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行方不明になった友人  作者: 本宮圭司
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序章

こんなホラー小説があったら読みたいという思いが高じて自分で小説を書くことにしました。

  ある冬の夕方、ようやく部活が終わり、部室で帰り支度をしていた。汗にまみれた柔道着をビニール袋に詰め込み、身体を拭き、学ランを羽織った。柔道の練習に打ち込んでいる間は「あのこと」を考えずに済むがそれが終わるとまた頭が支配される。一週間前に友人の岡崎真おかざき まことが行方不明になったのだ。

  現在高校1年生である仁剛毅じんごう こわしは岡崎と中学時代に柔道部を通じて知り合った。お互いに柔道の初心者でありながら熱心に部活に取り組み共に練習に明け暮れるうちに自然と信頼関係が築かれていった。二人は「柔道の強豪だから」という理由で同じ南田原高校へ進学した。そんな岡崎は仁剛にとって無くてはならない存在であった。

  何故岡崎は消えたのか。彼が行方不明になって以来そのことばかり考えている。犯罪に巻き込まれたのか、それとも何かを思い詰めていたのか、虐めや家庭内暴力を苦にして自殺したのか。自分が彼の最も親しい友人だと思っていただけに何も出来なかった自分に恥じを覚える。

  そんなことを考えながら駐輪場に向かい自分の自転車の荷台に荷物をゴムヒモで固定していると後ろから声をかけられた。

「今から帰るの?」

  話しかけて来たのは岡崎と付き合っている女子の白石コウ(しらいし こう)だった。彼女とはほとんど話したことがなく、岡崎から時々話を聞くくらいでお互いににほとんど接点がなく彼女から話しかけて来るのはこれが初めてであり内心少し驚いた。岡崎が明るく外向的な性格であることに対して仁剛は人と話すのが得意でなく、また短気な性格も相まって友人はあまり多くなくましてや女子と関わる機会は少なかった。

  「そうだけど。」そう短く応えた。彼女のシリアスな表情からして、岡崎に関することだろうかと予想した。

  「実は昨日、岡崎から電話がかかって来たんだけど…」

  「は?」

  悪気があった訳ではないが、驚心によりつい失礼な返しをしてしまった。

「それ、本当?」

「うん。私のスマホにかかってきた。」

「なんて言ってた?」

「なんか、『自分がどこにいるかわからない。気づいたらそこにいた。どこか田舎の町中にいる』みたいなこと言ってたけどすごく混乱しているみたいで直ぐに切れちゃった。それで、その後直ぐにLINEで写真が送られてきたの。」

  そう言って彼女はスマートフォンに映された写真をこちらに向ける。慌てて撮影したのかぶれていて見辛いが、その写真には2車線の道路の脇に田畑と民家が並んでいる典型的な地方の町という様子が映されていた。

「この場所がどこかわかる?」彼女が聞いた。

「いや、全く見当が付かない。このこと他の誰かに話した?」

「岡崎の御両親以外には言ってない。」

「なんで俺には話した?」

「岡崎はよく仁剛のこと話してたから何か知ってるのかなって思って。御両親もわからないって言ってたから。」

  岡崎が自分のことをどう言っていたのか少し気になったがそれよりもあの写真の場所をどうにかして特定できないだろうかと考えた。SNS上の犯罪で写真から撮影者の住所を特定し自宅に脅迫文を送られたという事例を聞いたことがあるが彼にそんなスキルはなかった。

「とりあえずその写真俺に送って。」

  そう言った後に白石とはLINEの交換をしていなかったことに気付きその場で交換して写真を送らせた。

「その場所、特定出来るかもしれない。」

 彼には一人、写真の場所を特定できる人物に心当たりがあった。

「何かわかったらすぐに連絡する。」

 白石にそう告げて心当たりの人物の元へ向かった。

  豊川人志とよかわ ひとしは仁剛と岡崎の共通の友人の一人でいわゆるオタクであり、ネットジャンキーでもあった。インターネットに精通している彼ならわかるのではないかと期待し彼の家を訪ねた。挨拶もそこそこに彼の部屋に上がると早速本題に入りこれまでのことを伝えた。

「お前ってインターネットに詳しかったよな。」

「まあ、普通の人よりかは詳しいだろうね。」

「この写真の場所を特定できるか?」

 そう言って写真を見せたが

「無理だね。場所を特定するには写真だけじゃ無くて周囲に何が有るかとかどんなことが起こったのかを総合しないといけないから、写真一枚じゃ無理だよ。俺には。」

「俺には?」

「世の中には信じられない技能を持った人がいるからね。中には写真一枚で特定できる人もいるよ。」

「そういう人に頼むことはできるか?」

「ボクのネット上の友達にいるからね。頼んでみるよ。」

「助かる。ありがとう。」

「ボクも彼のことは心配だからね。」

  その後帰宅し適当に答を写して数学の課題を進めて、日課の筋力トレーニングをしながら豊川からの連絡を待っていた。腕立て伏せのちょうど100回目でスマートフォンが鳴る。

「もしもし、仁剛か?ボクだよ。特定してくれる人がいたんだけど…」

「ああ、よかった。どのくらい時間がかかるかわかるか?」

「時間なら問題ないよ。一晩もあれば十分だって。問題は費用がかなりの額になるってこと。6万円出せってさ。」

「じゃあ2万円づつだな。」

 白石に電話し3人で2万円づつ出すことを了承させた。

  次の日の朝、スマートフォンの着信音で目を醒ました。

「もしもし、仁剛?特定出来たってよ。『○○県 設来市 加園町 大清水通り 109-4』ってとこらしい。」

  豊川に礼を言って通話を切り、すぐさま白石に電話をかける。まだ寝ているらしくなかなか電話に出ないことに苛立ちつつ今後のプランを考えていた。

「もしもし?場所がわかったの?」

 ようやく出た。

「ああ。○○県 設来市 加園町ってとこらしい。」

「○○県なら電車ですぐに行けるけど、設来市ってどのあたりにあるの?」

「グーグルマップで調べたら西の方の山間にある町だな。電車を乗り継いで4時間位かかる所だ。」

「そこに行くつもりなの?」

「そうだ。それ以外に方法ないだろ。白石はどうするんだ?」

「私も行く。明後日から土日と創立記念で3連休だからそれを使って岡崎を探すんでしょ。」

「明後日の始発で行きたい。駅に午前4時半集合でいいか?」

「ええ。それでいい。じゃあ準備しておいてね。」

「わかった、じゃあな。」

 それで通話は終了した。両親には友達と泊まりでユニバーサルスタジオジャパンに行くと言い張って納得させた。柔道部の顧問には家族で韓国旅行に行くと言った。出発前日、普段は教科書を入れている28リットルサイズの黒いミズノのロゴが入ったリュックサックに着替えと机の奥にしまってあった貯金の全部、記録用のノートとペン、印刷した設来市の地図、モバイルバッテリー、タオル、ペットボトル、雨具を詰めこんだ。そして設来市への電車の乗り継ぎを念入りに確認した。もう準備することがないとわかったのでまだ9時にもならないのに風呂に入り布団に潜り込んだ。

  出発当日の朝、昨日の早寝のせいか3時頃に目が覚めた。セットした目覚まし時計よりも早い。洗面台に立ち目やにを洗い流し、歯を磨く。冬の早朝の寒さに対応するためグレーのトレーナーの上に青のウィンドブレーカーを羽織りネックウォーマーを被る。

  駅までは自転車で20分ほどだ。早朝の静けさがなんとなく心地よい。吐く息が白い。途中のコンビニで朝食を済ませる。駅の駐輪場には約束の4時半の10分前に到着した。切符の販売機に向かうと白石がすでに待っていた。黒いズボンに赤いセーターという出で立ちだった。荷物はノースフェイスの四角いブルーのリュックサックにまとめられている。

「おはよう。」

「おはよう。」

 互いに一言だけ挨拶を交わし以降は無言で改札を通りホームで電車を待つ。電車が到着し、二人ががらがらの車内に乗り込むと、車内に一人だけいた老人が一瞬こちらをみる。空き放題の席に腰を下ろすと空気音がして扉が閉まり、車掌のアナウンスと共に電車は走りだした。



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