16日目 復讐の鬼ヒルダガルデ
テレサが妙なポーズで座って目を閉じて何かブツブツ言っている。
「テレサ、何やってるの?」
「…瞑想」
めいそーって何だろ?
「…身体の魔力の流れを感じている」
魔女の身体にはいつも魔力が流れてる。血流みたいなもんかな。
「魔力の流れを感じると、何かいいことあるの?」
「…わからない。魔力生成器〈コアシード〉からの魔力の発生を感じたい」
みぞおちにある魔力の源だ。
「それで、何かいいことあるの?」
テレサが目を開いて私を見た。
「魔力バフ」
「な、なるほど!!」
それは私もやりたいです!!シーラもターシャも乗っかってきた。
「おおおお、あたしもやる!」
「私も、私も!」
皆でめいそーした。
うーむ?魔力の流れかぁ…自分の身体に流れてるのも、コアシードも、全然感じ取れない。血流だって感じ取れるもんじゃないじゃん?
…血ってコアシードにも通ってるのかな?
「コアシードって、血ぃ流れてるの?」
テレサは目を閉じたまま考えている。
「…おそらく…」
ターシャが目を開いて首を傾げた。
「じゃあ、コアシードは血液から魔力を作ってるのかな?」
「おっ?ならコアシードに血液どんどん送れば、魔力ドバドバ出たりして?」
シーラの言葉に、皆が目を見開いた。
「「「それだ!」」」
「…皆、よくやった。コアシードに血液を送り込むのだ」
テレサが司令官ぽく言ってニヤリと笑う。
皆、まためいそーする。
…………。
「どーやってコアシードに血液送んのさ?」
…………。
誰にもわからなかった…。
しかしこの日から、めいそーが皆の日課になった。魔力を感じ取ろうとすることだけでも重要な気がして。
あぐらをかいて手を組んでめいそーする私たちを見て、看守が気持ち悪がっていたのは知る由もない…。
◇◇◇◇◇
「新曲をたずさえて来たよぉー!聞いてくれる?」
鍛錬の時間、ウェンディが来て言った。
「マイアさん、糸を戦いに使ってたんだねぇ?糸の曲があるから、聞いてみてほしいんだぁ」
糸の曲?
「糸の曲なんてあるんだ?聞いてみたい!じゃあ今日は糸メインで戦おっと!」
戦いが始まった。
(トゲタローやー!ウェンディが演奏してくれるよー!)
ブブブブーーーーンッ!!速いって!
『おうおう、久しぶりじゃねぇか!待ちかねたぜぃ!』
「では聞いてください。いにしえの民の歌、〈いーとーまきまき〉です」
何だそりゃ?演奏が始まった。なんだか親しみを感じる曲だな…歌詞が聞こえてくる気がする…。
♪いーとーまきまき いーとーまきまき ひーて ひーて とんとんとん。いーとーまきまき いーとーまきまき…
な、何コレ!?なんかよくわかんないけど、すごく糸出したい!!無性に出したい!!
『おもしれぇー曲!なんか踊りたくなるな!前足グルグル回してぇ〜』
トゲタローが踊ってる。ウケる。
けどなんか私ヤバイ。頭の中がいーとーまきまきでいっぱいになるぅ!フレーズが回り続けるぅ!
「♪いーとーまきまき!いーとーまきまき!」
うあああ!?両手の指から糸がどんどん出てきたぁ〜!
『ウハッ!オメー、糸出しすぎ!ウケる〜!!』
♪いーとーまきまき いーとーまきまき…
フレーズが繰り返し繰り返し…止まらないよぉぉぉ!どうすんのこの糸!?
『おいおいバカ弟子!バカやってねーで修行しろよ!戦えよ!』
そ、そうだよ糸で戦わなきゃ!
「食らえっ!いーとーまきまき!!」
私は10本の糸を操り、トゲタローに襲いかかった!狙うは羽!!まきまきまきまき!!
『うおおおおっ!!こらやめろっ!!』
「♪ひーて ひーて とんとんとん!」
巻き付けた糸をギューっと引いて結んでやる!!
『ああああ!このっ!このっ!』
トゲタローが必死に羽をばたつかせてる。前はこれで糸切られたんだよね。
『うがああああっ!!切れねぇっ!!』
「マジ!?糸が強くなってる!!」
ふはははは!ではやることは一つだな!
「糸よ燃えろ!凝縮炎!」
『なっ!!!やめろぉぉぉ!!!』
ボオオオオッ!!トゲタローの羽に巻きついた糸が激しく燃えた。
『ガアアアアアッ!!あぢぃぃぃっっ!!』
トゲタローが激しく転げ回る。ようやく鎮火してきた。羽が焦げ焦げ!かわいそ〜っ!でもそんなこと言っていられないんだ!
(一本とったぜ!私のステータス、返しやがれ!!)
トゲタローが黙ってムクリと起き上がる。ブルブル震えだした。えっ?
『この…この…よくも…よくもっ!オレ様の自慢の羽をぉぉぉっ!!許さん!!』
ギラッ!目が真っ赤に光る!トゲタロー様がブチ切れたぁっ!!
『〈キュア〉!地獄を見せてやるぞぉぉっ!!』
羽が元通りに治癒。
(ちょっ!治癒できたんだからキレないでよ!それよりステータス返して!)
『うるせえええええっっっ!!!!!』
ヤバババババ!!!
「マイアさん、〈復讐の鬼ヒルダガルデ〉、聞いてださい!」
ウェンディが、〈復讐の鬼ヒルダガルデ〉を演奏し始めた。
♪ズンドゥクズンドゥク…ドドドドドドドドダーーーーーンッ!ダダダンッダンッ!
こ、これは…腹の底から怒りが煮えたぎってくる…!!
ヒルダガルデが、ヒルダガルデが刃物を持って復讐に燃えているーーーっ!!
うおおおっ!仇を取るんだ!ヒルダガルデ!
私もステータスを取り返す!取り返してやるー!!
「うおおおおっ!この恨み、晴らさでおくべきかーーーーっ!!!」
私は炎を拳にまとった。なんと!両手に同時にできた!!すごーーっ!!やってやるーー!!
ブチ切れトゲタローの猛攻撃!!かまうもんかっ!!回避なんぞくそくらえ!!この拳をとことん叩き込んでやる!!すでにブチ切れてるから、口の中だって遠慮してやらない!!
こうして私とトゲタローの、はちゃめちゃな戦いが始まった…。
いつの間にかウェンディが倒れて回収されていったけど、私たちは止まらなかった…。
珍しく、トゲタローはけっこうダメージを負った。…私?…聞かないでよ…。
『あーイカした曲だったな!なんだかスカッとしたぜ!ふん、バカ弟子よ。今日はなかなかいい戦いだったぜ…』
トゲタローは〈キュア〉で何事もなかったかのように去っていった…ずるすぎるぞ…。
◇◇◇◇◇
「ハア…ハア…ヒルダガルデ…カタキをとれぇぇ!」
「おい、さっさと目を覚ませ」
コールが私の頬をはたく。
「ハア…ユメか…ハア…殺シテヤル…」
「お、おい。目が据わっているぞ。瞳孔が開いている…」
コールがライトで私の目を確認する。
「カエセ…カエセ…ワタシノステータス…カエセェェ!」
私は折れた手足をものともせず暴れた。
「おいぃっ!何してる!『拘束』!!」
コールめ!魔術で拘束しやがった!!
「ウガアアアアッ!ハナセ!トゲタローッ!カエセーッ!!」
コールは鎮静魔法を使った。私はまた寝ぼけて、ヒルダガルデを想いながら、ブツブツと呟き続けた。
「…何なんだコイツは…なぜこうも問題ばかり起こすんだ…」
コールは額に手をおいて首を振り、ため息をついた。
◇◇◇◇◇
「フフフフフ…脳が異常に興奮してマスネー」
「先生…また何か妙な薬を与えたんですか」
「ちがうヨ。これはWd42333の支援魔法による感情増幅効果デスネー。Mi11948は、共感性が異常に高いので、効きすぎたネー」
「なるほど」
「これだけ興奮してると、魔力暴走起きてもおかしくないネー。ハイ、Mi11948はWd42333の支援魔法受けるの、禁止!」
第26話お読みいただきありがとうございます。糸巻きの歌のタイトルは何ていうんでしたっけね。勝手に歌ってJASRACさんに引っかからない?大丈夫?




