30日〜32日目 目覚め
私は目覚めた。
ゴポッ。
何これ?苦しい。
水の中!?溺れる!!
……あれ?……大丈夫みたい。変なの。
ピピッピピッピピッ…何の音?
おっ、誰か来る。
目がかすんで、液体越しだし、よく見えない。誰?
目の前まで来た。私をじっと見てる。
ん?冷たい眼が見えた。さては、コールだな!?
おい!何ジーっと見てんの!助けてよ、ここから出して!
私はガラスをドンドン叩こうとした。ん?力が入らなくて動けない。
「私の声が聞こえるか?」
聞こえる聞こえる!私は頷こうとした。うー、その力すら入らない。
「イエスなら、瞬きを二回」
瞬き、瞬き!
「自分が誰かわかるか?」
何言ってんだ!わかるに決まってんだろ!瞬き瞬き!もう10回くらいしたい気分。まったくもう、しょうもない質問しないでよ。
「お前はカプセルに入っている。わかるか?」
カプセル!?私は自分の周りを見る。これが、カプセルか!損傷がひどいと入れられるって言ってた!
うおおおお!!怖い!早く出してぇぇ!
「お前は脳を激しく損傷して、仮死状態になった」
か、仮死状態ぃ!?何それ、ほぼ死んでたってことぉ!?ヤバッ!!
な、何でそんなことに???
………………。
あ!思い出した!シーラが消毒液かけられそうになってて!シーラ、シーラは!?
そういえば…夢の中でシーラの声を聞いた気がする…元気になったのかな!?私は主任を止められたのかな!?
「5日間、クルール先生が寝ずに治療をして下さった。そのおかげでお前は蘇生した。感謝しろ」
い、5日!?そんな経ってんの!?
クルールが寝ずに!?そんなことできるの!?
まさかクルールがそこまでしてくれるなんて…これは本当に感謝しなきゃいけないな。
「脳の修復は済んだが、全身の神経、血管、筋肉、内臓などに、ダメージがある。もうしばらく、お前はカプセルで療養する必要がある」
えええええええ!!!!!
いやだあああああ…………
私は精一杯悲しそうな顔をしてみた。
「………苦しいか。これは罰だと思え。お前はまた自分で自分を傷つけたんだからな」
コールが去って行こうとする。
bzzzggbbzzzg.....
!?
視界が歪む。
え?コール?コールが顔を歪めて泣いてる…
bzzzgggbbbzzzzggg.......
痛ッ!頭痛が…
何?今の…コールはもういない。コールが泣くわけない。
幻覚?
脳の修復は済んだのに…。
しばらくして、クルールがやって来た。
あ、寝ぼけ眼をこすってる。メガネなしクルール、珍しい。本当に5日間眠ってなかったんだ…。
「めざめて…よかたデスネェ。カプセルのいごこちは…どぉデスカァ?」
いいわけないじゃん…絶対知ってるくせに…。
「培養液…サイコーでショ?息できないのに、生きてる…フシギ〜…ヤミツキ〜…」
何言ってんの…相変わらず狂ってる…。
「蘇生は成功しマシタが…も少し治癒術、かけておくデス…」
クルールが治癒術をかけてくれた。あれ、初めてクルールの治癒術を受けるんじゃないかな?ヘンなことばっかりされて、治癒なんてされたことなかったからなぁ。
クルールの治癒術は強力だった。なんとなく強力って感じる。これが、「先生」と尊敬される所以かぁ。これを5日間かけてくれたのか…。私なんぞのために…しかも自分でやらかしちゃったのに…申し訳なさすぎる…。これからはちゃんと先生と呼ぼう。
「フフフフフ…5日間…君の脳、隅から隅まで…調べつくしちゃいマシタヨォ…堪能させていただきマシタヨォ…フフフフフ…」
オエェェェェ…やめてよ!マッドドクターめ!さっきの撤回!先生なんて呼ばないから!感謝はするけども!
◇◇◇◇◇
それから2日間、私はカプセルで過ごすことになった。ううう…ツライ。
苦しいし、気持ち悪いし、怖いし…。
しかも神経が治ってきたからか、どんどん身体中が痛くなってきた。うぎゃあああ。
朦朧としながら痛みに耐えた。
時々クルールやコールが来て、治癒術をかけていってくれる。その時は痛み止めをかけてもらえるし、質問してくれるので気が紛れて嬉しい。
体も少しずつ動かせるようになってきた!
そうして2日後、ようやくカプセルから出してもらえた。
「ッグッッゴホォォォォッッ!!!」
ぐはあああああ!!!
「ゴホッゴホォッ!グエェェッ!」
なんと!!出る時が一番苦しいとは!!!
しかも力が入らなくて、咳き込むのもツライ。カプセルから出たら重力で一気に体が重くなって、倒れ込んだ。
すぐに看守たちにベッドに運ばれ、あちこち機械をつけられる。
「肺の培養液除去。酸素マスク。点滴。計器チェック。感覚、反応テスト。四肢の動作確認。胃に栄養食注入」
コール〜〜!仕事の鬼!そんな一気に色々やんなくていいよぉぉ。グッタリ…。
「ハァ…ハァ…シーラ…シーラは!?」
「…最初に言うことがそれか?」
コールが冷めた目で見下ろしてくる。てことは、シーラは無事なんだろうけど…。
「ハァ…ドクタークルール、コール、ありがとう…ございました…。ご迷惑…おかけ…しました…。シーラは…シーラは無事なんですか!?」
「無事デスヨー。君のおかげデスヨー。よかたデスネー」
「あ…ああああ…よかった…よかったあああ…」
もう信じられないくらい涙がドバドバ出た…。
「人の心配してる場合か。お前は死にかけたんだぞ!アイツは自責の念で、胃潰瘍になってるぞ」
ええっ!!シーラが胃潰瘍!?うう…私がマヌケなばっかりに…。
「そんな…うう…まさかこんな…死にかけると…思わなくて…」
「うっかりで済むことか。脳を爆破するなど!主任の注意を引きたかったんだろうが…それ以上の問題を起こしてどうする!」
え…主任の注意を引く?共感性の譲渡は、やっぱり成功しなかったのかな?
「ハイ、お説教、そこまでネー。また今度」
クルールはそう言うと、治癒師の看守たちを追い出した。
そして私の側の椅子に座って、話しだした。
「看守たちには、君の真意、話してマセン。君が脳を爆破した理由は、共感性の譲渡、デスネ?」
「は、はい!で、できたんですか!?」
クルールが喜色満面の笑みを浮かべた。クルールは、いつもはニヤニヤしてても、目が笑ってない。目までニヤニヤしてるのは、初めて見た。
「ハーイ!大成功デース!」
「マ、マジで!?やった!!」
苦労した甲斐があったー!
でも、治癒したら元に戻るって…もう主任は治癒しちゃったのかな?まあ…あの時をしのげただけでもよかったけど。
「今、主任は?もう治癒しちゃった?」
クルールはイタズラっぽく笑って首を振る。
「基礎パラメータの軽微な異常を発見、治癒するの、ムズかしいデス。主任は少し頭痛、すぐ治まったデス。そしてアレ以降、大人しくしてマスヨー」
「ほ、本当に、共感性を譲渡できたの!?」
「ククク、主任の基礎パラメータ、コッソリ計測しマシタ。共感性7から27に上がったデース!」
な、7しかなかったのか!
…けどクルールなんか3じゃん…。…同時にクルールにも譲渡しとけばよかったかな…。
でもとにかく+20はすごいな!
「わ、私の共感性は…」
「私がカンペキに治癒したので元通りデース」
「…ですよねー…」
チェッ。
「基礎パラメータの譲渡など、恐らく世界初。私は主任の動向を観察、研究したいデス。治癒されたら困るデス。だから看守にはヒミツ、デス」
「な、なるほど。でもコールなんかは、主任が大嫌いだし、言ってもいいんじゃ?」
クルールは顎に指を当てて考える。
「ンー…Cl00901…コール…は責任感が強いので、主任に黙っていなければならないのも苦痛でショウ」
ん?今、なんか番号言わなかった?コールは囚人じゃないのに?…まさか社会福祉番号なんか呼ばないよね!?
クルールのことだ…魔女は全員、番号でしか覚えられないんだろう…。
「はー…でも…こんなことになるとは思ってなくて…コールにもドクターにも迷惑かけちゃって…本当にごめんなさい…」
クルールがゴホンと咳払いをする。
「ホントデスヨー。後で治療費請求しマスヨー。出所後に借金取り立てに行きマスヨー」
「ヒイィィッッ!高額な治療費!!取り立て屋が来るのぉぉっ!?」
「フフフ。冗談デース。刑務所の治療費は一切請求されマセン。特に、今回は、私の責任デスからネ」
「え?ドクターの責任?何で?」
「脳に埋め込んだ装置を発火させたじゃないデスカ!私が埋め込んでいなければ、起きなかった事故デスヨ」
「え、な、なるほど…。でもそれは私が勝手にやったことですから、ドクターの責任じゃないですよ」
「私も責任感強いデスヨ!あと装置、国の許可取ってマセンでシタ!危うくクビになる所デシタヨー」
そういえば国の許可取ってないって言ってたな…。
「私は結果的に助けてもらったからいいですけど…やっぱり危険な装置を脳に入れるのはやめた方がいいんじゃ…。爆発の危険があるなんて…」
クルールが真顔で首を振る。
「爆発するなんて、完全にジョーク。嘘デスヨ。君が、装置を利用して、着火した。不運にも、君の魔力と装置の素材の相性、合致。君が思ったより、大きな爆発になったデス。事故デス」
「爆発するって嘘だったの!?」
うーん…それを信じて、たまたまうまくいって、共感性の譲渡まで成功して…でもそのおかげで死にかけた…。いいのか悪いのか…。
「君、魔女は自殺禁止だから、死なない思ったネ?事故は、いくらでも起こりマスからネ?ちゃんと考えてください、ネ?」
クルールが詰め寄る。
「は、はーい…ごめんなさい…」
「ところで」
クルールがまた愉快そうな顔をする。
「君の脳、調べつくして、面白かったデス」
「そ、そうですか…。面白いことなんかありますかね…」
ないと思うので、そんな話は聞きたくないですね…。
「君、共感性、異常に高いのに、なぜか、認識してなかった、デスネ?」
あー、そういえば。優しいとか感情移入するとか言われても、ピンと来なかったんだよね。しかも、異常値なんて。ターシャみたいな子の方がよっぽど優しいって感じするのに。
「理由、わかりマシタ。君の脳、無意識の領域が拡大してマス」
「無意識の領域?拡大??」
「共感性の能力は、ほぼ無意識でだけ発揮されていたデス。その上、能力にセーブがかかっていたのデス」
「えーっと、無意識に、優しい?無意識に、共感する?」
「そんな感じデスネー。無意識下で、ステータス譲渡や、魔獣会話の魔法が使われていたのも、そのためでショウ」
そ、そういうことか!
「これは生まれつきでなく、未知の変化が起きた可能性、高いデス。そこで君の記憶、探ってみマシタ」
えーっ勝手に人の記憶見ないでよぉっ!
「しかし、大量にデータが破損していマシタ」
「……………………は?」
「主に幼少期、誕生直後〜半年の期間で、記憶が壊れていマス」
「え、何それ。記憶喪失???」
「喪失とは違うデスネ。破損。データ処理できずに、脳、異常起こした」
え、ええー、そんな、パソコン壊れてるみたいに。
「私が見た限り、記憶は普通の魔女と変らなかったデス。しかし、何か大量のデータを処理しているのに、しきれなかった痕跡。恐らく、共感能力に関係すると思われマス」
クルールは首を捻る。
「例えば、異常な共感性の高さにより、他人の感情を読み取りすぎ、脳が処理しきれず、パンクしたとか。で、共感能力、封印」
「感情読み取りすぎてパンクって…バカですか…バカすぎませんか…私の脳…」
壊れたロボットか…。
「ワカリマセーン。しかし、今回、脳、大破し、私、修復し直したデス。共感能力の封印、解除された可能性、ありマス。また異常が起きる可能性、ありマス」
えええ、怖いこと言わないでよ。
「あれ?でも、共感能力が無意識じゃなくなれば、無意識で勝手にステータス譲渡するのを、やめられるのでは?」
「サア…どうでショウ。とにかく異常があれば報告するデス」
異常かぁ…またパンクして壊れたらどうしよ…。
「あ…そういえば…目覚めた日…。コールが来て、質問して、去ってく時、幻覚が見えたんだ…。コールが泣いてる顔。泣くわけないのに。変な幻覚…」
「フーム…。カプセル療養中は、朦朧としがちデスからネ…ただの夢かもしれないデス。でも一応記録しておきまショウ」
「うわっ!カルテに書かないでよ!?コールに見られたら何言われるか!」
「フフフ。大丈夫デスヨー。私だけのヒミツのカルテがありマスからネー」
そう言ってウインクした…。いやなんかそれも怖いんですが…。
「ア!そうそう…面白いコト、ありマシタ」
クルールが端末を出す。私のステータスが表示される。
「君のステータス…何か気付きまセンカ?」
…え?…ん?…あれ?前より上がってる?ここに来た時と変わらないくらいまで戻ってるんじゃないの?
「え、何で?カプセル入ってて、ステータスなんて上がるの?」
「フフフ、上がりまセーン。誰かサンからのプレゼント、デス!」
「プ、プレゼント?は?…だ、誰から?」
「bb-477デスヨ!」
「bb-477…?…それ…トゲタロー!!?」
「そうデース!窓の外まで飛んできて、コッチ見てたデスネー。その直後に君、ステータスアップ。後で確認したら、トゲタローのステータス、ダウンしてマシタ」
「えええええ!?トゲタローが!?私にステータスをくれたの!?というか、返してくれたの!?」
そ、そういえば、なんか夢にトゲタローが出てきたような…。
「魔獣がステータス譲渡!君に影響されたのカナ?ビックリ。まだまだ研究足りないネ。君、4日目、蘇生成功するかわからなかった。そこへ、トゲタローがステータスくれた。魔力、自己治癒力アップ!おかげで、蘇生成功率、68%から78%まで上がったネ!感謝するデス!」
ほへー。トゲタローが…。まさかそんなことが…。か、感謝しなくっちゃ…!
第33話お読みいただきありがとうございます。マイアは無事に蘇生し、目覚めることができました。鬼畜主任に共感性も譲渡できました。自分の共感性は元の97に戻っちゃいましたが。トゲタローは野生の勘でマイアの危機を感じ取り、マイアにステータスを返してくれました。今までは返す方法がわからなかったのですが、マイアを死なせたくないという思いと、どうしても返したいという意思で実行できました。ステータスを送るのでなく、マイアの譲渡魔法をキャンセルして解除するというかたちを取ることで実行可能となりました。




