表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RAINTOWN マイア編  作者: きゅきゅ
6/37

マッドドクター

 三度目の治療の担当も、やはり同じ治癒師だった。ツイてないなぁ…。


 目覚めた私を見下ろして、彼女はこめかみに青筋を立てていた。ヒイッ!何でそんなに怒ってるの!?


「オマエェ…」


「ハ、ハイッ」


「この手は何だ!」


 彼女は私の右手を持ち上げた。とても言葉にできないような凄惨な状態だった。


「ギャアアアアアッ!!」


「うるさい。静かにしろ」


 見せないでほしかった…。号泣した。


「自分でやっておいて泣くのか」


「ううう…やりたくてやったわけじゃない」


 彼女は恐ろしい顔で舌打ちした。


「誰が治すと思っているんだ。魔獣にやられたのでなく、自らの下手な魔法でやらかしたものを、なぜ私が治癒してやらねばならないのだ」


 このクソガキ、このどアホ、と罵られる。


「申シ訳アリマセンデシタ…」


 彼女が治療しながらため息をつく。


「だが、今回お前は、45人の中で最速で魔力を消費し切ったぞ」


 えっ?…それじゃ、あの時、全部の魔力を使ったってこと?それじゃ、魔力切れで気絶したの?


「一体何をして右手がこんな状態になった?全魔力を一度に火の魔法に使うことができたのか?」


 何をしたんだっけ?何だか興奮しすぎてた。よく思い出せない。


「…えーっと、友達が噛みつかれて…それでどうしても止めたくて…右手…どうやったんだろう?」


「思い出せないのか?呆れた奴だ」


 それから彼女は、誰かと通信しているようだった。治療はかなり時間がかかったが、ちゃんと右手は元に戻って、ほっとした。


 治療が終わると牢には戻されず、私はどこかへ連れていかれた。



◇◇◇◇◇



 白い扉の前で立ち止まり、看守が扉をノックする。


「囚人番号Mi11948を連れて参りました」


 えっ…敬語…。中に偉い人いるの?私、いよいよヤバイの?

 扉が自動で開いた。中に押し込まれる。冷や汗がダラダラ流れた。


 そこは治療室に似た部屋だった。ベッドや機械がある。でも珍しく、大きな窓がある。刑務所へ来てから初めて窓を見た。窓の外は暗い。もう夜なのかな?


 椅子に座って機械を見ていた魔女が、こっちを向いて出迎えた。


「ハーイ、ヨーコソ、Mi11948!私はクルール。お待ちしてまシタヨー」


 な、なんかカタコト…?


 クルールは、白い服を着ている。治癒師に似てるかな。刑務所長とかではなさそう。あ、名札を付けてる。『医療研究監督 クルール』だって。安心した。


 で、でもなんか、この人…ヘンな感じするぞ…?一見、理知的でスタイリッシュだ…紺色のショートカットにメガネかけてる…けど、私の勘が警鐘を鳴らしてる気がする…。


 クルールがメガネをクイッと上げて、私を見た。この人の瞳、なんだかゾッとする…。


「ササ、これを見てくだサーイ」


 機械の画面を見せられた。さっきの鍛錬場が映っていた。私たちだ。撮られてるんだ!?画面の中で私が必死に魔獣の攻撃を避けている。どんくさい。はたから見るとこんな感じなんだ…な、情けない。


「お、お恥ずかしいです…」


 クルールは窓を指して言った。


「あの窓からも鍛錬場が見えるデスヨ。いつも楽しませてもらってマスヨー」


 窓の外に灯りがついた。えっ!?私は窓に貼り付いた。鍛錬場だ…。上の方から見渡している。鍛錬場の上の方に窓なんてあったっけ?


「さ、今日は君の検査をしマース」


 検査?何か怒られるんじゃないなら、よかった。ベッドに寝かされる。


「治療者に聞きマシタ。自分に何が起こったか、覚えてない、デスネ?」


「はい…」


 フムフム、と言いながら、クルールは私の頭に何か機械を取り付けた。

 そして、とんでもないことを言い放った。


「頭の中、覗かせてもらいマース」


「は、はい!?」


 ギョッとする私を意に介さず、クルールは呪文を詠唱し始めた。


「いっ…!」


 キーンと嫌な頭痛がする。めまいがして視界がぐるぐる回りだす。目の奥がズーンと痛む。側頭部がガンガンする。色んな種類の痛みが頭全体に広がって、どんどんひどくなっていく。


「痛ぁぁぁぁぁっっっ!!」


 暴れる私を、そばにいた看守が魔術で拘束する。


 ギュッと瞑っていた瞼を、クルールが無理矢理開けた。呪文の詠唱を続けながら、私の目を覗き込む。


 な、な、何だこの眼…!?


 クルールの瞳は不気味だった。何色なのかよくわからない。色んなものがグルグルと混ざり合っている?吸い込まれる?覗き込まれる?気持ちが悪い…吐き気がする。


 頭痛と一緒におかしな感覚が襲ってきた。頭の中に何かが入ってくる。何かがかき回す。這いずり回る。


 クルールが嬉しそうに呟く。


「ミィーツケタ」


 ずるずるずるっ。頭から何かが引きずり出される。


「うあああああっっっ!!」


 意識が飛んだ。




挿絵(By みてみん)



 あれっ?


 ここは…


 鍛錬場だ…


 今日の。


 私の身体は勝手に動いている。ターシャと一緒に戦っている。それを今の私は、再体験している。


 あの場面がやってきた。魔獣の背にしがみつく。ターシャがひどい目に遭う想像が、脳裏をよぎる。血液が沸騰する。右手が…。


 全ての感覚を、もう一度味わっている。


 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!




 ブツッ。



第6話お読みいただきありがとうございます。

マッドドクター、クルール先生のご登場です。紺色のショートカット、メガネ、スラッとした美人ですがマッドです。クルールの名前はcruelと狂ってるからきてたと思います。これからちょくちょく出てきますのでよろしくデース。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ