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RAINTOWN マイア編  作者: きゅきゅ
34/37

33〜35日目 やくそく

 翌日、私はいつもの治療室の横の個室に移された。体は全然言うことを聞かないのに、もうリハビリを始めるらしい。もうちょっと休ませてくれてもいいのに、スパルタだなぁ。


 担当は、なんとフェイさんだった!


「わぁーい!フェイさんだ!うれしいなぁ!」


 私が開口一番にそう言うと、フェイさんは、入り口で立ち尽くして、ダバーと泣き出した。


「マイアさん…生き返って…よかったです…」


 思わず私も泣いちゃった。だってフェイさんがそんなに泣いてくれるなんて。一応看守なのに。


 けどフェイさんは、すぐに慌てて、「ちょっと待ってて」と言い置いて出て行った。



 しばらくすると、バタバタと足音が聞こえてきた。この足音は…もしかして…!!


 ドアが勢いよくガラッと開いた。


「シーラ!!!」


 シーラは息を切らして、私を凝視して、ゆっくり近づいてきた。


「シーラ!シーラ!!無事だったんだね!!よかったぁぁぁ!!」


 私は号泣した。まったく涙もろくなってる。


 シーラは、ようやく私の側までたどり着いて、膝をついた。私の手を取った。シーラの手は、震えていた。


「あ…ああ…生きてる…生きてるんだな…」


 シーラは私の顔を見上げて、顔を悲痛に歪めた。ボロボロと涙が溢れだした。


「シーラ…生きてるよ…ごめんね、心配かけて。ヘマしちゃったよ…こんなことになるはずじゃなかったんだ…本当にごめんね…」


 シーラは途端に声を上げて号泣した。こんなシーラは初めて見た。


「わああああ!マイア!生きてる!生き返った!夢じゃない!マイアぁぁ!」


 私がシーラをこんなに苦しめたんだ。胸がぎゅうっと締め付けられた。


「ごめん…ごめんねシーラ…もっとうまくやるつもりだったのに…私のせいで…余計にシーラを傷つけちゃった…」


 シーラが泣きながら怒る。


「ばかやろー!マイアのせいなわけないだろ!あたしのせいだ!あたしが…不甲斐ないばっかりに!ごめん…本当にごめん…生き返ってよかった…」


 そこへターシャとテレサも駆け込んできた。


「マイアちゃん!マイアちゃんだ!マイアちゃんだぁぁぁ!わぁぁぁん!生き返ってくれたぁぁぁ!」


 ターシャは私の体にしがみついて、いつもの倍くらい大泣きした。


 テレサは二人と反対側に来て、私をぎゅっと抱きしめた。


「マイア…生きてる…心臓の鼓動…本当に生き返った…」


 テレサの黒い瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。


「マイア…ごめん…私…あの時、側にいたのに…何もできなかった。シーラも助けられず、マイアをこんな目にあわせた…!あそこで唯一私だけが、動けたのに!もっとうまくやれば、二人とも、助けられたのに!」


 テレサがこんな風に自分を責めていたなんて…!私は余計にテレサを追い詰めたんだ…!


「テレサ…あの場で、うまくやれるわけないよ…看守たちでさえ主任を止められなかったんだから。私たちが適うわけないじゃん…。私が勝手に暴走して、ヘマやらかしたんだよ…ごめんね…テレサにまでこんなにツライ思いさせてたなんて…」


 フェイさんがまた入ってきて、わあわあ泣いてる私たちをなだめた。


「マイアさんが、あまり感情を乱すと、体に障りますから…さあ、そろそろ…」


 シーラが立ち上がった。


「ま、待って。少し話したいんだ。静かに話すから。少し時間をくれ」


 フェイさんは、了承して、また席を外してくれた。


 シーラが椅子を側に持ってきて座り、私に小声で話しかけた。


「マイア、マイアが本当は何をしたのか、クルールに聞いたんだ。私がムリヤリ、マイアに会いに行った時。まだ皆には話してない。話すか?」


 そうだったんだ…。

 私は皆に話すことにした。


 今は体力なくて話すだけでクタクタになるので、なるべく簡潔に話した。

 共感性の異常値、ステータス譲渡、そして主任にしたこと。

 ステータス譲渡のことは、ウェンディのことは言わずに、学園時代と、そして、トゲタローのことを話した。

 魔獣と会話してたこと、打ち明けることにした。もう恥ずかしいとは思わない。トゲタローは、友達だって私は思ってるし。向こうも今は、思ってくれてるかも。そして何より、ステータスを返しに来てくれた。私を生き返らせてくれた。


 シーラが呆然として言った。


「いつも魔獣と一対一で戦ってると思ったら…まさか話してたとはな…あの日も…魔獣たちがマイアの挑発に乗ったのは…そういうことだったのか…」


 ターシャがまだ泣きながらも、笑った。


「あんな恐い魔獣と、仲良くなって、しかもステータス返しに来てくれたなんて!なんだかおとぎ話みたい」


 テレサは驚愕してた。


「魔獣を憎みこそすれ、話したがるとは…。マイアの共感性はたしかに並外れてる…」


 フェイさんがまた来て、おずおずと言った。


「皆さん、そろそろ鍛錬の時間ですよ。マイアさんはリハビリをしないといけませんし…。別れがたいとは思いますが…」


 シーラは立ち上がって、胸を張り、親指を自分にグイッと向けて言った。


「おう!そんじゃ、鍛錬してくる!あたしは強くなるんだ!もう懲罰を受けるヘマもしねぇ!二度とあんなことは起きないから、マイアは安心してろよな!」


 私は涙ぐみながら、笑った。


「わかった。がんばって!私もリハビリがんばるよ」



 リハビリは、大変だけど、楽しかった。楽しいのは、絶対フェイさんのおかげだよ。フェイさんは、リハビリ療法士の資格を持ってるんだって。ああもう、神様か誰かに感謝!


 今の私は、ステータスは上がったけど、中身が減ってる状態。体力で言えば、14/212。最大体力に近い200まで回復すれば、牢に戻れるって。頑張らなきゃ!


 鍛錬の帰りに皆が寄ってくれたけど、私は休憩中でうとうとしてた。皆が気を使って帰ろうとしたから、慌てて引き止めて、何か話してってせがんだ。皆はまた新しく考えている戦い方のことなんかを話してくれた。ワクワクして、気分がアガるね!



◇◇◇◇◇



 翌日、体力は84/200。一日でだいぶ回復した!


 フェイさんが朝、栄養食ゼリーを持ってきてくれる。これが、マズイんだ!なんかクスリっぽい味。まあ、いつものムショ飯だってマズイから、全然へーきだけど。


 私がゼリーをすすり終わったら、フェイさんが近くに座って、姿勢を正した。


「あのですね…ちょっとお話ししたいことがあります」


 気まずそうな顔して…何!?


 フェイさんは、おもむろに、鏡を取り出して、私に渡した。


 久しぶりに鏡を見るなぁ。


 自分の顔。変わらない。頭に包帯巻いてる。


「すぐに戻りますから、ショックを受けないでくださいね」


 え、な、何!?


 フェイさんが、ゆっくり頭の包帯を外していった。


 …………………!!??


 か、か、か、


「髪がなーーーーい!!!」


 ガガガガーーーン!!!


「治療のために剃らなくちゃならなかったんです。治癒術ですぐに伸びて元に戻りますよ。今まで体力がなかったので、髪を伸ばすことにエネルギーを使わせられなかったんです」


 そ…そっか…。はあ…心を落ち着けなくちゃ…。


 フェイさんはそれから、何回かに分けて頭に治癒術をかけてくれた。夜には、鬼コーチみたいにベリーショートになった。


 へへ…私の大事な茶色の髪の毛。こんなに短くても、うれしいぞ。こんなに自分の髪を愛しく感じたのは初めてだ!今まで、平凡な茶色でつまんないなんて思って、ごめんよ。


 夕食後に皆が会いに来てくれたから、髪の毛を自慢した。皆、カプセルに入ってた私を見てたから、喜んでくれた。


 皆、カプセル療養中4日目に、会いに来てくれたんだって。クルールが呼んでくれたんだって。あのクルールが?と、思ったら、私の蘇生率を上げるためだって。皆が声をかけたら、蘇生率が上がるかもしれないって話だったらしい。


 そうだ、私、皆の声を聞いた気がする。あれは…夢じゃなかったんだ。でも蘇生前なのに、声が聞こえるのかな?今度クルールに聞いてみよう。



◇◇◇◇◇



 また翌日。つまり事件から10日。やっと体力192/212!もうすぐ、退院だ!帰るのは牢だけど。


 リハビリ頑張ってよかった!フェイさんのおかげで頑張れた!フェイさん、こんな地獄のムショじゃなくて、普通の治療院で働くべき人材だよ!!


 リハビリ中に、おしゃべりしてて、何でここで働くことになったのか聞いてみたんだ。

 なななんと、前の職場の同僚の嫌がらせで、国に辞令を出されてここに来るハメになったらしい!ひでぇ話!フェイさんを陥れるなんて、許せん!


 とはいえ、そのおかげで、私は地獄に仏で助かってるけど。私だけじゃなくて、囚人は皆、フェイさんが担当になった時、絶対心からホッとしてるよね。

 そう言ったら、フェイさんは、涙ぐんで、「ここに来てよかった」と言ってくれた。


 刑務所の方針で、看守は皆、囚人に冷たく当たらなきゃいけないんだって。フェイさんは、性に合わなくて、戦々恐々としていたらしい。なるべく冷たいフリするけど、胃が痛くなるって。その上コールも主任もあんなだし、可哀想すぎる…。誰か早く転職させてあげてほしい…。


 さりげなく主任の様子を聞いてみた。本当にこの10日、大人しくしているらしい!しかも幸運なことに、誰も不思議には思ってないみたい。私の事件のせいで所長やらに色々発覚して、ちょっとお咎めを受けたんだって。しばらくは大人しくしてるだろうって。よかったよかった!



◇◇◇◇◇



 夜、シーラが一人で会いに来てくれた。


「マイアに話したいことがあるんだ」


 いつになく真剣な表情だ。


「もう一度言うけど、あたしのせいで、あんなことになって、本当にごめん」


「シーラのせいじゃないってば、もう!」


「聞きたくないかもしんないけど、あたしの気持ちだから言わせて」


 そう言われたら…私は黙るしかない…。


「あたしは、自分を許せない。一生許すことなんか、ない。だからせめて、マイアを二度と、あんな目に遭わせないって、誓った。カプセルの中のマイアに、私が言った言葉、覚えてる?」


 夢の中で、シーラの声を聞いた…。泣いてる…シーラの…つよい声…。


「…やくそく…」


「そう!聞こえてたんだね。よかった。…あたしは、マイアが死んだら、自分も死んでやるって言った」


 そうだ…そう聞こえた…本当にそんなこと言ってたの…シーラ…


「脅しなんかじゃない。本気だった。今でも、同じ気持ちだよ」


 今でも?もう私は生き返ったのに?


「マイアが、今度、誰かを助けるために、自分を犠牲にしたら、あたしは、自分を雷撃する」


「なっ!何を…」


 シーラは私の言葉を手で遮った。


「本気だ。魔女は自殺できなくても、自殺の意思がなけりゃ、自分を雷撃できる。雷撃は、脳に異常を起こす。下手すりゃ、カプセル行き。最悪、自分の魔力で電気を起こし続けて、感電し続ける。永遠に、それが続いて、誰にも治せないかも」


「な、な、な、何言ってるの!何でそんなこと!!」


 シーラは私の手を両手で強く握った。


「マイア。あたしは本気。マイアが自分を犠牲にしたら、あたしは実行する。もう二度とあんな目に遭わせたくないから。あたしにできる、唯一の手段」


 シーラは私の手を、自分の心臓に置いた。


「あたしたちは、一心同体。マイアが自分を傷つけることは、あたしを傷つけることと同じ。実際に、そうなる」


 手の平に、シーラの鼓動を感じる。まるで二人がつながっているかのように…。


「マイアは今回のこと、おおごとになるはずじゃなかったって言うけど…もし仮に、自分とあたしの体がつながってたら?自分の負う傷を、あたしも共有したら?マイアはそれでも、脳を爆破できた?」


 …なんて恐ろしい想像…。


「そんなこと…できるわけないじゃん…」


「これからは、そういうこと。マイアが自分を傷つけたら、あたしも自分を傷つける。何かコトを起こそうとする時、軽く考えないで。よく考えて、決断して」


 私の背を冷や汗が伝う。私がちゃんと考えないで無闇に行動したら、シーラが…!?私のバカな頭…ちゃんと働いてくれる…!?


「あと、無意識のステータス譲渡だって、許さないからな!」


「え…許さないって言っても…勝手になっちゃうんだよ…?もちろん私だって嫌だから、絶対ならないようにするって、決意してるけど、どうなることか…」


「マイアが誰かにステータス譲渡したら、あたしはその分、自分に負荷をかける。クルールの実験に協力することにした。ウイルスやらを体に入れて、病気にかかる」


「な、何馬鹿なこと言ってんの!!ウイルスって!!」


 シーラは声を荒げた。


「ステータス譲渡の方が、もっと馬鹿げてるだろ!!おい、マイアの無意識!ちゃんと聞いてるか!?あたしは本気だからな!頭に叩き込んどけ!!」


 シーラは私の頭を指で突いた。


「これからはもう、自分を犠牲にすることは、許さない。絶対に。マイアも、もしあたしを傷つけたくないって思うなら、約束して。二度と誰かのために自分を犠牲にしたりしないって」


 シーラは小指を出した。


「約束して」


 私はその小指を見つめたまま、動けない。心臓がバクバクいってる。


 本気で…本気でシーラは、そんなことをするつもりなの?


 私が、誰かを助けたくて、バカなことしたら、シーラは自分を雷撃するの?

 私の無意識が、勝手にステータス譲渡したら、シーラは自分にウイルスを入れるの?


 い、いやだ…いやだいやだ…こんな約束…何でシーラは…私なんかのために…そこまでするって言うの…本当に本気なの?ただの脅しじゃないの?


 シーラの顔を見る。真剣な目。澄んだブルーの強い眼差し。強い決意。怒り…自分への。




BzZzzzggggGgbbBZzzzzzGgg...


 !?


 痛っ…ここはどこ!?


 シーラ…シーラがいる…


 目の前には…カプセル…私が入ってる…


 シーラが…私を見上げて顔を歪めて泣いてる…


『マ…イア…マイア…マイアぁぁぁぁ!!ごめん、ごめん、あたしのせいで…!あたしのせいで!!うわあああああ!!!』


bBzzzzZzgggGgggggbbBzzzzZgGggggg....




 うわああああああああ!!!


 胸が…胸が張り裂ける…涙が止めどなく溢れる…


 これは…シーラの気持ち…私が…シーラに…こんな思い…させたんだ…。



 私は小指を出した。


「やくそくする」


 ぎゅっと、指切りをした。



 シーラは、やさしく微笑んでくれた。


第34話お読みいただきありがとうございます。シーラとマイアはまだ出会って一ヶ月です。魔女は共感性が低いのが標準で、シーラもそこまで高くはありません。しかし義理人情に厚く、熱血漢(漢じゃないけど)なので、受けた恩は忘れません。このムショでは助け合いも協力も禁止なので、誰かが辛い目にあっていても放っておくのが普通ですが、マイアはそれを度々破りました。シーラにとってそれは非常に粋でかっこいいことでした。しかもマイアはターシャよりも弱いくせに助けようとするのです。シーラはその姿に心打たれたに違いありません。またマイアは入所当時は荒んでいましたが、元々フレンドリーでお喋りな性格です。4人の房のムードメーカーとなって皆の笑顔を増やしました。4人にとってこの一ヶ月は決して短い時間ではありませんでした。

 なんだか弔事みたいになってしまいましたが誰も死にませんしまだまだ続きます(笑)。

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