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渡りに船

作者: ピヨ
掲載日:2021/02/14

エリノアは義妹の策略で王太子に婚約破棄されたが、戻るように言われた。

有難くない。


誤字報告ありがとうございます。

2021031若干加筆修正しました。

「エリオノア・シュバルツお前との婚約を解消する!」

壇上には金髪碧眼、端正な顔に細マッチョな王子が、金髪の美少女を庇ってすっくと立ち言い放った。

「おぉ。」言われたエリノア、こと私は思わず喜びに身を震わせた。

この王子、産まれる前からの婚約者だが、良くも悪くもボンボンでしょーむないことばかりする。観賞用としては申し分ないが伴侶にすれば苦労ばかりが見え、それこそ12歳くらいまでは小言を言っていたが、言えばただ卑屈になるだけで反省も改善もない。言うのが虚しくなり、最近は公務以外で口をきいていない。

「ふふふ。さすがのお前もショックなようだな。」

いや、嬉しくて、なにせ、我が公爵家と王家の縁組はまぁ、なんというか宿命のようなものだから断りようもない。向こうで止めてくれるならこんなに有難いことはない。

「お前は妹のアリシアを虐めていただろう!」

今度は開いた口が塞がらない。王子の後ろにいるアリシアは父の後妻の連れ子で、現在14歳。勉強は全くしないが人を嵌めることばかりに終始している典型的なデッドエンド令嬢だ。アシシアに誑かされて婚約破棄、次期元首たる王太子がこんなにアホでこの国大丈夫か?頭痛くなってきた。

「何か言って見ろ!」

「殿下。」側に控えていたお兄さま(こちらは私と同父母)が王子をたしなめる。

ウチの兄はアホではない。控え目で忍耐強い性格だ。兄が女だったら兄が王子の婚約者で、いずれ王妃になりこの国も上手く収まっただろうに。すいませんねぇ。小言ばかりの妹が婚約者になって。

「エリックお前は黙れ。」言われて引き下がるのが兄さまの良い所なんだよねぇ。

「エリオノラ、言ってみろ。」

「ハイ。」兄がぶんぶんと首を振るのが見えるが言えと言われたら言うしかない。

できるだけ穏便な言葉。穏便な言葉。と。。。

「婚約破棄は身に余る光栄でございます。」

「なにぃ。」王子、せっかくのイケメンに青筋が立ってるよ。ほら、ちらほら笑う声が聞こえるだろう。あんたリアクションがいちいち大げさなんだよ。歌舞伎かよ。

「私ごときが殿下の婚約者であること非常に心苦しく思っておりました。私の身の丈にあいました処遇、これほどの光栄はございません。」

あほなアンタと添い遂げるなんて拷問に合わずにすむなんてこんな嬉しいことないよ。いくら金と権力があってもアンタと添って、オホホと言いながら豪華なシャンデリアの下、ろくに味もしない高級料理を喰い続けるくらなら文盲の樵と沿って毎日、あ、とか、う とかだけ言って自分で釣った魚を喰っている方がよっぽど幸せだよ。

アホ王子殿下はマヌケ顔だ。相変わらず頭の回転が鈍い。失笑が拡がり王子殿下がひゅっと息を吸った。息を吸う時、本当にこんな音が出るんだ。新発見だね。

「いや、お前はアリシアを虐めていただろう。ことあるごとに待遇に差をつけ、ドレスも買わせなったと聞く。」

「殿下。」思わず残念なものを見る目で見てしまう。アリシアは、女公爵だったる母亡きあと父が娶った再婚相手の連れ子だ。我が家を乗っ取りにきたようででかい顔で居座っているが何の権限もない。

居座って一家団欒を楽しんでいるが、追い出してはいない。我が家のダイニングテーブルは50人は座れるので、食卓にくれば食事を出すし、メイドもつけている。タオルなど消耗品も使い放題だ。ただ、彼女らの装身具は父の年金で賄うことになる。

兄が未婚で私が家計を預かっている関係上、何度か請求書を却下した。そのことだろうか。

「姉として、妹にひどい仕打ちではないか!」

頭痛くなってきた。金があるから人が来る。口実はいろいろだが、門前払いはしない。だからと言ってすべての要求を呑んでいればあっという間に家計は破綻する。大丈夫か、この国。

口を開こうとして止まった。下手に正論を言って次期国家元首の顔をつぶすのは良くない。この状況で言い分が認められれば婚約者に返り咲いてしまうかもしれない。

また婚約者に戻りこの人と結婚するのは無理だ。選択肢がないと思っていたから諦めていたが、選択肢がでればこのアホと一蓮托生になるなど不可能だ。

「殿下、すべて私の不徳の至るところです。」私がカーテシーをすると、一同黙った。

貴重な沈黙。誰が口を聞けば瓦解するかもしれない。ワタシは無論この隙を逃さず、退場した。


あれこれ言われるのが面倒なので自分名義のタウンハウスに引きこもると3日続けて兄がきた。

ここで会わないのは外聞が悪いので会うことにした。

「お痩せになりました?」

たった3日なのに、兄の頭には白髪も随分増えている。染めろよな。

「邸に戻りなさい。」

えーっ。兄の顔を穴が空くほど見るとぷいと横を向かれた。

どうやらアリシア達が手に余るようだ。

「あれから、どうなりました。」

「どうもならない。」

「じゃあ、アリシアは殿下の婚約者になったのですね?」

「なる気ではいるようだな。私の養女にしろと言う。」

「あーそれは。知恵の始まりですね。」父は顔だけが取り柄の子爵家の次男だった。女公爵だった母は無類の面食いで、文字どおり買い取るようにして父を自分の配偶者にした。通常通り家格の違いから反対は出たようだが母の決定に逆らうものはいなかったと聞く。その時に母は山ほど持っていた爵位のうちからある子爵位を与えている。他にももっと高位の爵位伯爵までは持っていたのだが、父の実家が子爵なのでそこに留めるあたり母の底意地の悪さが感じられる。だから父が愛人を持っていたことについては母に同情はしていない。母の生前大人しくしていた父が他で家庭(?)を持っていたことが知れてあの母が居ながら父もやるな、としか思ったものだ。

父は無論、愛する人の娘、アリシアを養女にしている。だから彼女は子爵令嬢だが、王家に嫁ぐにはもっと高い体裁が必要だ。

そこで自身と5歳しか違わない兄の養女になるとは、考えたものだ。王子殿下はあほだがたらしこんだ義妹にはそれなりの知恵があるらしい。

「良いのではないですか?」

私にはこのタウンハウスがあり、兄の財産の100分の1ほどだが領地もある。配偶者はこれから探すのがなんとかする自信もある。王家と婚約破棄だから公爵家ともほぼ絶縁、あの家がどうなろうと知ったことじゃない。全くの他人事だと思えばあの娘が公爵令嬢となり王妃を目指すのはオモシロイ話だ。市井の噂話が存分に楽しめる。

「エリノア」諭すように言われ、ちょっと固まる。実の所、私はこの兄が苦手だ。

母譲りの気性の私には、私自身の望みが全てで、この世はその退屈を紛らわすためにある。

だが、兄にはこの世は自分が背負うべき義務を果たす世界で、喜びは来世に持ち越すタイプだ。なんであの父と母から兄のような人ができた。ああ、そうかマイナスを掛けるとプラスになる。

人の好みはそれぞれだが、彼はなんと言うのか本当に善良だから逆らいにくいのだ。

「エリノア、思うことはあるだろうが、話をきくくらいしても良いのではないか?」

はい、はい。何やかや言って私はこの兄に弱いのだ。


再び王城に行くと天井まで10メートルはある広間に通された。モブの貴族はいないが大臣達が居並び中央には両陛下。一段下がって王太子デンカが。その後ろには義妹。そして、悪いことには両陛下陛下もおられる。嫌な予感がする。

「国王陛下、王妃陛下、並びにのご健勝を寿ぎ、臣下エリノア・シュバルツご挨拶申し上げます。」

両陛下への挨拶だから、膝を深く折り必然的にデンカと義妹にも頭を下げることになる。けっと一瞬思うが鉄面皮は王妃教育で仕込まれた。幼児連続殺人犯が相手でも微笑み続ける自信はある。

王太子殿下が進みでた。これは不味そうだ。

「エリノア シュバルツ お前との婚約無効を取り下げることとする。」

えええぇぇぇ、意識が遠のいた。が、残念ながら失神はしなかった。湿疹はでたが。

「王命でございますか?」違うと言ってくれ、独断だとそしたら王都一のタウンハウスはやる。

沈黙が降りた。どうやら国王王妃両陛下は黙秘権を使うらしい。

「ワタクシが、側妃として支えます。」義妹が言い放った。一人称として”アリシアわぁ”としか言えなかった義妹がカミカミだが、”ワタクシ”なんて言うので、ちょっとぐっと来た。誰でも人って成長するのね。

さぁどうなると待っていたら、王妃陛下自らが厳然と言い放った。

「下ってよろしい。」

国家権力を使っての先送りだが、ここで逆らう知恵が湧かない。

謁見の間を出ると兄が待っていた。律儀な人だ。そのまま我が家の控室に行く。

「両陛下は貴女を次期王妃とし、アリシアを側妃とすることされました。」

宣告だ。家長からの宣告。平民なら家出すれば済むが貴族には逆らえない。絶対的な宣告だ。私は一瞬で腹を括った。

「それでは、」

「ナニ?」

「次期王妃は健康上の理由で離宮で静養します。」

「なんだ?」

あ、考えている。兄は生来善良なのだ。誰の言い分でも一応は考える。

「いや。その。そこまで殿下が嫌かい?」

善人が困ると、悪人はほくそ笑むものだが、どうやら私は悪人ではないようだ。困った。だが言う。

「嫌です。王妃になるのは我慢できます。」これまでやたら王妃教育と言う名の忍耐訓練を受けてきた。どんな嫌な相手にでも微笑む。どんな苦しい選択も国益のために受け入れる。一人を踏みにじっても、全体を活かす。

「伽も務めましょう。」王妃教育の一環で貧民窟の状況も知った。王族に逆らって全てはく奪され貧民窟に堕ちたとする。まぁやっていく自信はあるが、押えつけらられ病気持ちの浮浪者に犯されることもあるだろう。それを思えば少なくとも病気は持っていないだろう殿下との一度や二度の情事には耐えよう。

「でもアリシアが居るのには耐えません。」

「いや。その。」善人の兄には。

「アリシアも子供っぽいことは止めるという。」

兄はドレスを買ってもらえないアリシアが、いつも偶然、私のドレスに物をこぼしたり破ったりしたことは知っている。

はて、義姉の婚約者を寝取って居座るのは子供っぽいことなのか、大人っぽいことなのか。

「アリシアが反省などするはずないじゃないですか。」

言ってから思ったので付け加える。

「あの子は間違いなくサイコパスですよ。」

義母は劣等感の塊だが、アリシアはサイコパスだ。彼女と会話すると意味が少しずつ悪意に染められて人に伝わる。

若干そそっかしいが陽気で気に入りのメイドが居た。庭を散歩している時、後ろを歩いていた彼女が躓いたので支えたのをアリシアが見ていた。

”あんなメイドでお姉さまが可哀想”とうるうるとした目で見るので、彼女は少しそそっかしいが気が良いので一緒にいると楽しい。磁器など割ると危ないので茶菓の用意などはさせないが、掃除などは真面目にするので重宝していると答えた。

それが何故か、アリシアから”お姉さまに内密で教えるが”メイド頭に彼女は真面目だが高級な磁器は危険で扱わせていないと伝えられた。メイド頭が彼女を危ない、窃盗などしそうなメイドに分類したのは言うまでもない。

明るく陰日向のない彼女の性格がおどおどしたものになったのを最初は一過性のものだと思っていたが、続いたのでそのうち彼女を側に置かなくった。アリシアの発言は後日知れたが、メイドの明るい性格は戻ってこなかった。

「サイコパスとはなんなのだ?」

兄は巷で流行りの言葉に疎い。

「反社会行動も辞さない利己主義者です。」

端折って説明。ワタシってエライ。兄は優しい目をして少し黙った。

「エリノアは母上が嫌いだったのかい?」

う。

「あ、いえ、目的も手段も択ばない人達です。身内に慈悲もなく。」

あ、お母さまそうだった。ちょっと違うのは母はばれるのさえ恐れていなかった。

母はごく普通の常識として、”子供を二人産んだのは跡取りとそのスペアにするためだ。”と言っていた。兄が跡取りに相応しく成長すればよし、しなければ妹を当主に据える。妹もダメなら他家から養子を迎える、と。

この国では長男相続が主流で、男子ができない場合に特例として女子が相続することもある。知能が人並み以下でも相続は男子だ。だが、母にとっては法律も慣例も利用できるものなら利用するし、利用できなければ変えればいい存在だった。母も王妃候補だったが、現王がそれほどイケメンでなかったのもあり、公爵家を継ぐためと称してさっさと候補を降りた。心身ともに問題のない同腹の弟がいたので公爵家の後嗣問題はなかったのだが。問題なかった弟は公爵家の相続権を放棄して他家の婿養子となり今も問題なく暮らしている。

「イエ。お母さまは、優れた為政者かと。」

「王妃になれば、色々な人間が周囲に現れるよ。エリノアなら上手くやっていけるでしょう?」

「靴に小石が入っているようで不愉快なんです。今、あの子は義妹ですが、正式に妃の地位を得れば、何をするか知れません。」

もともと王妃には興味がない。その上 常に足を引っ張る身内を見張りながらなんてなのメリットもない。隙を見て逃げて盗賊にでもなろうか。

ああ、それもめんどくさいなぁ。

「この際、王妃になりますか。」口に出したらすっと気持ちが決まった。逃げられないのだ。離宮で静養もしない。アリシアは折をみて毒殺でもするしかない。


1か月後、王宮から婚約無効を知らせがきた。理由は書いていないが、王妃の裁断だと言う。

腹を括って堂々と登城する私を見て、何か思うところがあったようだ。


理由などどうでも良い。また話が覆ったら面倒なので私は隣国の侯爵家の息子お人好しのイケメンとの縁談を進めている。

良い話にうまく乗れるといいな、と願いながら。




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