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行方不明になった友人  作者: 本宮圭司
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隠された歴史

「ねえ!どうしたの?救急車呼ぶ?」

 後を追いかけてきて倒れているのを発見した白石が取り乱した様子で言った。

「いや、必要ない。多分大丈夫。」

  日本国内で入手できるスタンガンは威力の低いものがほとんどので人を絶命させるような代物はまず無い。全身に痺れた感触が残っているものが、時間が経つに連れて弱くなっていった。

  10分ほど経つと痺れは消えて、代わりに打たれた脇腹や頭部が痛み始めた。

「あ、多分、もう大丈夫。歩ける。」

  よろけながら立ち上がると白石は心配そうな目でこちらを見る。

「何があったの?」

 これまでのことを全て話す。

「…でそれでおれはヤツに負けて、ここに這いつくばってた。」

  倒れて失禁しているのを見られただけでも相当恥ずかしいのに、喧嘩に負けたことを話すのは精神的苦痛が大きかった。

  9時を過ぎ、ネットカフェのナイトパックが利用可能になったので、二人でそこへ向かった。

  失禁し、濡れたズボンが気持悪い。スタンガンを押しつけられた箇所は焼けるような痛みだ。フラフラと歩きながらあの男への憎悪を募らせていった。

  ネットカフェに着くや否やシャワールームに直行した。服を脱いで身体の傷を確かめる。

  スタンガンを押し当てられた腕と肩には2箇所の小さな火傷跡が残っていた。バックハンド・ブローを見舞われた頭部には瘤ができており、膝と肘を食らった脇腹は紫色に腫れあがっている。

  シャワーを浴びて尿を洗い流し、汚れたズボンとパンツは水洗いしてビニール袋に押し込んだ。

  着替えてシャワールームを出ると白石が共有スペースで待ち構えていた。

「ねえ、話があるんだけど。」

「何?」

「あんな危ないことになるならもう岡崎を探すのは止めた方がいいんじゃないかって思うんだけど…」

  確かに危険を感じたのは事実だったが

「あんなに怪しいヤツを見つけたのにここで引き下がるのか?あれだけ有効な情報も集められたのに!それに岡崎はもっと危険な状態にいるんだぞ!」

  思わず声を荒げる。

「そうだけど、でも私達まで行方不明になったり死んだりしたら元も子もないでしょ。」

「別にいいよ。帰りたいならそうしても。おれは一人でも探す。」

「だから、そうじゃなくて…」

  二人で言い争っているとスマホの着信音がなった。豊川からの電話だ。

「もしもし、仁剛?」

「そうだけど。」

「ああ、実はボクもこっちでいろいろ調べてたんだよ。ネット使ったり岡崎の親に話を聞いたりして。そしたら凄いことが分かったんだよ。」

「何がわかったんだ?」

「岡崎の親戚、父親の兄弟が十年前に設来で殺されてるんだよ。しかも行方不明になった後で。」

「本当か?」

「ああ。両親から直接聞いた。間違いないよ。それともうひとつ。岡崎の父親の父親、つまり祖父は設来の出身なんだ。その祖父は結婚する際に性を妻のものに変えて移住したらしい。もとの性は『額田』って言うんだ。」

 リュックからノートとボールペンを引っ張り出し、豊川の話す内容をノートに書き込む。

「ここからが信じられない話なんだけど、設来にある額田の家は30年前に一家全員が殺されたんだ。」

「え?」

「夜中に家に押入られて刃物で刺されたらしい。犯人は見つかってないそうだ。」

「わかった。よくそんなことを調べられたな。」

「ボクは昔、よくあいつに助けられたからね。このくらい当然だよ。」

「そうか。じゃあ、1つ調べて欲しいことがあるんだが頼めるか?」

「なんなりと。」

「□□市で盗まれた自転車がないか調べてほしい。自転車の特徴はオレンジ色、ブリジストン製、ベルトドライブ駆動、内装変速だ。」

「了解。警察に当たってみる。」

「頼んだ。」

  そう言って通話を切った。

  豊川の話を聞いて危機感は一層強まった。一刻も早く彼を見つけなければ命が危うい。帰るなんてもっての他だ。

「なあ白石、悪かった。さっきの俺の行動は迂闊だった。もうあんなことはしない。だから協力してくれ。」

  仲違いなどしてる場合ではない。

「わかった。これからは単独行動は無しね。」

「ああ、そうする。」

 とりあえず和解はできた。

「明日はどうしよう。」

 白石が言った。

「額田家が殺害された家に行ってその周りで聞き込みをしたいと思ってるんだけど、どうだ?」

「それに賛成。だけど何処かわかるの?」

「さっき豊川がLINEで住所を送ってくれた。」

「ならよかった。ところで身体は大丈夫なの?病院で見てもらった方がいいんじゃあ…」

「柔道やってりゃこの程度は日常茶飯事だ。骨も折れてないし問題ない。」

  柔道を始めたての頃、試合で大外刈りをかけられたときに受け身に失敗し肩の骨を砕いたときに比べれば痛みは小さかった。

「そう。じゃあ明日は6時前に出発ね。」

 6時以降は追加料金が生じるからだ。

「了解」

  そう言って別れてそれぞれの個室に向かった。その後はドリンクバーでサイダーとコーラのブレンドを作ったりネットサーフィンをしたりしたが、結局すぐに寝る事にした。

  朝5時、腕に巻いたcasioの腕時計のアラームで目を覚ました。着替えて顔を洗い、荷物をまとめて個室を出る頃には5時40分だった。白石は先に会計を済ませていた。料金は2350円だった。

  今日も自転車を借りて行くつもりだったがレンタルサイクル店の営業時間は8時からのためそれまで時間が余っている。朝食はコンビニで済ませた。

「なあ、寄りたい店があるんだけどいいか?」

「どこ?」

「ホームセンター」

「何を買うの?」

「適当な長さの角材」

  昨日の男はスタンガンで武装していた。こっちが武器を用意しても卑怯ではないだろう。

  ホームセンターまで歩いて行くとちょうど8時で開店の時間だった。40cmほどの角材を2本購入し1本をリュックの脇のポケットに差し込む。ここならすぐに取り出せる位置だ。

  中学の頃竹刀をもった相手と喧嘩したことがあったが、近づくことさえできず一方的に叩かれて負けた。格闘技や武道を修めた人間でも武器を持った相手には分が悪い。角材はスタンガンよりリーチが長いため遠くから殴れば勝てると考えた。それに白石も加勢すれば2体1だ。十分に勝機はある。

「はい」

 と言って白石にもう1本の角材を手渡す。

「えっ?」

  白石は若干戸惑った様子だ。

「またあの男に会ったらこれで殴るんだよ。」

 そんな会話をしているとスマートフォンの着信音が鳴った。豊川からだ。すぐに出る。

「もしもし、ボクだけど。自転車のこと調べたよ。」

「ありがとう。で、どうだった。」

「警察署に行って聞いてみたら確かに特徴が一致する自転車の盗難が届け出されてたよ。」

「やっぱりそうだったか。助かった。」

  「どういたしまして。」

 そう言って通話は終了した。

「同じ自転車が盗まれてた。やっぱり自転車でこのあたりまで来たんだ。」

「そうみたいね。」

 8時半頃レンタルサイクル店に到着し、昨日と同じようにクロスバイクとアシスト自転車を借りて、額田家の跡地へ漕ぎ出した。

  距離は8km位だったので1時間もかからないと踏んでいたが思わねアクシデントに見舞われた。白石の乗るアシスト自転車のチェーンが脱落してしまったのだ。いくらペダルを回してもホイールに力が伝わらない。グーグルマップで最寄りの自転車屋を検索すると1kmほど離れた所に営業中の自転車屋があったのでそこまで押していくことにした。

「ごめんね。」

 と白石が謝る。

「別に白石は悪くない。って言うかこれは整備不良だろ。どうなってんだあのレンタルサイクルの店は。」

 そんな愚痴をいいなが歩いていると自転車屋に着いた。

「すみません、チェーンの脱落を直して欲しいんですけど。」

 白石が店主に声をかける。

「その電動アシスト自転車ですか?」

 店主がいった。

「そうです。」

「すみません。今は他のお客さんの仕事があって、その自転車屋を直せるのは2時間後位になってしますね。」

 しかし、周囲に他の自転車屋も無いのでここに頼むしかない。

「それでいいのでお願いします。」

「分かりました。じゃあ2時間半後くらいに取りに来てください。」

  そうして自転車屋を後にした。

「2時間半も何してればいいんだよ。」

 思わず愚痴をこぼす。白石はグーグルマップで何か調べているようだった。

「ねえ、この『設来郷土資料館』って所に行ってみない?」

「観光に聞いてる訳じゃないんだから…」

 そう言いかけたが昨日の駅前での聞き込みをでも結局岡崎を見たという人一人もいなかったし、こんな所で聞き込みををしても無意味だとは思ったので彼女に同意することにした。

「いや、うん。そうしよう。」

 郷土資料館は歩いて10分もかからないところにあった。扉を開けると受付に男性の老人が座っていた。

「すみません、中を見たいですけど。」

「ちょっと待ってください。」

 そう言うと老人は立ち上がりこちらに歩いて来た。

「今から案内いたしますね。」

 たかが2人のために付きっきりで案内をするのかと思っていたら。老人が話し始めた。

「お客さんなんて週に1回くらいしか来ないので、退屈なんです。案内してもいいですか?」

「はい。ありがとうございます。」

  確かに館内には他に人が見当たら無かった。

  老人が案内した先にはガラスケースに入った古い帳簿のようなものが展示されていた。その後一通り館内の展示物の案内や解説をしてもらったが、それでも時間が1時間ほどで余っていた。

  すると、まだ説明を受けていない展示物があることに気づいた。それは不気味な絵だった。薄茶色で人のシルエットのような形をしていたが腕が3本あり脚は曲がりくねっていて、巨大な3つの目が顔を占めている。手前にはひとが倒れていた。

「あれは何の絵なんですか?」

 老人に尋ねる。

「それは『やぐたば』の絵です。『やぐたば』とは災厄をもたらす存在として昔からこのあたりに伝わっているものです。絵の手前に人が横たわっていますが、大昔には数十年に1度生贄を捧げてやぐたばの機嫌を取り、災害が起きないことを祈る儀式があったんです。明治時代頃に廃れたようですが。」

「そうなんですか。」

  そろそろ自転車が直っている時間になりそうだったので資料館を出る事にした。

  修理代は1000円だった。再び自転車を走らせ、30分ほどで目的の場所に到着した。

  額田家の跡地は住宅街の中にあった。家は完全に取り壊され、放置された土地には草が伸び放題になっていた。

  周囲の家を何軒か尋ねたが、30年前のことだけあって当時のことを知る人はなかなか見つから無かった。

  10軒めの家のチャイムを鳴らすと老婆が出てきた。額田家の事件のことを聞くと少しずつ当時のことを語り創めた。

「額田さんの所の家だけど、特に変わったところとかは無かったなあ。どっかの家と喧嘩したなんて話も聞いたことが無かったし、なんであんなことが起こったのかなあ。」

「額田さんと話したりすることはありましたか?」

「そらあ近所だから奥さんとはしょっちゅう会ってたし子供を預かってあげたこともあったなあ。」

「本当になにも変わったことはなかったんですか?」

 少し考え込んだ後で話し始めた。

「そういえば、その事件の直前に額田さんの子供が一人で道に立ってたの。心配になって『どうしたの』って声をかけたら『呼ばれてる』って言ったの。誰に呼ばれたのか聞いても応えないでただ何度もそう繰り返してて、不気味だったねえ。」

  それ以上は聞けることが無かった。

  その後も家を回ったが話を聞ける人は見つからなかった。

  ここに来たのは失敗だったかもしれない。そんな考えを懐きつつ次に尋ねる家に向かっていると。後ろから声をかけられた。

「おい」

  聞き覚えのある声だった。昨日駅前で声をかけたあの男の声だ。




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