職員室から
「……やっぱり、職員室に行ってみないかい?…。」
「行ってどうするんだよ」
さっき事情を話してやったばかりじゃないかと
犬田は呆れながら答えた。
「正直…先生に事情を話しても、信じてはもらえないと思う。
…俺は犬田くんのこと…信じてるけどね……
だから――」
「…………」
北見のその提案に不安はあったが
上手くいけば難なく帰れる、賢明な策に思えた。
コン、コン――
ガラガラ…
「……失礼します。
…2年3組の北見です。」
「…なんだ、北見か。授業は自習に変更だと言ったはずだが――
…ん、後ろに居るのは…」
「はい…俺の弟です…。
忘れ物を届けにきてくれたんですよ…」
「お前が忘れ物?珍しいな。
…しかし、弟だろが校内を私服で彷徨かれると困る。
私が彼を外まで連れて行くから、おまえは教室に戻れ。」
「すみません……よろしくお願いします…。」
北見はそう言うと頭を下げ、職員室から出て行った。
…去り際に俺に向かって微笑んだような気がした。
北見くん、ありがとう。君のことは忘れない。色んな意味でな。
「じゃあ、行こうか。」
「…あぁ、お、お願いします。」
犬田は職員に連れられ、黙々と広い校舎を歩き続けていた。
まだか…ったく無駄に広い…。
そうして長い廊下の
突き当たりまで辿り着いた時だった。
「さぁ、入って」
終始無言だった職員に突然そう言われ
犬田は彼の顔を見上げる。
「ここ、教室ですよね?」
疑問に思った犬田がそう職員に問う。
職員は、そのの問いに答えるかわりに
教室に向かって勢いよく
犬田の背中を蹴った――。
「―ッ!
……いってぇ…。」
そのまま教室に倒れ込んだ犬田は
一瞬何が起こったのかわからなかった。
ゆっくり起き上がると、自分を蹴った職員を睨みつける。
「…なんの、つもりですか。」
「あぁ、手荒なまねして悪かった。
しかし――」
ガチャリ――
「恨むなら…。
北見…あいつを恨めよ?」
職員は後ろ手に教室を施錠すると
不敵に微笑んだ。