5階の男子トイレ
指定ジャージ服に着替え、南原と供に五階のトイレへと向かう犬田。
道中、ふと思ったことを聞いてみた。
「今って、授業中だろ?よかったのか?」
「担任には具合悪いって言ってある」
「おい、具合悪いなら保健室行けよ。空き教室で寝てんなよ」
「バカ。んなもんサボりの口実だよ」
「仮病かよ!」
ったく西崎を筆頭にサボってる奴ばっかだな…
呆れる犬田だったがそれ以上は敢えて言及しなかった。
ん…待てよ。
西崎もコイツもただのサボりみたいだが…
北見くんは…?
ここでようやく思い至る。
…五階のトイレから出たあと
ひたすら廊下を歩いた先に、北見に声を掛けられた。
北見くんは、あそこで何をしていたんだ?
確か、授業中だった。
今になって少し疑問を抱く犬田は
いつの間にか黙り込んでしまっていたようだ。
「どうした。」
突然喋らなくなった犬田が気になったのだろう。
南原が声を掛ける。
「あ?…え、いや、なんでもない」
「ふーん」
南原は言葉を濁す犬田を大して気に留めず
その場を軽くながした。
*
犬田と南原は、幸いにも他の生徒や教師に見つかることなく
無事に五階のトイレまで辿り着いた。
「ここか?」
「ああそうだ!忌まわしくも忘れられない場所だ!」
そう。
つい昨日まで暖かな部屋で過ごしていた日々から
一転してこうなった。
こんな場所、できることなら二度と戻りたくはなかった。
そう目の前の男子トイレを睨みつけながら、いざ中へと踏み入れる。
「えっと。…ここだったはずだ」
一番奥の個室の前まで来ると、足を止めた。
「こっから来たっていうのか」
「た、多分な。起きたら此処に居たんだ」
「それより前は?」
「……え?」
矢継ぎ早に聞いてくる南原。
先程まで口数の少ない男だったが、此処へ着いてからというもの
どこか生き生きとしていた。
「普通に昨日は部屋で寝たはずだ」
「へぇー…」
そう軽く返事をしながら、南原は目の前個室を開けた。
「………。ど?」
開けたトイレの個室を見るなり、犬田に聞いてきた。
「どうって…。
やっぱり、どこも変わった所はないんだよなー」
犬田は屈み込むとトイレの隅々まで隈無く調べた。
しかし、おかしいところはこれといって見つからない。
「…やっぱなんもねぇな。骨損だったか?」
一気に徒労感に包まれた。
わざわざ五階まで来たというのに
何の手掛かりも掴めないまま振り出しに戻されるというのか。
そう途方に暮れたときだった。
「諦めるな。」
突然南原がそう強く言い放つと、犬田に替わって黙々と調べ出した。
その目は真剣そのものであった。
なんだコイツ…?さっきから
「絶対見てやるからな、人間がトイレから消える瞬間を…」
「やっぱそれかよ!!」
犬田は少しでも
南原が自分を気遣ってくれたのではと思ったことを後悔した。
いつも読んでいただき、心からお礼申し上げます。
オペラ男爵です。
告知になって申し訳ないのですが…
新たに連載開始いたしました、
ABOAB―アボーブ― の方も
よろしかったらご一読くださいませ。