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再び



「おい、もう・・」





「まだだ。諦めるな。」





「……。」





あれから2時間は過ぎただろうか。

掛け時計の針はとっくに一時を回っていた。



異常に執着する南原に

それ以上声を掛けるのはなんだか阻かれたので

犬田は黙って南原を眺めることにした。





「嫌なもんだな」





「…あ、何が?」




「ずっと見られてるって」




「…あはは。だろー?」




南原はきっと、先程まで自分が

犬田を見続けていたことと重ねてそう呟いたんだろう。




少し照れくさそうに言う南原を見て

可愛い所もあるじゃないかと思う犬田だった。




気をよくした犬田は、目の前でトイレと睨み合っている

南原にちょっかいを出してみたくなった。






ぐふふふふっ

いくらコイツでも…いきなりくすぐったら笑うだろうか?




今のところ、表情を崩したことのない南原。

ふと沸き起こった好奇心は止められなかった。





おりゃ!




コチョコチョ――





と、ベタに脇腹をくすぐってみた。






「どうだ、流石に耐えられんだろーブハハハハハ」




ノリノリでくすぐる犬田。

しかし





南原は何も反応示さず、黙って犬田を振り返った。





「お前、帰りたくないの?」





南原は先程よりも真剣な顔をしてそう言った。




「い、いやあ、帰りたいのは山々なんだけどなあ。



こう静かだと息が詰まるっていうか…」





怒らせたか…?





なんとなく、その場に不穏な空気が流れた。






すると南原は、少しはにかんだように笑った。




「あ、暇だよな。黙って見てるんじゃ」




そして何を思ったのか

南原は突然、犬田のジャージに手を潜り込ませた。





「あ?…って、おまえ、なぁにすんだ!!!」





ヒヤッと冷たい手が直に伝わる。





「…だっ!てめ!どこさわっ…、う゛お」





「くすぐってるんだって」





仕返しのつもりなんだろうか。

言葉とは裏腹に、南原の手つきはいやらしかった。



南原の触る手が

腹から胸の突起へと移った瞬間だった。





「っを…ギャア゛ア!!離せっ!う、おっ」





奇声に近い悲鳴をあげる犬田に、流石の南原も動きを止めた。




「色気の欠片もないな」




ポツンとそう呟く南原に素早く犬田が突っ込む。




「あってたまるか!バカにしてんのか!?」




「仕返しのつもり」




「フツーにくすぐれよ!!



くすぐるって次元じゃねーぞ!」




「感じたの?」




「あっはっはっはー。君には喘ぎ声にでも聞こえたのかね」




「確かにあれは可愛いさとは程遠い恐竜のような」




「南原、お前は男に可愛さを求めるのか…」





小声でそう突っ込んだ時だった。










「犬!!どうしたっ!!!?」




駆け足で現れた男に、犬田と南原は振り返った。




「西崎…、さん!?」



どうして西崎がここに。そう問おうとしたが

間髪入れずに西崎は続けた。




「今、ギャーー!とか叫ばなかったか?!」




「確かに叫びましたが、もう大丈夫です、よ。…ん?」




「……………………。」





西崎がなぜか驚いたように

じっと犬田をみつめてくる。




「どうしたんですかって、お、おおわあ゛あああッ!!!!!!」






南原の手は、まだ犬田のジャージの中にあった。






「お取り込み中失礼しま」




「ちょーーーーっとまて!!!



ちがう、違うんだ!!!!って南原お前もさっさとこの手を退かんかッ!!!!」





「あぁ、スマン。」




ようやく事の重大さに気付いたのか

それでも悪びれずに、南原はスルスルとジャージから手を引いた。





「そんじゃなケンちゃん」




「いやいやいや、ちょっと待てって!!!!違うつってんだろ!!!」





誤解したまま帰ろうとする西崎の肩をガシッと掴む。



必死になりすぎて、つい敬語を忘れてしまった。





「あれ・・・ケンちゃんってそんな口わるかったんですかー?」





今度は西崎が肩に置かれた犬田の手を掴むと

そのままグイっと引き寄せた。




「や、やめろ!!!その極悪ヅラは心臓によくな」




「あ゛あ!?テメェ!!目つきは元からだっつの!!殴っていいんですか!?」








ボカッ――




と、いい音がトイレに響き渡る。






殴られた!!!



犬田は次に襲ってくるだろう痛みを覚悟した。


しかし、それはやってこなかった。






かわりに目の前で、痛みに耐えかねたように

頭を押さえて西崎が蹲っている。







「ごめんね?うちのバカが。 



それで、君がケンちゃんでしょ、話は聞いているよ。

僕は東尾、東尾竜之介。よろしくね。」






顔をあげると、眼鏡を掛けた青年がそう挨拶してきた。

恭しく差し出された手を、犬田は恐る恐る握り返した。





この綺麗な手が・・・西崎を一発で黙らせた・・?







警戒すべきはこの男ではないのか。

そう思わずにはいられない犬田だった。













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