ケーキを添えて
アクセサリー選びの騒動が終わったのは昼過ぎだった。
顔馴染みの職人たちは「ぜひまた来てくれ」と口々に挨拶をしてくれた。
結婚してからはこちらに手伝いに来ることもなかったので、なんだか嬉しく思う。
なんだかんだで僕たちは山のような荷物馬車に積み込んだ。
僕が買ったエリーの服とエリーが買った僕の服だ。
「昔は姉の手伝いに良く来ていたんですよ。」
「そうでしたの、職人の方とも親しそうでしたものね」
「えぇ、随分世話になりました。」
エリーは満足そうに笑っている。
姉上のお店はお気に召したようだ。
「この辺に美味しいケーキを出すパティスリーがあるのだけど買って帰りませんか?」
「まぁ!ぜひ、あなたの好きなものをわたくしも知りたいわ。」
「屋敷にもお土産を買いましょうね。」
「いいですわね、ジョシュアは嫉妬するかしら?」
僕らは笑い合って歩き出した。
僕はそっと彼女の右手を取る。
「僕が迷子にならないように、繋いでてくださいね。」
「……!はい、決して離さないでくださいませ。」
◇❖◇
ケーキは幸せで出来ている。
彼女は何のケーキが好きだろう?
苺のショートケーキ?
林檎のタルトタタン?
濃厚なガトーショコラも美味しいだろう。
「う~ん……。」
パティスリーで、エリーは悩みに悩んだ。
宝石のように輝くケーキの前で真剣な目で考え込む彼女に今日のお茶のお供を任せて、僕は屋敷へのお土産を選ぶ。
「それを全て持ち帰りでお願いします。」
「かしこまりました。おまちくださいませね。」
パティスリーのマダムが梱包のために下がったのを確認して、僕はエリーに声を掛けた。
「悩みの種はどちらですか?」
「フィエン……どうしても2つに絞れませんわ……。」
「エリー、世の中には「自分へのご褒美」という言葉があるんです。今日は好きなものを選んで帰りましょう。食べきれないものは僕が食べますからね。」
「よろしいんですの……?」
「もちろん!どちらがいいんですか?」
「こちらのフルーツのものと、こちらのショコラのケーキとこちらの苺のケーキがいいわ。」
「分かりました、包んでもらいましょうね。」
◇❖◇
思いのほか長い外出になってしまった。
出迎えてくれた使用人たちに荷物を渡す。
「おかえりなさいませ」
「ただいま帰りました。これを午後のお茶の時間に出してくれるかな?こっちの箱はみんなにお土産。休憩時間にでも食べてくれ、僕のおすすめだから口に合えばいいんだけど。」
「旦那様のおすすめならまちがいありませんわ!」
ケーキのお土産に喜色を浮かべるメイドたち。
いつも一番に出迎えるスチュアートの姿がないことに気が付いた。
「スチュアートは?」
「確か手紙の検分をしているはずですが……。」
噂をしていると、珍しく慌てた様子のスチュアートがエントランスへ飛び込んできた。
「旦那様、奥様!本日大旦那様が参ります!」
「えぇ!?」




