温泉卵
湯煙の中で
下駄を鳴らす
木のカランコロン
小脇にある茶屋は
足湯の席で
そこから
ふんわり月夜を
眺められる
茶の甘味と
団子の歯触り
温められる背中
冷たさが心地良い
火照りの灯り
提灯の列が
道を照らし出し
便乗して
行き交う人々の
浴衣の隙間に
陰影をつけた素肌色
心を絡み纏うように
浮かび上がらせる
少しだけ軽い身体は
爽やかな欲望で歩き
知らない人と
話をさせてしまう
そのまま
家族湯に消え
その後は
一つの部屋にかたまり
約束をして
帰路につくのだろう
時間の中で
パチパチと燃焼音
最新式の暖炉は
部屋の空気を汚さない
あの灯りだけを
必要な分だけくれるのだ
出入り口に
二組のスリッパ
使われていない物は
全て
備え付けのクローゼット
欲しい灯りを客にして
会話とミルクティー
繋げる距離に
お湯の染み込んだ
身体がある
朝の日差しが
夜を撫で消すと
少しだけ
早起きしてから
家族湯に入った
強い魔法が消えた後も
続く魔法がある
息の合い方が
昨日と同じで
雰囲気に作られた魅力が
消えることを
二人して怖がった
互いに
自らを蔑んだ言葉
並べては相手を立てた
全裸の言葉は
少しだけ時間を
支配したけれど
やがて
浴室に笑い声を
反響させた
二人して身体を洗い
湯船に浸かれば
登る朝日と
一直線になって
二人は座った
触れて触れて触れ合うのは
湯の流れで分かり
全てが
肩まで浸かれる
適温になった
有明色になりながら
柔らかな湯は
二人の為の浴衣
この温もりを忘れなければ
ずっと続くモノ




