おもてなしの準備を
スチュアートの話を聞くと、手紙が届くころにはお義父上も王都に着くとの知らせが到着していたらしい。
今日は朝から出かけていたから手紙には目を通していなかった。
家令――スチュアート、メイド長――マグダラ、シェフ――ジョシュア、庭師のロイと厩番のハンスも呼び出してお出迎えの緊急会議である。
「お義父上の到着は夕刻らしいので、マグダラには客室の準備と屋敷内の飾り付けをお願い。ロイは見ごろの花のブーケをいくつか準備してくれ。」
「承知いたしました、旦那様。」
「お任せください、お館様。」
「よろしく!」
マグダラとロイは一礼して下がり、マグダラはメイドたちに指示を伝え、ロイは庭園へと駆けて行った。
「晩餐はできればご一緒したいんだけど、僕はお義父上の好みがわからないのでジョシュアに任せる。できればお好きなものを出して差し上げてほしい。」
「そうですねぇ、大旦那様は魚が好きですからメインは白身魚のポアレにましょう。あとは、良い子羊がありますので肉料理のほうは子羊のローストにしましょう。献立はお任せください。」
「楽しみにしてる!」
今ある食材を思い出すように少し斜め上を見上げたジョシュアは、ぽんぽんと献立を組み立てていく。
そしてそのまま、厩番のハンスに向き合う。
「厩なんだけど、いまエリーの愛馬がいるんじゃなかった?」
「ジョイはまだ屋敷におりますが、大旦那様が馬車で来られても大丈夫でしょう。お世話はお任せください。」
「頼んだ!」
白いひげを蓄えた温和な顔の目じりをさらに下げて、ハンスは笑った。
お義父上の頃から仕えていると聞いているので心配ないだろう。
「スチュアートは僕のフォローをよろしく頼むよ。急ぎの案件だけ、サロンに持ってきてもらえるかい?このままサロンにいるから何かあれば報告をよろしく。」
「承知いたしました。」
書類を運びに行ったスチュアートと入れ替わりで、侍女のオルガが僕を呼びにきた。
「奥様はサロンで休んでらっしゃいます。お茶と軽食とお持ちになったケーキを準備させますので、旦那様もサロンへ。」
「あぁ、ありがとう。」
使用人にもてなしの指示を出し終えて、サロンに入るとエリーは先にソファーに腰かけていた。
日当たりの良いサロンの中でまるで絵画のようだった。
「ごめん、エリー。待たせたね。」
「いえ、いつもお屋敷を回してくださってありがとうございます。わたくしになにかお手伝いできるものはございます?」
「エリーはお義父上に元気な顔をお見せして、楽しい会話を準備しておいてほしいな。」
「わかりましたわ。」
サロンのドアがノックされ、オルガが入室した。
目の前にお茶と軽食とケーキが並べられていく。
ケーキは全てエリーの前に並べてもらった。
フルーツのケーキはナパージュによってきらめき、ショコラのクリームは香り高く、苺のショートケーキはまるで小さなお城のようだ。
「好きなだけ召し上がってくださいね。」
「……いいのですか?」
「たまの贅沢ですよ、お義父上には秘密にしましょうね。」
意を決してデザートフォークを手に取ったエリーの顔は、少女のように溌剌としていた。
僕は紅茶に手を伸ばす。
「これ、とっても美味しいですわ!あなたもどうですか?」
スイ、と僕に差し出されたフォークの上には宝石よりも輝くフルーツが乗っていた。
少し行儀が悪いが、僕は差し出されたフォークを咥える。
「うん、美味しいね。」
「でしょう!こんなにおいしいケーキは初めてですわ!」
エリーが今の行為に気が付いて、恥ずかしがるまで。
少しの間、僕は彼女の笑顔を堪能することにした。




