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RAINTOWN マイア編  作者: きゅきゅ
25/37

15日目 カウンター

「わ、私もがんばって、魔獣に近付いて…戦おうかな…少しだけ…」


 ターシャが弱々しく言った。


「ターシャ、無理しなくても『思い出し泣き』で十分成長できてるんじゃない!?」


 慌てて止めたけど、ターシャは首を振った。


「前から自分でも、もっと早く成長したいって思ってたの。それに、ぜんっぜんダメージ与えられないのも、いやだし。どうしたらいいかな?皆、一緒に考えてくれる?」


 本気みたい。大丈夫かなぁ?


「お、ついにターシャも!がんばろーぜ!石の杭があんじゃん。そんで近接戦闘すれば?」


 シーラが無茶なことを言う。


「そそそれは、怖すぎるよ!!それに杭は…マイアちゃんのピンチの時は硬く作れたけど…普段はすぐ壊れちゃうよ」


 もう半泣きのターシャ。


「至近距離なら恐怖で威力が上がる。硬い杭ができる」


 テレサも冗談なのか本気なのかわかんないことを言う。


「もう、シーラもテレサも…本当にそんな酷なことをターシャにやらせるつもり?もうちょっといい戦い方がないか皆で考えようよ」


 とはいえ私はバカだから、いいアイデアなんか思いつくかどうか…。


「そーだなー。ターシャは土魔法以外は何が使えんだっけか?」


「水はちょこっと出せるけど…」


「土と水の組み合わせ、やってみて」


 テレサに言われて、ターシャが片手に土を、片手に水を出す。

 テレサが土と水を両手ですくって混ぜ合わせる。


「はは!それじゃ泥じゃん。泥でどーやって戦うんだよ?」


「目潰し」


 べちゃ。

 テレサがシーラの顔に泥を!


「うべっ!くぉら、テレサ、何すんだー!」


 シーラもターシャの手から土と水を奪って泥にしてテレサに投げる。見えてないから私の顔に!!くぉらー!!


「ターシャ!もっと作って!!」


 泥合戦が始まった!




 …私たちは看守にお仕置きを食らった…。




◇◇◇◇◇



「目潰しはたしかに使えるね!」


 ターシャは巻き添えでお仕置きを食らったのに、明るく笑って言った。


「もー魔獣まるごと泥だらけにしちまえば?」


 シーラは顔中泥だらけ。いたずらっ子みたい。私もたぶんそんなんなってるな。

 テレサはほとんど泥がついてない。結界使ったんだ、ずるーい!


「ターシャ、泥から水分を抜き取ることは?」


 テレサに聞かれて、ターシャは手の平の泥から水分を消す。固まった。


「羽を泥だらけにして固める」


「わあ!いいね!できるかな?そしたら飛べなくなる?」


 シーラがちょっと渋い顔をする。


「うーん、せいぜい飛びにくくするってくらいじゃん?」


「それでもいいなぁ!やってみる!目潰しと、羽固め!」


「近接戦闘がんばれ」


 えっ。結局?石の杭で戦うの?


 ターシャが遠い目をして固まってしまった。



◇◇◇◇◇



 鍛錬の時間。

 私はターシャが心配で、様子を見ることにした。

 こっそり後をつけてたら、シーラとテレサも同じことしてた。なんだかんだ言って、二人とも、心配してるでやんの。微笑んじゃう。


 ターシャはまず目に泥を投げつけた!魔獣がブルブルッと頭を振るけど、泥は完全には取れないみたい。ターシャに攻撃しようとしたけど、うまくいってない。これは成功だ!


 それから次は羽。ターシャは泥を羽に向かってべっちゃべっちゃ投げつけた。けどこれはちょっと失敗だったみたい。羽ばたきで、ほとんどの泥が弾き飛ばされちゃった。


 仕方なくターシャは戦い始めた。本当に石の杭で近接戦闘を!泣きながら!

 あわわわわ…駆けつけたいけど、それはターシャの成長を邪魔しちゃう!?


 ターシャはすぐに近接をやめて、いつものように土玉を投げ出した。ホッ。


「二人とも、私の新しい戦闘も見る?」


 テレサが言って、手の平に小さな結界を張った。えっそれでどうやって戦うの!?


「み、見る見る!」


 テレサは近くの魔獣に走って行った。魔獣が振り向きざまに、爪で攻撃!その爪を、テレサは手で受け止めた!つまり、手の平の小さな結界で!?

 今度は噛み付いてくる!テレサは右手で上の牙、左手で下の牙を受け止めた!


 ドンッ!

 えっ何!?


 魔獣がギョッとして離れる。


「え、今テレサ何したの!?」


「わ、わかんねぇ…」


 テレサはその後も、同じように手で攻撃を受け止め、その度に何かが起きて、魔獣が離れる、それを繰り返した。


 テレサの謎は後で聞くことにして、私達は自分の鍛錬をしに行くことにした。



◇◇◇◇◇



(トゲタロー!行くよ!)


 私は手を耐火して凝縮炎をまとわせた。


『おいおい、まーた昨日と同じか?火傷ばっかしてたくせに!』


(同じじゃないもんねー!食らえっ!)


 パンチしに行く。避けられる。あきらめないぞ!パンチ、回避、パンチ、回避!


『あん?パンチばっかかよ。つまんねぇ!キックはしねぇのかよ?』


(しなーい)


 そう、私がやるのは右手パンチのみ。ずっと右手に炎をまとわせてる。

 昨日、何度も耐火に失敗したのは、急いであちこちやろうとしたから。今日は右手しか使わない。これなら失敗なし!コールに怒られずにすむ!


『あああっ!つっまんねー!右パンチにしたってよ、色々あんだろ!?アッパーとかフェイントとか!!工夫しろよ!!』


(なるほどね!たまには役立つこと言うじゃん)


『師匠を何だと思ってやがるぅっ!いつも役立ってんだろうがよぉぉ!調子こいてんなこのバカ弟子がっ!』


 トゲタローが早々に本気出してきちゃったよ。


(うおおお!負けるもんか!この!この!返せ!返せ私のステータスぅぅ!)


 もはや私の常套句。そして噛みつかれ投げ飛ばされて、どんどんズタボロになる私。これが近接戦闘ですよ。


 ガブッ!とうとう右腕に噛みつかれた。クソっ!しかしここであきらめるマイアではない!


 ボオオオオオッ!!!


 私は口から火を吹いた!!トゲタローの顔に直撃ぃ!!


『ギャッ!!』


(はーっははは!大成功!どうだ!一泡吹かせてやったぜ!!)


 息に魔力を込めて火をつけたんだ!へへん。密かに練習してたんだよね。


(観念してステータスを返しやがれ!)


『なーにバカなこと言ってんだ!全然ダメージ入ってねーよ!寝言は寝て言えってんだ!』


 まあね。ステータス下がってるし凝縮もしてないからね。


(ダメージがほしくば、ステータスを返せ!)


『おいおいおいおい、マジで寝言言ってんのか!?』


(半分本気だよぉぉぉ!!マジで返せよぉぉぉ!!)


『お前が勝手に押し付けてきたんだろぉがぁぁっ!アホすぎるだろぉぉぉっ!』


 たしかに…。



 そんな感じで、今日もいつも通りにズタボロにされましたとさ。




◇◇◇◇◇





「よしっ!火傷してない!」


「…何が『よし』だ。寝言は寝て言え」


 プッ。コールのやつ、トゲタローと同じコト言ってやんの。


「上手に炎パンチできるようになったの!」


 冷たい眼で睨まれる。


「12ヶ所も骨折しておいてよくそんな妄言を…。前より怪我がひどくなっているんだが?」


 12ヶ所と聞いても何も思わなくなってきた私…。


「近接戦闘なんだから仕方ないじゃん…恐怖を大きくするには近接戦闘が一番なんだもん」


「誰が治すと思っている!…って、何回このセリフを言わせるんだ!」


「わかってるよ…いつもごめん。でも早く成長しなきゃいけないんだよ?私がいつまでも出所できなくて、ここにずーっと居座り続けてもいいって言うの?」


 コールが苦虫を噛み潰したような顔をする。いつものように、このクソガキとか罵り出したので、心を無にしちゃうもんねー。コールは人型の魔獣…コールは人型の魔獣…その割には優しい…いや、トゲタローもけっこう優しいとこあるな?


 ……………。



◇◇◇◇◇



 牢に戻ると、テレサが得意げな顔をしてる。


「テレサ!あれは何だったの!?」


 シーラと共に問い詰めると、テレサはヒソヒソ声で言った。


「…カウンター攻撃の一種…」


 カウンター!!


「か、かっけーー!!」


「そんなことできるの!?」


 テレサはヒソヒソ声で語りだす。


「…カウンターは結界が壊れれば発動されない。今まで私の結界は脆く、一撃で破壊された。しかし小さくして手に密着させたことで強度が増した。カウンターが発動して魔獣の攻撃が跳ね返った」


 すごぉーい!


「ただ全ての攻撃を受けるのは無理だった。いつもより怪我は増えた。しかし成長は見込めるだろう」


「でもよテレサ、あんな反射神経あったのかよ!?すごかったぜ!」


 テレサがさらに声をひそめて、ニヤリと笑う。


「毎日看守の攻撃を見極め、即座に最小限の結界を張っていた成果」


 そうそう、テレサは看守に殴られる時、クッション型の小さな結界を肌に貼りつけるんだよね。


「ね、ねえ、なんでずっとヒソヒソ喋ってるの?ま、まさか…」


「間抜けな看守共に制裁を下しただけ」


 看守にもカウンターくらわしてたー!


「よ、よくバレなかったね?」


「間抜けだから」


 辛辣〜!

 ていうか、囚人は看守を攻撃できないはずでは!?カウンターは抜け道だったとか!?



◇◇◇◇◇



 今日はターシャが最後に牢に帰ってきた。


「ターシャ!大丈夫!?」


「うん、大丈夫だよ〜。あ、私が最後?ちょっと魔力消費に時間かかっちゃったの。今日は色々失敗しちゃったなぁ…」


 怪我はいつもと同じくらいだったみたいで、私もほっとした。


「最初だけこっそり見てたよ。羽には泥がつかなかくて残念だったねぇ…」


「そうなの!難しいね。近接戦闘やってみたけど…やっぱり怖かったぁぁ…」


 そうだよね…私だって怖いけど、どうしてもステータス低下を挽回しなきゃいけないから、捨て身になってるだけだもん…。


「結局いつもの距離で戦っちゃった…。それから泥ばっかり作ってたら、魔力消費が少なかったみたい。石化の魔法を使わないからかな」


 シーラが自分のおでこを叩く。


「ああー、そんなデメリットが!泥はイイと思ったんだけどなー!あたしらも考え足りなくてゴメン。でもそっか!ターシャは石化の魔法が得意なんだよな!なんかうまく使いたいよな」


「…魔獣の口の中に石化の魔力を送り込んでみれば」


「「「ええっ!?」」」


 ターシャがおっかなびっくり聞く。


「そ、それ…やったらどうなるの?」


「不明…実験して」


 テレサ…実験させたいだけでは…。


「えー、口の中が硬くなる?口が閉じなくなったりして!?つか、何で口の中?」


 シーラの疑問にテレサが答える。


「甲羅は防御が堅い。口の中が弱点。」


 たしかにそうだなぁ…。


「口の中に石化の魔力かぁ…噛まれる時につっかえ棒すれば、できるかな?」


 な、なんかターシャ乗り気なんだけど!ヤバくない!?


「ちょ、ちょっと待って!それって魔獣がブチ切れるんじゃないの!?」


「「「……………。」」」


「わ、私には…実験する勇気ないかな…」


 ターシャが青い顔をして苦笑いした。


第25話お読みいただきありがとうございます。結界防御からのカウンター!いいですね!テレサは結界の魔法しか使えません。占いは魔法なのかなんなのか自分でもわからない模様。唯一使える結界魔法はしょぼすぎて、普通に使っても全然役に立ちません。戦闘は防御と回避に偏って、テレサも恐怖を感じにくい方なので、成長が遅いです。これからどんどん成長していけるといいですね。

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