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RAINTOWN マイア編  作者: きゅきゅ
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4人で会議(1)

 目が…目が…ぐるぐる回る…


 不気味な瞳が…グルグル…


 頭が…頭が…


 魔獣が…魔獣が…


 右手が…右手が…


「わああああっ!!!」


「マイアちゃん!!」


 ハッとすると、そこは牢だった。3人が心配そうに覗き込んでる。


「あ、あ、ターシャ…?よかった…無事だったんだね?」


 ターシャがワッと泣き出して私に抱きついた。


「私の心配なんか…!マイアちゃんの方が…大変なことになってたんだからぁぁ」


 そ、そうだ、私のほうがよっぽど劣等生なんだった。というか、なんか右手が、ヤバイことになってたんだった。


「えへへ…心配かけてごめん…」


 私が笑うと、三人はほっと肩をなでおろした。


「マイアちゃん、治癒室からいつまでも帰ってこないし、失神したまま運ばれてきたから、どうなっちゃうかと思ったぁ」


「え、今何時くらい?」


「もう夜遅いよ…また夕飯食べ損ねちゃったね。夕飯の時間に起こしたんだけど起きなくて…看守に『どうせ食べても吐くからムダ』とか言われちゃって…」


 あれ…たしかに吐き気がするし、お腹空いてないや…。あれか…あの気持ち悪い検査のせいか…。


「うえ…思い出しただけで吐きそう…」


「ど、どうしたの!?また何かひどいことされたの!?」


「う、うーん…ひどいっていうか…ちょっと怖かったかな」


 私は皆にクルールのことを話した。


 話を聞いて、ターシャは半泣きになってしまった。


「ひどい…!あんな辛い思い、二度もさせるなんてぇぇ」


 シーラとテレサも眉を顰める。


「そんな狂人がいたとは…あんたも散々な目に遭ったねぇ…」


「マッドドクター…許すまじ」


 私は慌てて皆を宥めた。


「あ、その…辛かったけど…大丈夫だよ。それに、思い出せなかったこと、思い出せるようになったから、よかったかなって」


 シーラが呆れ顔で私を見る。


「よかったかなって…あんた、何のほほんとしてんの」


「だ、だってさ、一気に魔力を使い切れたんだよ。何でできたのかは、よくわかんないけど…何が起きてたかは、思い出せたんだ」


 テレサがずいっと身を乗り出した。


「たしかに、興味深い…詳しく知りたい」


 シーラも乗り気になってきた。


「あの時のマイアの攻撃で、魔獣がすんごいギャーギャー叫んでさ、皆フリーズしちゃったよ。ほんと、びっくりしたなぁ。どうやって攻撃したわけ?」


 ターシャが泣きながら二人を押し戻す。


「ちょっと二人とも!マイアちゃんに辛いこと思い出させないで!手が…手が…大変なことになったんだからぁっ」


 シーラが逆にターシャの肩に手を乗せる。


「でもターシャ、何でそうなったのかわからないままだと、また同じことが起こるかもよ?」


「え…そ、そんな…」


 ターシャがみるみる青ざめて押し黙る。私もその可能性に今初めて気付いて、ビビった。


「うわわわ…それは困る!どうしよう!?ね、ねえ皆、ちょっと一緒に考えてくれない?私バカだから…」


 テレサがメモ帳を出した。


「では始めから詳しく」


「えーっと、まず魔獣の背に飛び乗ったんだよね」


「「「!?」」」


「それから右手に…」


「ちょちょちょっと待った!!」

 

 シーラが慌てて乗り出して制止する。


「な、何?」


「何って!何で魔獣の背中に飛び乗ったのさ!?何でそんなバカなことしようと思ったわけ!?」


「危険極まりない…」


 え…そうか、たしかに言われてみれば危険だよね…。


「いや…何ていうか、必死で、がむしゃらで、危険とか、頭から抜けてた…」


 私は苦笑いして頭をかいた。


「マ、マイアちゃん、まさか、私のために…?」


 ターシャが震える声で尋ねる。


「う、うん…。というか、私のせいだもん。私のせいでターシャがロックオンされちゃったんだよ」


 私はシーラとテレサに、自分がよろけたせいで、ピンチを助けるためにターシャが土玉を魔獣の喉にぶち込んだことを説明した。


「初日に私も魔獣をキレさせちゃって、ひどい目に遭ったんだ。だから、ターシャがそんな目に遭うなんて、絶対ダメだって思って。なんとかして止めようと、無我夢中だったから…」


 そうだ…ターシャに迷惑をかけないようにしようって思ってたのに…なんて情けないんだろう。止められて本当によかった…。


「マイアちゃんのせいなんかじゃないのに!私、前も喉に土玉突っ込んじゃってボコボコにされたのに、迂闊にまたやっちゃったんだよ、自業自得だったんだよ」


 ターシャが、ごめんね…と顔を覆って泣き出してしまった。


「誰のせいでもないっつの、泣くんじゃないよ」


 シーラがターシャの頭をぐしゃぐしゃ撫でる。


「と、とにかくターシャがあんな目に遭うなんて絶対に許せなかったんだよ。恐くて恐くて仕方なかった。今までで一番恐かったからかな、一番大きな炎が出たよ」


 テレサがメモ帳から顔を上げる。


「今までで一番恐かった?自分がひどい目に遭った時より?」


「うん…まあね…」


 私はそもそも死にたかったんだから、初日に殺されそうになっても、大したことじゃない。


「マイア…あんたって、マジでイイヤツなんだね」


 シーラが至極真面目な顔で言う。私は首を振った。


「そ、そんなんじゃないよ、私…ただのダメな奴だよ…」


「どこが?何でだよ?」


 シーラが不満そうに言う。


 何でって…ちょっと言いにくいんだけど…。


「あー…私…死にたかったんだよね。ここに入ってきたのも、自殺に失敗したからなんだ。飢え死にしようとしたんだけど、勝手に身体が動いて林檎盗んじゃってさ。もうびっくり。それでここに来て看守に、自殺が魔術で禁止されてるって教えられて…笑っちゃうよね」


 ははは…と乾いた笑い声を出してみたけど、三人は沈痛な面持ちで私を見る。


「ま、まあ、そんなだったから、一昨日は恐怖よりも、いい加減殺してくれって感じで。結局死なないって思い知らされたから、痛いの嫌だし、必死に頑張ることにしたけどさ。それだけだよ…いい奴なんかじゃない…ただのダメな奴…」


「ダメなんかじゃないだろ!ターシャを助けたんだ、誰にでもできることじゃない!マイアが死にたかった理由は知らないけどさ、絶対ダメな奴なんかじゃない。あたしが言うんだから、間違いない!」


 はは…シーラってば…そんなこと言うシーラの方がよっぽどイイヤツだよ…。


 ターシャが泣きながら私の手を握る。

 

「そうだよマイアちゃん。ダメな奴だなんて言わないで。こんなひどい刑務所で、助け合い禁止で、誰も人のことなんて助けないのに、マイアちゃんは、必死に私を助けてくれた。私に希望の光をくれたよ」


 う!助け合い禁止を忘れていた…。バカだ私…これは言わないでおこうか…。


 テレサがペンを私に突きつける。


「私は言った。マイアは優しいと。友だち思いだと。私にはわかる。そんなに自分を卑下してはいけない」


「ちょ、ちょっと皆、やめてよ。その、慰めてくれて、ありがと。えっと、助け合い禁止のことは、抜けちゃってたよ。本当は皆だって、誰かがひどい目に遭うのは、見てられないでしょ!特にターシャは小柄だから、骨なんかすぐ折れちゃいそうだし…助けなきゃって思うじゃん」


 シーラがターシャを見て笑う。


「まあなー!ターシャはほんと、小っさくて弱っちくて泣き虫だからな!」


 ターシャは「泣き虫じゃないもん」と泣きながら反論する。


 テレサが、気を取り直してメモをとり始めた。


「…ターシャを助けるため、魔獣の背に乗り、強い恐怖で右手に大きな炎が出たと…それで?」


「それで…えーと…あ、あと、そいつにすごく怒ってた!『殺してやる!』って思った!怒りも魔力に関係あるの?」


 テレサは首を捻る。


「怒り?…ふむ…。恐怖が魔力を増大させると、言うけれど、恐怖だけが、とは言わない」


 シーラがちょっとワクワクして拳を握る。


「たしかに怒りで魔力が膨れ上がるって、ありそう!!」


 ターシャが首を傾げる。


「でも、追い詰められて怖くて怖くて、魔力がワッと出るって感じがするよ?身を守ろうとする本能かなって思ってた」


 うんうん、その感覚はわかる。でも、あの時はかなり違った気がするな。


「ターシャが噛み付かれた時ね、恐怖とか怒りとか…何か色んな感情でワァァァってなって、全身の血が、ドワッてなって、それがグーンって、全部右手に集まったんだ」


「説明下手だな…」


 シーラの呆れた声に、ごめん…と苦笑いしながら、私は続ける。


「とにかく、恐怖だけでいっぱいって感じじゃなかったよ。恐怖と怒りと…焦りと…何だろう?色んな感情が身体中で大暴走したって感じかな?それが右手に集まったの」


 テレサがぶつぶつ呟きながらペンを走らせる。


「ふむふむ…魔力を増大させるのは、恐怖だけではない可能性大、と。全ての感情という可能性もある。要検証」


「検証…検証かぁ…」


 シーラがポンと手を叩く。


「怒りなら簡単に検証できんじゃない?魔獣にありったけの怒りを叩き込む!」


 シーラが拳を握って力説すると、テレサはこくりと頷いた。

「ほぅ、なるほど」

 ニヤリと腹黒い笑みを浮かべる。

「私は魔獣を看守だと思おう」


「ハハハッ!それもいいな!」


 ターシャがオロオロする。


「ふぇぇ…あんな恐ろしい魔獣を前に、怒る気力なんて…」


「ターシャってば、ほんと弱虫なんだから。じゃあ他の感情検証しなよ。泣き虫だから『悲しみ』は?」


 シーラにちょっと小馬鹿にされて、ターシャは、泣き虫じゃないってば、と言いながら半泣きになっている。


「あっ!!」


 突然私が大声を上げて、三人がビックリして振り向く。


「今思い出した!ターシャ、あの時、大泣きしながら、私に痛み止めの術をかけてくれたでしょ!?あれ、ものすごく効いたよ!!お礼が遅くなってごめん、ありがとう」


 ターシャは、へ?、と目を点にしている。

 テレサがペンを顎に当てて興味深そうに尋ねる。


「ほうほう。ものすごく効いた?比較対象は?」


「初日に私が、傷だらけの血塗れで、牢に帰らされた時。あの時だって、痛みが少なくなって嬉しかったけど…今回は痛みがスッと消えちゃったの!」


 テレサがペンをマイクに見立ててターシャに向ける。


「ターシャさん、大泣きしていたとのことですが、その時の心情は?」


 ターシャは顔を赤くしながら、ペンのマイクに向かって答える。


「えーっと、マイアちゃんの右手を見て…あんまりにもひどい状態で…」


 思い出しながらまた泣いている。


「う…う…心情なんて…わかんないよぉぉ……な、治らなかったらどうしようとか…う…うわぁぁぁん…」


 結局また大泣きしてしまった。

 私はターシャの手を取って宥めた。


「な、泣かないで。ほら、もうすっかり元通りだよ!ピンピンしてるよ!ありがとね」



「そのターシャの感情って…悲しみってことになんのかね?」


 シーラが首を傾けると、テレサがメモしながら言う。


「悲しみか…心配、不安といったところか」


「じゃあ、魔力の増幅を起こすのは恐怖だけじゃないって証明されたようなもんだな!」


「むむ…手が治らないのではという恐怖…という可能性も」


「細けえな!」


「まだ要検証…」


「じゃ、ターシャ。明日は『思い出し泣き』しながら戦闘、な!」


「ふぇぇぇ!?そんなムチャな〜っ!」




第7話をお読みいただきありがとうございます。なぜ、マイアは自分の身の危険を顧みずにターシャを助けようとしたのか、逆に他の魔女たちはなぜそういう性質を持っていないのか?この会議は次回も続きます。会話だけがだらだらと続くのは好きじゃないのに、一昨年から何回見直してもこれ以上削れなくて、力不足を痛感します。

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