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第三十話

 メラニスタの地下に、その二人の姿があった。

 一人は人魚のような姿をした神化した人間、ジスタ。空中を泳ぐように移動し、鋭い爪に牙を持つ獰猛な生物を彷彿とさせる姿。だがそんな姿とは裏腹に、ジスタは背中に少女を一人乗せていた。少女は楽しそうにジスタの背中に乗りつつ、よく分からない歌を口ずさんでいる。


「ミルク、ミルク、美味しいミルク、今日もよろしくモモルフミルクっ」


 ジスタは一見不満そうな顔をしつつ少女を運搬しているが、元々彼女は孤児院で働いてた経歴がある。神化と共に追い立てられオズマに拾われた彼女は、元々は子供好き。不満げな顔をしつつも、心の奥底では微笑ましく思っている……かもしれない。


 さて、そんな二人が何故地下に居るのか。

 オズマ達の様子を見に地下へと進んだ二人は、ものの見事にすれ違っていた。現在オズマは魔女たる少女、シズクに襟首を捕まれ、二人とは別のルートで地上へと進んでいる最中。


「おねーさん、まだー?」


 運搬されつつも、覚醒体たる少女はジスタへと催促。ジスタは適当に「もうすぐ」と答えつつ、オズマ達が進んだ形跡のある道を探しつつ進んでいた。


 ジズタも例にもれず、ゼマやパンダのように五感が優れている。しかしそれに加えて、彼女にはエコロケーションを行う事も出来る。コウモリなどが超音波を反響させ周囲の状況を知る能力。ジスタにとって暗闇は何のハンデにもならない。むしろ視力は邪魔だと思う程だった。だが彼女は情報処理も主な仕事な為、目を抉りだすなど出来ない。


 そんな彼女は違和感を覚えていた。広大な地下空間、その構造は予想を遥に越えて複雑かつ、ある物と酷似していたからだ。そのある物とは、人体。この地下空間はまるで人間の内側を模したかのような構造をしていた。ジスタは今、ちょうど自分達は肺の部分に居ると推測する。地下二階部分だ。


 そしてオズマが破壊した重厚な扉が見えてくる。ちょうどそのあたりが横隔膜か、とジスタは思考しつつも、嗅覚が異常を知らせてくる。この先は危険、とてつもなく酷い惨状が広がっていると。


「死体の山……こんな地下に……」

「おねーさん、どうしたの?」


 ジスタは「なんでもないですたい」と答えつつ、オズマが破壊した扉から地下三階へと。ここは肝臓部分だろうかと思いつつも、入った瞬間ジスタはオズマ達と同じように驚愕した。そこには見慣れた街が広がっていたからだ。そして何処か納得してしまった。


「成程……ここで解毒してたってわけですかい」


 肝臓の主な役割の一つに、有害物質の解毒がある。ここはまさにそんな場所なのだろう。この“体内”に侵入した物を処理し、栄養として貯蔵する。


 ジズタはゆっくりと空中を泳ぎながら、街の様子を眺める。至る所に白骨化した死体が転がっており、それらは解毒、すなわち処理された者達の成れの果て。そして巨大な、出来たばかりの穴がジスタの視界へと入る。オズマがシズクに突き落とされた際に出来た穴だ。


「あの先は……胃? それとも腎臓に……」


 その時、覚醒体たる少女が何かに反応したかのように力を解放させた。ジスタの背中の上で激しく発光しだし、同時に凄まじい地響きが。シズクが指パッチンした衝撃だと二人は知るはずも無く、その凄まじい衝撃に、ジスタは危うく背中から少女を落とす所だったと冷や汗を。


「まあ、お嬢さんも飛べるから大丈夫ですたい……落ち着け、私……」

「おねーさん……離れてて……」


 少女はジスタの背中から静かに浮き、自ら重力に逆らう。そして補足した。死して尚、動こうとする者達を。白骨化した者達がジスタ達に気付き、肉を付け始めたのだ。


「……あれは……」


 その現象にオズマ達はただただ混乱するばかりだったが、ジスタは冷静に浮遊しつつその様子を分析する。世間一般的に、白骨化した生物の肉体が再生するなどあり得ない。しかし怪奇現象だと決めつけるのも早い。この世界には無くした物を異なる次元から持ってくる技術が存在するのだから。


「デジョンシステム……それもかなり高純度な。でも人体を再生させる技術なんて聞いた事ないですたい……」


 いや、とジスタはある事に思い至った。今、白骨化から肉を蘇らせている連中、それと酷似した現象を自分は身近で目の当たりにしている筈だ、と。そう、今まさに自分が連れてきた少女が、先程撃ち抜かれた腿を即座に再生させたでは無いか。


 神化、そして覚醒体のメカニズムなど全くもって解明されていない。今ここにいる覚醒体たる少女は、赤子の時すでに神化した状態だった。軍事施設の前に捨てられたその赤子をミシマ連邦は実験体として扱った。しかしその事実は魔女には知らせず、秘密裡に行われた。それを援助したのがオズマだ。


 白骨化した者達の大半は既に肉を再生させ、その数は百を超えていた。しかし浮遊するジスタと少女には手を出せないのか、ひたすらその真下に群がってくるだけ。何かを投擲してくる様子もない。というよりも、まるで崇拝するかのように膝を付く者も現れ始めた。


「一体何を……って、お嬢さんっ! ちょい待ち!」

「全部……凍らせる」


 今まさに、少女は力を振るう。マギスと対敵した時のように、一瞬でその空間を氷漬けにしてみせた。寒さに弱いジスタは一瞬気を失いそうになるが、なんとか自分を鼓舞しつつ少女を抱きかかえ、地下三階から二階へと離脱。地下三階はまるで冷凍庫のような状態に。


「お嬢さんっ! 落ち着くたい!」

「……もっと……ちゃんと殺さないと……」


 少女は更に力を振るおうと強く発光しだした。ジスタは一瞬、腰のハンドガンへと手を伸ばしそうになるが、一体何をするつもりだと自分を叱責する。


「お嬢さん! 落ち着いて……しっかり掴まって!」


 ジスタはロケットのように少女を抱えながら地下からの脱出を図る。少女から力が溢れるように、周囲が凍り付いていく。この時点でジスタには選択肢があった。この場で少女を捨て、自分だけ脱出すればいい。だがその選択肢は即座に破棄される。


「あぁ、もう……子供なんて……大嫌いですたい!」


 ジスタに少女を見捨てる選択肢はあり得なかったのか、大嫌いとはいいつつ地下を高速で駆け抜けるように飛び続ける。そして出口が見え、ジスタは一気に地上へと。その空へと一気に上昇する。


「あああぁぁあ!」


 少女は耐えていた。それはジスタを巻き込まぬためか、それともただ落ち着けと言われたからか。ともかく少女は空へと到達した瞬間、爆発するように周囲の空気を氷漬けに。巨大な氷の塊が空へと出現し、それが地上へと降り注ぐ。


「ま、まずっ……」


 地上には勿論、メラニスタの住人、そしてミシマ連邦から抜けてきた兵達が居る。それを氷の岩で押しつぶしてしまう、そう思った瞬間だった。突如として氷は一瞬で蒸発する。何事も無かったかのように。そして覚醒体たる少女の発光も止み、ジスタの腕の中で気を失った。


 ジスタは助かった? と安堵するが、何が起きたのかと理解出来ずにいた。しかし視線を感じ、ふと地上を見ると、そこには氷を砕こうとしたのか、太刀へと手を伸ばすオズマと……黒髪の少女の姿。


 黒髪の少女は、ただひたすらに饅頭を頬張っていた。だがジスタの五感が知らせてくる。あの黒髪の少女の内側に凄まじい熱量がある事を。あれだ、あれが氷を一瞬で溶かしたのだ、とジスタは大した理由も無く思ってしまった。


 そして饅頭を頬張る少女は、やっとジスタを見上げるように視線を送る。

 

 その目は、あり得ないくらいに暗く、あり得ない程の存在感を放っていた。




 ※




 地上へと無事帰還したジスタ。今はオズマや他の瀆聖部隊員とともに焚火の前で円陣を組んでいる。その中には黒髪の少女の姿も。そして瀆聖部隊員達は、どいつもこいつもボロボロの身なりだった。一体何があったのかとジスタは疑問に思うが、すぐにその理由は明らかとなる。


「というわけで、私があんたらの魔女になってあげる事になったんで。国を作るんでしょ? ヨロシコ。私の強さは身をもって十分に分かったと思うけど」


 瀆聖部隊員達は誰も異論を唱える事は無かった。弱肉強食というわけでは無いが、この少女に逆らう事は死を意味する、誰もがそう思っていた。なにせオズマですら、少女には一歩引いて接していたからだ。世界最強と言われたミシマ連邦で最も有名だった男の背中がこんなに可愛く見えるのは初めてだと、ジスタは内心ほくそ笑んでいた。


「じゃあ新しい顔もあるみたいだし、改めて自己紹介しとく。私はシズクって呼んでもらえばいいわ。魔女とか呼んだ奴は容赦なくぶん殴るから」

「了解」


 瀆聖部隊員達は揃って返事を。


「それで……当面の目的は? このまま国作るって言えば国って作れるの? この世界って」


 シズクはオズマへと質問する。

 オズマはいいや、と首を振りつつ


「国としては認められないさ、何をしてもな。だが世界からどう思われようが関係ない。ここが俺達の国と帰る場所にさえなれば……」


 その時、瀆聖部隊員達は誰もが思った。

 あのいつでも無茶苦茶なオヤジが、何か大人しくなっている……と。


 それはオズマも感じていたのか、咄嗟に首を振りつつ


「いや、すまん、忘れてくれ。目的は……世界征服だ」

「親っさん、混乱してるだろ、落ち着け」


「いいじゃない、世界征服」


 シズクは笑みを浮かべつつ、オズマの意見に賛同する。

 

「ぁ、でもミシマは最後ね、魔女を皆殺しにするにしても、まず殺すべきは……」


 すでにやる気満々のシズクに対し、瀆聖部隊員達は目を白黒させる。

 今魔女を皆殺しにすると言った。そもそも魔女とは死なない存在では無かったのか。


「待て待て、殺すってどうやって殺すんだ。魔女は不老不死だろ」

「簡単よ。なんで心臓を他人に預けてるか、考えた事はある?」


 それは心血武装の事か、と瀆聖部隊員達はパンダを見る。

 シズクの心臓を預けられた張本人を。


「なんでだ? 強力な兵器を行使させるためだけじゃないのか?」

「おじさんも見たでしょ。魔女は心臓を自分で持ってるとトンデモない事出来ちゃうから。世界にはブレーカー的な物があって、その世界にそぐわない力の持ち主は消されちゃうの」

「……だから、シズクは地下に潜ってたのか?」

「それもあるけど……私の場合はもっと複雑な事情が……」


 何故かそこで口を濁すシズク。あまりしゃべりたくなさそうな雰囲気だ。

 それを察したオズマは、とりあえず話を進める。


「で、心臓を魔女に戻せば、その魔女は世界から消されると?」

「そうなんだけどね。まあ、その為にはあの子を探さないと……誰か知らない? この世界の全てと会話できる子なんだけど……。それこそ動物とか木とか石とかでもペラッペラ会話できる子」


 そんな奴に心辺りは無い、とオズマは思うが、リオルは何か気づいたように


「動物と話せる……確か、メラニスタで開発されてた魔女が……ネズミと話が出来るなんて噂が……」

「まさか……黒蛇が攫ったあの娘か? あの娘が必要なのか?」


 オズマは顔を顰める。よりにもよってつい先日黒蛇に助け出させた少女が必要になるとは。

 

「で……なんでその娘が必要になるんだ?」


 その疑問に、シズクはパンダことアリアから新しい饅頭を受け取りつつ答えた。


「言ったでしょ、その子、この世界にある物なら何とだって会話できるのよ。それこそ……心血武装とだってね。あんた達何か勘違いしてるみたいだけど、心血武装って単なる武器じゃないから。そう、例えば……()()()()らおっそろしい事になるんだから。だからパンダさんも、肌身離さず私の心臓持っててね」





 

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