正直者は救われる(?)
犬田は北見に連れられ、無事階段まで辿り着いた。
あわよくばこのまま正門まで案内してもらおう
と考えていた矢先だった。
「え。…転校生じゃないのかい?」
「あぁ。だから、さっきも言ったけど
…その、俺は本当に帰りたいだけなんだ。」
案の定、犬田を転校生だと勘違いしたままの北見は
階下へ降りる手前、『職員室に行こう』
と提案してきたのだった。
犬田は仕方なく、
北見に出会う前までの経緯を
掻い摘んで話すことにした。
「…信じてもらえないと思う。でも、事実なんだ。」
うーん、馬鹿正直に話しすぎたか…。
気を利かせて上手く誤魔化したほうが
得策だったかもしれない。
犬田が早くも後悔し始めた時だった。
「…そうだったの?
それならそうと早く言ってくれよ。…ふふっ」
北見は何故か嬉しそうに答えた。
「ごめんな…やっぱ信じられないよな普通は…
って、北見くん順応性高ッ!」
俺だったら絶対相手にしない所だ。
「実に奇怪だね…。でもごめんよ…
そのお陰で君と出会えたんなら…俺的には嬉しい事件だなぁなんて…」
いやいや、今の俺には笑えない冗談ですよ。
心の中で軽く突っ込みつつ、
北見に再度案内をしてほしいと促した。
「ここは5階で生徒も殆ど来ないけれど…。
正門まで人目に触れずに行くっていうのは少し難しいかもしれないね。」
「でも今は、授業中じゃ…」
俺は西崎がトイレを去った後、
次の授業開始のチャイムまでトイレの個室に戻り、身を潜めていた。
移動するなら授業中が無難だろうと踏んでいたのだが…
いささか安直すぎた。
「…うん、今は授業中だ。授業中なのに…
君はもう既に、2人の生徒に捕まっているじゃないか…ふふっ」
「…………」
返せる言葉がなかった。
この先捕まらない自信もない。
「あぁ…、確かにその通りだよ…。 八方塞だな…。」
口に出してみると余計落ち込んだ。
同時刻。
ある教室では自習が行われていた。
「西崎、やけに静かだね。まさか寝てないよね?
いくら授業がなくなったからって、居眠りは感心しない――」
男が振り向いた時には
既に西崎の姿はなかった。
「…西崎、君という男は…」
ガタン――
男は席を立つと
引きつった笑みを浮かべながら教室を後にした。