木のぼり
私は、壇上に立っていた。目の前にはマイクが一本。
「選手宣誓!私達はスポーツマンシップにのっとり、誠心誠意戦うことをここに誓います!令和6年1月36日 &%$DE#"」
そう叫び、壇上から飛び降りた。
広いグラウンドの真ん中には、雲まで伸びるとてつもない大きさの何かしらの木がある。私はそこに向かって走った。
1つ目の競技は木のぼり。どこからともなく笛が鳴る。「ヨーいスタート!!」
私は木に足、手をかけてのぼり始める。木のぼりは得意中の得意。木はザラザラとしていて鉄のように固く、表皮はしっかり木に抱きついているので、遠慮することなくガシガシとのぼっていく。
30m程のぼった所で、足の踏み場が現れた。
「あららありがたい!」そう言って奥に進んでいくと、売店があった。なぜここに?
おじいちゃんの店主に話しかける。
「タバスコありますか?」
店主は「あるよ」とタバスコを私に投げた。
「代金はっ」と聞くと店主はもういなかった。
何年目なんだろう?
タバスコを一気に飲んだ。私はタバスコが好きだ。清々しい辛さと後からくる酸味。これでなくちゃね!
「おっと、こうしちゃいられない!急がないと抜かされちゃう」私はまた足の踏み場のない木に抱きつき、のぼりはじめた。
今日は快晴。風が気持ちいい。こんな日は木登りにかぎりますな。
そんなことを思いながら木をのぼり続けて2時間、2000mの所まで来た。うでがちぎれそう。
なんとここで2000mボーナスでうでの補給場があった。なんと。ご都合主義世界にも程があるぞ。
私は、補給器にうでを入れた。中は見えなくなっているのだけど、補給器の中でうでがもみもみされたり、あったかかったり、柔らかかったり、水が降ってきたり、冷たかったり、機械からオステオスペルマムの香りがしたりする。実にいい心地だ。
一家に一台ほしいネ。
とても高価なものらしいが、友達のみっちゃん家にあった。
「あっちゃぁ!そんなことより前に進まなくては追いつかれちゃう!!」
補給器から手を取り出す。うでがツヤツヤになって何の疲労感もなくなった。これで5000mのゴールまで一気にのぼり抜くぞ!
さっきよりも少しばかり風が強くなっていて、体の軽い私はちょっと飛ばされ気味。
4000m地点に到達したけれど、流石に寒い。体操服の裾が凍っている。お腹もすいてきた。早くゴールしたい。少し泣いてしまった。
すると、隣にみっちゃんがいた。
「みっちゃん!なんでいるのさ!」
みっちゃんは悲しそうな顔で、「辛そうだったから…」と言った。
私は「大丈夫!絶対ゴールまで行くよ!」と言って先よりも速いスピードで手足を動かした。
木の皮をしっかり掴んで足を動かす。
反対の手をもっと先へのばして足を動かす。
そうして頑張ってのぼり、ついに私は5000mに到達し、木のぼりレースを1位でゴールした。
雲の上に立って、あたりを見渡す。なんて綺麗なんだろう。
太陽が全てを明るく照らし、真っ白な雲が光を吸い込む。真っ青な空は心を綺麗にしてくれる。私は嬉しかった。雲に乗れたことも、1位でゴールできたことも。この喜びをみっちゃんに伝えたい。
「みっちゃん!!ゴールしたよ!!」声が響く。
「みっちゃん!」
叫ぶけれど隣にいたはずのみっちゃんはどこにもいない。
静まり返る雲の上。
まぁ、それもそうだ。
だって、このレースに参加していたのは私だけなんだから