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第二十三話

 オズマとマギス。

 二人の出会いは三十年以上前の事。その頃ニア東国では異端者狩り、いわゆる神化した人間を廃絶するという動きがあった。しかし国をあげて行っていたわけでは無い。一部の魔女を信仰する過激派が、神化した人間を狩って回っていた。


 その頃、マギスとアギス、二人の兄弟は父親と共に過激派から逃げ回っていた。何故なら父のウェストン・バールは神化した人間だったからだ。ちなみに二人の母親は既に家族を捨て逃げおおせていた。


 途中でアギスは過激派に捕まり、マギスとウェストンは船でミシマ連邦へと。その際、二人を保護したのがオズマその人だった。当時、オズマは二十三歳。少々あこぎな方法で二人へとミシマ連邦の国籍を与え、マギスを軍に誘い鍛え上げた。ウェストンとは良い飲み仲間になった。


「なつかしいなぁ、マギス」

「何を呑気に回想を……! 落ちろ!」


 マギスの心血武装、夢幻艦隊で生み出された戦艦の上で対峙する二人。

 オズマはマギスに銃口を向けられつつも、何処か余裕の表情で昔の事を思い出してた。

 

 それに対しマギスは次々と起動兵器を生み出し、オズマへとけし掛ける。だが悉く切り伏せられる。


「どうした、マギス。なにをチマチマと……。そんなもんで俺を殺せない事くらい分かってるだろ」

「黙れ……黙れ!」

「まさか迷ってるのか? もう四十過ぎの軍人が、今更命の恩人を殺せないとか言わないよな」


 マギスは迷ってなどいない。自分は魔女の側近にして心血武装を引き継いだ者。それが何を意味するかを十分に理解している。母国に仇成す者は容赦なく撲滅せねばならない。


 迷ってはいない、迷ってはいないが、オズマを直視出来ない。

 かつて憧れた男。そして恐れた男。殺す事には何の躊躇いなど無い。


 ただ知りたかった。何故ミシマ連邦を裏切ったのか。

 だがそれを聞いてしまえば、恐らく自分は揺らいでしまう、マギスはそう感じていた。


 理由など聞けない、聞く必要も無い。裏切り者は殺せばいい。

 だがそれでいいのか。まだ自分は何も知らない子供のままなのでは無いか。

 オズマを殺す事には何の躊躇いも無い。だがいざオズマと対敵すると、そんな終わりのない問答が自分の中でせめぎあっていた。


「マギス……! 誰がそんな戦い方を教えた! 敵を見据えたら殺すまで集中しろ!」

「黙れと言っている!」


 かつての恩師に〝そう言われ”マギスはオズマへと集中する。

 だがそれが罠だと気づいたのは、左足を銃弾がかすめた時だった。


「……! 狙撃……ゼマか!」

「げ、バレた」

「貴様……! 何が目の前の敵に集中しろだ!」


 マギスは銃弾が飛んできた方向から、ゼマの大体の位置を割り出す。そして上空に出現させた戦艦から、その範囲へと集中砲火を浴びせた。


「あぁ! なんてことしやがる! ゼマは十五歳のうらわかき……」

「だったら連れて来るな! 瀆聖部隊は今日で終わりだ!」


 その次の瞬間、二人の上空へと更に出現する艦隊。その全てがオズマに狙いを定め、集中砲火。マギスは戦艦から飛び降り、無脚型起動兵器、空中を浮遊する兵器を出現させ離脱。


「くそっ、頭に血が昇ってやってしまった……あれではオズマの死体の確認が……」


 だがマギスの乗る起動兵器へと打ち込まれる弾丸が。対戦車ライフルによる狙撃が起動兵器を貫いた。


「……! 生きていたか、ゼマ。奴だけは俺の部下に欲しいな……他はいらんが……」


 マギスは推進力を失う起動兵器を捨て、そのまま地上へと飛び降りた。数十メートルはあろう高さから落ちても、何事も無かったかのようにマギスは走り建物の影へと。そこはメラニスタの貴族街。豪奢な建物の影へと潜み、離れた位置の艦隊を操作し街への空爆を。


「瀆聖部隊は皆鼻が利く。俺の位置もすぐに割り出される。だが向こうも俺を取り囲めば心血武装で一網打尽にされる事は分かっている筈だ。奴等の中で俺の心血武装で仕留めきれない動きを見せ、尚且つ白兵戦で俺を仕留めきれる者が単独で来る」


 即ちゼマだ。奴しかいない。マギスはそう確信しつつ、貴族街の建物の隙間を抜け比較的開けた場所へ。

 まるで誘い出すように身を晒したマギス。


「来い、ゼマ。対戦車ライフルじゃ……俺は仕留めきれないぞ」


 マギスは神化し、身体能力を強化された者にも対応できるよう改造された〝強化人間”。普通の人間ならば対戦車ライフルの銃弾を撃ち込まれれば木端微塵だが、強化人間ならば致命傷ですむ。

 撃ち込まれても一瞬意識さえあれば、心血武装で反撃する事が出来る。その反撃でメラニスタは崩壊するだろうが。


 やろうと思えばメラニスタを一時間でさら地にすることも出来た。だがそれをしてしまっては死体の確認が出来ない。ミシマ連邦中枢基地をエレメンツが空爆した際も、派手に施設が破壊され死体の有無など確認出来なかった。それで軍人がオズマの元へ流れているという事実に気付くのが遅れたのだ。


 そしてマギスの誘いに乗るように、ゼマが姿を現した。全身を鱗に覆われた人間。爬虫類の、それも恐竜のように鋭い牙と爪、尾を持つ少年。恐竜が人間のように直立二足歩行しているような姿。


「ゼマ、久しぶりだな。早速だが俺と一緒に来い。オズマが何をする気かは知らんが……いや、そんな事は関係ない。俺と一緒にミシマ連邦へ……そして心血武装はお前が継ぐんだ」

 

 マギスは手を差し出しながら、そうゼマへと訴える。だがゼマは静かに首を振る。


「ゼマ……お前に軍人としてのあれこれを説くつもりは無い。だが何故だ。オズマは一体、ここで何をするつもりだったんだ」


 マギスは既にオズマは死んでいる体で会話していた。だが本心ではオズマは生きていると確信している。まだ姿を見せていない瀆聖部隊の中に、あの状況でもオズマを助け出せる奴が残っている。


「国……国を作る」


 その時、ゼマの口から洩れた言葉。

 マギスは耳を疑った。国を作ると言ったかと。


「馬鹿な……何故そんな……」

「大佐……魔女は俺達を騙してる。その証拠を……ウェストン、大佐の父君が暴いた」

「……何?」


 マギスは周囲に気を配りながらも、ゼマの言葉に耳を貸す。

 魔女が自分達を騙している。


「一体、何の話だ。父が何を暴いたと?」

「デジョンシステム。あのシステムの断片、今は使用されていない部分の設計図を、ウェストンはメラニスタの王から授かった」

「何……?」


 デジョンシステム。

 そもそもデジョンシステムとは、空間を制御し、一種の永久機関を実現させた物。

 例えば今飲み干したコップの中の水は、一分前には存在していた。コップの中身に入っていた水を補填するために、デジョンシステムは一分前から持ってくる。単純に言えばそんな夢のような事象を実現させたシステム。


「一体、デジョンシステムが何なんだ。魔女は何を隠していると?」

「デジョンシステム……その隠された設計図をウェストンが解析した。するとある物と酷似していた」


 ある物?

 マギスは怪訝な表情を浮かべつつも、なんとなく察しがついてしまった。

 

「まさか……」


「そう、デジョンシステム……心血武装だった」


 その瞬間、マギスとゼマの間に割って入ってくる液体。

 まるでゼリーのような物体が、地面から湧き出るように出現した。そしてその中には


「オズマ!」

「アルダイン! 散れ!」


 アルダインと呼ばれたゼリー状の液体は霧散、そしてオズマの太刀がマギスを切り裂く。

 袈裟懸けに斬られたマギスは夥しい出血をしながらも、一瞬意識を保った。そして最後の手段を選ばざるを得なかった。


 だが最後の手段、その手段を選ぶ意識の前に、ゼマの言葉が邪魔をしてくる。


 魔女は何かを隠している。

 そもそも魔女は、二千年前に暴走するデジョンシステムから世界を救い、英雄視された。

 しかしそのデジョンシステム自体が、魔女の心臓を材料に作られた物、即ち心血武装。


 真偽はどうあれ、マギスは今この地をさら地になど出来ないと判断してしまう。

 

 それはオズマによる意識操作かもしれない。

 もっともらしい話をして、マギスへとそう思わせるための、でまかせかもしれない。


 だがマギスも昔から抱いていた疑問があった。

 何故英雄視される者が、魔女などと呼ばれているのかと。


「まだ……死ねない……」


 マギスは針の先端程の意識で、足元に高速艦を出現させる。それに倒れ込むように捕まり、勢いよく飛び立つ。


 ゼマはライフルで狙い打とうと構える。だがオズマはそれを止めた。


「マギス……俺達は知らなきゃならんのだ。魔女とは一体何者なのか、この世界に何をしたのかをな」


 メラニスタの上空の戦艦は消え去り、先程までの砲撃音が嘘かのように静まり返る。



 ミシマ連邦の心血武装を退けた。

 後にこの事実は、世界中の魔女の興味を引く事になる。




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