11日目(2) ステータス譲渡
目覚めると、治療室じゃなかった。
…あれ?ここ、どこ?
ぐるりと見回して、わかった。わかりたくなかった。
「オハヨー、Mi11948」
久しぶりのクルールだ…。
「な、何で私…ここに?」
「チョーット、大事なお話があるデスヨ」
だ、大事なお話?
「わ、私、何かマズイことしました?」
クルールがズズイッと身を乗り出してカッと目を見開く…!なななな何!?
「…とーっても…マズーイことに、なりマシタ、ヨ?」
ひええええ!な、何なの!?怖すぎる!!
「サアサア、こっちに来てくだサーイ」
起き上がる。う、力が入らない、だるい。
「体が重いのかなァ?」
「は、はい…」
なんとか起き上がった。ベッドから降りて立とうとして、失敗した。看守に引っぱり上げられる。
何でこんなに体が重いんだ…。支えられながらようやくクルールの前の椅子に座った。
ハァ、ハァ。息が切れる。どうしちゃったんだ?
「アララ。困りましたネー。治療は終わってるデスけどネー」
「な…何で…こんなに…疲れてるんだろ…」
「その理由は、すぐにわかりマス。これ見てネ」
クルールが機械の画面を私に見せた。
これは、私のステータス?
「……………!!??」
ステータスが、また低下してるーーー!?
「な、な、な…!?」
「低下しちゃったネー」
魔力も精神も体力も…!!だからこんなに疲れてるの…!?
「ま、まさか、またトゲタローに…!?」
「ちがいマス。今度はこれ見て」
二種類の棒グラフ。左は私だ。棒グラフが減っていく。同時に、右のグラフが、増えていく。誰のグラフ!?
「ダーレダ?」
クルールが画面にタッチした。右のグラフの持ち主の名前が、現れた。
Wd42333 "ウェンディ"
「え、えええええ!?」
な、な、何で!?ウェンディに、ステータス、吸い取られた!?
「な、な、何で、ウェンディが…」
「ウェンディがやったのではありマセン、君が、やったデス」
「わ、私が?」
「君が、自分から、ウェンディに、ステータスを譲渡した、デス」
えええええ?私が、自分から!?
「そ、そんなこと、するわけ、ないじゃないですか…!」
「そうデスヨネー。でも、それ以外に考えられないノ!」
何で!?
クルールは、ため息をついた。
「ゴメンネー。トゲタローの時に、その可能性考えたデスけど。確証なかったから言わなかたノ」
クルールはもう一度、画面を見せた。今度は、今日の鍛錬の映像だ。私とウェンディが映ってる。私は、時々、オレンジ色に光ってる??
「これ特殊なカメラで撮影したデス。このオレンジ色、何かわかるカナ?」
何でオレンジ色に光ってるんだろ?私は首を振る。
クルールは、ニヤリと笑って、注射器を見せた。毒々しいオレンジ色。あ、前に注射された、栄養剤!
「この栄養剤で、君の魔力に着色したデス。君の魔法がいつ、どう、使われるか、見るためデス」
「げーっ!やっぱり騙してたの!すんごい色だと思ったらーっ!」
まったく!変なもの打って!
ぷんすかする私に全然かまわず、クルールはまた画面を示す。
「見ててネー」
私が二度目の懲罰を受けたシーンだ。魔獣がウェンディの肩に噛み付いた。私は懲罰が終わっても、動けないでいる。私から淡いオレンジの光が出て、魔獣の方へ向かいかけたが、消えた。会話の魔法で挑発しようとして失敗したのが、こんな風に映ってるんだ。
そして魔獣がウェンディを投げ飛ばした。
その時、私の体がパッとオレンジ色に光って、スッとウェンディに流れ込んでいった。直後、ウェンディが強力な風魔法を放った。
「あ、あれ?この時、私はもう、魔力切れで…感情が暴走した気はするけど、何もできなかったはず…」
「正確には、魔力はわずかに残ってマスヨー。ウェンディに対して、何かの魔法を使ってるのは確かデス。身に覚え、ナイ?」
「はい…」
「では、無意識ネ。無意識に、ステータス譲渡の魔法を使った、デス。君の脳内チップ、この瞬間に、ステータス低下を記録してマス。ウェンディを助けるために譲渡した、デスネ」
「そんな…ステータス譲渡なんて魔法、あるんですか?」
「聞いたことないネー。君が初めてじゃないカナ?」
そんなバカな…。あるかどうかもわかんない魔法を、無意識に使ったっていうの?しかも、自分がますます弱くなっちゃうのに!そんなことあるわけないよ…。
「フフフ。信じてないデスネー。ムリもないデス。私だってビックリしたもんネー。でもこの結論に至った理由が、ちゃーんとあるのデスヨ?では、解説してあげまショー!」
クルールは両腕を広げた。
なんか楽しそうだなぁ…。私はダルいし混乱してるし落ち込んでて余裕ないデスヨ…。
「君のこと、チョット調べさせてもらいまシター。まずは、君の基礎パラメータから見てみまショー!」
「基礎パラメータ?」
画面にMi11948 "マイア"の、基礎パラメータが表示される。項目と数字がいっぱい。一般的なステータスと違って、項目がたくさんある。
なになに?記憶力58、読解力45、応用力61……うーん?これっていいのか悪いのかよくわかんない。
「基礎パラメータというのはー、生まれつきの性質や才能を表す数値デスヨ。これを見れば、その魔女がどんな人か、だいたいわかっちゃうデス」
へえ?そんなのあったんだ。個人情報筒抜けだぁー…。
「君の学力や魔力に関するパラメータ、どのくらいだと思いマスカ?」
クルールがニヤニヤして聞いてくる。
「え…そりゃ、落ちこぼれの中の落ちこぼれですから…ひどいんでしょうね…」
「ではでは、君のパラメータを、魔女の平均値と比較してみまショー!」
やめてぇー!落ち込むのわかりきってるからぁ!!
非情にも、私のパラメータの青いグラフと、平均値の赤いグラフが、重ねられていく。
…………ん?
どれもほとんど変わらない…ほぼ平均値?
「見て!変わらないでショ!君の主要パラメータは、どれも平均くらいなのデスヨ」
「何で?どういうこと?」
「落ちこぼれ魔女は普通、パラメータを見たらわかるものデス。でも、君のパラメータは、落ちこぼれのモノとは思えないのデス!」
?????
「君が落ちこぼれなのは、おかしいのデス!」
ビシッと私を指差す。
はあ?
「え、私って、何かおかしいの?」
「君は本当は、落ちこぼれではなかったということデス。誰かにステータスを譲渡したから落ちこぼれになった。そうとしか考えられマセン!」
私が誰かにステータスを譲渡してた?はあ?誰に?
「ハイ、チョット、次はこれ見てネ。学園時代の君のデータ」
「学園時代の!?何でそんなのあるんですかー!?」
「わざわざ取り寄せたのデスヨー!感謝しなさいヨー?」
ええ…プライバシーの侵害だよぉ…感謝しなきゃいけないの?
「君は入学当初、落ちこぼれじゃなかったのに、年々、成績が悪くなっていったネー」
あー、そうだったかも。最初は自分が落ちこぼれだなんて思ってなかったような…。成績のグラフが右肩下がりだ…悲しくなるなぁ…。
「そして、季節ごとの健康診断のデータ、デス」
「そんなのまで取り寄せたんですかぁ!?」
ちょっと!この国にはプライバシーというものがないんですかね!?
「これ気付いてマシタ?時々ステータスが下がってるノ」
えっ!?
本当だ…グラフがガタガタしてる…。知らなかった。先生に何も言われなかったけど?
「ステータスが下がるのって…よくあるんですか?」
「ナイ!」
笑顔で断言されちゃった。
「ステータスは、成長していくものデス。低下することはないのデス。だからコレおかしい」
そんなばかな…。担任の先生、気づいてくれなかったのかな。
「低下の原因は、ステータス譲渡デスネ。きっと君は、友達にステータスを譲渡していたんじゃないカナ?」
「な、何で友達に、ステータス譲渡なんて…。そんなことするわけないじゃないですか…自分が弱くなっちゃうのに!」
クルールは腕を組んで首をかしげる。ジーッと私を見つめる。そ、そんなに見つめないでぇ…目が不気味で怖いんだよぉー…!
「ホントに?」
「ホントです!こんな地獄みたいなムショならともかく、平和な学園でそんなことするわけありません!」
クルールは斜め上を見て何か考えてる。
「フーム、何か危険なこと、事故、なかたデスカ?」
私が覚えている限りそんな出来事はない。
「いいえ、ありません。ごく普通の平和な学園生活でした」
クルールはまた何か計算をするように指を動かしながら、考えている。
「コドモ…共感性…無意識…ステータス…シェア…フム、このことは考えておきまショー。それよりデスネ、私見つけたデス!君、ナカナカ面白い性質持ってるデスヨ!」
クルールが急にテンション上がってビビる。なんなの。
「面白い性質…?」
「もう一度、基礎パラメータ見るデス」
"マイア"のたくさんの棒グラフが並ぶ。記憶力、空間把握、動体視力、感情表現…などなど…平均値から大きくはずれるものはない。
クルールが画面をスクロールしていくと、一つの棒グラフが、ニョキーッと、突出していた。
「ハイ、コレ、なーんダ?」
私にも、特技が!?
見ると、"共感性"と書かれていた。
「共感性って、何?」
「共感性とは。他者に感情移入する能力、デス。人の喜び、悲しみ、苦しみ、痛みなどに共感し、分かち合う、デス。君の共感性の数値は、なななんと、97!!」
97って、どれくらいだろ?
「平均値は約30、デスヨ!最高値は100デス。君はほとんどマックス!とびきり飛び抜けてマース!」
へえええ?
「んーと?共感性が高いと、何なんですか?」
「共感性が高い人は、優しいデス」
………。
………。
「………は?それだけ?」
ていうか私別に優しくもないけど?
「ンー?他に?友達できやすいネ。よかたネ」
え…友達、多かったかな…?別に普通じゃないかな…。私はとくに優しくなんかないし、エリートのいけ好かない子なんかとは仲良くしなかったもん。
「ちなみに私クルールの共感性は3、デス!友達0、デス!でも魔女はみーんな被験体に見えるから、寂しくないデスヨ」
うへぇぇ、3て。被験体て。さすがマッドドクター…。
「共感性高すぎると、チョト困ることもアルネ。魔力暴走、とかネ。今日Wd42333"ウェンディ"のピンチに、感情昂ぶって魔力暴走するところでしたネ。初対面なのにネ!不思議ネー…理解できまセン。キミ優しいネー」
クルールが私をてっぺんからつま先までジロジロ見る。
「ええ?別に優しくないって。初対面だけどさ、あんなひ弱そうな子がいきなりこんな地獄に放り込まれてズタボロにされてたら、助けたくもなるでしょ」
「なりませんネ。魔女はフツウ初対面の人に感情移入しないヨ」
え゛っ…マジで…?私だけなの…?いやクルールが共感性3しかないからじゃん…?
「デスが今日は暴走するほど魔力残ってなくて、よかたデスネー。代わりにステータス譲渡しちゃたけどネー。共感性高いと何でもシェアしちゃうのカナー」
シェアって…。私損しかしてないじゃん…。
「あれ…それじゃ、魔力暴走の原因は、共感性の高さってこと?」
「そう思うネー。アー…前回の暴走では…あの感情の嵐……アアア……フフ……ヘヘヘへ……」
クルールが私の記憶を追体験してどっかに飛んでってる。まったく!
「おーいちょっと!戻ってきてよ!」
クルールの顔の前でぶんぶん手を振ると、目をパチクリしてる。
「ン?………何でしたッケ?…アー、そうデスネ…焦りや罪悪感も強かったカナ。そうそう、君の基礎パラメータ、"責任感"も高いデス」
また基礎パラメータを表示する。責任感は…76かぁ。
「君、落ちこぼれのくせに、責任感が強すぎ、自分を責めすぎる、デスネ」
…落ちこぼれのくせにって、余計じゃない?
でもその通りかも…。
「それから"自尊心"低いネ。12。平均値50デス」
「じそんしんって何だっけ?」
「自分を大事にする気持ちヨ。基礎パラメータは、生まれつきの性質。君、生まれつき、自分を大切にしない。その上、落ちこぼれだから、余計にその傾向、強くなってるネー」
う…あー…それはその通りだなぁ…。落ちこぼれでも、生まれつきの自尊心が高ければ、自分を大切にできるのかな。あ、シーラなんてそんな感じかも。自信があってかっこよくていいなぁ…私もシーラみたいになりたいな。
「自尊心低くて友達大切、だから自分のステータスあげちゃうのカナー。共感性高い、責任感強い、自尊心低い、それがステータス譲渡の原因ネ」
うーん…そうなのかな。なんか納得いかないんだけど。
私は特別優しくなんてないし、ステータスあげたいなんて絶対思わない。誰かが鍛錬でピンチになったって、殺されはしないってわかってるんだし。
「いやちょっとまって、ステータス譲渡なんて魔法は無いのに、無意識にそんな魔法を作って使ったってことですよね?そんなの、ありえないでしょ!?」
「魔法は誰かが作るモノ。コドモが作ることもアル。世に言う天才ネ」
て、天才…!?!?私が…!?!?え、えへへへ…?そんなことってある?
「でも能力を人にあげる魔法とは、ネ…。バカと天才は紙一重」
ディスられてた…。ええ、わかってましたとも、天才なんかじゃないことは…。
「どうせ私は落ちこぼれの大馬鹿者ですよ…」
「それはチガウ。見せたでショ。基礎パラメータ。学力魔力ホントは平均値ネ。生まれつき バカだったら魔法作れないヨ。キミが落ちこぼれたの、学園で友達にステータス譲渡したからにきまってマスネ」
え…ああ…そういえばそんなこと言ってたっけ。はあ…疲れてる上に話が難しくて混乱してきた…。頭痛い。顔をごしごしする。
私は、本当に、自分のステータスを友達にあげてたのかな…?それで、結局、こんなムショで地獄を見るハメに?…バカだなぁ、私。
…なんか泣けてきた。
クルールがごそごそして、クッキーか何かを食べだした。クルールも食事するんだ…。ロボットじゃなかった…。
「もぐもぐ。ハイ、君も食べるのデス。夕飯食べてない」
おお、クルールが、クッキーをくれた!
「あ、ありがとうございます」
ムショで初めてオヤツを食べた!もぐもぐ。甘い!おいしい〜!!涙が出てくる!!
「キミ、人が好き、人と一緒に食べる、美味しいネ?」
まさか慰めてくれてるのかな!?クルールが!共感性3のクルールが!?
「私にとっては、餌やりデスが」
餌やりだった!被験体だもんね!餌デスよねー!
「ステータス譲渡やめたいネ?自分を大切にしたいネ?どうしマスカ?」
「もぐもぐ。うん…どうしたらいいですか?」
「君の長所、活かしなサイ」
「長所?」
「共感性、責任感、友達大事にする。スゴイ長所。人のために生きる。人を助けずにはいられない。しかし、弱者に弱者は助けられない。なぜ、強くならない?人を助けたいなら、まず、自分が強くならなくては、イケナイ」
「それは、わかりますよ…。弱くて何もできないから、悔しいです。強くなりたいですよ!…なのに、ステータス譲渡なんかしちゃって…どんどん弱くなっちゃって…何でこうなるんだろう…?」
「バカだからネ」
ズバリ言われた。
「君、バカだから、目の前のことに、とらわれる。将来設計できない。モッタイナーイ」
えー…そうっちゃそうだけど…身も蓋もない…。
「ええと…どうしたらいいですかね?」
「そーだネー、強くなりたいって思てるのにネー。目の前で友達がピンチ、ついつい、助けちゃうネー。もっともっと、強い決意が必要、デス!」
「強い決意?」
クルールが私の両肩をガシッと掴んだ。
「心して聞くがイイ…」
え、な、何!?
「君、このままでは、永遠に、この刑務所から、出られませんヨ!永・遠・に!!」
………………え?
なななななーっ!?
「そそそそそんなーーっ!!な、な、なんで…!?」
クルールが嘲るように笑う。
「簡単にわかるコトではないデスカ…。おバカさんデスネ…。君は今日、新入りに、ステータス譲渡しまシタ。そして、これから先、どんどん新入りが入ってきマス。さあ、どうなるか、わかりますネ?」
「ま、まさか、その度に、ステータス譲渡、してしまう…?」
「その通りー!」
ガーーーーンっ!!
「そんな…バカな!?」
「マイア鍛錬成長、新入り入所、ステータス譲渡。マイア鍛錬成長、新入り入所、ステータス譲渡。マイア鍛錬成長、新入り入所、ステータス譲渡。……」
「いやぁぁぁぁぁぁーーーーっ!地獄!!それじゃ、一生、出所できないじゃないですかーっ!?」
「だからそう言ってるじゃないデスカ…」
クルールは肩をすくめて、呆れてる。
「どどど、どうしたらいいんですかー!?」
「ステータス譲渡しなければいいじゃないデスカ」
「わかってますけど!自分でも全然知らずにやってたんですよ?無意識でやってたことを、やらないようにコントロールできるんですか!?」
クルールが不気味な目を見開いて迫ってくる。
「出所したいダロ…?新入りを見捨てるのダ…!新入りが、泣いても、叫んでも、死にそうでも、見捨てると、決意するのダ!!」
「うわぁぁぁ!厳しいぃぃーーーっ!」
私は頭を抱えた。
そうしたいよ?したいけどさ!?実際目の前で、新入りがそんなんなってたら…耐えられる!?今日だって、ウェンディを見捨てるなんて、できた!?
くそぉぉぉっ、この、共感性めぇぇ…!
「ド、ドクター…共感性を下げるって手はないんですか?」
クルールはあっさり首を振る。
「基礎パラメータ、イジる方法無いデス」
「ええっ!でも、ステータス譲渡の魔法だってなかったんですよね!?パラメータを変える魔法だって作れるのでは!?」
「パラメータを変えたい魔女、山のようにいマス。皆、強くなりたいデスからネー。でも誰も成功してまセーン」
「譲渡ならできるかもしれませんよ!?私の共感性、誰かに譲渡します!あ、ドクター!!あなた3しかないんでしょ!?ちょうどいいじゃないですか!半分あげますよ!!」
クルールはズザッと距離を取った。
「ちょっ、やめなさいヨー!いらないヨ!」
「何でですか何でですか!共感性は大事ですよ!人の痛みに共感できないなんて、ダメですよ!」
追いすがる私、さらに距離を取るクルール。
「うるさいデス!私、生まれながらの研究者!共感性上がったら、あんなことや、こんなこと、できなくなるじゃないデスカー!」
「あんなことって何だ…マッドドクターめ…!」
クルールが落ち着きを取り戻して座った。
メガネをクイッと上げる。
「フゥ。君の基礎パラメータ、出生時と、変わってマセン。豊富な才能、持っているのに、今まで誰にも譲渡できなかった、というコト。これからも、ムリでショウ」
え…そうなの…。ちぇっ。
「パラメータ譲渡の魔法ができないか練習してみようかな…」
「基礎パラメータをイジること、オススメしマセン。脳に重大な欠陥が生じる可能性、高いデス」
「の、脳に!?そうなんですか!?」
「脳を損傷すると、パラメータに異常出る。治癒すればパラメータも戻る。パラメータイジる、脳、危険。治癒でパラメータ戻るしネ」
ぐぬぬ…やめるしかないか…。
「基礎パラメータは、特別。なぜなら、女王サマが直接、一人一人、決めたから。誰にも変えられないデス」
「え…。女王様が、決めた…?私のパラメータも?何で?何でこんなパラメータにしたの?何で私みたいな欠陥品作ったの?」
「魔女に欠陥品なんてありません」
クルールがピシャリと言い放つ。
いやに言い切るな…慰めてるつもり?それとも実は女王崇拝者…?
「全ての魔女は、実験体!全ての魔女に未知の可能性!時に常識を覆すミラクルが!君も将来、歴史に名を残す偉大な魔女になるかもしれない!」
な、なんかヘンな演説聞かされてる…洗脳されてる!?
「…というのは私の見解デスガ。本当の所は女王サマにしかわかりまセーン。女王サマ、天才デス。アタマのデキ、私達と全然違うデス。私は女王サマ、研究したいデスヨー」
女王様を研究って…とんだマッドドクターだよ…不敬罪に問われないの?
はぁ…女王様がパラメータを直接決めたなんて…殴り込みに行って問いただしたい気分…。
「さ、パラメータのことは忘れて、心を強く持ってくだサーイ。新入りを助けたい誘惑に、勝つコトデス」
それを頑張るしかないのかぁ…。
「君が新入りにステータスあげて助けても、そのうちその子は、中級クラスに行くデス。そこで結局ボコボコにされマス。君はその時、そばにいないデス。ネ?意味ないでショ?君、意味ないことして、人生ムダにしようとしてるんデスヨー」
「なっ!そっか、そんな問題があったんだ!本当だ…意味ない。私、ステータスあげても、意味ないのか…!」
うわぁぁ…そうじゃん。私、うっかりしすぎ。なんてバカだったんだろ…。
「君、ステータス譲渡して、大怪我ばかり。刑務所の医療費膨らんでマス!まして、永遠に出所できなければ?誰が君の餌代、医療費、払うと思ってるデスカ?……税金デスヨ!国民の血税なんデスヨ!!」
ガガガガーーーーン!!!
「私…なんて大迷惑なんだ…!!そんな金食い虫になりたくない…!!」
「本当に人助けしたいなら、さっさと成長して出所しなサイ。外の世界に、困ってる人たくさんいるデショ。ここでは囚人は死なない。でも外ではたくさんの魔女、魔獣に殺されてマス。貧困に苦しむ落ちこぼれ、たくさんいマス。君、ここで何やってるデスカ?さっさと出所しなサーイ!」
はわぁぁぁーーっ!その通りだぁー!
「私…早く社会に出て、人の役に立ちたいです。何でそんな大事なこと、忘れてたんだろう…バカだ…ごめんなさい」
クルールが手をパンッと叩く。
「それがわかれば大丈夫デスネー。さ、さっさと成長して出所するデース。囚人をさっさと出所させるのが私の仕事デース。バーイ!」
私はさっさと部屋から追い出された。
第21話お読みいただきありがとうございます。クルールの話し方、読みにくくてごめんなさいm(_ _;)m彼女は天才ですが、魔女研究にパラメータが極振りされているので、あちこち欠落があって、カタコトなのもそのせいなのです。
さてマイアが少し特殊なパラメータを持っていたことが判明しましたが、マイアの実感とはズレています。これがどういうことなのかは、後々わかってきます。




