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お義父上と

お義父上はバルコニーを選んだ。

月明かりの下、庭園がよく見える。


「まずは、感謝を。娘を幸せにしてくれてありがとう。」

「いえ、そんな!」


お父上が静かに頭を下げるのを、ぼくは慌てて制した。


「僕もエリーや使用人たちに助けられてばかりです。」

「君からの手紙が定期的に届いているから問題ないとはおもっていたが、予想以上だよ。妻が――ノアリーシェが亡くなってから、あの子の笑顔を何回見ただろうか。」


そのまま静かに葡萄酒へ口を付けた。


「私は狭量な男でな、なんだかんだと娘に無理をさせてきた自覚がある。アルストロメリア侯爵家という看板のために、あの子には寂しい思いをさせた。」


今日は昔話の気分なのだろう。

僕はずっと胸の内にあった疑問をぶつけることにした。


「ひとつ、お聞きしても?」

「あぁ。」

「なぜ貴方はエリーと僕の縁談を進めたのでしょうか?」

「理由はいくつかあるが、私は娘を軍人と結婚させたくなかった。」


グラスの葡萄酒を傾ける。芳醇な香りと心地よい甘味と渋みが抜ける。良い酒だ。


「ノアリーシェのようにはさせたくなかった。」


今日は風もない静かな夜だ。

グラスには月が浮かんでいる。


「私は夫でありながら、妻に――ノアリーシェの武勲に嫉妬した。」


お義父上はぐい、とゴブレットを煽った。


「私はノアリーシェと切磋琢磨しながら想いあって結婚したと思っている。」


僕は話を聞きながら手持無沙汰にゴブレットを緩くを回す。

あたりには芳醇な葡萄酒の香りが漂う。


「戦場では私が妻の背を守った。妻も私の背を守った。私達夫婦はこれがあるべき形なのだと思っていた。だが、妻はずっと戦うことしか知らなかった。武勲をたてて戦場に立つノアリーシェは力強く、頼もしかった。」


お義父上は続ける。

エリーもあまり話さないお義母上の話を。


「だが、娘が生まれて喋り始めるより早く流行病で死んでしまった。心残りではないだろうかと、私は毎晩考えてしまう。」


古来より、質の良い葡萄酒は口のまわりを良くするものだ。


「私はそんな思いを娘にさせたくないと思っただけなんだ。」


目の前には、後悔を抱えた男の顔があった。

大事なものは目に見えないのだろう。


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