ハッピーなおクスリ☆
「みんなー!たっらいまー!」
んー?なんだみんな、ぼけた顔しちゃって!へーんなの!
「あいたかったよぉー!みんなぁ、さっきはありぁーとねぇー!たすかったよぉー!」
みんなにギューする。わーい、みんなげんきそう。よかったぁ。
「マ、マイアちゃん…!?どうしたの?何かちょっと…いやかなり変だよ!?」
「んんー?へん?そうかにゃ?いつもといっしょらよ。みんなのおかげれ、とってもハッピーなだけらよー!」
「酒でも飲んだのかよ?」
シーラがクンクンする。シーラのサラサラヘアーがくすぐったい!
「きゃはーははは!くすぐったーい!」
「こやつ、ヤクをやったな」
テレサがこわーい顔してるぅ。
「ヤク!?おい、マイア!誰に飲まされたんだ!」
シーラが私の肩をつかんでガクガク揺するよぉー。
「んあ?おくすりのことー?くるーるにもらったんらよー。ハッピーになるおくすりらよー」
「クルール!マッドドクター。最低」
やだなぁ。この薬をくれたのは、クルールのゆいいつのいいとこなのに。
「おーい、看守!マイアがヤバイ!ラリッてる!クルールが変なモン飲ませたんだ!クルールを呼んで来いよ!」
シーラが鉄格子から手を振って看守を呼んでる。
「黙れ!クルール先生と呼べ。そいつのことは放っとけ」
「はあ!?」
警棒でシーラの手をはたいて、行っちゃった。
「いーのいーの。わたしはハッピーなんだからぁ。これで、まりょくぼーそーがおきても、らいじょーーぶ!」
「魔力暴走?」
「きのーの。あれ。そうゆーんらって。でも大怪我したの、わたしだけ。やっぱり死にたいかららって!」
「それで、『ハッピーなお薬』ってわけかよ」
みんなが、辛気臭い顔しちゃった。あーあー。もう、どうしちゃったのー?
ターシャがまた泣きそう!
「え、え、そんなのって…正しいことなの?マイアちゃんがこんな風になることが…?」
やっぱり泣いちゃった。
「ターシャぁぁぁ!泣かないれ?なんれ、なくのぉ?わたしハッピーらよぉ。もう死にたいきもちバイバイらよぉ」
シーラが怒ったような苦いようなへんな顔してら。
「けっ。むなくそわりぃ。これが解決策?ヤクでラリッてハッピー?冗談じゃねぇ!クルールの奴、許さねえ!」
テレサが目をそらした。
「自殺願望は一朝一夕で消えるものではない。マイアの身の危険を思えば、これが最善かもしれない」
「だからって!」
シーラは黙り込んじゃった。
わたしはこんなにハッピーなのに!みんな、どうしちゃったんだろ?うれしくないのかな?
「みんなぁ、うれしくないの?わたしハッピーなのに…ダメらった?」
ターシャがあわてて私の手をにぎってくれた。
「そんなことないよ!マイアちゃんが幸せだと、皆もうれしいよ。でも薬の効果がちょっと心配なだけ」
やっとほほえんでくれた!
「かわいー!わたしのてんし!しんぱいかけてごめんね?」
泣きながら笑ってる。天使の羽が見えるよう!
あっ!右腕にまだ布巻いたままだった。返して繕わなきゃ!
「これ、ありぁーと!ぬいぬいするねぇ」
「今はいいよ。魔力を使い切った後だから危ないよ。明日でも明後日でもいいから、気にしないで。私、背が低いから、丈がちょうどよくなったよ」
ふふふ、と二人で笑い合う。
◇◇◇◇◇
「おいひーねぇ、おいひーねぇ」
昨日も夕飯食いっぱぐれたからなぁ!余計に美味しく感じる!
「このクソマズイ飯をこんなにうまそうに食べる奴、初めて見た…」
シーラが呆れて首を振ってる。
んえ!?いつもよりおいしいと思ったけど、かんちがい!?気分がいいと、ご飯もおいしく感じるのかな?
「マイアちゃんがそんなに美味しそうに食べてると、私まで美味しいような気がしてきた…」
ターシャが美味しそうに食べる。ターシャがうれしそうでなにより!
「単純な脳が羨ましい」
テレサ…なんか失礼なこと言ってる!
でもまあ、皆、さっきよりは楽しそうにしてるから、いっか!
◇◇◇◇◇
今日はここに来て5日目!あーさわやかな朝だ!
私はターシャの囚人服の裾を縫い縫いしてます!あー、平和で楽しいなぁ。ふんふんふーん♪鼻歌がもれちゃう。
「マイアちゃん、楽しそうだね」
「うん!ぬいぬいたのしーい!」
「お裁縫が好きだから、織物工場に行ったの?」
「んー?そーだったかな?よくわかんにゃい。でも今は、すきぃ!みんなの役に立てるからねぇ」
シーラが近寄って縫い目を見る。
「お、前よりうまくなったんじゃね?」
「ほんと!?いえーい!」
今日はサイコーだなぁー!!
「マイア、火魔法より裁縫の方が得意なんじゃね?裁縫で戦えば?」
はあ?
「まじゅーをぬいぬいすんの?」
「マイアちゃんに変なことを吹き込まないでよ!」
ターシャがぷんぷんする。そーだそーだ!
「いや、裁縫で魔獣と戦えるとは思ってないけどさ。火の玉より、糸出してた方が、早く魔力消費できんじゃないの?」
「ほーほー。なるほろ?」
「戦う囚人たちの横で、糸を垂れ流し続けるマイアという構図…」
ククク…とテレサが笑う。
ブッとシーラまで吹き出す。
やっぱかっこ悪いんじゃん!
「でもよ、魔獣を糸で縛りつけられたら、めっちゃいいよな!」
それいーじゃん!私は指先から糸を紡ぎ出す。
「これでまじゅーをグルグルまきにしてやるー!」
「ま、魔獣は強いから、ちょっとこれじゃ、心配かな?」
ターシャは心配性だなぁ!シーラが手を叩いて笑う。
「夢があっていーじゃん!糸丈夫にしたり改善したらできんじゃね?マイア、頑張って練習しなよね。いつか役に立ちそうじゃん?」
魔女のロマン!がんばろー!
ん?なんかテレサが薄っすら笑ってる。
「今日の話をマイアが明日も覚えてればね」
「きゃはははぁ!そこまれおバカじゃないよぉー!」
皆が苦笑いしてそっと目をそらした。
えー?私ってそこまでおバカなのぉ?
◇◇◇◇◇
さあ鍛錬のはじまりだぁーっ!やっちゃうもんね、やっちゃうもんねー!
「今日はさすがに心配だからさ、皆でマイアについててやろう」
シーラが言って、皆がうなずく。
へ?何が心配なのさ?昨日のアイツは皆が目つぶししてくれて、もう大丈夫じゃん。
「きょうのマイアさまは、こわいものなしらよっ!」
「それが怖ぇーんじゃねーか。まったく。どーなることやら」
急に看守がきた。
「おいお前ら。散れ」
「は!?何でだよ!?」
「昨日助け合っていただろう。助け合いは禁止だ。恐怖が薄れる」
「あたしらは恐怖より怒りで対抗する!それなら助け合ったって別にいーだろ」
「怒りが恐怖の代わりになるとは証明されていない。さっさと散れ」
「ま、待ってください!マイアちゃんが、昨日変な薬を飲まされて、普通じゃないんです。近くにいさせてください!」
「黙れ。5秒以内に散れ。でなければ隷属魔術を行使する」
おー怖い怖い。まー言いたいことはわかるけどね。私が皆から離れればいいんでしょー。
「んじゃー、ばいばーい!みんな、がんばろーねぇ」
「ああっ!マイアちゃん…」
「くそっ!腹立つー!今日は魔獣をあの看守だと思ってボコボコにしてやる!」
「「私も!」」
◇◇◇◇◇
ビーーーーッ!
「全員、戦闘準備!」
ゴゴゴゴゴ…ギャオオオオッ!
うっわー、きっもちわっるーい!やだねやだね。さっさとおわらそうよ!
火の玉どんどん出すぞー!右、左、右、左!まだぜーんぜん届かないけどね!
あーもうここまで来た!周りに2人いるからちょうどいーや!
こんな魔獣の攻撃、余裕で避けちゃうもんねー!右、左、避ける!右、左、避ける!
「きゃはははは!たっのしぃー!」
あー!ハッピーの弊害!怖くないから、火の玉が小さいんですけどー!
怒りは?色んな怒りをぶつけよう!
…えーと?なんか思い出せない…
…まいっか!
…あ、そだ!凝縮の練習でもしよっかなー!
「ひのたまを…ぎょーしゅく…と」
ってそんなことしてたら、噛みつかれたぁ!肩!いだぁっ!どわぁぁぁっ!
「ぎゃふんっ!もうっ!」
いたたた…だめかぁ。それに、こんなまどろっこしいことしてたら、日が暮れちゃうよっ!
「やったなこんにゃろー!こうなったらぁ…」
火の玉…握っちゃえーっ!!
「熱っつぅぅ!!これでもくらえーっ!」
おっ魔獣め、凝縮火の玉食らって、ビクッとしたぞ?ちょっとは火傷したか?
「えっへっへ〜。どんどんいくよっ」
左手もやっちまえ!一度火傷しちゃえば、二度も三度も変わんないや!
「うらっうらっ!くらえっくらえっ!」
やっぱ痛ったっ!熱っつっ!でもなんかやみつき〜!止まらない〜!
「うわはははー!どうだー!」
魔獣がどんどんイライラしてる!やりぃ!ざまーみろー!
うわぁーっ!こっちばっか攻撃してくるぅ!
避ける避けるっ避けるけどさぁっ!そしたら魔法使えないから!
「しょーがないな!せーせーどーどー戦ってやるー!」
ビシィッと指差すと、その腕をガブリ。
「こらぁっ!ひきょーだぞっ」
すかさず凝縮火の玉を叩きつけたけど、だめだこりゃ。
ブルンブルン、ボキリ、ポーイッ!
ぐえっ!…はぁはぁ。
「これであきらめるマイア様じゃないもんねー!」
まだ左手があるもんっ!右腕折れてても、火の玉は出せるしー。
「ほらほら、こっちらぞぉー!」
魔獣が『まだやんのかよ!?うぜぇーこいつ』みたいな顔してら。ぷぷぷ。
「へっぽこまじゅー!くやしかったら、かかってこーい!」
魔獣がガウッと吠えた。
『言ったな?やってやらぁ!』
とでも言ってんだな。
「くらえっ!ひのたま!」
魔獣がブルッと体を震わせる。
『全っ然痛くもかゆくもねーよ!イライラすんだよ!』
ふふん。焦げ跡ついてるくせに!
「へっへっへ。つよがっちゃってぇ」
『強がってねぇぇぇ!!どこもダメージ食らってねえから!!』
「はっはーん?じまんのこうらが、こげてますけろぉ?」
『はぁぁ!?こんなのすぐ治るし!!』
「ぷぷーっ。みんなにばかにされちゃうねぇ?かわいそーっ!」
『てんめぇー!落ちこぼれのくせに!!』
「そのおちこぼれに、やけどさせられてるのはだあれー?」
『してねぇっつってんだろが!!てめーの手の方がよっぽど火傷してんじゃねーか!』
「こんなのべつにへーきらもーん」
『な、何で平気なんだよ!?頭おかしーんじゃねーのか!?』
「あひゃひゃひゃひゃ!そうかもねぇ」
『な、なんかコイツやべぇやつだ…』
「まじゅーのくせに、こわがってんのかぁ?よわむし〜!」
『こ、怖がってねぇし!てめーみてーなアホに関わりたくねーだけだよっ!』
とか言ってる間に、実はちゃんと戦ってた。散々あっちこっち噛みつかれて投げ飛ばされてボロボロ。
え?魔獣が喋るのかって?知らないよーそんなの。あいつに聞いてー。
「アホじゃないもーん、マイアらもーん。アンタは?」
『は?』
「なまえらよっ。なんてーの?」
『魔獣に名前なんかあるかよ!馬鹿か!?』
「えーっかわいそーっ。しょうがないなぁ、マイアさまがつけてあげよう」
『はあっ!?いらねぇわ!!』
「ツンツンしてるからぁー、トゲタロー!」
『変な名前つけんじゃねええ!!死ね!!』
「もう〜…かわいくないんらから〜…」
ポスンッ。
「あー…まりょく…きれたー…ばいばい…トゲタロー…」
なんか…トゲタローが…さびしそうにしてる…きがした…
◇◇◇◇◇
「んへへへへへぇ…とげたろぉ…こっちらよぉー…」
「気持ちの悪い寝言はやめろ」
…んあ?
「なんら?られ?ここはろこらぁー?」
だんだん焦点が合ってきた…治療室だぁー。またこの人だぁー。
「えへへへ…ちわぁーす」
「…脳の精密検査が必要か…」
「ほへぇ?べつにあたまいたくないけろぉ?」
「…………。」
眉間にしわ寄せちゃってー。ま、いつものことだけどー。
「それより何だこの手は」
私の両手を持ち上げる。あーあー。
「てへへ〜やけろしちった〜」
「な・ん・で!やめろって言ったのに、右手が両手に増えるんだ!それに重症だ!!」
「らって〜、ハッピーらから、こわくないんらもん」
「はぁ!?おまえ…いよいよおかしくなったのか」
「おかしくないよぉー、ドクタークルルーのおくすりにケチつけるのかぁー?」
「何を言ってやがる…仕方がない…先に頭を検査するか…クルール先生に連絡すべきか…」
治癒師がめずらしく頭かかえてるぅー。ぷぷぷ。
そんでまた通信し始めた。えーまたクルールのとこ行くのー?やだなぁー。薬だけくれよー。
「くるるーのとこいくのやらよー!こらー!つうしんやめー」
む!こいつめ、口をふさぎやがった!
「もがっ!もががー!」
しかたない…つかれた…ねよ。
◇◇◇◇◇
う…ぐるぐるする…
ぐるぐる…ぐるぐるぐる…
『フフフ…フフフフフ』
うげぇぇぇ〜…
パチッ
「んぎゃあああっ!?」
不気味な眼がぁっ!目の前にぃぃっ!?
「オハヨー、Mi11948」
なな何で?いつのまにクルールの所に!?
って、ここ、さっきの治療室だよ!?
クルールの方がこっちに来たぁぁぁっ!
「うひゃひゃ!なんれきたのぉっ!?」
「頭の検査しに来たデスヨー」
「うひゃー!ぐるぐるやめれぇー!」
「もう終わったデース!」
あーよかったー。さっきぐるぐるしたのそれかぁ。
「デ!脳は異常ナシ!」
「そんな…ではコイツは、素でおかしいんですか」
治癒師がゴミを見るみたいな目で見てくる!
失礼な!私はハッピーなだけで、おかしくなんかないよ!クスリのおかげだよ!
「素でおかしいのデス」
ってドクターぁぁ!?
「なにゆってるんらー!おかしくないらろー!くるるーのおくすりのせいらろー!」
笑ってやがる。
「フフフー。ジョーダンデース。昨日ハピドキシンを与えたからデース」
「え…そんなものを与えたのですか…」
「実験デスヨー。なんかヘンなデータとれマシター」
実験て…しかも変なデータて…何それ…
「へんなでーたてなんら?」
「フフ…フフフフフフ」
ゾゾゾーッ。
「デスガ、ハピドキシンはもうやめまショー。効きすぎマシタ。恐怖が消えて自傷行為が悪化してマス。魔力暴走が起きたら大変デース」
ええーっ!?そんなぁ!
「おくすりやめるのぉー!?いやらいやら!ハッピーなのがいいー!」
「ダメデース。グルグルの刑に処しマスヨー?」
うげっ。
「というわけで、薬はそのうち抜けマスから。あとの治療よろしくデース」
「はい」
クルールは去って行った。えーん。
◇◇◇◇◇
ずーん。
「ううう…うわぁーん」
「マ、マイアちゃん…?大丈夫…?」
牢に戻るなり盛大に落ち込んだ私に、ターシャが駆け寄ってくれた。
「薬が切れたぁぁ…もう楽しくないぃ……」
「ヤクやめられたのか…よかったな」
シーラってば!人をヤク中みたいに!
「全然よくないぃー…なんか無性に悲しい…すっっごいダルいし…」
ボロボロ涙が出る…。ダルくて倒れ込む。
「後遺症」
テレサが指摘する。
「後遺症…?うええーん…いつまで続くのかな…。あんなに楽しくなくていいから、早くフツーに戻りたい…」
「わからない」
シーラが憤慨する。
「クルールめ!マジで最低なヤブ医者だな!」
クルールめぇ…こんな無性に悲しい後遺症があるなら、言っといてよ…。
ターシャも珍しく怒ってる。
「本当にひどい人!さっき治療室にマイアちゃんの検査に来たの。不気味に笑ってた。マイアちゃんが苦しんでるのに!信じられない!」
検査の時、やっぱアイツ笑ってたのか。ほんとに悪趣味…。ターシャはすぐ側のベッドに寝ていたらしい。クルールの容姿を二人に説明してる。
「あー、あいつが!あたしが牢に戻る時見かけた!くそー!知ってたら一発殴ったのに!」
「一発じゃ足りない…」
テレサまでそんなこと言って…本当に殴りそうでヒヤヒヤするよ…。
「皆…本当に殴ったりしないでよ…。アイツの毒牙にかかったら…夢見が悪いよ…」
本当に夢見が悪いんだよ…。
「クソっ!どーせ殴りたくても殴れねーから。囚人は看守に危害を加えられない…マイアもここに来た時に魔術をかけられただろ?」
あ、そっか、忘れてた…よかった。
結局、この日は後遺症が治まらなかった…。
何が辛いって…夕飯が最悪にマズかった…。
みんなー!第11話読んでくれてありぁーとねー!みんなはこんなおクスリのんじゃらめらよ〜(^_-)-☆




