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RAINTOWN マイア編  作者: きゅきゅ
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4日目(2) 狂えるクルール

 四回目の治癒室。…まーたこの人だ。


「…いつも悪いね…」


「まったくだ」


 冷た〜い目!怖い怖い。


「他の人にやらせれば?何人もいるじゃん」


 見回せば、治癒師は、7、8人はいる。なのになんでいつもこの人なんだ!


「おまえが大怪我ばかりするからだ。私の腕が一番いいから私がやらされるんだ」


 あー…そういうことだったのか…。


「…申シ訳アリマセン…」


 さすがに少しは申し訳なさを見せる私を横目に見て、彼女はため息をついた。そして私の右手を持ち上げて見せた。手の平が火傷で…うわぁ…。


「また自分の魔法で馬鹿をしたな。仕事を増やしやがって」


「はぁ…うまくいったんだけどな。魔獣の眼は潰せなかったなぁ」


「うまくいったとは何だ」


 彼女の頬がピクピクしているのが、マスクごしにもわかる。


「炎を凝縮したんだ。炎を小さく激しくしたくて。それでつい手を握っちゃった」


 すごい剣幕で怒られた。


「この馬鹿が!馬鹿なことを考えていないで、馬鹿は馬鹿らしくしていろ!」


 馬鹿馬鹿うるさいなぁ!


「あ、そうだ、聞きたいことがあるんだった!燃えない魔法って、どうやるの?」


 怪訝な顔をされる。


「燃えない魔法?」


「昨日みたいになったり、今日みたいに火傷しないように、肌を守りたいんだ」


 やれやれとため息をつかれた。


「ようやく少しはまともなことを考えるようになったか」


 褒められているはずなのに、全然うれしくない。


「燃えない魔法というのはあまり一般的ではないな。フム…難燃性の物質を作り出して肌を覆うのがいいだろう。リン酸アンモニウムが適切だろうが…難易度が高いか。酸化しにくい元素、ヘリウムか窒素でもいいかもしれない。元素生成よりも操作の方が容易い…空気中から窒素を集めるのが手っ取り早いだろうな…」


 ポカーン。。。


 コイツの意味不明な音声は、私の耳を右から左へ通過していった…。



「…おい、聞いているのか?」


「…え?何か言いました?」


「コイツ!人がせっかく教えてやっているというのに!!窒素で窒息させてやろうか!!」


 怖ぇーダジャレ!


 治癒師は額を抑えて首を振った。


「はあ…お前のような低脳に理解させようとした私が馬鹿だった…。そういえば、昨日の件はクルール先生が調査して下さっている…対策をご教授頂けるかもしれないぞ」


「はあ?クルール?やだよ!顔も見たくない」


「何だと!クルール先生とお呼びしろ!このクソガキ…先生がお手間をかけて下さっているというのに!」


 あーあ、もう、何こいつ?女王崇拝者なだけじゃなくて、クルール信者なの?手のつけようがないね…。

 

 ちょうどその時、治癒師の耳元に小さな魔法陣が現れた。通信魔法だ。誰かと喋ってるけど、声は聞こえないようになってる。


 まさか…クルール?このタイミングで?


 クルールじゃありませんように、クルールじゃありませんように…。


「クルール先生がお呼びだ」


「いやだぁっ!クルールなんか嫌いだ!」


「先生をつけろ」


 けっ!誰が!


「先生に再度検査をお願いしてやろうか」


「……(マッド)ドクター・クルール…」


 睨まれたけど、ギリギリセーフな呼び方だったっぽい。



◇◇◇◇◇



「イラッシャーイ、Mi11948!」


 クルールの目を見たとたん、吐き気が蘇ってきた。うう…不気味で…気持ち悪い…。


「お望み通り、研究してあげマスヨ、怒りの効果!」


 え?ああ…シーラの言葉、聞こえてたんだ。はぁ…シーラめ。というか何で私が呼ばれるの…。


「あの窓は、向こうからは見えないんですか?」


 窓の外は暗いけど、よく見ると鍛錬場が見える。灯りが点いてないだけで、窓の外が覆われてるわけじゃない。


「そうデスヨー?隠蔽魔法。窓が見えた方がいいデスカ?私に見下ろされたいデスカ?笑いながら見下ろしてあげまショー」


 悪趣味だ…。実際ニヤニヤしながら見てそう…。そういえば昨日、『楽しませてもらってる』とか言ってたな…。


「さ、検査を始めマース」


 うげぇっ!嫌だぁぁぁ!!!


「フフフ、心拍数、血圧、発汗量が急激に上昇しましたネ。アア、ストレスホルモンが急増してるネ!」


 クルールが機械と私を交互に見て笑ってる。


「な、何でそんなことがわかるんですか?」


「昨日、君の脳に装置を埋め込んでおきました、デス」


 ………はああああ!!??


「な、な、な、装置!?頭の中に!?」


「そうデース。色んなことをモニターできるのデース」


「じょ、冗談じゃない!なんてことしてくれるんですかー!!取ってください!!」


「別にいいじゃないデスカー。私も埋め込んでマスヨ?」


 自分に!?こここの人、マジでどうかしてる!!というよりこの人、魔女じゃなくてロボットなのでは!?


 クルールが画面を指し示す。


「装置のおかげで色々わかるから、昨日みたいな検査はしないですみマスヨー。よかったデスネ」


 ほっ。ありがたい。…じゃなくて!!


「ホラ見て、感情のグラフ。この線が、恐怖。こっちが怒り、デス」


 クルールがグラフを見せて解説する。私の感情が筒抜けだった!右の画面では戦闘の様子が映し出されてる。また私が無様に逃げ回ってる。


「ダメージを受ける度に恐怖が上がっていって、ここで急激に上昇してマス。直後に怒りが急上昇して恐怖を上回ったデス。ここで魔力放出量も急増してマスネ」


 私が『毎日コイツに蹂躙されることになるのか』って思った時だ。


「それから最後に、恐怖がほぼなくなって、怒りが極大デース!魔力も極大デスネー!映像の中の君も爽快ネ!」


 最後に憂さ晴らしして炎をボカスカ出してる場面だ。


「確かに、怒りが魔力を増大させる可能性が高い、デス」


「でしょ?友達3人も、確かめてくれましたよ。あとね、ターシャが大泣きすると、痛み止めの効果が上がるんですよ」


 クルールが興味深そうに見てくる。うう…その不気味な眼で見つめないで…。


「ターシャ?Nt21790デスネ。大泣きとは…恐怖でなく悲しみカナ?あの子にも、装置を埋め込もうカナ?」


「やめてぇぇぇ!!」


「そうデスネー…これ以上はバレたらマズいデスネー」


「えっ…バレたらって…何?」


「この装置、まだ開発段階で、国の許可取ってないデス」


「おいいいいいいいっ!?」


 そんなもの私に埋め込んだのぉぉぉっ!?どうしてくれるのーーー!?


「大丈夫デスヨー、私も入れてるんデスから。装置は壊れたりしマセン…まあ、回路がショートしたら爆発するかもしれないケド……死ぬ時は一緒ネ!」


 グッと親指を立ててウインクするクルール。


「はあああああっ!!??」


 うぎゃあああああっ!!取って、取ってーーー!!


 サッと看守が来て、暴れる私を取り押さえる。


「冗談はさておきデス。本題に入りまショー」


 えっ、今までの話、本題じゃなかったの?私、何で呼ばれたの?


「昨日の検査の結果デース」


 あ、そうだ、なんか調査してくれてるとか…。


「昨日、君の身に起きたのは、魔力暴走の一種デスネー」


「魔力暴走?」


「未熟な魔女に稀に起きるものデスヨ。原因は未解明デス。感情の異常な昂ぶりという説が濃厚ネ。昨日の君も、まさにそんな感じだったデスネー」


 クルールは急に、うっとりとし始めた。


「アア、魔力暴走の感覚は最高デスネ!君の体験は、ことさら素晴らしかった、デス!何度も味わわせてもらっちゃいマシタ!」


 …は?


「あ、味わった…?私の体験を?」


「そうデース。私の魔術は、他人の記憶を引きずり出して、自分でも体験できるのデース」


「な、何だって?それで…あれを何度も体験したの?怖くて痛くて最悪なのに!?」


「それがいいんじゃないデスカー。魅惑のスリル!興奮!最高のエンターテイメント!」


 何言ってんだコイツ…本格的に頭イカれてる…


「何と言っても、アノ、右手が爆発する瞬間!」


「やめてぇ!あーあーあー!聞こえないー!」


 人のトラウマを平気で抉る非人間め!!


「あの!もうそんなことが起きないように、火傷もしたくないので、炎から身を守る方法を教えてください!燃えない魔法で肌を守りたいんだ」


 クルールは途端に無表情に戻った。


「フーム…方法、色々アル。でも、君、すぐにはムリ。説明しても、君、知能数値…46」


 むむ…バカにはムリですか。そうですね。さっき全然理解できませんでしたよ。


「こういうコトは、鍛錬コーチ、適任デスネ。聞くデス」


 うがぁ!たらい回しされて結局そこ!


「…はーい…」


 クルールは姿勢を戻してメガネをクイッと上げた。


「けれど不安要素まだアル。魔力暴走は何度も見てきまシタガ、自分の身をここまで傷つけた例は、君が初めてデスヨ」


 ん?そうなの?私だけがひどい目に遭ってたの?本当の落ちこぼれだな…。


「君、自殺願望アルネ?」


 どっきーん!


「な、なぜそのことを…」


「『餓死しようとしたら勝手に体が動いて林檎を盗んだ』というのが投獄の理由デスからネ!」


 あ、そっか、看守は皆知ってるのか。


「フフフ、魔力暴走を利用して自殺しようなんて考えちゃダメヨ?死ぬよりひどい目に遭うかもネ。損傷が激しいと治癒魔術が間に合わず、培養液カプセルに入れて何年もかけて治すヨ」


 ゾゾ〜ッ。怖すぎる!泣きそう。


「君はなかなか貴重な実験サンプルなんデスから、長く楽しませてくだサイ。また魔力暴走を起こすのはいいデスけど、死んだりカプセル行きなんてことになったら、もったいないデース」


 人を実験サンプルて…もう今更すぎて何も言わないけど。


「魔女の脳、自殺、考えられないようになってるデスけどネ。たまーに異分子いるデス」


 え、何?魔女は自殺禁止だけじゃなくて、自殺願望も禁止?だから皆、こんなムショに耐えられるの?あれ、もしかして…ターシャのあの時の様子って…


「それって、普通は自殺を考えないように魔術がかけられてるんですか?考えようとすると思考が止まっちゃう、とか?私は異分子…?何でですか?」


「魔術と違う、脳の構造ネ。君、生まれつきか、環境によって、未知の変化起きたか…」


 生まれつき!?何だよそれ! 


「しかし、貴重な実験サンプルが、自殺リスクとは…ツイてないデスネー、私」


 ツイてないのはこっちだよぉぉ!!


「とにかく何か対策するデス。魔力暴走による怪我が、自殺願望のせいなのか、確証はないデスガ。どちらにしろ自傷もカプセル行きも容認できマセン」


 はあ…結局そうなるのね。


「…私だって、自殺願望なくそうと努力してるんですけど…。頑張って出所するぞって気になってきたし…。でも今日また挫けそうになって、やっぱり死にたいって思っちゃいました。皆が助けてくれなかったら、どうなってたことか…」


 クルールが平然と言った。


「じゃあ、クスリ飲むカ?」


「え?薬?」


「自殺願望なくすクスリ」


「あ、あるんですか!?」


「アルアルー」


 軽っ。ほ、本当にあるの!?


 クルールはキーボードを叩いて、何かを紙にプリントアウトした。


「ハイ、処方せん。処方せん受付に出してネ」


 ほ、本当にそんな薬があるんだ…!こんなに悩んでたのに!早く聞けばよかった!


「あ、ありがとうございます!せ…ドクター!」


 先生と呼びそうになったけど、ドクターで止めておいた。


第10話読んでくれてありがとデース!え?皆さんも脳にチップ入れてみたいデスカ?そーデスカそーデスカ!さあさあコチラへ!ぜんぜん怖くないデスヨー!ホラ、私の目を見てくだサーイ!グルグル…グルグルグル…。

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