「花火をバックにキスする写メを撮りたい」と言ってきたので頑張ってみた
こちらは香月よう子様主宰「夏の夜の恋物語企画」参加作品です。
夏祭りの花火大会でただただイチャコラしてるだけの話です。
リア充撲滅委員会の方はブラウザバックをお願いします。
「ねえねえ、マー君。花火が上がるたびにさ、チューしない?」
「へ?」
神社の境内で夏祭りの花火が打ちあがるのを楽しみに待っていると、彼女のひーちゃんがそんなことを言ってきた。
「チューって?」
「チューはチューよ。文字通り」
その文字通りの意味が知りたいんだけど。
「えへへ。実はね、私スマホ買い替えたんだ」
「あ、ほんとだ。新しくなってる」
「でね。この機種、なんと夜の花火もバッチリ撮れるのであーる!」
「へー、いいね」
それは素晴らしい。
花火ってなかなか写メにおさまらないんだよね。
「でねでね、その花火をバックにマー君とチューしてる写真が欲しいなぁって……」
なるほど、そういうことか。
確かに打ち上げ花火をバックにキスしてる写真はすごく絵になる。
恋人同士ならなおさらだ。
「いいよ、撮ろう」
「えへへ。やった」
「うまく撮れたら僕にも送ってね」
「もちろん」
そうこうするうちに、夜空に一筋の閃光が打ちあがった。
「あ、マー君! 上がった上がった!」
僕は慌ててひーちゃんの肩をつかむと、その小さくて柔らかい唇にキスをした。
ドーンという音と衝撃が耳に響く。
けれども僕の神経は今、唇に全集中している。
「ん……」というひーちゃんの甘い声。
けれどもいっこうに写メのシャッター音が聞こえない。
唇をはなすと、ひーちゃんは言った。
「あー、ごっめーん。撮るの忘れてた!」
「え?」
「チューのほうに神経使っちゃって……」
「あはは、僕もだよ」
思ってたことは一緒だったか。
「じゃあ、次はちゃんと撮ってね」
「うん」
二度目の閃光が上がる。
僕は再度、自撮りの態勢をとっているひーちゃんの肩をつかむと、その唇にキスをした。
ドーンという花火の音とともにカシャッという写メの音が耳に届く。
「どう? うまく撮れた?」
「あーん、花火しか写ってなーい」
見れば、確かにスマホには花火しか写ってなかった。
にしても、綺麗に撮れてるなー。さすが最新。
「マー君のチューで力抜けて上向いちゃったんだね」
「僕のキスはひーちゃんを骨抜きにするからね」
「うん、ほんとほんと」
頬に手を当てて顔を真っ赤に染めるひーちゃん。
冗談めかして言ったものの、あながち間違いでもなかったらしい。
「僕が撮ろうか?」
「ええー? うまく撮れる?」
「ひーちゃんよりはマシだよ」
たぶん。
「ひどーい」
「あはは」
プンスコプンスコ怒るひーちゃんからスマホを受け取ると、インカメラで位置を確認する。
うん、これは確かにムズイ。
角度調整が非常に微妙だ。
ここかな? という位置で固定し、花火が上がるのを待つ。
と、ちょうど閃光が上がった。
「あ、上がったよ上がったよ」
僕は思いっきりひーちゃんに唇を押し付けると、目でスマホを確認しながらシャッターボタンを押した。
「どう?」
「……カメラ目線になってる」
写し出された写メは、ひーちゃんに唇を押し付けながら完全にカメラに目を向けている僕の姿だった。
「あはははははー! なにこれー! ダサー!」
お腹を抱えて笑うひーちゃん。
恥ずかしすぎる。
「い、今のは確認のための練習だよ。次、本番」
「ほんとに?」
「ほんとほんと」
「じゃあ、はい」
目を閉じて口を突き出すひーちゃん。
もう彼女は全権を僕に委ねてひたすらキスを受けるだけに徹するらしい。
自分で言っておきながら責任重大だ。
4発目が上がった。
よーし、今度こそ。
ドーンという音とともにひーちゃんに唇を押し付けた僕は、その勢いでシャッターボタンを押した。
どうだ。
「………」
思いっきりブレてしまった。
花火すらうまく撮れていない。
ひーちゃんは相変わらず大笑いしている。
お、思ったより難しいぞ、コレ。
「大丈夫? いけそう?」
「う、うん、頑張る」
その後も何度か挑戦したものの、なかなかうまくいかなかった。
花火が上がる度に、シャッターを切る。
けれども、写し出されるのは花火か僕らか。もしくは単なる夜空か。
本当に難しかった。
そんな中、奇跡が起きた。
「あ! 写ってる、写ってるよ!」
何発目だろう。
写メにおさめた花火を見ると、そこには花火をバックに目をつぶってキスをする僕らの姿が見事に写し出されていた。
「うわ! ほんとだ! キャー!」
な、長かった……。
もう無理かと思った……。
「ありがとー、マー君!」とはしゃぐひーちゃんの姿を見て、心からホッとする。
よかった。
これで今夜の花火はゆっくり……。
「それじゃあ、次もお願いね」
「はい?」
次も?
「最初に言ったじゃない。花火が上がるたびにチューしない? って」
あ、言ってた。
「え? ってことは何? 最後まで続けるの?」
「もちろん! 花火とチューは切っても切れない関係なのよ」
初めて聞いたよ。
でもまあ、公然とキスができるんだ。ちょっと安っぽい気もするけど、拒む理由もない。
「わかった、たくさん撮ろう」
そして僕らは花火が上がる度にキスをし合った。
時には5連続で花火が上がり、チュッチュチュッチュとキスしては離れ、キスしては離れを繰り返した。
「うふふ、なんか面白いね」
「ゲームみたいになってるよ」
花火師がいたら怒りそうだ。
「あ! 見て見て!」
ラストの一発だろうか。
今までとは段違いに大きな閃光が夜空を駆けのぼった。
そして、とびきり大きい花火が夜空に咲く。
僕はひーちゃんと顔を見合わせると、お互いに抱きしめ合い、今までで一番熱いキスを交わした。
こればかりは写メなんてどうでもいいと心から思った。
僕らの夏の想い出は、心に刻まれるのだから。
お読みいただきありがとうございました。