7日目(2) 女王崇拝者コール
…あぁ、またこの人か…。名前…コールだっけ。
「…週に1日しか休まないんですか…週5日くらい休んだらいかがですか…」
この冷徹な目…怖〜い。
「キサマは仕事を何だと思っているんだ」
あ、おべっか使っとこ。
「あなたは、せっかくこんなに素晴らしい治癒の腕を持っているのに、こんな落ちこぼれ囚人なんかにその腕を使うのはもったいないと思います」
コールは気持ち悪いモノを見る目で見てくる。
「ハピドキシンが抜けてマトモになったかと思ったが…妙な方向におかしくなったか」
「べ、べつに。ただ純粋に疑問に思って。こんな刑務所なんかより、もっといい職場があるでしょ?もっと給料が高くて、たくさん休みがもらえる、いい職場が」
転職してくださぁぁい。
「私は私利私欲のために働くことなどしない。女王陛下のため、国のために働くのだ。私がここにいるのは、お前らのためなどではない。女王陛下の崇高な理念にお仕えするためだ」
うわぁ。目が据わってる。やばぁい。
「…へぇ…女王陛下万歳…」
私が言うとコールは嫌そうな顔してる。別に馬鹿にしてるんじゃないよ…あんたが怖いから言ってるんだよ…。
「あのー、私のようなバカには、陛下の崇高な理念ってー、難しくてよくわかんないんですけどー。この刑務所は、その理念のためにあるんですかー?」
こういう時に卑屈にへりくだって、相手を逆撫でするのが私の悪い癖だ。コールは頬をピクピクさせてる。
「前に言ったはずだが?落ちこぼれの犯罪者に女王陛下が温情をかけて下さり、鍛錬をして成長させるのだと」
「でもでもー、あなたみたいに才能のある人がー、わざわざこんなとこで働かなくてもいいのではー?」
コールは腕を組んで、いらつきを吐き出すようにため息をついた。
「世界中の魔獣が年々、凶暴化しているのだ。女王陛下は、数年後に、魔獣の大暴走が起こると予言された。お前たちは、国のため、陛下のために、強くならなければならない」
「え…」
魔獣の大暴走…?そんな話、初めて聞いた。
「女王陛下は、お前たちが、魔獣と戦うか、戦う者を支えられるよう、強くなることをお望みだ。私はその計画の駒となるべく、ここにいるのだ」
…ぽかーん。
…出所しても、魔獣と戦うの?
…でも私は出所できたとしても弱いだろうから、後方支援、か…?
事態をよく飲み込めていなくて、私の頭は混乱したままだった。やっとただ一言だけ絞り出した。
「…がんばります…」
「お前のステータスでは、それまでに出所できるかどうかもわからんがな」
…ハッ!私のステータス!!
「あ!私のステータス、見せて!」
コールが画面を私に向ける。
…この数値…どれも…低下したままだ…。
…ガーーーーーン!
…トゲタローぉぉぉぉ!!返せよぉぉぉ!!
私は悔しさにむせび泣いた。
コールが呆れている。
「まったく。何を今更泣いているんだ。せいぜい鍛錬に励め」
くっそぅ、トゲタローめ…!必ずや、必ずや取り返してみせる!!
そこへ、フェイさんが通りかかった。泣いている私を見て驚いて、心配そうにしている。優しい。でもこれは悔し涙だから、心配しないでほしい。自分が情けない…。
フェイさんは、恐る恐るコールに話しかけた。
「あの…コール先輩、お疲れ様です。交代しましょうか?」
「必要ない。自分の仕事をしろ」
うわー、いかにも恐い先輩って感じ。
「ええと、少し、この子と話をしてもいいですか?」
「は?何用だ」
「昨日、気になることがあったので」
「何だ。私に言え」
フェイさん、優しいなぁ。大丈夫だと伝えたいけど、口を挟めない。コール怖すぎ。
「一昨日、ハピドキシンの副作用で幻覚症状が出て、昨日も鍛錬中に幻覚が出たそうです。クルール先生が診て下さいましたが、今日はどうかと思いまして。この子はクルール先生を怖がって、言おうとしないんです…」
あああ…そのことか…どうしよう。幻覚じゃなかったなんて、言えない…いや、言わなきゃいけないのか?
コールは電子カルテをチェックしているみたい。頭の上にはてなマークが浮かんでいるような。クルールは何も書いてないのかな?
「ふむ…幻聴?お前、今日も幻聴があったか?」
「アリマセン」
私はしらを切ることにした。嘘は言ってない。だってあれは幻聴じゃなく、現実だったんだから。
「キサマ、なぜ嘘を吐く」
なっ!嘘じゃないって!睨まないで!
「嘘じゃありません」
「ではなぜ心拍数が大幅に上がっている?」
私につながれた心拍モニターが嘘発見器さながらに跳ね上がっている!嘘じゃないのに!
…よし、ここは冷静に誤魔化そう。
「幻聴だと思ったけど、ドクタークルールによると、私は無意識に魔法を使ってたんだって。それで変な音が聞こえただけ」
「無意識に魔法を?何を聞いたんだ?」
「べっ、べつに大したことじゃないよ…」
「目が泳ぎすぎだ。心拍数、発汗量、呼吸数大幅上昇」
いちいち細かいとこまでモニターしないでよ〜!余計に焦るでしょうが!
「もーっ!言いたくないの!以上!!」
ぷいっ!!
顔をそらしたら、コールが指をポキポキ鳴らす音がする。
「ほぉ…隠し立てするとはいい度胸だ。よほどやましいことがあると見える。選択肢をやろう。喋るまで懲罰を受けるか、喋りたくなるまで懲罰を受けるか、喋れなくなるほど懲罰を受けるか。選べ」
「全部懲罰じゃん!?喋れなくなるほどって、ほんまつてんとーじゃん!?」
コールが無言で右手に魔法陣を浮かべる。
「わわわわ待って待って!わかった喋る!喋るから!!…え、え、えーっと…そのぅ…」
どうイイ感じに切り出そうかと言い淀んでいたら、コールが見るからにイライラしてきた。
「何なんださっさと言え。そんなに懲罰を受けたいのか」
「あーもう!魔獣の声だよ!魔獣と話してるの!」
「…………は?」
「クスリでラリッてた時に魔獣と話してる気になってて、クスリが切れた今もソイツと話せるんだ」
二人がポカーンとしてる。まるで時が止まったみたい。
「…………お前…………とうとう頭がイカれたのか…」
コールが残念なものを見る眼差しで見下ろしてくる。そこに憐れみなんてもんはない。
そういう反応するってわかってたから言いたくなかったんだよぉ、もう!
「せ、先輩…そんな言い方…。マイアさん、だ、大丈夫ですよ、きっとクルール先生が治してくださいますから…」
フェイさんがなだめてくれるけど、クルールは面白がるだけで治してなんてくれないんだよぉ…。私は死んだ目で苦笑いするしかなかった…。
◇◇◇◇◇
「ただいまー」
皆はもう牢に戻ってて、私が一番最後だ。今日はクルールに呼ばれなかったけど、私が一番大怪我だから、私が一番遅いんだ。
「「「おかえり」」」
皆が、おかえりを言ってくれる!なんか嬉しいなぁ!あったかい。
「マイアちゃん、今日は早く帰ってきてくれた!よかったぁ」
ターシャが抱きしめてくれる。天使だー!
「えへへ。クルールの所へ送られずにすんだからね。ああ、皆が笑顔で出迎えてくれる!なんて幸せなんだろ!」
「ぶっ!マイア、あんた、よくそんなこっ恥ずかしいこと言えるね」
シーラが苦笑いしてる。
「そんで、糸で戦う作戦はどうだった?」
「あ!うまくいったよ!羽に巻き付けたんだ。でも向こうの力が強すぎて、私が引っ張られちゃった。結局噛み切られちゃって、悔しいから糸燃やしてやったよ!」
「へええ!おもしれぇなぁ!」
「糸を燃やす…いい発想」
「マイアちゃん、かっこいい!」
皆、目を輝かせてくれる。
「なぁ、力で負けて引っ張られるならさ、羽と胴体とか、羽と羽を巻き付ければ?」
「おお!たしかに!…でもそうすると、もっと糸を長くしなきゃ足りないかな?」
メモしとこう!って、メモとペンなんか持ってないよ。なんでいつもテレサは持ってんの?
「テレサ、私のためにメモしてくれない?」
「了解」
テレサはメモしてくれた。
「今度は戦闘中に糸を作れるようにならなきゃなぁ。けど太い糸作るの、すっごく集中力が要るから、戦闘中になんてできない気がする…。でも普通の糸じゃ簡単にちぎられちゃうなぁ…どうしよ…」
「マイアちゃんは普通の糸なら戦闘中にも作れるの?それなら…」
ターシャが、自分の赤毛の三つ編みを手に取る。
「こんな風に、三本作って、編んでみるのはどうかな?」
「ん?なるほどー!いいね、それ!ターシャってば、天才!!」
「え、えへへ…」
ターシャが赤くなってはにかむ。かわいい奴め!
私は糸を作って編んでみる。これは簡単だ!鍛錬が始まってからでも作れそう!
シーラが乗り出して糸を指差す。
「お、なんかそれ、燃えやすそうじゃね!?」
「ほほほう!たしかに!」
編んだ糸を床に置いて燃やしてみる。普通の糸より燃えやすい気がする!
テレサが頷きながらメモして言う。
「興味深い。実験、報告求む」
「オッケー!」
ああ、楽しいな。皆のおかげで、笑って過ごせる。こんな、地獄のムショでも、少しの間、こうして笑っていられたら、頑張れるなぁ。
え?ステータス低下?私はバカだから、多少のことは、忘れて笑っていられるのだ!バカでよかった!う
ん?ステータスが低下したからバカになったんだっけ?じゃ、ステータス低下のおかげ…?
うん、よくわかんなくなってきた!まいっか!
第16話お読みいただきありがとうございます。コールはウゲェなヤツですが、女王にそうなるように作られたので仕方がないので許してやってください…。ではマイアが女王を好きになれないのは…女王はそう作ったのか…?さてさてどうなのでしょう…答えをマイアが知るのはかなり先になるかもしれません。




