不良と優等生
午後一時。
生徒たちは昼食を終え、
次の授業に備えはじめるころ。
「なあ、どうなったと思う?ケンちゃん?」
「知らないよ。僕はそのケンちゃんとやらに会ったことないからね。」
「だーかーらー、さっき説明してやったじゃねぇかよ!
自習ん時の事!聞いてんですかあ~?」
「ほんと感心しないよ、サボりなんて」
「突っ込むとこはそこか?」
「そんなにケンちゃんの話がしたいなら北見くんのところへ行きなよ」
「あいつ俺のこと嫌いだろうが」
「知らないよ」
「…友達がいのないやつめ」
一見素っ気なく見える東尾だが、これはいつものことだった。
因みに会話が噛み合わないのは
機嫌の悪い東尾がわざとそう仕向けているに違いない。
西崎はこれ以上犬田の話を振っても無駄だろうと諦めた。
やがて授業開始のチャイムが鳴ると、みんな慌ただしく席に着く。
ここ2年3組、次の授業は――
数学。
「竜、次っt」
「ああ次は数学だよ因みにサボるのは止めた方がいいと思うね
なぜって?それは言うまでもないけど担当が坂上だからだよ
いくらなんでも担任の授業すっぽかすなんて真似できないよなっはっはっはー」
「あぁ?まだ怒ってんのか?」
別に次はサボるつもりはなかったが、
東尾の凄まじい気迫に負けこれ以上何も言い返せなかった。
しかしそれはまさに火に油。
東尾の怒りのボルテージは更に上がる。
「…怒ってるに決まっているだろう?!
西崎、お前の尻拭いはいつも誰がやっていると思っているのかな?
毎度毎度授業にお前が居ない理由を先生に説明する側の身になってみろよ!
お前知ってるか?先生達の僕を哀れむ顔を…!
僕がお前を庇う度に先生達は呆れるんだ!
少しはお前のような不良を友人に持った優等生の苦労を知りやが」
「そこ!うるさいぞ!!喧嘩なら余所でやれ!!」
東尾がひとり熱弁するなか、授業は始まっていた。
坂上による数学の授業は
何事もなかったかのように順調に進んでいる。
そして東尾と西崎は真面目に――
廊下に立っていた。
もとい、立たされていた。
「僕は悪くないよ。」
「誰も竜が悪いなんて言ってねぇだろ。
…悪かったよ。俺がサボる度に、苦労掛けてたんだな。」
いつものふざけた感じは一切なく、真面目に謝る西崎。
東尾はその様子に少し驚いたが
高慢な態度は決して崩さずに続ける。
「今更だよねほんと。こうなる前に、反省してほしかったよ」
「もう、今日限りだ。約束する。」
「言ったね?約束破る奴とは絶交だよ」
「あぁ…だから」
それ以上言葉を続ける前に
西崎は突然東尾の腕を掴んだ。
「…、なにするん――」
東尾が何か言わんとする前に
西崎はそのまま廊下を走り出した。
「ホント、今日限りだから
…今は黙って走れ!」
「ちょっ、と…西崎!…腕痛い!」
東尾はわけがわからないまま、
腕を引っ張られ走らされた。
…西崎が目指す
5階の男子トイレへと――。