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RAINTOWN マイア編  作者: きゅきゅ
36/37

37日目 血管

 今朝は『ブラック・ジェーン』は保留。ターシャが、単語を治癒師に聞いてから続きを読もうって。


 シーラがハンターの小説を見つけた。『伝説のハンター デスデモーナ』。


「いいねぇ!デスデモーナ!もう名前からして強そうじゃん!読むぞー!」


 シーラがこんなに読書にやる気を出すなんて!ミラクルだ!


 私たちは伝説のハンター、デスデモーナの物語を聞いた。ファンタジーじゃなくて、モデルとなった魔女がいるらしい。


 たった一人で一日に一万匹もの魔獣の群れを退治したとか…寝ながら戦うこともできたとか…デスデモーナのおかげで領土が50%増えたとか…


 …ほ、本当にモデルがいるの!?話盛りすぎじゃない!?


「『強大な魔獣が現れ、デスデモーナは、全てのステータスがアップするバフ魔法を唱えた。力が漲り、魔力が溢れ出す!ドッと魔力の衝撃波が魔獣たちを襲った!それだけで、雑魚は一掃された』…うおおお!マジで!?強すぎんだろ!」


 シーラはめっちゃ燃えてる!楽しそうでよかった!

 ターシャが首を傾げた。


「全ステータスを一気にアップできるバフ魔法なんて、本当にあるの???」


 …そんなの、誰も知るわけない…。


「鬼コーチに聞いてみれば?知ってそうじゃん」


 シーラが猛烈な勢いで却下した。


「誰にも聞かない!無いって言われたら、ショックだろー!?夢がねーじゃん、夢が!!もし無くたって、将来あたしがやってやるし!!」


「わあ、シーラ!意気込みがスゴイ!」


 シーラの目に炎が宿る。


「絶対、なんとしても、バフ魔法を習得してやる…!まずは魔力バフからだ!ふふふ…待ってろよぉ!絶対すぐに習得してやるからな!」


 だ、誰に呼びかけてるのさ?



◇◇◇◇◇



 復帰から二回目の鍛錬の時間。


 今日は体の動きにくさは、なくなってきた。これでトゲタローとマトモに戦える!


 けれど、一つ困ったことがある。


 今まで私は、「ステータス返せ」っていう怒りを爆発させながら、戦ってたんだよね。でも今、その怒りはなくなっちゃった。それじゃ、成長が遅くなっちゃう。どうしよう?


 別の怒りをぶつける?ムショや看守たちに対する怒りを、トゲタローに?そんなのって、なんか嫌だな…。トゲタローにはぶつけたくない。


『おい、どーした!集中できてないゾ!』


「う、うん…今まで、ステータス返せって怒りをぶつけながら戦ってたけど、これからどうしようかと思って…。トゲタローと修行しすぎて、慣れて恐怖も少なくなってる気がするし…」


『ふーん?魔女の仕組みはよく知んねーけどよ。どんな感情も魔力を強くするってんなら、"楽しい" って気持ちはどーなんだ?』


 "楽しい" …?それは考えたことなかったな…。


『オレ様はよ、オメーと修行すんの、毎日楽しかったぜ。だからこんなに成長が早かったんじゃねーかなぁ?どうなんだ?』


 はは…楽しかったってハッキリ言われると、うれしくて照れちゃうな。


「ど、どうだろ?この地獄の鍛錬で、楽しいなんて思える人、いないでしょ…」


 トゲタローがぷりぷり怒る。


『なんだよ!オメーも楽しめよ!楽しく修行すりゃいーじゃん!!』


「そ、そうは言っても難しいよぉ…。痛いし怖いのは確かなんだからさ…」


『はん!これだから軟弱者は!つっまんねーヤツだな!』


 うーむ…楽しく修行できたら、私だって万々歳だけどさ…。楽しい上に成長できたら、最高だよね。こんな地獄の鍛錬じゃなくて、そういう仕組み、作ってくれればいいのに…。


 そういえば、ラリってた時の私は?まあまあ楽しんでたんじゃないかと思うけど…記憶あいまいだからなぁ。クルールが記録とってるかな?

 魔獣会話の魔法を無意識に作り出しちゃうくらいだから、楽しい気持ちで魔力が強まってたとか…?

 うーん、でも、あの時の記録があったとしても、クスリでしか楽しくなれないんじゃ、意味ない。あんなクスリ二度と飲まないんだから!何か検証する方法を見つけたいな…。


 それからトゲタローはやけに楽しそうに修行をつけてくれた。


『打つべし打つべし打つべし!!!』


 ドカーーーンッ!


 私は吹っ飛んで壁に激突。



 もーーー!こんなの楽しくできるわけなくない!?



◇◇◇◇◇





 ほーら、今日もやっぱりコールだ。

 ………毎度大怪我する私が悪いんですけどね…。


 骨折しまくりの、血まみれの私をてきぱきと治療するコール。


「…コール、いつもありがとう」


「私の名を呼ぶな」


 そういえば嫌がるんだった。


「ドクターコールとかは?」


 コールが怒る。


「ドクターはクルール先生を呼ぶ時に使っているだろう!私を並べるんじゃない!」


 もう!面倒くさいやっちゃなぁ!


「あ、ブラック・ジェーンみたいに冷たいから、ブラック・コールにしよっかな」


「やめろ。お前あの小説を読んだのか?」


 コールが意外そうな顔で聞く。


「コールも読んだことあるの?小説なんか読まなそうなのに!」


「あれは名作だからな。作者は本当の治癒師だ。実話ではないが、治癒師の知識が豊富に描かれている」


「へえ!?そうなんだ!すごーい!面白いだけじゃなくて、本当に勉強になるんだな」


 コールが呆れて見下ろす。


「お前、あれを面白いと思えたのか?お前には難しすぎるだろう。理解できたとは思えん」


「ああ、うん。難しい単語いっぱいで、苦労してるよ。それでも面白いから皆夢中だよ!すごいよね。そうだ、ターシャが治癒師の誰かに聞くって言ってたけど、私にも聞いてこいって…ちょっとだけ単語の質問してもいい?」


「説明したところでお前に理解できるとも思えんが。一応聞いてやろう。何だ」


 私は、自分の脳に問題もあることだし、脳に関連する単語に絞って聞いてみることにした。


「脳のこと、教えてほしいな。前頭葉とか、海馬とか、大脳しんし…しんひしつ…とか…辞書引いてもサッパリわかんなくて」


 コールは、端末を取り出して私に見せた。


「ちょうどお前の脳の詳細スキャンデータがある。それで実際に見せてやろう」


 ほわああああ!?私の脳!?り、立体映像〜!!


「こ、これが、私の、脳?う、うわあ…」


 な、なんというか、すごくヘンな感じ。


「ちなみに、損傷していた時はコレだ」


「っっぎゃああああっっっ!!やめてぇ!見せないでぇ!」


 脳の右半分がぁぁ…グチャグチャ…うぎゃああぁ…。


「これに懲りたら二度とあんなことをするんじゃないぞ」


「はい…もう何があっても金輪際二度と絶対に、あんなことしません…」



 それからコールは、脳の部位の名前、役割を教えてくれた。辞書よりわかりやすいけど、覚えてはいられないだろうなぁ…。でもきっと、コールがこんなにちゃんと説明してくれてるのに、忘れたらタダじゃすまない…!私のバカな頭働け!海馬よ、記憶しろ!よし、海馬が記憶を司るってのは、覚えたぞ!



◇◇◇◇◇



「ねえ聞いて、『ブラック・ジェーン』、30巻もあるんだって!!」


 ターシャが目をキラッキラ輝かせて言った。フェイさんに単語の質問したら、教えてくれたんだって。フェイさんは、とりあえず1巻だけでもと思って、貸してくれてたみたい。


「30巻だと!?ひぇ〜っ!果てしねーな!」


「さすがにうんざりする…」


 シーラもテレサも引いてるけど、ターシャはグイグイ押してくる。


「でもでも、単語も少しずつわかってきたし、もっと面白く読めるよ!この面白さがずっと続くなら、絶対に飽きずに読んじゃうな!」


 と張り切って、単語の報告をし合った後、ターシャは『ブラック・ジェーン』の続きを読んでくれた。やっぱり面白い。なおさら面白い。これなら本当に30巻読めちゃいそう…。


 ターシャは迫真の演技でジェーンのセリフを読む。


「『1リットルは出血している…死んでしまう!急いで輸血を!魔術では遅いわ!人工血液を!』」


 1リットル超えたら死ぬのか…覚えとこ…。いつも出血しすぎだからなぁ…。時々魔力切れじゃなく、出血多量で回収されちゃって、コールに怒られるんだよね。絆創膏貼れたらいいのに。


「…『もし体中の血管をまっすぐつなぎ合わせたら、10万kmになるのよ。この星、2周半の長さよ』…」


 ターシャの読むジェーンの言葉に、私たちはポカーンとしてしまった。


「え、じゅ、10万km!?は?うーーーん?????」


「あ?なに?どゆこと?体ん中に、そんなに血管詰まってるわけねーじゃん!?」


「…作者は頭がどうかしたのか」


 テレサが作者を疑いだした。私は一応フォローしとこう。 


「でも作者、本物の治癒師だって。嘘は言わないんじゃないの?」


 ターシャが続きを読む。


「『血管の95%が毛細血管ですわ。毛細血管の太さは髪の毛の10分の1ほど』…だって」


 へええ?毛細血管って聞いたことあるけど、95%!?私は自分の腕に透けた青い血管を見る。


「つまり、血管って、腕に透けて見えてるようなのよりも、細ーいのが、たっくさんあるってこと?」


 シーラは自分の水色の髪の毛をつまんで見る。


「髪の毛の10分の1って…そんなん目に見えねぇじゃん!そんなのばっかなのかよ!?」


「『私の眼には見えますわ…あなたの血管が、すべて…』…あっ、挿し絵があるよ!」


 ターシャが本を開いて見せてくれた。

 全身の血管の絵。もう体中ほぼ血管。


「うひゃーっ!キモ!血管人間!あたしもこうなの!?」


 シーラも私もギョッとしてつい自分の体を見てしまう。ターシャがさらに説明を読む。


「『この絵は毛細血管までは描ききれていない。毛細血管は体の隅々まで張り巡らされている』だって…」


 この絵よりさらに!?


 テレサが指先を見つめて呟く。


「…そういえば…指先を少し切っただけでたくさん血が出てくる」


 なるほどたしかに…本当に毛細血管だらけなんだ…。


「つまり、そんな極細の血管がたっくさーんあるから、合わせると10万kmにもなるってわけだね!ふっしぎ〜」


 ターシャが人体の不思議に取り憑かれて、目を輝かせてる。


 シーラが手の平をポンッと叩いた。


「おーおー、そんじゃ、その、10万km分の血ぃ、全部コアシードに持ってきたら、すげーんじゃね?」


 おお!それ、すんっごい魔力バフ!!


 シーラが立ち上がって意気込む。


「よーし!全身の血液、グーーンッてコアシードに送り込む練習するか!」


 テレサが冷静にツッコんだ。


「…コアシードに全血液を持ってきたら、全身の血液がなくなる。心臓も内臓も。……死ぬ」


「……………。」


 続いてターシャも疑念を口にした。


「それに、血液は3リットルはあるんだよ?みぞおち一ヶ所に集まったらお腹ポンポコリンだよ。血管破裂しちゃうんじゃないのかな?」


 血管破裂!?怖っ!!


 シーラがどすんと座ってあぐらをかく。


「あー面倒くせぇな!血液のヤロー、出し惜しみしやがって!だって、10万kmだぜ!?渋ってねぇでどんどん集まりやがれってんだ」


 はは、謎の怒りが爆発してる。けど実際、どうやったら集まるんだろ?私は疑問を口にした。


「いつも、めいそーの時、コアシードに血が集まるように、テキトーにイメージしちゃってたけど、実際は、どうしたら集まるのかな?血は心臓から出て、一巡りして戻ってくるんだよね?テキトーにムリヤリ集めようとしたら、逆流しちゃわない!?」


「うおっ、それは怖ぇーな…」


 ターシャが提案してくれた。


「ジェーンが血管の収縮の話してたよね。血管を細くしたり太くしたりして、調節するんじゃない?コアシードの血管は太くして、それ以外は細くするとか」


 テレサも『ブラック・ジェーン』のワンシーンを思い出して言った。


「…心臓を魔術で動かす話もあった。それで早く動かしてどんどん血を送り出せば…?」


 色んなアイデアが出た!


「で、結局のところ、どうやったらそれができるのか、だよね…」


 ターシャが苦笑いしながら言って、私たちは黙り込んだ。けど、シーラは自信ありげに胸を叩いた。


「はっ!簡単よ!操作魔術!あたしの得意分野!これだね!」


 な、なるほど…操作魔術で心臓をムリヤリ動かし、血管の太さを変えたりするってわけか。治癒師は治癒魔術でやるわけだから、絶対違うやり方だけど。


 シーラの得意な氷魔法は水の分子を操って温度を下げて凍らせる。氷矢を猛スピードで飛ばすのも操作魔法の一種。シーラは操作魔術が得意なんだ。


 シーラはさっそく、めいそーを始め、血管を操作魔術で操る練習を始めた。な、なんか怖いことが起きないか、ハラハラするよ!私みたいにヘマしないでよね!

第36話お読みいただきありがとうございます。血管の話は実際のことを調べて書いたのですが、もし間違いなどあれば教えていただけると幸いです。

シーラは果たして無事に魔力バフを獲得できるのか!?乞うご期待☆

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