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第五十三話

 “誰かを助けたいと願う時は、人はいつも自己満足で終わる。誰も助けなど求めていない。私は自分の意思でここにいるのだから。本当に助けてくれるのなら、何故あの時、傍に居てくれなかったのか”



 シロクマ王国の心血武装持ち、ラスティナとマリスが消えた翌日。

 日が沈み始める頃、その舞台の幕は上がった。演目は怪しい小説家の執筆した物。


 シロクマ王国で最も人が集まる街、トレスカルナ。王城で行われる筈だった劇だったが、急遽場所が変更になる。その理由は言うまでもない。今、この国の王は不在だ。レジスタンスにより王一族は崩壊してしまったのだから。


 だがその事はまだ国民は知らない。知っているのは黒蛇一派、レジスタンス、瀆聖部隊、そしてシロクマ王国の軍の一部。


 月明りの下、劇場船の舞台へと一人の女優が姿を現した。

 リエナは月を仰ぎながら、その手に持つ剣を掲げる。目の前の老人役の首を撥ねるシーンからこの物語は始まる。


「ありがとう……助けようとしてくれて。でも、もう私は決めたの」


 最初の台詞を口にするリエナ。その時点で客の中には鼻をすする者がいた。恐らくどこからか、この物語のシナリオを知った者だろう。


「私はこのまま……民を導きます。生贄だなんて考えた事は無いわ。私は自分の意思でここに立っているんだもの」


 月へと突き刺すように、リエナは剣を掲げる。

 そして老人役の男が、呟くように


「どうか、このおいぼれをお許しください……」


 そして舞台が暗転し、物語が始まる。何故こうなっているか、何故少女が民を導く事になったのか。

 少女は無作為に国王へと選ばれ、それを生贄だと悟った老人はクーデターを起こし助けようとした。

 だが既に遅すぎた。二人は剣の師弟関係だったが、他国の戦争に老人が首を突っ込んでいる間に、少女は選ばれてしまったのだ。



 主にその過程が舞台の上で語られる。

 そしてその劇を見ている者の中に、オズマが居た。少し離れた見張り台から様子を伺うように。


「おい」


 そしてそのオズマに話しかける黒髪の少女。黒蛇だ。


「おう。よく分かったな、黒蛇」


「これ見よがしに立っといて何言ってんだ。一体何が起きてる。何故俺がゼマに狙われたんだ」


 黒蛇はオズマの横に立ちつつ、舞台の上のリエナへと目を向けながらオズマへと問いただす。オズマは黒蛇の姿を確認しつつ、葉巻に火をつけながら


「酷い物語だ。革命まで起こして一人の少女を助けようとしたのに、最後はその少女の手で処刑されるとはな」


 黒蛇は周辺に警戒しながらオズマの言葉に耳を傾ける。どうやら他に瀆聖部隊は居ないらしい。この男は一人でここに来たのだ。


「なあ、黒蛇。その姿は一体どうした?」


「コロコロと話題を変えるな。これは……心血武装の呪いだそうだ」


「魔女との契約を破った罰と言う事か。如何にもアルストロメリアの魔女の呪いだな。少女の姿になってしまうとは」


 オズマは暗い夜の空へと煙を吐く。月明かりに煙が照らされ、淡く消えていく。


「それで……一体何が起きてるんだ。お前らは何をしようとしてるんだ」


「革命さ。ある人を助けたい。だが強情で馬鹿なそいつは、自分一人の責務だと思い込んでそのまま自滅しようとしてる。一発ぶん殴って目を覚まさせてやりたい」


「……俺を狙った理由は」


「お前がアルストロメリアの心血武装持ちだからさ。俺達は今、この世界の魔女を一人残らず殺す為に動いている」


 その答えに黒蛇は大して驚きはしなかった。ミシマ連邦でクーデターを起こした時点……いや、それよりも以前から、この男の行動は常軌を逸していると感じていたから。


「そのためにロギン……あのテロリストまで丸め込んで、シロクマ王国の心血武装持ちにけし掛けたのか。あんたにしては、回りくどい方法を取るな」


「そうか、奴はそちらに現れたか。仕留めたか?」


「お前……泳がせてただけか。奴はまだ生きてる。どうやら心血武装を狙っていたらしい。なあ、お前といいロギンといい、何故心血武装なんぞ狙う。あれを利用して世界征服を企むならお門違いも良いところだぞ。どうせ魔女には通じない」


「だが突破口にはなる。他ならぬ魔女の心臓だ。握りつぶすには、まず手に入れなければならん」


 不老不死の魔女を殺す。黒蛇は魔女を殺すなど不可能だと思っていた。だがシロクマ王国の魔女と接触して、その考えは少し変わっていた。そもそも魔女をそんな状態にしたのはシロクマ王国の魔女、キズナ。だが、かの魔女は殺す方法まで語っていなかった。


「一体、どうやって魔女を殺す気だ」


「さあな。俺達はただ心血武装を集めろと言われただけさ」


「誰に」


「そこまで語るには……時間が無さそうだ。黒蛇、お前にとってあの劇団は何だ。ただの隠れ蓑か?」


 突然の質問に不服な表情を浮かべる黒蛇。しかし舞台で演じているリエナを見ながら、黒蛇は当然のように答える。


「今の……家族だ」


「そうか。俺にとって瀆聖部隊がそうだ。お互い家族は傷つけたくないだろう。シロクマ王国の心血武装は何処にある?」


 それは今、まさに黒蛇が持っている。だが手渡すわけにはいかない。

 そしてオズマも、黒蛇がそれを持っているという事くらい察しているだろう。この質問は黒蛇に対しての、最終警告、そして意思の確認のつもりなのかもしれない。


「……お前が何を企んでようが俺には関係ない。だがアルストロメリアに何かしようっていうのなら話は別だ。俺の家族に手を出してみろ、後悔させてやる」


 オズマは葉巻を握り締め火を揉み消す。そして今一度、劇へと目を向けた。


「……酷い話だ。救いようない、救われる人間など一人も居ない、ただ観客を泣かせる事が目的だと言わんばかりの、酷い話だ」


 そのオズマの言葉は、どこか泣いているように感じた黒蛇。この男は一体、何がどうなって、今ここに立っているのか。


「それを求めたのは観客の方だ。人間は泣くのが大好きな生き物だからな」


「そうやって緩やかに破滅へと足を踏み入れるのも人間の性か。じゃあな、黒蛇。ムライと猫娘は俺達が保護してる。さっさと迎えに来い」


 ミコトは無事だったのか、と一安心するものの、黒蛇は拳を握り締める。

 やはりこの男は避けては通れない。


「オズマ、現実で血を流すのは俺達の役目だ。俺は血を流す為に軍人になった、ある人を守るためにな」


「そうか、お前の家族は苦労してそうだな」


 そのままオズマは背を向けながら手を振りつつ、去っていく。

 オズマと黒蛇が別れた頃、舞台の上ではリエナが叫ぶように演じていた。



「私は……助けてなんて一言も言ってない! 私はもう子供じゃない! 誰かの幸せのために犠牲になるんじゃない、誰かを幸せにしたいから、私はここに立ってるのよ!」



 誰かを救いたいと願うのは傲慢だろうか。

 誰もが自分の意思で、そこに立っているわけではない。

 

 そして窮地に立たされている人間が、助けられる側とは限らない。

 誰もが誰かを想っている。

 その行き付く先は破滅か、それとも……



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