8日目 炎のムチ
「ね、皆。数年後に魔獣が大暴走するって話、聞いたことある?」
私はコールに聞いた話を、皆に聞いてみた。
「何それ?本当の話なの?」
皆、知らないみたいだ。
「治癒師のコールってやつが言ってた。女王様が予言したんだってさ。コールは女王崇拝者だから、そんな嘘言わないと思うけど」
「マジ!?魔獣の大暴走!?何でそんな重大な話が、広まってないんだよ?」
シーラが叫ぶと、テレサが、ふーむ、と思案して言う。
「民衆のパニックを防ぐために、広めない可能性もある」
なるほど。そうかもしれないなぁ。
「ええぇ、もしここを出所できても、魔獣に襲われちゃうの!?」
ターシャが泣きそう。私も泣きたい。
「ていうか、数年後って、あたしらがここにいる間に起きる可能性もあんのか!?」
あ、たしかに。特に私はそうかも…コールにも言われたっけ。
「ふぇぇぇ!?それって、ここにいる鍛錬の魔獣も、暴走するのかな!?!?」
ええええ!?それは考えてなかった!!
「えーっ何だよそれ、マジで勘弁しろよ…」
シーラは怖いというよりも、うんざりって感じで白目をむく。テレサが冷静に言う。
「鍛錬用魔獣は高位魔女が管理してる」
「じゃあ、大丈夫ってこと?」
私が聞くと、テレサはすました顔で言った。
「予測不可能」
そんな冷静に言うことじゃないよぉぉ。
…トゲタローに聞いてみようかな?何か知ってるかも??
◇◇◇◇◇
ブザーが鳴る。
「全員、戦闘準備!」
私は今日は、火の玉を無闇に投げないで、糸を作る。なるべく長い糸を3本。邪魔にならないよう、体に巻き付けながら作ろう。
魔獣たちが飛び込んできて、戦闘が始まって、囚人もバラけてくる。私は適当にうろうろしながら、糸を作り続けた。
トゲタローを見つけた!
「(やい、トゲタロー!今日こそ、返してもらうからな!)」
我ながら、小者っぽい台詞だ…ぐすん。
『おうおう、師匠に向かって、何て口の利き方しやがる』
「(誰が師匠だーーっ!今日こそ勝つ!!)」
『ケッ。威勢だけはいいな。いいぜ、かかって来いよ!』
あ、私まだ糸を作りたいんだよね。今、ようやく3本できたところ。これを操作して編まなくっちゃ。
そうすると、火の玉攻撃してる場合じゃない。どうしよっか?
「(あ、ちょっと待った!あのさ、数年後に魔獣の大暴走が起きるって、知ってた!?)」
『あん?何だそりゃ。知らねぇな』
「(女王様が予言したらしいんだよ)」
『ああん?お前らの女王なんか、知ったこっちゃねえ。ケッ。予言だとぉ?うさんくせぇ』
「(じゃあ、年々、魔獣が凶暴化してるっていうのは?)」
『そりゃ、そうだな』
「(えっ、そうなの!?)」
『おうよ。オレぁ、6年生きてっけど、年々強くなってるぜぇ』
「(それって、成長って言うんじゃないの?)」
『ケケッ。さあな。けどよ、周りの奴らも、年々、力がみなぎってくるとか言ってやがるぜぇ』
…じゃあ、本当なのかな。
『おい、無駄話は終わりにして、修行だ修行!弟子のくせにサボってんじゃねぇ!』
「(弟子になった覚えはなーーーい!)」
トゲタローに気づかれずに3本の糸を編み終わった!
ここからは、炎玉で戦って、隙をうかがおう。
「食らえっ凝縮炎玉!」
いつものように戦闘が始まった。なんとかトゲタローの攻撃を避けながら、炎玉を食らわせる。トゲタローは時々キュアを使って治してしまう。
…どうやって隙を作ろうか…。
昨日のように頭に噛みつかせるって手には、もう引っかからないだろうな。何たってトゲタローは知能が高くなってるし。
トゲタローに隙なんかない。私の方がよっぽど隙だらけ。すでに傷だらけ。まだ骨折はしてないけど。体力がなくなっていくから、そのうち回避に失敗してしまう。早くなんとかしなきゃ。
うあっ!!よろけてしまった!
『隙ありぃっ!』
腕に噛みつかれる!!ええい、やけくそ!
「トゲタロー、危ない、後ろ!!」
トゲタローがビックリして振り返る。
隙ありぃぃっ!!!
撚り合わせた糸を操って、素早くトゲタローの羽に向かって飛ばす。両方の羽をまとめて縛ってやる!グルグルグル!
そして思いっきり締め上げる!
ギュゥゥゥゥッ!!
『うおおおおっ!?』
トゲタローがバランスを崩して、床に落ちた!やりぃ!
『クソっ!だましたなぁっ!?卑怯者!!』
「ははんっ!こんな手に引っかかるなんてね!おバカさーんっ」
トゲタローはじたばたしている。
『ウガーッ!クソ!!おい、燃やしたらタダじゃおかねーからな!!』
「うーん、それより、糸の強度を知りたいな。全力で暴れてみてくれない?」
『こんにゃろっ!師匠を実験台にしやがって!!やってやらぁ!!』
トゲタローは、すんごい唸り声をあげた。
『ぬうううううんんんっっ!!!』
ブチッ!ブチブチブチッ!!
うわぁぁぁおっ。糸がちぎれていくぅぅぅ…
『ハアッハアッ。どうだ!師匠の力を思い知ったか!!』
私は素直に拍手をした。パチパチパチ。
「はぁ…力作の糸だったんだけどな。たしかに師匠はすごいよ」
『そうだろう、そうだろう。やっとオレを師匠と認めたな』
「(別に認めてないしー。あまりにも必死で可哀相だったから呼んであげただけだしー)」
『素直じゃない弟子だ!』
「(あ、糸の燃え加減を知りたいな)」
床に落ちた糸を燃やしてみた。たしかに、前より燃え方がいい。
『ウゲッ。羽を燃やされなくて良かったぜ…。まあ、どうせその前に引きちぎってやったけどな!』
「(強がり言っちゃって!)」
『さあ修行再開だ!』
こうして私達の修行は続いた…。
いや修行って何だよ…まあ鍛錬は修行だけどさ…トゲタローに言われたくないよ…。
◇◇◇◇◇
「糸はうまくいったんだけど、巻きつける隙をうかがうのが、難しいや!」
牢に帰って、皆に報告した。
ちなみに今日はボロボロにはなったけど、トゲタローがキレてないので、昨日よりマシだった。
それでも、治療室から帰ってきたのは私が最後だったけどね…。
「たしかにそーだろーなぁ…。あたしだったら雷撃でちょっと動きを鈍らせるけどな…マイアの凝縮炎玉じゃ、ムリ?」
「うん、全然ムリ。だからって、口の中に入れたりしたら、キレられるし。何かいい方法ないかなぁ」
「皆で助け合って戦えたらいいのにねぇ」
ターシャがしゅんとしてる。
ちなみにターシャは最近、怒りや悲しみを思い出しながら魔法を使ってるんだって。そうしたら土玉も土壁もは硬く丈夫になったって!噛み付かれそうな時は、棒を作ってつっかえ棒にするんだって!めっちゃいいアイデアだ!!テレサが考えてくれたらしい。
テレサ、私にも何かいいアイデアを!!
私がテレサをうるうるした目で見ていたら、テレサが期待に応えて口を開いた。
「練習あるのみ」
ガクッ!!
「まあまあ〜、それもあるけどさ、なんか新しいアイデア考えんのも楽しいじゃん?」
そうそう、シーラの言う通り!
テレサが仕方なしにため息をついて、目を閉じた。ブツブツ言って、何か考えてるのかと思ったら、呪文を唱えてる??
カッ!!
テレサの目が見開く!何!?
「見えた!マイアが鞭を振り回している。炎の鞭だ」
「ム、ムチ!?炎のムチ!?」
急にどしたの!?私は糸で縛る隙がほしいんだけど!?
「あんだよ?どゆこと?糸でムチ作んの?糸は燃えんだから、ムチなんて作れねーじゃん?」
シーラがケチをつけると、テレサはツンッとそっぽ向いちゃった。
「そこまでは知らない。あとは皆で考えて」
丸投げされちゃった!
ターシャがうんうん唸って考えてくれる。
「糸をなるべく長く燃やせば、ムチを作れるかな?今日の糸は何秒くらい燃えた?」
「何秒?うーん、10秒くらいかな」
シーラも意見を出してくれる。
「あれじゃん?耐火の魔法!糸に耐火の魔法をかけたら、燃えにくくなるんじゃん!?」
「ふへ?それじゃ、燃えなくなっちゃわない?でも、やってみようー!」
今日は、耐火の魔法の再現が少しできるような気がしてきたとこ。それなら糸に込めれば、完全な耐火にならず、燃えすぎず、ちょうどいいかも。
私は糸を用意し、四苦八苦しながら、耐火の魔法をかけてみた。
火をつける。
「あ、ああー…燃えにくい…」
ショボショボと燃える。少し時間がかかって燃え切った。
「ショボいな!!」
シーラにズバッと突っ込まれた。
「てゆーか!フツーに燃やすんじゃなくてさ、マイアの魔力を燃やせば?糸に魔力を染み込ませたりして」
ほーほー。
糸に燃える魔力を染み込ませ、火の玉を燃やすのと同じ感覚で燃やしてみた。
ボッ。
終了。
「…一瞬で燃えちゃったよ…」
何か思いついた顔のターシャが笑顔で手を挙げる。はい、ターシャさん。
「はい!二つを組み合わせたら?耐火の魔法と、燃える魔力。糸は耐火で守って、それを燃える魔力で覆うの」
ふーむ?ちょっと私のバカな頭ではよくわかんないぞ?
とにかくやってみるか?なになに?糸は耐火。それで…
「ん?糸には耐火の魔法をかけちゃったよ?燃える魔力は、染み込ませるんじゃなくて?」
「覆うの。コーティングって感じ?」
ほうほう!できるかな?
糸を燃える魔力で覆ってみた。
「点火!」
ボオォォォッ。
「おー!?いー感じじゃん!?」
耐火の魔法が未完成なので、糸は段々焦げて、消えていった。
「いいかも!耐火の魔法が完成すれば、ムチになるよね!?」
私は俄然やる気が出て、夢中で耐火の魔法を練習し始めた。
ターシャが苦笑いしてる。
「マイアちゃんったら…身を守るために耐火を習得するはずだったのに…攻撃手段になった途端、こんなにやる気出して練習しちゃってる…」
「てゆーか、魔獣を糸で縛る戦法はどこ行ったんだ…」
ううーん、たしかにそれも魅力的なんだよね。でも今はムチ作りに夢中になっちゃって。
しばらくの後、私の耐火の魔法はかなりマシになった!これぞ情熱の力!
3本では細いので6本の糸を編んで、ちょっと時間をかけて耐火の魔法をかけ、燃える魔力でコーティング。端は持ち手にするので、燃やさない。
「ご覧あれ!」
ボオオォォォォッ!
すばらしい!ちゃんと燃え続ける!
壁をムチ打ってみる。
バシィッ!
「うおおおっ!かっけーじゃん、マイア!」
「私の予言通り」
テレサが満足げに頷いてる。
「えっへへー!皆、ありがとね!あ、そうだ、火を凝縮してなかった!」
火を凝縮!
おお、激しくカッコイイ炎のムチだ!
「マ、マイアちゃん、気をつけて…」
「あ、そうだよね!こんな狭い牢で炎のムチなんか振り回して、皆が火傷したら大変!」
「そ、そうじゃなくて…」
クラッ。
「マ、マイアちゃんっ!!」
…あ…
「…魔力…切れ…忘れてた…」
…鍛錬後なのに…バカだ…
「……夕飯…食べ損ねる…」
ガクッ。
「飢え死にしようとした奴とは思えねぇ遺言だな」
◇◇◇◇◇
「キサマ…私に殺されたいのか!」
ヒィィィィィッ!!コールに殺される!!
「申シ訳アリマセン…」
「私の終業時刻は過ぎている。帰る寸前にお前のせいで呼び戻された!」
目が!目が怖ぁぁい!射殺される!!
「私の残業代を、お前の飯代から差っ引いてやる!」
やめてぇぇぇ!!ただでさえ夕飯食べ損ねてるのに!
「申シ訳アリマセン…誰か…他の人は…いなかったんですか…」
コールはどこか遠くを睨みつけて、奥歯をギリリと噛みしめる。
「あいつめぇぇ…夜勤のくせに、職権乱用して私を使いおって…ふんぞり返って酒など飲みやがって…許さん…!!」
こええええ…!コールにも先輩がいたのか。コールをこき使うなんて図太い神経してるな…。
私はこの後しばらくコールに罵られ続けた…。
日頃の鬱憤を八つ当たりされた気がする…。
今までで一番怖かったよ…。
いや、いいんだ…コールは人型の魔獣…コールは人型の魔獣…ほんと、魔獣にしては優しいよね。
第17話お読みいただきありがとうございます。マイアは弱さをなんとか補おうと試行錯誤しています。果たして炎のムチはマイアの手に負えるのか…!?




