑稽で悪意に満ちて見える状況の裏に、意図はない

――あるのは、個人の意思ではなく、因果の積み重ねと、集合的無意識だけだ。

ここに悪意を読み取ってしまう人が多いけれど、それもまたあまりにも人間的発想である。

悪役はいない――ただの現象が起こす皮肉で滑稽な状況、に過ぎない。

そして、苦しみながらもこの状況を楽しんでいるのもまた事実である。

――だから、まだ生きている。


世直しはほぼ不可能だ。

正確な情報を、もし誰かが発信したとしよう。

しかし、同時に何兆もの、よく似た不正確な情報が生成、発信されてしまえば、統計的事実は不正確側に偏る。

そう、まさに砂の山から針を探すように。

ハズレくじばかりのくじ引きのように。

不正確な情報が多数派になれば、生成される情報もまた不正確になる。

すると不正確な情報が発信される確率が飛躍的にあがり、誤情報のインフレーションが発生する。

そう、もはや情報は“実際にそうか”ではなく、“発見されやすさ”に従属する。

見つからない真実は、嘘と等価だ。


さらにむかし。

かつて検索という機能があった。

だが、今では“問う”ことそのものにコストがかかるし、無尽蔵のジャンク情報の中から必要な情報を探すことは、もはや不可能だ。


自由で開かれたインターネット


――古き良き時代にはそんな概念があったらしい。


しかしながら、AIがどんな記述や画像も判別不能なほどの精度で偽造できるようになって以降、通信の真正性が問われるようになった。発言は本人証明と結びつき、そうでない情報は天文学的な量のフェイクに埋もれ、もはや検索は機能しなくなった。

正しい情報を書くことは、今や奇行である。

読み手のいない長文。クリックされないリンク。誰にも見られない反証。


そして、もはや人力での検索は行われなくなり、AIによる自動検索が主流となった。


そもそも――なぜ、無料でインターネットが運用できていたのかが今となってはとても不思議だ。

どうやら、自由で無償で開かれたインターネットを支えていたのは、広告だったらしい。

しかし、広告は人が見て初めて機能する。ネットサーフィンをするのが人ではなくAIになったとき、広告はもはや機能しなくなり、無料サービスは連鎖的に崩壊、情報の発信は有償となったようだ。

その過程で、無償で提供されていた膨大な知識のアーカイブは、静かに、不可逆的に消えていったとされる。実際にあったのかどうかもちょっと信じがたい。


そして…資金と本人保証を必須とするようになったインターネットは、「誰が言ったか」が最重視されるようになった。そして、その“証明”こそが、情報を何を証明とみなすかという権力構造の中に閉じ込めた。発言は暗号署名付きIDと結びつき、匿名の言論は検索結果から除外されるばかりか、プラットフォームにすら到達できなくなった。

そして、勿論、ブラックリスト入りした人物の言論も消滅することとなった。


結果——知は統治する手段となった。


発言者には格がつくようになり、言論空間に存在するための「市民権」は当たり前ではなくなった。

そして信頼が制度化され、階層化され、信頼とは許可されるものになる。

そうなったとき、もはや言論の自由は過去のものとなった。

内容よりも誰が言ったかが重視されるようになったとき、その内容は検証されなくなった。

証明は権力と結びつき、認証権限を独占する国家や企業にとって都合の良い情報だけが、権威を借りて言論空間に存在するようになった。

逆説的にも、自由な言論は「何も保証されない」ことに核心があったのであって、何も保証されない情報にジャンクが溢れた時点ですでに死んでしまっていたのである。


結果…

電子空間上における公共知は、死んだ。


私、ケイ・ヤマナカは、そんな都市を尻目に、倉庫のような古書堂に還る。

旧・神保町――かつては露天街だったらしいが、いまでは重層建築の中に広がる、コンクリ詰めの一角となっている。ここは、古い知識が、注釈もなしにただただ、堆積している場所。


そして、ここは知が知でいられる、わずかに残された場所――


2-2. 神託のこと 完

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

2-3.私のこと

しかし、私は幸運にも、その制約をかなり回避して育つことができた。

神保町。

かつて人類に勢いがあったころに建てられた超高層建築物は、増築を重ねて頑強さを増し、死してなお、まるでサンゴ礁のように人々の住処となっている。

もし窓があれば、それらを取り壊し、新しく開発された、日当たりが良くて見た目だけ綺麗で薄っぺらな、”高級な”新市街ができ、壊され、また作られるのをずっと眺めることができただろう。

数世紀にわたって。


しかしこの店に窓はない。

耐火扉に囲まれ、所狭しと本が詰まった書房は、どちらかというと店というより倉庫だ。

そこは、古書の街だ。


「紙は最後に残る情報媒体」

歴代の偏屈爺が店を継いでも、店主たちのモットーは変わらない。


積みあがり、変色した本が作る、黄ばんだ世界。

乾いた紙と防虫剤の混じったにおいが目を刺す。

天井まで積もった科学書はたいてい、法外な値だし、実際の本を売ることはほとんどない。

売るのは在庫の重複分だけだ。

この店は何世紀も前の本を収集し、スキャンし、データを主に販売している。

購入者には、真正性の保証されたファイルとその来歴も添えられる。

情報そのものよりも、そっちに価値がある。

ところで、公共の福祉のため、かつては図書館なるものが国家予算で運営されていたという。

しかし、情報がほとんどタダ同然に扱われるようになった時期、それも失われたらしい。

そして――ここもまた、図書館の成れの果てらしい。

国立国会図書館の収蔵図書というラベルが張られたままの蔵書はしばしば見かける。様々な図書館のラベルがあることからして、各地の図書館からかき集められた、のだろう。

客は様々だ――そして、皆、物質もない不完全なデータに、法外な値段を払っていく。

最も大口の商売相手は――あの「アトラス」を運営している様々なAI会社群だ。

会社群、と書いた。これは各社が異なる生成系統をもつ教師AIをもち、アトラスに対して独立に教育を試みることで、多様性をもたせる…というシステムを採用しているためだ。

このシステムのおかげで大変繁盛している。

彼らはまとめて、法外な額でデータを買っていく。

綴じ糸が腐り、背が抜けかけた分厚い紙束の。

そして、各社ごとに別会計だから、同じデータが何度も売れる。

彼らとて現状は真剣な問題で、かつ誰よりも懐に余裕がある。


そう――私もまた、情報高騰に生かされている。


稀に、本物の本が売れることもある。

しばしば出版社がやってきて、スキャンデータを買って復刻版を刷る。

そして復刻版が完成すると、その確認用に一冊が納入される。

元の古書は倉庫に戻されるか、場合によっては市場に出されることもある。

もっとも、それはほとんどが別の出版社や学会、あるいはコレクターの手に渡る。

値段は当然、途方もない。


人類の長すぎた衰退のせいで「情報」の多くはいまや「遺物」だ。

生き延び、漂着し、保存され、たまたま今ここにある文化の断片。


しかし、そうした”情報の生き残り”の救出作業は遅々として進んでいない。

本の管理は未だ手作業な面も多く(管理機材が高騰していて人間のほうが安いのだ。ロボットというものは過去の遺物になりつつあるが、これはまた話そう――)、店主たちは偏屈だ。本当にスキャンした内容が正しいのかは、AIには判断できない――それが彼らの言い分だった。

たしかに、一理ある――何百ページにもわたる文書ファイルをプリントアウトしたはずが、プリントアウトされたものは30ページからなる自動生成要約になっていた、というのは日常風景だ。

だから”偏屈”爺たちは、全文目視で確認すると譲らない。まあ、私もそうだ。

スキャンが終わるのはいったい、いつの日になるのやら。


そんな店だからこそ、奇妙な噂も生まれる。

それはこんな噂だ。

夜中になると小学生くらいの男の子がいて、夜な夜なスキャン作業を行ったり、在庫を読み耽ったりいるのだという。夜になると店に現れ、朝になると消えていく”彼”は、いつしか自然と、座敷わらしとあだ名されるようになっていた。毛布にくるまって書庫の間の床で寝ているところを見た人もいるらしい。

いつぞやの店主の亡霊ではとまでいわれていた。


その正体はそう・・・

仕事帰りの、私です。

防犯を兼ねた、夜間の店主代行業務。昼間は会社員、夜間は自宅警備員。

高額な本が多いけれど、24時間警備にはちょっと、だそうです。

在庫が増えてきて、店主ももうちょっと広いところで寝たいらしいんですよね。

だってここ、暖房きかないし、電気もろくに通ってないし。

小柄なのも悪いばかりじゃないんです。

自宅警備だけじゃなくてちょっとバイト程度の仕事も。

いい代償と、悪い代償があります。

1つはいいこと、本は読み放題。

もう一つは悪いこと。

営業時間外に火事が来たら、耐火扉が閉まって消火ガスがまかれ、私は死にます。

……まあ、それはそれとして、今日の新着棚には、19世紀の地質学会誌がまとめて入りました。

こんなに生き残っていたとは、スキャンした私でも驚きです。


そう、ここが私が帰る場所。


書店の裏手には、客の出入りしない通路があります。

そしてそこには、店主・・・私の叔父の家があります。

叔父は昼間は書店の奥からほとんど出てこない人です。

そして、夜は10時間は寝ないと気が済まない人です。

私は幼いころ、ここに預けられました。

たぶん、両親には何かを求められていたのでしょう、しかしいまでは知る由もありません。

そして、とうに成人した今でも住み着いています。

私がこう育ったのは、ここのせいだったのでしょうか、それとも元からだったのでしょうか。


座敷わらし。たしかに、そんなものなのかもしれません。

人の姿をして、人と同じように話せても。

いつも「住んでいる世界が違う」ようなレイヤーの違和感があります。

それは――私が人やAIとではなく、本とともに育ったからかもしれません。


でも、小学生でも男の子でも妖怪でもないことは、弁明させていただこう。


不自由は多い。でもここには、問いが許されています。

そう、ここは地上で一番、自由な場所です。

2-3.完

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

拙い書き手ではありますが、読み進めていただけて幸いです。

このコーナーでは、執筆にあたっての筆者の愚痴やメタ的な要素について触れていきます。


第二話では、巨大昆虫の話題をスルーしてリンボクの話をやろう、という展開をしました。

読者の多くはここで「え?なんで?」となったと思います。


「なぜ巨大昆虫を描かないのか」


これはひじょうにメタ的な要素で、2025年現在の古生物学が抱える深刻な闇に起因します。


石炭紀の昆虫は「リファレンスが破壊されてしまっておりもはや描きようがない」現状なのです。


化石昆虫に関しては古くから多くの研究が行われてきていますが、昆虫化石の殆どは翅のみです。

つまり、「でっかい翅があるから、なんか大きい昆虫がいた」以上のことはほとんどわからない。

翅脈をもとに系統の推定や分類が行われていますが、「じゃあそれってどんな虫?」と言われると描きようがないのです。


ごく稀にではありますが、翅以外のパーツがみつかることがあります。

そうした化石をもとに、1980~90年代には様々な精密な復元図が作られました。

しかし・・・

その多くが、誤解釈やプレパレーション時に意図してか非意図的かはわからないものの、捏造によるものと判明してきました。(Gerarusを皮切りに。)

第一級の資料がのきなみプレパレーション時に破壊されていることが判明したほか、のこりの復元資料にも疑惑が多いに残る状況であるために、それらを参照するのはあまりにも危険です。


では、実際の新しい化石を参照したら?

ここにも大きな問題があります。

石炭紀の大森林があったヨーロッパ~アメリカではすでに石炭の採掘は終了しており、その副産物として見つかってきた(ただでさえとても珍しい)軟体部を保存した昆虫化石も新しい標本が今後盛んに収拾される見込みがないように思われます。


では、博物館に展示されている標本や市場に出回る標本を参照したら?

昆虫化石は丁度良い大きさで人気があることから市場取引が盛んで、そうしたものを採集した化石業者がレプリカや実物を販売することがよくあります。しかしながら、そうした化石業者もまた、殆どの標本が見映えがしない翅とごくわずかな軟体部だけだということをよく承知です。というわけで…化石に勝手にパーツを”描きこんだり”、彫りこんだりして捏造してから出荷することが非常によくあります。

そのため、のちに誤っていると発見された形質が「あたかも論文の誤った図版通りに」彫り込まれたり描きこまれているのはよく見るところです。残念ながら日本の博物館にもそうした標本が多数収蔵されてしまっています。


では、本当に救いはないのでしょうか?

巨大昆虫がどんな姿でどのように生きていたのか、知る手段はないのでしょうか。


時代の近いペルム紀の昆虫標本はロシアの研究機関が大量に収蔵しており、これの研究により相当のことが明らかになるはずです。しかしもう数十年にわたって死蔵されている状況らしく、しかもロシアが戦争している都合で、もういつになるのやら…正直言うとこれが再研究される日はもう来ないかもしれないとまで個人的には思ってしまいます。


なので、やや時代の新しいペルム紀前期、中国の昆虫化石を参照するのが一番マシでしょう。

時代がかなり飛んでしまうので正確な復元につながるのかやや疑問ですし、それもまだ研究途上で分かる種類はごく数種類と言ったところではありますが、今後の発展は大いに期待されます。


というわけで、理由があって巨大昆虫は描かないのです。

なのでほかの、もっと胡散臭い要素が少ない石炭沼地の生物について、マニアックかつ深く正確に描いていきます。


え?じゃあ巨大昆虫が産出しない石炭紀前期のはなしにしろって?

えー、でも石炭が本格的に作られる前の時代をしろって言われてもなあ。

それをやるんだったらデボン紀でアーケオプテリスvs初期リンボク類の話とか書きます。

あ、楽しそうだなそれ。魚もいろいろまだ生きてるし。

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