個人面談 番外編
「囚人番号Wd42333、お前の使える魔法を全て言え」
ウェンディは、眼帯の鬼コーチを前に、震えながら言った。
「風魔法、音楽魔法…です」
「戦い方は何通りだ?」
ウェンディは、ちょっとよくわからなかった。
「…風魔法は、つむじ風、です。音楽魔法は、聞く人にバフ効果があるみたい、です」
鬼コーチは片眉を上げて興味を示した。
「ほう?バフ魔法か。どんな効果がある?」
「ええと…曲によって違います。炎の曲とか…怒りの曲とか…あと、何だっけぇ…」
コーチは端末を見てウェンディのステータスを確認する。
「お前も知能が低いな。ほらメモをやる。ここに書き出してみろ」
「は、はい…」
書かれたメモを見て、コーチは驚いた。
「感情を操作できるのか?恐怖も引き起こせると?やってみろ」
ウェンディは〈悪魔の生け贄〉を演奏した。吹いていて自分も恐怖で冷や汗が出た。コーチは無言で聞いている。
演奏が終わって、コーチが言った。
「…忘れていたが、私は恐怖心が並外れて低いのだった。自分で体験するのは難しいようだ」
ウェンディは項垂れた。
コーチはまた端末を見て、言った。
「ん?お前に勧告が出ているな。お前のバフ魔法をMi11948 "マイア"に使用することを禁止するとのことだ」
「え、えええ?な、何でぇ?」
「マイアに魔力暴走の恐れがあるそうだ。クルール先生のご判断だから間違いはないだろう。つまりお前のバフ魔法には確かに効果があるんだな」
「魔力ぼーそー?マ、マイアさんが危なくなるってこと、ですか?」
「そうだ。感情の暴走が原因と考えられる。魔力暴走を起こすと、最悪、死ぬこともある」
「えええー!?う、うわぁぁ…ん」
ウェンディは泣き出した。
コーチは呆れて腕組みをした。
「何を泣いている。実際には何も起こっていないぞ」
「う…うう…そ、そうだけど…だけど…もしかしたら…そうなってた…かも…うわぁぁぁん」
「起きもしなかったことでクヨクヨするんじゃない。うじ虫め。今すぐ泣き止まないと腹筋100回だ」
ウェンディは息を止めて必死に涙を拭った。
「バフ魔法は貴重だ。マイアには禁止だが、他には使っていい。使ってどんどん鍛えろ。とくに、恐怖だな。いや、いっそ恐怖の曲のみにするべきか」
「ひえっ。な、何で?」
「恐怖は魔力を増大させ、成長を促すからだ。お前も、バフをかけられた方も、成長が早くなる。ほら、メモしろ」
「は、はい…」
ウェンディは何をメモするか迷って、「きょうふがせいちょうする」と書いた。
「バフ魔法の使用者は、戦闘をしないために成長が遅れることが多い。しかし成長しなければ、出所できない。お前は早く成長するために、恐怖の曲のみ、演奏すること」
「ひえええええ!」
あの〈悪魔の生け贄〉を、ずーっと吹くのー!?
ウェンディは、また泣いてしまった。
「何を泣いているんだ。わけがわからん。そんなに腹筋100回したいのか」
「ひっく。〈悪魔の生け贄〉は…怖すぎます…胃に穴が開きますぅ…」
「何だと?そんな軟弱な奴があるか!…はあ…仕方がない…では一日置きにするか。その代わり、バフ魔法なしの戦闘訓練にも取り組め」
「…風魔法で戦うんですかぁ…?でも、弱すぎますぅ…」
「誰でも最初は弱い。魔獣相手にまるで歯が立たない。そういうものだ。お前もそれを経験して鍛錬していくのだ」
「ひぇぇぇ…むりですぅ…」
「バフ魔法は貴重だが、それだけでは自分の身を守れない。最低限、身を守る力が絶対に必要だ。その力がつかなければ、出所はさせない」
「そんなぁ…」
「数年後に魔獣の大暴走が起きると予言されている。このままではお前は、出所したところで、魔獣に八つ裂きにされるのだ」
「ひぎゃぁぁぁぁ!」
「わかったら死ぬ気で鍛錬しろ!恐怖の曲と、風魔法をひたすら使いまくれ!ほら、メモしろ!」
ウェンディは手が震えて、メモの字はまるで読めないものになってしまった。
ウェンディが退出した後、コーチは端末の進路希望に〈ハンター〉と記入した。
「フッ。希少なバフ魔術師を捕まえたな…これだからムショ勤めはやめられん」
◇◇◇◇◇
「囚人番号Nt21790…今月のお前の鍛錬の成果を見せてみろ」
「は、はいっ!」
ターシャは魔獣との模擬戦闘で、泥の目潰し、石の杭、つっかえ棒などを披露した。"思い出し泣き"をしながら。
「戦闘の工夫が見られ、威力も上がったな。しかし…一体お前はなぜ泣いているんだ?」
「す、すみません。思い出し泣きです」
「は?」
「あの…悲しい気持ちでも魔法の威力が上がるのがわかったので…思い出し泣きしながら戦っています」
「お前は…思い出して泣くなどという珍妙な芸ができるのか?」
「珍妙…は、はい…」
「………まあ、いいだろう」
鬼コーチは泣き虫が大嫌いだが、成長の役に立つのなら致し方なしと考えることにした。
「お前の進路希望は治癒補助だったな」
「はい」
「そろそろ治癒師を目標にしたらどうだ」
「え、いえ…治癒魔法はできそうにないので…」
「鎮痛術ができるなら、才能が開花する可能性は十分にある。初級クラスでは治癒の指導はしてやれないが。目標は高く持つべきだ」
「で、でも…」
「自分の限界を低く見積もれば、伸びるものも伸びないぞ!限界を突破しろ!高みを目指せ!」
「ふぇぇ…」
ターシャは目を回した。熱気に酔った。
「情けない声を出すんじゃない。治癒師も治癒補助も、情けない奴には務まらんぞ。それでいいのか!?」
「い、いえ!よくないです!がんばります!」
「最高の理想像を思い描け。さすれば、お前もその理想に近付いて成長していく。治癒師への道も開花する。わかったか?」
「はい!理想の自分になれるよう、がんばります」
「よろしい、行け」
ターシャが退出した後、コーチは進路の第一希望に〈治癒師〉と、第二希望に〈ハンター〉と記入した。
「フッ。戦える治癒師をまた一人、排出してみせよう…」
◇◇◇◇◇
「囚人番号Th09600…これは予想外だ」
「ふふ…そうでしょう…」
テレサは腹黒そうに微笑んだ。別に何かを企んでいるわけではない。ただそういう顔つきなだけだ。
「まさかお前が近接戦闘をするとはな。しかもカウンターの発動に成功するとは。素晴らしい」
鬼コーチが珍しく手放しで褒めた。
「そうでしょうそうでしょう…」
「結界師は貴重だが、成長が遅いのがネックだったからな。これなら中級へ進める日も近いかもしれんぞ」
「…………。」
テレサは中級へ進むとなると途端に嫌になった。またズタボロにされまくる日々が始まるのか、と。
「…低級クラスに永遠にいてやってもいい…」
「何をわけのわからん冗談を言ってるんだ。それより、カウンターに成功したなら、種々のカウンターや罠についての知識を学ぶべきだな。結界術の魔術書を持ってきてやろうか」
コーチは端末でテレサのステータスを確認した。
「…いや、まずはもっと知能を上げるべきだな。お前には計算ドリルをやろう」
「……………クソ」
テレサが退出した後、コーチは呟いた。
「あいつ、賢そうに見えてバカだからな…しかし近接戦闘にカウンターとは…戦う結界師の誕生だ」
進路希望は第一が〈ハンター〉、第二が〈結界師〉になった。
◇◇◇◇◇
「囚人番号Sh56517。明日から、雷撃を禁止する」
「はああああ!?何でだよ!?」
シーラは鬼コーチの迫力をものともせずに激怒した。
「魔獣がマヒして、ほとんど攻撃して来なくなっている。それではお前は恐怖を感じず、成長が遅れる」
「せっかく強くなったのに!!恐怖なんかなくても、怒りがあんじゃん!」
今まさに怒り狂って、シーラの身体から雷撃がビリビリと漏れ出ている。
「それはまだ検証中であるし、恐怖との併用がベストだろう。お前はただでさえ最初から恐怖心が少ない。成長が遅いのはそのせいだという線が濃厚だ。もう半年も低級クラスにいるんだぞ。さっさと中級に行きたければ、言うことを聞け」
「あああ〜〜クソっ!!」
コーチは人差し指を立てた。
「しかし近接戦闘の筋はよかったぞ。これを活かせ」
「雷撃なしで、どーやって近接戦闘すんだよ!?ただパンチしろっての!?」
「お前には氷魔法があるだろう」
「水がねえだろーが!!」
コーチは指で頭をトントンと叩いた。
「ある。頭を使え。魔獣の甲羅の下には血液が流れている。血液は何でできている?」
「は?血?何って、血は血だろ」
コーチはため息をついて頭を振った。
「…お前の知能もたいがいなのを失念していた。血液はほとんど水分だ。凍る。お前のパンチと共に、氷結の魔力を叩き込め」
「ええー!?マジ!?んじゃ、それやったら、魔獣凍んの?」
「さあな。お前の氷結の技量と、魔獣の防御力などによる。雨水を凍らせるのと同じようにいくとは思うな。雨水は女王陛下の魔力のおかげで我々の魔力が通りやすい。しかし魔獣の血液はお前の魔力に激しく抵抗するだろう」
「なんかムズかしくてよくわかんねーな。とにかくやりゃいーんだな。できなくてもそのうちうまくいくだろ」
「………まあいいだろう」
シーラは帰ろうとして、あっ、と踵を返した。
「そうだ!なあなあ、バフ魔法、教えてくれよ!とくに魔力バフ!」
鬼コーチはすげなく首を振った。
「お前の知能ではバフ魔法の魔術書は理解できん」
「やってみなきゃわかんねーだろ!近接戦闘しろってんなら、バフ魔法くらい教えてくれてもいーじゃんか!」
コーチは端末の画面に、魔術書の1ページを映し出した。
「これが最初の1ページだ。読んでみろ」
シーラは端末を奪い取って食い入るように読んだ。
「…………………。」
凝視して固まっている。コーチはただ冷ややかな目でそれを見ている。
「………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!わっけわかんねぇっ!書いたやつバカか!?」
「バカなのはお前だ。いいから前に渡した計算ドリルで知能を上げろ」
シーラは計算ドリルを渡された日に、1ページも進まなくて、怒り狂ってビリビリと破り捨てた。
シーラの目が泳いだのを、鬼コーチが見逃すはずもない。けれどそんなことは、想定済みだった。コーチはあきらめの表情を浮かべる。
シーラはプイッとそっぽを向いた。
「チェッ!ケチ!いーもん!バフ魔法くらい、自力で習得してやらぁ!」
ドスドスと足音を立てて出て行った。
コーチは一人、ため息をついた。
「バカで無鉄砲なハンターがまた一人増えるのか…」
第28話お読みいただきありがとうございます。個人面談番外編でした。自分で読み返してて楽しい…自画自賛というかなんというか…お恥ずかしいですが…。世の作家さんたちってどうなんでしょう?やっぱり自分の書いたものは読み返しても面白いと思うのかな?ちょっと恥ずかしいから口外しないだけで、きっとそうなんでしょう。




