15日目 カウンター
「わ、私もがんばって、魔獣に近付いて…戦おうかな…少しだけ…」
ターシャが弱々しく言った。
「ターシャ、無理しなくても『思い出し泣き』で十分成長できてるんじゃない!?」
慌てて止めたけど、ターシャは首を振った。
「前から自分でも、もっと早く成長したいって思ってたの。それに、ぜんっぜんダメージ与えられないのも、いやだし。どうしたらいいかな?皆、一緒に考えてくれる?」
本気みたい。大丈夫かなぁ?
「お、ついにターシャも!がんばろーぜ!石の杭があんじゃん。そんで近接戦闘すれば?」
シーラが無茶なことを言う。
「そそそれは、怖すぎるよ!!それに杭は…マイアちゃんのピンチの時は硬く作れたけど…普段はすぐ壊れちゃうよ」
もう半泣きのターシャ。
「至近距離なら恐怖で威力が上がる。硬い杭ができる」
テレサも冗談なのか本気なのかわかんないことを言う。
「もう、シーラもテレサも…本当にそんな酷なことをターシャにやらせるつもり?もうちょっといい戦い方がないか皆で考えようよ」
とはいえ私はバカだから、いいアイデアなんか思いつくかどうか…。
「そーだなー。ターシャは土魔法以外は何が使えんだっけか?」
「水はちょこっと出せるけど…」
「土と水の組み合わせ、やってみて」
テレサに言われて、ターシャが片手に土を、片手に水を出す。
テレサが土と水を両手ですくって混ぜ合わせる。
「はは!それじゃ泥じゃん。泥でどーやって戦うんだよ?」
「目潰し」
べちゃ。
テレサがシーラの顔に泥を!
「うべっ!くぉら、テレサ、何すんだー!」
シーラもターシャの手から土と水を奪って泥にしてテレサに投げる。見えてないから私の顔に!!くぉらー!!
「ターシャ!もっと作って!!」
泥合戦が始まった!
…私たちは看守にお仕置きを食らった…。
◇◇◇◇◇
「目潰しはたしかに使えるね!」
ターシャは巻き添えでお仕置きを食らったのに、明るく笑って言った。
「もー魔獣まるごと泥だらけにしちまえば?」
シーラは顔中泥だらけ。いたずらっ子みたい。私もたぶんそんなんなってるな。
テレサはほとんど泥がついてない。結界使ったんだ、ずるーい!
「ターシャ、泥から水分を抜き取ることは?」
テレサに聞かれて、ターシャは手の平の泥から水分を消す。固まった。
「羽を泥だらけにして固める」
「わあ!いいね!できるかな?そしたら飛べなくなる?」
シーラがちょっと渋い顔をする。
「うーん、せいぜい飛びにくくするってくらいじゃん?」
「それでもいいなぁ!やってみる!目潰しと、羽固め!」
「近接戦闘がんばれ」
えっ。結局?石の杭で戦うの?
ターシャが遠い目をして固まってしまった。
◇◇◇◇◇
鍛錬の時間。
私はターシャが心配で、様子を見ることにした。
こっそり後をつけてたら、シーラとテレサも同じことしてた。なんだかんだ言って、二人とも、心配してるでやんの。微笑んじゃう。
ターシャはまず目に泥を投げつけた!魔獣がブルブルッと頭を振るけど、泥は完全には取れないみたい。ターシャに攻撃しようとしたけど、うまくいってない。これは成功だ!
それから次は羽。ターシャは泥を羽に向かってべっちゃべっちゃ投げつけた。けどこれはちょっと失敗だったみたい。羽ばたきで、ほとんどの泥が弾き飛ばされちゃった。
仕方なくターシャは戦い始めた。本当に石の杭で近接戦闘を!泣きながら!
あわわわわ…駆けつけたいけど、それはターシャの成長を邪魔しちゃう!?
ターシャはすぐに近接をやめて、いつものように土玉を投げ出した。ホッ。
「二人とも、私の新しい戦闘も見る?」
テレサが言って、手の平に小さな結界を張った。えっそれでどうやって戦うの!?
「み、見る見る!」
テレサは近くの魔獣に走って行った。魔獣が振り向きざまに、爪で攻撃!その爪を、テレサは手で受け止めた!つまり、手の平の小さな結界で!?
今度は噛み付いてくる!テレサは右手で上の牙、左手で下の牙を受け止めた!
ドンッ!
えっ何!?
魔獣がギョッとして離れる。
「え、今テレサ何したの!?」
「わ、わかんねぇ…」
テレサはその後も、同じように手で攻撃を受け止め、その度に何かが起きて、魔獣が離れる、それを繰り返した。
テレサの謎は後で聞くことにして、私達は自分の鍛錬をしに行くことにした。
◇◇◇◇◇
(トゲタロー!行くよ!)
私は手を耐火して凝縮炎をまとわせた。
『おいおい、まーた昨日と同じか?火傷ばっかしてたくせに!』
(同じじゃないもんねー!食らえっ!)
パンチしに行く。避けられる。あきらめないぞ!パンチ、回避、パンチ、回避!
『あん?パンチばっかかよ。つまんねぇ!キックはしねぇのかよ?』
(しなーい)
そう、私がやるのは右手パンチのみ。ずっと右手に炎をまとわせてる。
昨日、何度も耐火に失敗したのは、急いであちこちやろうとしたから。今日は右手しか使わない。これなら失敗なし!コールに怒られずにすむ!
『あああっ!つっまんねー!右パンチにしたってよ、色々あんだろ!?アッパーとかフェイントとか!!工夫しろよ!!』
(なるほどね!たまには役立つこと言うじゃん)
『師匠を何だと思ってやがるぅっ!いつも役立ってんだろうがよぉぉ!調子こいてんなこのバカ弟子がっ!』
トゲタローが早々に本気出してきちゃったよ。
(うおおお!負けるもんか!この!この!返せ!返せ私のステータスぅぅ!)
もはや私の常套句。そして噛みつかれ投げ飛ばされて、どんどんズタボロになる私。これが近接戦闘ですよ。
ガブッ!とうとう右腕に噛みつかれた。クソっ!しかしここであきらめるマイアではない!
ボオオオオオッ!!!
私は口から火を吹いた!!トゲタローの顔に直撃ぃ!!
『ギャッ!!』
(はーっははは!大成功!どうだ!一泡吹かせてやったぜ!!)
息に魔力を込めて火をつけたんだ!へへん。密かに練習してたんだよね。
(観念してステータスを返しやがれ!)
『なーにバカなこと言ってんだ!全然ダメージ入ってねーよ!寝言は寝て言えってんだ!』
まあね。ステータス下がってるし凝縮もしてないからね。
(ダメージがほしくば、ステータスを返せ!)
『おいおいおいおい、マジで寝言言ってんのか!?』
(半分本気だよぉぉぉ!!マジで返せよぉぉぉ!!)
『お前が勝手に押し付けてきたんだろぉがぁぁっ!アホすぎるだろぉぉぉっ!』
たしかに…。
そんな感じで、今日もいつも通りにズタボロにされましたとさ。
◇◇◇◇◇
「よしっ!火傷してない!」
「…何が『よし』だ。寝言は寝て言え」
プッ。コールのやつ、トゲタローと同じコト言ってやんの。
「上手に炎パンチできるようになったの!」
冷たい眼で睨まれる。
「12ヶ所も骨折しておいてよくそんな妄言を…。前より怪我がひどくなっているんだが?」
12ヶ所と聞いても何も思わなくなってきた私…。
「近接戦闘なんだから仕方ないじゃん…恐怖を大きくするには近接戦闘が一番なんだもん」
「誰が治すと思っている!…って、何回このセリフを言わせるんだ!」
「わかってるよ…いつもごめん。でも早く成長しなきゃいけないんだよ?私がいつまでも出所できなくて、ここにずーっと居座り続けてもいいって言うの?」
コールが苦虫を噛み潰したような顔をする。いつものように、このクソガキとか罵り出したので、心を無にしちゃうもんねー。コールは人型の魔獣…コールは人型の魔獣…その割には優しい…いや、トゲタローもけっこう優しいとこあるな?
……………。
◇◇◇◇◇
牢に戻ると、テレサが得意げな顔をしてる。
「テレサ!あれは何だったの!?」
シーラと共に問い詰めると、テレサはヒソヒソ声で言った。
「…カウンター攻撃の一種…」
カウンター!!
「か、かっけーー!!」
「そんなことできるの!?」
テレサはヒソヒソ声で語りだす。
「…カウンターは結界が壊れれば発動されない。今まで私の結界は脆く、一撃で破壊された。しかし小さくして手に密着させたことで強度が増した。カウンターが発動して魔獣の攻撃が跳ね返った」
すごぉーい!
「ただ全ての攻撃を受けるのは無理だった。いつもより怪我は増えた。しかし成長は見込めるだろう」
「でもよテレサ、あんな反射神経あったのかよ!?すごかったぜ!」
テレサがさらに声をひそめて、ニヤリと笑う。
「毎日看守の攻撃を見極め、即座に最小限の結界を張っていた成果」
そうそう、テレサは看守に殴られる時、クッション型の小さな結界を肌に貼りつけるんだよね。
「ね、ねえ、なんでずっとヒソヒソ喋ってるの?ま、まさか…」
「間抜けな看守共に制裁を下しただけ」
看守にもカウンターくらわしてたー!
「よ、よくバレなかったね?」
「間抜けだから」
辛辣〜!
ていうか、囚人は看守を攻撃できないはずでは!?カウンターは抜け道だったとか!?
◇◇◇◇◇
今日はターシャが最後に牢に帰ってきた。
「ターシャ!大丈夫!?」
「うん、大丈夫だよ〜。あ、私が最後?ちょっと魔力消費に時間かかっちゃったの。今日は色々失敗しちゃったなぁ…」
怪我はいつもと同じくらいだったみたいで、私もほっとした。
「最初だけこっそり見てたよ。羽には泥がつかなかくて残念だったねぇ…」
「そうなの!難しいね。近接戦闘やってみたけど…やっぱり怖かったぁぁ…」
そうだよね…私だって怖いけど、どうしてもステータス低下を挽回しなきゃいけないから、捨て身になってるだけだもん…。
「結局いつもの距離で戦っちゃった…。それから泥ばっかり作ってたら、魔力消費が少なかったみたい。石化の魔法を使わないからかな」
シーラが自分のおでこを叩く。
「ああー、そんなデメリットが!泥はイイと思ったんだけどなー!あたしらも考え足りなくてゴメン。でもそっか!ターシャは石化の魔法が得意なんだよな!なんかうまく使いたいよな」
「…魔獣の口の中に石化の魔力を送り込んでみれば」
「「「ええっ!?」」」
ターシャがおっかなびっくり聞く。
「そ、それ…やったらどうなるの?」
「不明…実験して」
テレサ…実験させたいだけでは…。
「えー、口の中が硬くなる?口が閉じなくなったりして!?つか、何で口の中?」
シーラの疑問にテレサが答える。
「甲羅は防御が堅い。口の中が弱点。」
たしかにそうだなぁ…。
「口の中に石化の魔力かぁ…噛まれる時につっかえ棒すれば、できるかな?」
な、なんかターシャ乗り気なんだけど!ヤバくない!?
「ちょ、ちょっと待って!それって魔獣がブチ切れるんじゃないの!?」
「「「……………。」」」
「わ、私には…実験する勇気ないかな…」
ターシャが青い顔をして苦笑いした。
第25話お読みいただきありがとうございます。結界防御からのカウンター!いいですね!テレサは結界の魔法しか使えません。占いは魔法なのかなんなのか自分でもわからない模様。唯一使える結界魔法はしょぼすぎて、普通に使っても全然役に立ちません。戦闘は防御と回避に偏って、テレサも恐怖を感じにくい方なので、成長が遅いです。これからどんどん成長していけるといいですね。




