6日目(3) トゲタローの下僕
目覚めると、まだクルールの研究室にいた。
うえ…気持ち悪い…吐きそう…
クルールはデスクで機械にかじりついてる。
「フフフ…フフフフフフ…」
ねぇ、その不気味な笑い声やめてぇぇぇ?
私が起き上がるとクルールが私を見て、ニヤリと笑った。
「君はいまやトゲタローの下僕、デス!」
…はあ?
「な、何で私が…オェ…トゲタローの…げぼ…下僕なん…ですか」
看守がバケツをサッと出してくれた。手際がいい…この人は看守というより、ドクターの助手なのか?
「ササ、こっちに来てこれを見なサーイ」
クルールが見せた画面は、何かわからない数字で埋め尽くされてる。
吐き気がするよぉぉぉ!うっぷ。
「ちょっと吐きそうです…見てもわけわかんないし…」
「昨日、君のステータスの一部が減少してマシター」
え…ステータス?体力とか魔力とか知能とか?
「減少って…あんな麻薬なんか飲んだから?」
「チガーウ!私の出す薬は極めて安心安全デス!脳内装置のデータによれば、コトが起きたのは、君がトゲタローと"会話"した時、デス」
「えっ…私のアタマが…ますますヤバくなったってこと?」
「そうとも言えマスネー」
…マジか…。あんなおかしな幻覚のせいで、バカな頭がますますバカに…うわーん…
「魔獣bb-477、通称"トゲタロー"は、昨日、同じだけの能力が上がった、デス!」
「……………へ?」
クルールがグラフを見せる。"マイア"のステータスを表すいくつかの棒グラフが、縮んで行く。"トゲタロー"の棒グラフが同時に伸びる。
「な、何これー!?トゲタローに、私の能力、吸い取られた!?」
「フフフッ。魔獣にそんな力はないデスけどネー?鍛錬が成り立たなくなるじゃないデスカ」
…そりゃそうだ…じゃあ何でよ??
「君が失ったのは、魔力総量、魔法技術、知能、精神、自己治癒力、デス」
ノォォォォッ!私…こんなに頑張ってんのに…ますます魔力減って、弱くなって、バカになっちゃったのー!?
「トゲタローは同じだけの能力を得マシタ。そのおかげで、新スキル、治癒術〈キュア〉を獲得できたのデスネー」
ななな!私から吸い取った魔力や知能で!私だって治癒術なんて使えないのに!!トゲタローのやつ、ずるすぎるー!!
「それだけでなく、面白い変化もあったみたいデスヨー」
クルールが、トゲタローのデータを映す。
「トゲタローの攻撃性が減少し、好奇心、友好度が上がってマス。…つまり、トゲタローとの会話は幻覚でなく、本当に、会話が成立してる可能性が高いの、デス!」
「ええっ、本当に会話してた!?そんなこと、ありえますか!?」
「フフフ、君、〈魔獣と会話する魔法〉を使ったのかもしれないデスネー」
「えええっ!?そんな魔法使えませんよ」
「私もそんな魔法聞いたことナーイ。でもラリッて、無意識下で魔法を作り出した可能性はアルネ」
…まさかぁ。でも、それ以外に説明がつかないのか…?
「それにネ、脳内装置のデータによれば、君が"会話"してる間、一定の魔力が消費され続けてマスヨー。昨日も今日も、ネ!」
「それじゃ、私、本当にトゲタローと話して…友達になったの…?」
魔獣と話す変人になってるという大問題はあるけど、友達になれたのはちょっと…嬉しいかも?
「トモダチ?フフフ。トゲタローが君をトモダチと思ってるとは限らないデスネー」
…え、何それ。
クルールがトゲタローの棒グラフを見せる。何か一つがグーンと伸びてる。
「トゲタローのステータスで突出して伸びたのは…リーダーシップ、デス!」
リーダーシップ!?
「あの魔獣、バイツバグ種は群れを作りマセン。単独行動を好む種デス。どの個体もリーダーシップは0。でもトゲタローは昨日、リーダーシップが突然急上昇!君を群れの一員と認識したのデスかネー?トゲタローと君の、二人だけの群れ、デスネ。そして群れのリーダーは、君じゃなく、トゲタロー、デス!」
クルールが笑いを噛み殺してる。
「君はトゲタローの下僕、デス!」
「おいいいいっ!!トゲタローぉぉ!!なんてやつだっ!!」
クルールはとうとうお腹を抱えて笑いだした。
「クフ、クフフフ…非常に愉快なデータ提供ありがとデース」
「あいつめぇぇっ!友達…いやせめて…ライバルだと思ってたのに…」
ああー…怒鳴ったらめまいと吐き気が…。へたり込んでしまった…。
「うう…私は…魔獣と話す変人で…魔獣の下僕になって…能力吸い取られた笑い者…」
涙がボロボロこぼれるぅー…まだ後遺症が残ってるのか。
「まあまあー。そう落ち込まないで、ネ!」
ブスッ!
!?
クルールが突然私の左腕に注射器を刺した!!
「いだぁぁぁっ!?な、何すんの!!」
「元気が出る栄養剤デース。ちょうど夕飯時デスし。吐き気でご飯食べられないでショー?有り難く頂きなサーイ」
何この毒々しいオレンジ色の液体っ!!いやーーーっ!!
「変な液体を私に注射しないでぇぇっ!」
「私が開発した安心安全なモノデスヨー。ご飯食べるより、速くて元気出て、注射好きにはたまらない、一石三鳥のスグレモノ!」
いや注射好きって何!?!?アンタがやりたいだけじゃん!!
…ピコピコ…
『ずたぼろの おちこぼれまじょが なかまにしてほしそうに こっちをみている! なかまにしますか?
→はい
いいえ 』
トゲタロー『ああん?つかえなそーなヤツだな!けどまあいっか、オレ様の下僕第一号にしてやろう!カカカッ』




