社交も夫の仕事です
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「親軍派とは違って、それほどご挨拶する必要はありませんわ。それぞれアネモネ公爵家とカンパニュラ公爵家へのご挨拶で良いでしょう。」
「なるほど。」
広い庭を歩きながら、エリーはそう算段づけた。
彼女の手を取り、エスコートしながら僕は頷いた。
僕はまだ派閥だとか政閥だとか、そういうものに詳しくはない。
軍部に身を置き、王宮でも名を馳せる『姫将軍』に任せるのは理にかなっているだろう。
彼女はそれぞれの居場所に心当たりがあるようで、足取りに迷いはない。
「やっぱり政閥ごとに場所が分かれているんですね。」
「はい。決まりではないのですが、ある程度は皆分かれて楽しんでおりますの。」
彼女はどこまでもにこやかだ。
僕はその笑顔に安心して身を任せられる。
彼女の足は一つの談笑する輪に向けられていた。
その輪の中で談笑する男性がこちらに気付いて、笑みを浮かべて出迎えた。
「やあ、姫将軍。先の遠征はご苦労だったね。」
「カンパニュラ公爵閣下、お久しぶりでございます。」
灰色の髪を後ろに撫で付け、柔和な笑みを浮かべる紳士はその青い瞳だけ笑っていなかった。
カンパニュラ公爵はこの国の宰相閣下だ。
新参者の僕は今、値踏みされているのだろう。
気圧されてはいけない。
変に遜ってもいけない。
「こちらが私の夫となりました、フィエンと申します。夫婦共々、何かとお世話になるかと思いますので、ご挨拶に参りました。」
「お初にお目にかかります、カンパニュラ宰相閣下。フィエン・スサ・アルストロメリアと申します。」
顔には満面の笑みを。
優雅に礼をしながら、頭の中では考えを巡らせていた。
ここで情けない姿を見せるわけにはいかない。
立派にエリーの夫を務めなければ。
「ご結婚祝福申し上げる、フィエン殿。ご存知かと思うが、私が現在宰相を務めているグウェン・オル・カンパニュラだ。君に関しては色々と噂を聞いていたが、ふむ……、噂とは違った人物のようだ。」
カンパニュラ公は僕の予想に反して、その鋭い青い瞳を緩めて言葉を続けた。
「噂、ですの?」
エリーが疑問を浮かべる。
「アルストロメリア家の婿殿は結婚後、公式な場になかなか出てこないとね。」
「いやですわ、でしたら毎夜わたくしが夜会に出席できるようにしてくださればいいのに。フィエンのことをたくさんの人に自慢したいのですもの。」
「君の国への献身には感謝しているよ。ところでそのあたりはどうなんだい?実は私も気になっていてね。」
「申し訳ないのですが、未熟な身のため学ぶことが大変多く皆様方へのご挨拶や交流まで手が回らず……。」
邸で引きこもり生活を満喫していたとは言い難い雰囲気だ。
「ふむ、ガザニアの者なのだからもっと押しが強いかと思っていたが」
「我が家をご存知でいらっしゃるのですか?」
「正確にはマルムのマダムにね。彼女はとても良い仕事をしてくれるので贔屓にさせてもらっているよ。」
「それは姉も喜ぶでしょう。ご入用の際にはぜひともまたお声掛けください。」
「はは、やはり大人しくてもガザニアだね。もちろんだとも。落ち着いたらぜひ君とも交流できるのを期待しているよ。」
そう告げると紳士はひらりと手を翳して、僕たちから離れていった。
社交も夫の仕事だ。今後も頑張らなくては。




