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RAINTOWN マイア編  作者: きゅきゅ
3/37

水色のシーラ

 

挿絵(By みてみん)


 しばらく裁縫に夢中になっていたけれど、例の時間は迫っていた。鍛錬とかいう名の地獄の時間。

 はあ…それを考えると、一気に憂鬱になる。


「な、マイア」


 シーラが隣に座って話しかけてきた。

 シーラは四人の中で一番年長で、背が高く、気が強そうな魔女。自慢の水色のストレートヘアを腰まで伸ばしている。


「昨日、鍛錬で散々な目に遭ってたの、あんただよね?」


「あ、ああ…うん」


 シーラは気まずそうに目をそらした。


「助けてやれなくてごめん…。『助け合い禁止』ってことは、もう聞いたよな?」


「『助け合い禁止』?」


「誰かを助けたり、協力して戦っちゃいけないんだ。恐怖が少なくなって成長が遅くなるからとかいってな」


 そんな決まりがあったなんて!私は顔がひきつった。


「知らなかった…嫌な決まりだね…」


 シーラは自分の水色の髪をわしゃわしゃとかきむしった。


「あああ!ほんっと、ムシャクシャする!助け合えないなんて!粋じゃねぇよな!成長できないからなんて言ってっけど、ぜったいただの嫌がらせだね!」


 シーラは拳でドンッと壁を叩いた。

 おお…シーラはクールビューティーっぽく見えるけど、こんなに熱い人だったのか。

 

 シーラはため息をついて、少し落ち着きを取り戻すと言った。


「そうだマイア、あんた昨日入所して、いきなり鍛錬やらされたわけ?」


「え?そうだけど…」


「あたしの時は一回見学させられて、翌日から実戦だったけど…」


 シーラが他の二人に、あんたたちは?と聞くと、二人も同意する。


「ええ?見学?うそ…私、忘れられたの?」


 ショックだ…。ツイてなさすぎる。


 シーラが怒りを顕わに、身を乗り出す。

 

「見学もなしってことは、説明もなし?マジでいきやり鍛錬やらされたのかよ?」


 私はきょとんとする。


「そうだよ。何も知らずにあそこへ行って…処刑が始まるのかと思ったよぉ。皆は説明されたの?」


 三人は驚愕の表情を浮かべた。ターシャが涙を浮かべる。


「何も知らせずにいきなり鍛錬をさせるなんてぇぇ…ひどすぎる!」


 シーラが説明してくれた。


「見学の時に説明されるもんだよ。とにかく魔法を撃ち続けろ、とか、恐怖が成長を促す、成長したら出所できる、とか」


 何それ…私はがっくりと項垂れた。


「私…イジメられてんの?まあ…ここに来る前もイジメられてたから、慣れてるけどさ」


「どーかな…アイツら、ちょっと機嫌悪いってだけで、理不尽に嫌がらせするからなぁ。虫のイドコロが悪かっただけかもよ」


 うあぁ…私はきっと、死にたいとか言って飯を粗末にしたから、看守の怒りを買っちゃったんだ…。こうなるってわかってたら、もっと利口にしてたのになぁ!バカだ…。


 シーラが、そうだ、と指を一本立てた。


「マイア、戦い方のコツを教えてやるよ」


「コツなんてあるの?」


「初心者はとくにね。まず、魔獣とは一対一にならないようにしな。できたら一匹に対して三人以上で囲むこと!それから、あんまり逃げ回ってっと、看守に投げ飛ばされて、魔獣たちの真ん中に放り込まれるよ」


 ほうほう!頭に叩き込んでおかなきゃ。


「で。いっちばん重要なのは、できるだけ早く急いで魔力を消費し切ることだな!そしたら気絶して、退場させてもらえっからね」


「そっか!でも、どうやったら魔力を早く消費できるの?」


 シーラは少し難しい顔をして考え込むと、言った。


「めっちゃがんばる」



 ………………。



 シーラが笑いだした。

  

「ははは!マジで。急いで魔法を使いまくるんだよ!急げ急げって集中してがんばれば、かなり早くなるんだって」


「わ、わかった。がんばってみるよ…」


 シーラはニカッと笑って「おう、がんばれ」と励ましてくれた。


 気付くと、牢全体の雰囲気が暗くなってきてる。鍛錬の時間が迫ってきたんだ。


 シーラもそれに気づいたのか、壁にもたれて気だるげにする。


 私はおしゃべりで気を紛らわせたくて、話を続けた。


「シーラは、いつも何の魔法で戦ってるの?」


 シーラが私を見て苦笑いする。


「ははーん。それ、聞いちゃう?」


 な、なんだろ?なんかマズかった?


「あたしはさ、ほとんど氷系の魔法しかできないんだよね。けど、氷系は、ここじゃ使えない!」


「氷系が使えない?何で??」


「あんた、氷矢の魔法使ってみなかった?」


 氷矢の魔法は、私が昨日最初に使おうとして、なぜかできなかった魔法だ。氷矢の魔法は、一番簡単な攻撃魔法で、ほとんどの魔女が使える。


「あっ、氷矢、できなかったよ!何で!?」


「それはね、あそこには雨が降ってないから。屋内だから当たり前だけどさ。つまり水がないからだよ」


 水がないとできない?私はばかだからいまいちよく理解できない。私が変な顔をして回らない頭を回していると、シーラが笑って説明してくれた。


「外じゃいつも雨が降ってるじゃん?氷矢の魔法ってさ、外ではその雨水を凍らせて矢を作ってんだよ。けど鍛錬場には水がないから、氷矢の魔法は超ムズいってわけ」


 この街にはいつも雨が降っている。女王様が恵みの雨を降らせてるって習ったけど、本当かどうかは知らない。学園で氷矢の訓練をするのは外だったから、雨水を凍らせて矢にしていたんだ。


「そうだったんだ…全然知らなかった…。氷矢の魔法が一番得意なのになぁ…。仕方ないから火の玉で攻撃したよ…得意じゃないのに…」


 シーラも足を投げ出して、悪態をついた。


「ほんっと参っちゃうよな!あたしもしょうがないから、ショボいけど雷を使ってる。氷系なら得意中の得意なのに!それを仕事にしてたしね」


「氷魔法を使う仕事してたの?」


 シーラが自慢げに胸を張る。


「配達の仕事さ。食材を冷やしたり凍らせたりして荷車で配達すんだ。キンッキンに冷えたビール、10ケースとかね!」


 わあ!そんなにいっぺんにたくさん冷やせるなんて、すごい!


 けれど、事故を起こしちゃって、このムショに来ることになったんだって。死傷者が出たわけでもないのに、相手がエリート魔女だったからだとか。理不尽な話だ…。


 シーラはもう半年近くこのムショにいるんだって。元から私より強そうなのに、半年か…。私は何年かかれば出られるんだろ…。




◇◇◇◇◇



 けたたましいブザーの音が鳴る。とうとうこの時間が来てしまった。胃が痛い。


「全員、戦闘準備!」


 シーラが隣に来て、私に耳打ちする。


「速さを意識すんだよ。速く速く、速く魔力を使い切らなきゃ地獄を見るぞ!…ってな!」


 シーラがイタズラっぽくウインクする。地獄…本当にそうだ…。私は引きつった笑みを返すしかなかった。


 巨大な扉が開く。恐ろしい羽音と奇声を上げて、魔獣が一斉に飛び込んできた。


 皆、もう攻撃を始めている。ほとんど届いていないけど。

 そっか、届かないとわかっていても、もうどんどん魔力を使っていった方がいいんだ。急げ急げ。私も火の玉を放った。


 右手と左手、交互に火の玉を作って放つ。速く攻撃するには、両手を交互に使うのがいいって、シーラが教えてくれたんだ。右手の火の玉ができたら、左手も作り始める。ちょっと難しいけど。


 もう魔獣たちは囚人たちの目前。囚人たちがどっと散らばり始める。

 そうだ、一人になっちゃいけない。私はなるべく人の多い方へと移動した。

 その間にも、火の玉を放ち続ける。狙いは適当。とにかく数撃つ!速く速く!シーラの言葉が頭の中を周り続ける。


 そうこうするうちに、魔獣が一部の囚人に攻撃を仕掛けた。悲鳴が上がる。かなり人がばらけてきた。

 あ、近くで、3人が一匹を攻撃している。そこに加わろう。


 速く、速く。焦りながら左右交互に攻撃する。魔獣は、4人にあちこちから攻撃され、苛立ってる。私の攻撃が少しでもダメージを与えているかは、わかんないけど。


 これなら、いけるかも!


 そう思った瞬間、後ろから急激に羽音が迫ってきた。


 あっ!!後ろ!?


 そう思った時には遅かった。私は、頭からガブリと噛みつかれた。心臓が凍り付いた。


 う、うそでしょ!このまま振り回されたら…首の、骨が…!!


 けど次の瞬間、視界がパッと開けた。


 えっ?


 幸運なことに、魔獣は私を振り回さず、噛み付いただけで、一旦離れた。

 そ、そうか。魔獣は囚人を殺せないんだ。そういう魔術がかけられてるって。


 た、助かった…。


 ぐひゅっ!


 うぎゃっ!首から血が…!

 そうだ、首を噛まれたんだから、ただでは済まない。慌てて首を抑える。呼吸はなんとか…できる。


 魔獣がまた噛み付こうと飛びかかってきた。


 いけない!一対一になってる!


 私は振り返ってがむしゃらに走って逃げた。左前方に3人いる。背後に羽音と奇声。振り向かずに転がった。なんとか避けられた!3人の間に転がりこむ。


「あなた、首から血が!!」


 3人が私を見てギョッとする。一人が後方の魔獣に向かって攻撃してくれた。こんなお荷物が転がり込んでしまって申し訳ない…。


 私も急いで攻撃する。おおっ、火の玉が手の平より大きい!さすが恐怖効果!って、喜んでる場合じゃない。

 ああ、それより首を抑えなきゃならないから左右交互に攻撃できない!とにかく、速く速く速く…!速くしなきゃ地獄を見るぞ…!


 魔獣の攻撃を避けながら、急いで火の玉を撃つ。避けて撃って、避けて撃って…でも後ろも気にしなきゃ!…厳しい!もう一人の子がかなり注意を引いてくれてるから、助かってるけど…。


 う…朦朧としてきた。出血しすぎてる…。


 とうとう右腕を噛まれた。あああああ!振り回される!!!ボキリ。ぶん投げられて、壁に激突。絶叫。


 床に転がり、目を開けると、不幸中の幸い、魔獣が近くにいない。恐る恐る右腕を見る。いや、やっぱり見たくない。左に顔を背けた。


 そこに、黒い革靴。いつの間にか、看守が立っていた。


「何を休んでいる。さっさと立って戦え」


 ビクッと体が震える。隷属魔術を使われたら最悪だ。賢く立ち回れなくなる。慌てて立ち上がって走り出した。危ない危ない。


 また人のいる所を目指す。さあ速く魔法を…って、右腕折れてるんだった!左手は首を抑えてるし…どうしたらいいの!?しかし足は止められない。囚人が二人、魔獣と対峙している所へ来てしまった。


 ええい、やけくそだ!首はあきらめて、左手で魔法を放つ。血なんか垂れ流しだ!とにかく魔法。速く速く速く速く!



 …あれ?


 …魔獣は…どこ?…視界が…暗い?


 …えーっと…何だっけ?


 思考力は…どこへやら。


 私は出血多量で倒れた。


第三話読んでいただきありがとうございます。ムショ仲間二人目は水色の髪のシーラでした。性格は姐御肌、情熱的、短気、がさつ、そして単細胞です。今の所お馬鹿さんっぽさは露呈されてないですね(^^)これは半年ものムショ暮らしで、看守やムショ仲間たちが暴れん坊シーラをなんとか気性の荒い野良猫くらいまで落ち着かせたからです。そのうち過去話が出てきます。

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