帰る前に?
南原と西崎が挑発的に誘い、男を見据えた。
すると少しの間を置いて
「ヤーメタ」
男はそれ以上なにも言わず、くるりと身を翻すと
犬田たちに背を向けて歩き出した。
「逃げんですかー? 大したことねぇな」
「…西崎っ!」
つまらなさそうに吐き捨てた西崎に
慌てて東尾がその口を手で塞ぐ。
「んご、ッ…!――」
「南原くん、君もだよ!冗談でも喧嘩なんて」
「冗談じゃない」
「あー!もうバカばっかり!」
そうこうしている内に、男は廊下の端に消えていった。
「…犬田くん、大丈夫かい?…」
「ごめん。」
「?…犬田くん――」
「ごめんな北見くん、あいつ…!」
「そんなこと、気にしていないよ。…どうして君が謝るんだい?」
北見は犬田を宥めるように言った。
「犬田くんは、優しいんだね…」
「…………っくそ、」
まだ微かに震える身体をきつく握りしめ
犬田は無人となった廊下の端を睨みつけた。
コツン
「いてっ…」
突然降ってきた痛みに頭を押さえ振り仰ぐと
西崎がヘラヘラと
憎たらしいくらいに笑っていた。
「そんな顔、してんじゃねー」
「んな、いは、い!…やめんかッ!」
グイーッと片頬を抓られた。けっこう痛い。
「俺で遊ばないでくださいよ、…ったく」
「そうやって、怒ってりゃいい」
「どっちだよ!」
西崎なりのフォローだったのか、
お陰で少し冷静さを取り戻した。
「あの男は?」
見計らったように、南原が犬田に問うた。
他の三人も気になるのか、犬田を見つめる。
「さっきのでわかったと思うが、俺はアイツに苛められてた。
…だから今は、学校行ってない」
…………
ややあって
南原がポツリと呟いた。
「やっぱ、ぶっ飛ばしとけばよかったな」
「…、だな。 犬、行きますよ~」
「いやいやちょっとお前らっ やめとけって!」
男を懲らしめる理由が明確になった今…
ふたりは俄然やる気に満ちていた。
「帰る前に、寄り道だ」