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―22― 蹂躙

「随分とゆっくり歩いていますね」


 ふと、隣で立っていた彩雲堂さんがそう呟いた。

 視線の先には、武田さんたち四人がボスを倒そうと歩いていた。

 そうか……?

 あんまり意識して見てなかったからよくわからない。

 そう首をかしげた瞬間だった。


 武田さんを中心に白い煙が発生したのだ。誰かが煙幕を投げた。

 白い煙はオレたちが立っているところまで到達し、途端周囲がなにも見えなくなる。

 けたたましい複数の足音が聞こえる。

 そして、爆発音が聞こえた。

 いったいなにが起きているんだ?

 

「キャッ」


 と、短い悲鳴が聞こえた。

 それが彩雲堂さんによるものだとわかる。


「おい、大丈夫か!?」


 そう語りかけるもなにも見えないせいで、どこに彩雲堂さんがいるのかさえわからない。


「ケェエエエエエエッッ!!」


 甲高い耳をつんざくような鳴き声が聞こえた。

 同時に、突風が吹き荒れ、一瞬にして煙が霧散していく。この風がライトニングバードが強く羽ばたいたことによって起きたんだとわかる。


「やられました。まさかここまであくどいことをするとは」


 見ると、彩雲堂さんが大きな瓦礫の下敷きになっていた。どうやら爆発で屋根が盛大に崩れたようだった。

 同時に武田さんたちがどこにもいないことに気がつく。


 もしかして、オレたちにモンスターを押し付けて逃げたのか? 状況的にそうとしか思えない。

 だけど、なんのためにそんなことをするんだ?


 とはいえ、考えるよりはまず彩雲堂さんを助けることからだ。

 下敷きになって動けないようなので、まずは瓦礫を取り除く。


「大丈夫か?」


「ごめんなさい、両足が骨折したみたいで……」


「そうか。なら問題ないな」


「え?」


 骨折ぐらいなら、魔石を飲めばすぐ治る。一瞬、彩雲堂さんが怪訝な表情した気がしたけど、気のせいだろう。


「あの、待ってください。あれと戦うつもりですか!?」


 ふと、オレがライトニングバードのところへ向かおうとすると、後ろから呼び止められた。


「だって、彩雲堂さん、両足が骨折した状態で戦うの嫌だろ? だから、オレが戦うよ」


「え? 嫌というか無理ですけど……。えっ、待ってください。相手はライトニングバードですよ! Fランクの雨奏さんではいくらなんでも無謀です!」


「いやいや、それはFランクを舐め過ぎだって。Fランクでもあれぐらいのモンスターなら余裕だから」


 うん、だって相手もFランクだぜ。Fランクってことはクソ雑魚モンスターだろ。最弱のオレでも倒せる。


「は……?」


 なおも彩雲堂さんは困惑していたが、これ以上無駄話する余裕はなさそうだ。 

 なんせ、今にもライトニングバードが攻撃しようとしてくる。


「それじゃあ、狩りといこうか」


 鞘から〈貧弱の剣〉を取り出す。

 ライトニングバードは体に雷をまとっているため、直接攻撃したら感電してしまいそうだ。

 だったら、遠距離から攻撃するに限る。


「発火」


 剣を持っていない左の手のひらから炎の塊を出し、ライトニングバードへと放つ。途端、爆炎が鳴り響く。


「Fランクにしては硬いな」


 Fランクなら今の攻撃で倒せると思ったが、ライトニングバードはまだ息をしていた。


「もしかして、F+ぐらいの強さはあるんじゃねぇの」


『よくわかりましたね、ご主人さま』


「おい、今度から省略しないで伝えろよ」


『承知いたしました、ご主人さま』


 鑑定スキルは素直にうなずいくれる。

 とはいえ、F+ならEランクのオーガよりは弱いから大した脅威ではないな。


「危ないっ!!」


 ふと、後ろから叫び声が聞こえた。彩雲堂さんだ。

 見ると、雷をまとった槍がオレの体を貫こうとしていた。


「おっと、けっこう痺れるな」


 ビリビリと全身が震える。電気風呂に入ったときのことを思い出すな。


「なんだ、雷っていっても大したことないんだな。いや、Fランクモンスターの雷だから大したことないのか」


 どっちにしろ、これならあまり警戒する必要ないな。


「よしっ、食べやすいサイズにカットしてやるよ」


 それから、オレはひたすら〈貧弱の剣〉でライトニングバードを何度か切り続ける。ライトニングバードに触れるたびに雷のせいで痺れるが、この程度の痺れはむしろ肩こりとかに効きそうだ。


「ギェエエエエエエエエッッ!!」


 ライトニングバードが恐怖に怯えた表情で鳴き叫びながら逃げようとする。


「おい、逃げるなよ」


 そう言いつつ、ライトニングバードの首根っこを掴む。そして、剣を突き刺すとライトニングバードはぐったりと動かなくなった。



「つ、強すぎです」


 彩雲堂由紀は困惑していた。

 だって、《《Bランク》》のモンスターがFランクの探索者に蹂躙されていたのだ。

 仮にAランクの探索者でもライトニングバードをあのように一方的に倒すことができるだろうか。

 しばらく考えて、彩雲堂由紀は無理だと結論づけた。

 じゃあ、彼はFランク探索者じゃない可能性が高い。

 最低でもAランク、S、いやそれ以上でも不思議ではない。


 反射的に彩雲堂由紀は彼のことを鑑定していた。

 許可なく他人を鑑定するのは失礼だと思われ、トラブルに発展することもあるが、そんなことに気を使う余裕なんてなかった。


「あれ? Fランクですね」


 鑑定しても雨奏カナタはFランクと表示される。

 いったいどういうこと? と、彼女は首をかしげた。



「おい、山田。あのボスを鑑定したか?」


 武田たち4人の探索者は離れた場所で待機していた。今頃、ライトニングバードが二人の探索者を殺しているに違いない。


「もちろん鑑定したぜ。ライトニングバード、Bランクだってよ」


「Bランクか。強いですね」


「ここ、Cランクダンジョンですしね。ボスがBでも不思議ではないっすね」


 武田は彼らの会話を聞きながら考えていた。

 自分なら、あのライトニングバードを一人で倒せるだろうか。


「なぁ、山田。お前なら、ライトニングバードを一人で倒せるか?」


「いやいや、絶対無理ですよ」


 山田は即答した。それから、武田さんはどうですか? と聞き返す。


「俺でも無理だろうな」


 4人で協力してギリギリ勝てるかどうか。この後、ライトニングバードと戦うとして、もし勝てそうになかったら撤退することも視野に入れておいたほうがよさそうだ。


「なんで、そんなこと聞くんだ?」


 ふと、山田がヘラヘラした表情で尋ねる。


「いや、あの女が、もしライトニングバードを一人で倒したら厄介だな思ってな」


 あの、彩雲堂由紀と名乗った探索者はCランクと名乗っていたが、それ以上の実力を隠し持っていそうな予感がした。


「それは考えすぎっすよ」


 山田がヘラヘラと笑う。

 それもそうか、と武田はうなずいた。

 この予感は恐らく気のせいだろう。














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