7日目(1) 糸
私が…トゲタローの下僕だとぉぉぉ…!!
私は憤慨していた。
ステータスを吸い取られて、そのうえ下僕…いやせめて配下と呼ぼう。配下にさせられるとは!
この恨み…晴らさでおくべきか…!!
「私は…強くなりたい!!」
「おー、どうしたマイア。昨日は落ち込んでたと思ったら、ずいぶんやる気出てんじゃん」
トゲタローの話は皆にはしていない。魔獣の配下にされたなんて、そんな話できるかぁぁぁっ!泣きたい。
「何としても、魔獣に一泡吹かせるんだ…!」
メラメラと闘魂を燃やす私を、ターシャがなだめようとする。
「マ、マイアちゃん、昨日の夕飯も食べ損ねてたし、無理しないで…」
そういえばあの毒々しいオレンジ注射は、効果あったんだろうか?栄養剤とか言ってたけど、とくに元気にはなってない…。やっぱりまた騙されてんのかな…。
「ステータスも低下してる」
テレサまで心配してくれてる。無表情だけどわかるよ。私、皆に心配かけすぎだなぁ…。
「はぁ…ただでさえ弱いのに、ステータス低下だなんて…」
「絶対ヤクのせいだろ!マジで麻薬だったなんて、ありえねぇ!あのヤブ医者!」
クルールは薬のせいじゃないって言ってたけど…信用できないよなぁ。でもトゲタローのステータスがアップしてたのもおかしい…。やっぱり吸い取られたんじゃないか…?皆には言えないけど。
「早く鍛錬に行きたい!ステータスを取り戻さないと!」
トゲタローから取り返すんだ!
「マイアちゃん、そんなに焦ったら危ないよ」
「そうだぞー!気持ちはわかるけどさ、ステータスは一気に上げられるもんじゃないんだから」
いや…鍛錬してステータスを上げたいんじゃなくて、トゲタローから取り返したいんだよ…言えないけどさ…。
火の玉をもっと強くできるようにならなきゃ…。昨日、鬼コーチに『耐火の魔法』を腕につけてもらったから、自分で再現する練習をしてるけど、なかなかできないんだよね。火傷しないように耐火の魔法を使えるようになりたいけど、今はもっと攻撃手段を磨きたいよ…!
トゲタローに一泡吹かせるにはどうしたらいいんだろう!?
「何か…何かできることないかな…炎の凝縮はできるようになってきたけど…他にできることないかな…」
「裁縫」
わっつ?何言ってんの?テレサ。
「その顔は…やはり忘れてる」
無表情の中に呆れが混じるテレサの顔。シーラも苦笑いしてる。
「ラリってる時に話したじゃん。マイアは裁縫が得意だから、戦闘に使えたらいいよなーってさ」
「うーん?たしかにそんな話…したような?糸を使って戦うの?どんな風に?」
「マイアは糸を操るのも上手くなったし、魔獣を縛れたら、かっけーじゃん!」
おお!そりゃいいなぁ!
私は指先から糸を出してみる。細い…。
「こんな細い糸じゃ、すぐ切れちゃうかな…」
「太くできねーの?」
むむ…集中して糸が太くなるように念じてみる…。ぬぬ…ぬぬぬぬぬ…。少し太くなったけど…2本分くらいかな。出すのに時間もかかる…。
「うーん、戦闘しながら太い糸を出すのは難しそうだなぁ…」
「今作っちゃえば?」
「え?そっか!そうだよね!」
手をポンと叩く私を、ターシャがあわあわして止める。
「看守に見つかったら没収されるし怒られちゃうよ」
「そうなの?何で??」
「武器になるもの、先に作っちゃダメなの。えーと何でだっけ…?」
ターシャの問いにテレサがスラスラと答える。
「鍛錬中以外に魔法を使うのは禁止だから。鍛錬中に恐怖の中で魔力を使うことが成長への一番の近道だという理屈」
…なるほど。
「でもよ、糸なんか隠し持っててもぜってーバレねーし、いんじゃね?試しにやってみなよ」
…言えてる。
「うん、試しにやってみよっかな」
私は鍛錬の時間がくるまで集中して丈夫な糸を紡ぐことにした。
そんなことしてたら、めっちゃ疲れた…。鍛錬前にかなり魔力を消費しちゃったな。看守にバレたら怒られそう。こんなに疲れるのは、ステータス低下のせいなのかな。あーもう、トゲタローめ!
◇◇◇◇◇
待ちに待った鍛錬の時間!
私はトゲタローを探して走り回った。こっそり準備した糸を隠し持って。
「(見つけたぞ!トゲタロー!!)」
今日はちょっと小声で話すことにする。
『よぉ、早かったな!ケケケッ、そんなにオレに会いたかったのかぁ?』
「(あのねぇ!あんた私のステータスを吸い取ったでしょ!!)」
『はあ?何言ってんだ?てか何でヒソヒソ話?』
「(あんたと大声で話してたら、周りから変な目で見られるの!)」
『カッカッカ!そーだろぉなぁ!この変人〜』
むかぁ!
「(そんなことより!最初に話した日!私のステータスが下がって、トゲタローのステータスが同じだけ上がってたんだよ!)」
『へええ!?マジ!?だから急に力があふれたのかぁ!』
「(しらばっくれちゃって!あんたが吸い取ったんでしょ!)」
『えー全然そんなつもりなかったけどぉ?でも結果的にそうなったなら、そうなのかもな!ごちそーさん!』
「て・め・え!返しやがれ!!」
『ケケケケ!だーれが返すか!悔しかったら奪い返してみろ!』
「勝負だ!私が勝ったら、ステータスを返せ!」
『ケッケケケ!お前が勝つなんて、天地がひっくり返っても、ありえねーな!』
「てえええい!」
私は凝縮炎玉を放った。トゲタローの甲羅が少し焦げる。
『へへん。〈キュア〉!』
キラッと光って、瞬時に焦げ跡が消える。
「もーっ!ずるい!私から奪った能力で獲得したスキルじゃん!」
『ケッケッケ!おかげさまで。あんがとよ!』
そう言いながら噛み付こうとしてくる!全然感謝してねぇ!
避けてもう一度炎玉!するとまたキュアで治される。
何度もそれを繰り返す。
くそぅ。これじゃ埒が明かない。
糸を使うために、少し隙を作らせたいのに。
『お遊びはこんくらいにして、本気で行こうぜぇ!』
トゲタローがスピードを上げてきた!
う、回避回避回避!キツイ!牙や爪が当たって傷だらけだ。それに、回避に集中してたら魔法が使えない!
「もう、こうなったら…!」
トゲタローが腕に噛み付こうと、口を大きく開ける。
私は避けずに、頭を口に突っ込んだ!
ガブリ!
なんとか左手で、首をかばった。
トゲタローは、動かない。
『うぐ…頭は思い切り噛みつけないようにされてんだよなぁ…クソ!』
私はこっそり右手で糸を取り出し、魔法で操る。トゲタローの左羽を狙う!私の頭は口の中だから、何も見えないけど!ただがむしゃらに、羽に糸を巻きつけるイメージ!
トゲタローが、私の頭を離した。
よし、糸は左羽の周りにあるぞ!
グイッ!!
思い切り引っ張る!!
『うおっ!!??』
トゲタローがよろけて、ギョッとする。
「やりぃ!」
『な、何しやがった!?』
トゲタローがあわあわしてる。
「ぷぷぷ!教えなーい!ぶざまなトゲタロー!」
『てめぇー!いい気になってんじゃねぇ!こんなん全然効いてねぇから!』
トゲタローは、ブーンッと力強く羽ばたいた。
うわわっ!こっちが引っ張られる!全然意味ないじゃん!くっそー…!
『ははーん!糸だな?噛み切ってやる!』
ああ!切られた!
くそー…やっぱりまだ力不足か…!
いや、あきらめるもんか!
絶対絶対、勝たなければ!!
私のステータス、返しやがれぇぇ!!
「凝縮炎!糸を燃やせぇっ!!」
糸全体に火を纏わせ、凝縮させる!
『ウギャァァァァッ!!』
羽が炎に包まれる。トゲタローが絶叫した。うぅ…なんかごめん…!!でもお前にはキュアがあるし!
トゲタローが床に転がり、もだえる。炎が消える。羽は焦げていたが、なくなってはいなかった。ほっ。いや、魔獣相手にほっとしてどうする。でもトゲタローにあんまりひどいことはしたくない。
「ト、トゲタロー、大丈夫…?」
『ぐぐぐ…てめぇ、やりやがったなぁぁ…!?』
ギロリッ!トゲタローの目がヤバイ…お怒りだ…!!
『〈キュア〉!!』
キラッと光って羽がキレイになった。トゲタローは元気にまた羽ばたいた。ほっ。いや、ほっ、じゃないよ。トゲタロー様はお怒りなんだから。ヤバイぞ。
『よくもオレの自慢の羽を…!落ちこぼれのくせに!後悔させてやる!!』
うおおおおおっ!逃げろ逃げろ逃げろー!
『逃がすかぁっ!!』
うああっ!捕まった!肩噛まれたぁっ!
そして…いつもの蹂躙が始まった…。
でもとりあえず闇雲に魔法を放ってたら、早めに魔力切れが訪れた…。鍛錬前にだいぶ魔力を使ったからだな…。
『ふん。もう魔力切れかよ。だらしねぇやつ!明日からオレ様が猛特訓してやる!ビビって逃げんなよ!』
「…えっらそうに…。そういえばお前…リーダーシップが…急上昇してたんだ…。私はお前の…配下じゃなぁぁい…!」
『カカカカッ!リーダーか!いいな!オレのことは師匠と呼べ!お前は弟子だ!!』
ふっざけんなぁぁぁ…ぁぁぁ…
『…さっきの攻撃、なかなかよかったゾ。それだけは認めてやる…』
第十五話お読みいただきありがとうございます。こうして凸凹コンビの師弟ができあがりましたとさ。めでたしめでたし(^.^)/~~~
マイア「めでたしじゃなぁぁぁいっ!!」




