四話
「別離世界...随分特殊な魔法だなぁ。説明すんのが難しい」
「俺より俺のことを知ってるんじゃないのかよ」
「いや知ってるさ。お前と繋がったときに全部見た。だが魔法は精霊には使えないから、いざ使ってみないと何もわかないんだよ。内容は分かるがな」
「じゃあその内容を説明しろ」
「はいはい。──『別離世界』この魔法はお前の手で特殊な空間を作り出し、その空間の中だったらどんな魔法も使用できる。第一第二関係なく。」
「?...なんだそれ。俺は魔法を一つも知らないんだぞ?じゃあなんの魔法も使えないってことか?」
「いや、空間を作ってその中であれば一度見た魔法やくらった魔法をすべて無条件に使える。だだし空間のサイズには制限と耐久度があって、それをオーバーする魔法は使用できない。空間の作成条件は手と手を合わせること。っていう魔法だ」
果たして魔法といえるのか怪しい魔法だ。簡単に言えばコピー魔法のようなものだろうか。
「まあそんなところだ。ちなみに空間には触れられないしすべてのものがすり抜ける。空間自体の操作も可能だ。試しに使ってみればいい」
「そんなに簡単にできんのかよ」
魔法はもっと魔法の本とかを使って詠唱したりするのかと思っていたが、まさか手を合わせるだけとは考えてもいなかった。だが、この魔法の性質上何かほかの魔法を知らないと何もできない。
いや、一つ知っていた。空を飛ぶ魔法を最初に先生が使っていた。
「空も、飛べるのか?」
「んー微妙。お前の魔力量よるな。そうだ言い忘れてた。魔法を使うには自身の体内を巡ってる『魔力』を消費する。今のお前の魔力量は...まあカスしかない。最初は俺ら精霊から魔力を借りて魔法を行使する奴らが多いから、お前もその一人だな。例外はいるけど」
「今の俺は自分で何回魔法を使える?」
「ざっと二回だな。別離世界は空間内で使う魔法の消費魔力量はゼロだから、お前は基本空間を作るのでしか魔力を消費しない。サイズで消費魔力量は変わるがな。ちなみにこの二回はお前の頭くらいのサイズの空間二個分ってことな」
「空を飛ぶには自分と同じサイズの空間を作らなきゃいけないのか」
「そうだな。そうなるとやはり俺が魔力を貸すしかない」
「ならいい。空間だけでも作れるんだろう?」
「ああ。手を合わせれば」
俺はパンッと音を立てて、手を重ねた。
「これでいいのか?」
「あとは手を放すだけ」
ゆっくり重ねた手を放していくと、手と手の間からパチパチと線香花火のように光を放ちながら四角い暗い青色の箱のようなものが形成されていった。
「これが、魔法?」
「そうだ。その箱のような空間こそがお前の魔法、別離世界だ」
目の前で前世ではありえないような光景が広がっている。教会にいた頃では見られなかった世界だ。ましてや自分で魔法を使えるなんて。
「────この力があれば、俺は諦めなくてもよかったのかな」
「何言ってんだお前?」
「こっちの話だ。てか...」
俺は作った空間を精霊にぶつけ、空間の中に入れた。
「心の中を読むのはやめろ。これは命令だ。その機能だけは消せ」
そう言うと、空間内がバチバチと光だし、精霊の周りから白い煙のようなものが出始めた。
「ッ!お前!俺に魔法をッ!クソ、なんだ?何かが抜けていく...あれ?お前の心の声が聞こえねぇ?」
俺は魔法を使った覚えは一切ない。何が起きたのか全く分からない。記憶を消す魔法が発動した?たしかにこいつの『俺の心を読む』という機能を消したいとは思ったが、魔法を発動した覚えはないし、そもそもそんな魔法を俺は..知らな..
「あ。」
一度くらっている。ここに来る前に魔法を受けたじゃないか。完全に忘れていた。教会を出てすぐに先生と会い、記憶を操作する系統の魔法を受けている。だが、その魔法がなぜ今発動したのだろうか。
「おい精霊。この空間の中で発動される魔法って、俺の記憶の中で知っている魔法が勝手に選ばれて使われるのか?」
「あ、あ。お前が指定すればその魔法が発動するが、指定のないアバウトな思考だとお前の記憶の中から自動的に最適解の魔法が使用される。おい。なんでお前の心を読めない?いや、心の読み方を思い出せないんだ?」
「もう一生思い出さなくていい。俺が魔法を使って消した。ただそれだけだ」
もしかしたら、この魔法はかなり便利な魔法なのかもしれない。