五話
「この魔法で何ができるか...」
異世界に来てからまだ魔法をほぼ見ていないし、俺は何も知らない。
もし何か起きた場合、今の俺には対処できるのだろうか。
「…?そういえば、フレアは?」
「ハッ今更気づくのかよ」
生意気に精霊に軽く馬鹿にされたが、実際今に至るまで自分の状況に気付けていなかった。
何人もいた一年生たちは、どれだけ周りを見渡しても一人も見当たらない。そもそも空間が変わっている。最初に転送された闘技場から何も無い大地と空だけの不思議な空間になっている。
「どんだけ考えても分からなそうだから俺が教えてやる。この空間は精霊が能力とかの説明を主人に伝える為に一人一人に魔法で用意された特殊空間だ。ここで何をしても誰にも害はない。魔法も撃ち放題だな!」
「皮肉か?まぁいい。それより聞き忘れてたことがあった」
「なんだ?」
「お前の名前は?」
「...とくにねぇ」
「じゃあ名無しだな」
「それでいい」
ある程度精霊との距離がつかめてきたが、まだ魔法はほぼ何もできていない。ほかの魔法も知っておきたいところだが、隔絶された空間ではどうしようもない。
「お、そろそろだな」
ナナシは突然そう言いだした。
「なんのことだ?なんか始まるか?」
「試験だよ。入学試験ってやつ」
「ん?」
入学試験なんて聞いていない。なにも使えない俺が入学試験なんてできるのか。いや、多分魔力さえあればテレーポーテーションと浮遊は使えるだろう。だが、それだけでどうにかなるような試験なのだろうか。
「もうすぐこの空間が元の形に戻る。その先はお前次第だが、最後に何か聞いておきたいことは?」
「いや、もうないな」
「試験について何か知ってるかもだぞ?」
「詳しく教えろ」
精霊のくせに主人をバカにしているとしか思えない態度だ。もっといろいろな魔法が使えればこんな精霊消し飛ばしていた。
「試験は魔力無制限の鬼ごっこだ。捕まれば下のクラス行き確定だけどな」
「鬼ごっこ?じゃあ逃げればいいのか?」
「まあそうなる。簡単に言えばな。要約して説明すると、捕まった奴からクラスが決まっていくなんでもありの鬼ごっこだ。鬼は運営側が用意してる。だからまぁ、魔法を使って逃げ回ればいい。肉体に直接触れられなきゃ捕まったことにはならない」
「魔法使えねぇのにどうやって逃げろって言うんだよ…」
「おいおい、魔力は無制限だぜ?テレポートだって浮遊だってできるだろ?」
「確かに」
魔力が無制限なら他人が使ったものを見て模倣することも可能かもしれない。
「頭を使え。この試験は、お前の16年で積み重ねてきたものが無意味なものなのか、それとも何か今後意味を持つものなのか、それを決められるのはお前だけだ。この空間が消えたら試験終わりまで俺は消える。試験はお前一人だぜ」
「…わかった」
俺の16年は、いやこれまでの人生はあまりいいものではなかったがそこまで言われると、何か意味を見出したくなってしまう。
「クラス分けは結構重要だから頑張れよ。じゃあな」
ナナシはスッと消えていった。そして、空間が歪んで元いた闘技場に形を取り戻していった。