14日目 武闘派
「あたしは武闘派になるぞー!」
シーラが拳を振り上げて声高に宣言した。
「武闘派って?魔獣と殴り合いするの?」
私がポカンとしていると、シーラが得意げに胸を張る。
「昨日回避の練習したじゃん?あたしけっこうデキるし、もっと体動かして戦いたいなーって思ってさ!」
シーラは普段、雷撃を打ち込みまくって、魔獣の動きを鈍らせながら戦ってる。それで十分うらやましいと思うけどなぁ…。
「あと、やっぱバフも習得したいよな!素早さアップしたり怪力になったりさ!」
「あはは。魔女っぽくないけどシーラっぽいなぁ」
「シーラちゃん…本当に魔獣と殴り合いしてみようなんて、思わないでよ?」
ターシャが心配してる。シーラって本当にそのくらいやっちゃいそう。
「んじゃー、なんか魔法と組み合わせらんないかね?マイアみたいに火が得意なら、炎のパンチ繰り出すのになぁ!」
あれは手が大惨事になるよ…トラウマだよぉ…
「雷撃パンチじゃダメなの?」
「あん?感電すんだろ!」
そっか、やっぱり…。言っておくけど炎パンチだって火傷するんだからね、シーラ。
テレサが呆れた顔をして言った。
「…耐電気の魔法を忘れてる」
「そーか!その手があったか!すっかり忘れてた!」
耐電気の魔法?あ、耐火の魔法みたいなやつかな?
シーラはてへって顔をする。
「雷撃始めた頃に教えてもらったんだよな!最近はヘマしなくなったから忘れてたぜ」
シーラが拳に耐電気の魔法をかける練習を始めた。私も練習すれば、炎パンチできるのかな?魔力暴走の時のトラウマはあるけど…火傷しないなら、炎パンチしてみたいかも…。
ターシャがシーラを心配して止めようとする。
「ええっ、ねえ…本当に魔獣にパンチするつもりなの?そんなに近づいたら危ないよぉ」
「…魔法は距離が近い方が威力が高まる」
テレサがシーラを援護しちゃったよ。
「何っ!?じゃあ雷撃パンチできたら、めっちゃ強くね!?」
あーあー…すっかり乗り気だよ…大丈夫かなぁ…私も心配になってきちゃった。
◇◇◇◇◇
鍛錬の時間が来た。
今日はウェンディは、同房の子たちにもバフをかけられるか確かめるって。
私はシーラの雷撃パンチを見たいけど、今私はよわよわ〜だからなぁ。心配も迷惑もかけたくないから、遠くから見てみようかな…。
鍛錬が始まって、私はこっそりシーラの近くへ行った。
「うおらあああっ!!!」
ビリビリビリッ!!
本当に雷撃パンチやってるぅぅ!!かっこいい!!確かに雷撃の威力は強まってるみたい。魔獣のマヒが強くなってる。シーラは次々に雷撃パンチを繰り出してる。強いなぁ!
なるほどぉ…私も炎パンチできたら…でも炎にマヒの効果はない…つまり、近づいてパンチをするのは極めて危険だ。
結論、やめよう。
そんなことよりも、私はトゲタローに一言物申さねば!
(トゲタロー!!どこー!?)
あえて師匠とは呼ばん!!
ブブーンッ!
『ん?アイツは?音楽家!』
(ああ、今日は別行動)
『ちぇーっ!楽しみにしてたのに!』
もうすっかりファンじゃん。
(それより約束して!私が勝ったらステータスを返すって!!)
『何だよ急に?』
(私、優しいから、無意識にトゲタローに自己治癒力とかあげちゃったんだって!感謝してよね!)
『おー、ごっそさん。けど返せって言われてもよ、返し方わかんねーぞ?どーすんだ?』
(私もわかんない!でも約束してくれたら、もしかしたらできるかもしれないじゃん!?)
『ふーん?別にいーけど?どうせオメーが勝つことなんてねーから』
(いいから、約束するって誓え!)
『わーったわーった!誓うよ!オメーが勝ったら返す!』
(よし、修行開始だ!)
『弟子が宣言すんじゃねーよ!』
今日はムチを改良してみる。長いと危ないから短めにしよ。5本の糸を編まずに炎のムチにする。前は切れないように編んだけど、奪い取られた。今回は、あえて切れてもいいようにする。
(食らえっ炎の5本ムチ!!)
ビュンビュン振りまわしちゃうぞ!
(返せ返せ返せ私のステータスぅぅーー!!)
『うおおっ気合入ってんな!それでこそ我が弟子!』
(弟子じゃねぇぇぇっ!!)
バシィッ!!
トゲタローについにムチが当たった!
『ふん。威力はまあまあだな』
はぁ…ウェンディもいないからなぁ。でもムチを短くしたから、前のムチより近距離になってる。それで威力が上がるなら、ステータス低下しててもプラマイゼロ?
トゲタローが前足でムチを掴んだけれど、すぐに切れて、私はすぐに修復した。
『なるほどな。前のよりはいいかもな』
そうしてしばらく戦った。で、私、ボロボロ。やっぱり短いムチは近距離で危なすぎる!
「あああもう!ヤケクソだー!!」
拳に耐火の魔法をかけて、炎で覆う!
「食らえっ!炎のパンチ!!!」
既に間近にいたから思いっきり横っ面に食らわした!!
『ぐおおっ!あっっぢぃぃぃっ!!!』
おおお!なかなかの威力じゃん!
『〈キュア〉!』
そうだった…トゲタローにはコレがあるんだった…。
『へへ…いいパンチ持ってんじゃねぇか…』
何そのセリフ…。
「もう一発食らえっ!!!」
今度は避けられた。くそっ!!こうなったら!!
「炎のキーーーック!!!」
『グギャッ!!』
ヒット!!キックはリーチが長いもんね!へへん!
『やったな、こんにゃろっ!!』
「どわあああっっ!!!」
…こうして私はさらにボロボロのケチョンケチョンになった。至近距離で戦うんだから、当たり前だよね、うん。
しかも何度も耐火に失敗してしまった…練習してないからね、うん。
◇◇◇◇◇
「また主任に冷水を浴びせられたいか?」
コールが般若の顔で言った。
「…反省シテマス…」
私は両手両足を大火傷していた…。
「何故こうなったのか簡潔に言え」
「炎パンチと炎キックした…肌を魔法で守るの何度か失敗しちゃった…」
コールが呆れて額を抑える。
「何だその幼稚な攻撃は…ステータス低下中だというのに何故そんな馬鹿な真似をしたがるんだ」
私は目を泳がす。
「ちょっと…武闘派に触発されちゃって…」
「誰だその馬鹿は」
何?シーラのことをチクれっての?
「私は仲間は売らない!!」
コールの目が死んだ魚みたいになったよ。
「あのな…………もういい」
◇◇◇◇◇
治療室の前で、ウェンディを見つけた。
「ウェンディやっほー!どうだった?」
ウェンディはちょっとしょんぼりして答えた。
「んー…バフはかかったんだけど、思ったよりは効果が出なかったぁ…」
「えー?何でだろ?」
ウェンディは同房の子たちに、元気の出る曲、悲しい曲、怖い曲を演奏したんだって。皆効果は感じてくれたんだけど、ウェンディから見た感じでは、私ほどじゃなかったらしい。
「反応もイマイチだったなぁ…。マイアさんは、泣いたり怖がったり、すっごくしてくれて、演奏家としては、とっても嬉しかったよぉ」
ん!?それって…
「もしかして私に効果が高かったのは、共感性のせいかも!?」
ウェンディがハテナマーク浮かべてる。
「共感性ってなぁに??」
「なんか、感情移入みたいな。私は生まれつき共感性が異常に高くて、感情移入しやすいんだって」
「へぇぇ!じゃあマイアさんは私の音楽に感情移入してくれてたんだねぇ!えへへ、うれしいなぁ」
ウェンディがぱぁっと顔を輝かせる。喜んでもらえて私もうれしいなぁ。
「てことは…ウェンディの魔法は、やっぱり気持ちを届けてるって感じなのかな?魔力を身体に巡らせるのとは違うんだね」
「皆にも、もっと気持ちを届けたいなぁ…。演奏家としての表現力を磨かなきゃ!」
おおお…ウェンディがプロの目をしている!ボサボサ前髪で隠れてよく見えないけど!
「がんばって!ウェンディは絶対才能あるもん!将来有名になる前に、サインもらっとこっかな?」
ウェンディがえへへ、とはにかんだ。
◇◇◇◇◇
「へへーん!雷撃パンチ、うまくいったぜー!」
牢に戻るとシーラがやんちゃっぽくウインクして報告してくれた。
「見たよシーラ!かっこよかったね!私もマネしたけど、何度か耐火に失敗しちゃって、火傷だらけ。へへ」
「ははは!あたしもめっちゃ感電したわ!もっと練習しなきゃなー。でもさ、威力はマジで上がった!!」
「うんうん!!すごいマヒさせてたね!私の炎パンチも、威力強かった!」
ターシャが涙目で反論する。
「もー!二人とも!なんてことするのぉ…危ないからやめてって言ったのに…」
「まあまあ!そんな心配しなさんなって!実験も必要だろー?」
シーラ…実験とかいって…絶対これからもアレで戦うよね。
「ふむ…至近距離の戦闘は魔法の威力だけでなく恐怖も上がり、成長を早めるのでは…」
テレサがメモしながら言った。
なるほど!?成長がより早まるのか!今の私に必要なことじゃん!うーん…今日の戦闘はなかなか辛かったけど…耐火を失敗しなければ、もう少しまともに戦える。ボッコボコの傷だらけにされるだろうけど…防御に徹するより、よっぽど成長が早いだろうなぁ。
テレサがメモをパタンと閉じて言った。
「ふむ…私は結界に守られるため恐怖が足りず成長が遅い。私も大胆にリスクを取ろう」
テレサ、何をするつもり!?
「テレサちゃんまで!危険なことはやめようよ〜」
「ターシャ、リスクを取らねば取り残される。私達は先に出所させてもらおう」
「なななな…!?置いてかないで〜!!」
テレサったら!ターシャを泣かせないでよね!
第24話お読みいただきありがとうございます。はい、みごとに皆、武闘派に触発されちゃいました。無鉄砲でおバカさんな部分となんとしても早く出所したい気持ちのせいかもしれませんね。どうなることやら。生暖かい目で見守ってくださいませ。




