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魔法の使えない魔女と私

作者: 夢想の民

交わり、絡み合い、歪なそれは生み出される

それは、儚くも美しい毒の花

それは、とても綺麗で少しの無駄も無かった

それは、幻、或いは夢、一時の感情

それは、高貴なる翼、希望の行く先

それは、善、歪んだ感情

それは、悪、果て無き欲望


それは、或る時突然飛び立って、何処かへ消えてしまった




 玄関のチャイムが鳴る。

僅かな明かりで本を読んでいた私は、本を閉じて立ち上がると、ゆっくりと玄関へ歩いて行った。

「こんにちは。フリードさんですね。手紙が届いております。」

郵便局の配達員であろう男は初老くらいだろうか。

「ありがとうございました。」

私が手紙を受け取ると、配達員の男は足早に去って行った。

手紙の差出人は私の知らない人物、(名前からして恐らく女性)であった。

私は手早く封を切ると、中の文章を読み始めた。



私を助けて下さい

ソフィー



丁寧ではあったが、手紙を書くこと、というよりも文字を書くこと自体に慣れていない、そんな感じだった。

やけに簡潔で意味の分からない手紙であったが、それよりも私の目を引いたのは同封されていた、古くてボロボロになった茶色い紙に手書きで書かれていた地図であった。

それには、先程の手紙の送り主であろう女性の家らしき場所に星印が付けられていた。

私はこの地図を何処かで見たような気がしてならなかった。

私は本棚を荒らしながら、微かな記憶を頼りに目的の本を探し当てることが出来た。

「散策録」39ページ

数年前の旅行雑誌だが、やはりあった。

私のイメージした物がそこにはあった。

先程の地図と殆ど同じ場所が載っている。

ただ一つ違うのは、本の方には手紙の星印の場所にある筈の家は書いていなかったことだった。

興味を惹かれた私はそこへ行ってみることにした。

手紙には住所は不親切にも書いていなかったが、本の方には大体の場所が書いてあった。

そこは私の家から車で数時間程度の距離であった。


 翌日、少しのパンと水を持って私は車に乗り込んだ。

目的の場所に近づくにつれ、周りは森になっていき、遂には雪も降り始めた。

幸い、私の車はオフロード向けだったので走り続けたが、同じ場所を何度も回っているようだった。

次第に辺りは暗くなって行き、風も強くなった。

方向感覚すら失ってしまった頃に、やっと小さな小屋のような家に明かりが灯っているのを見つけた。

私はその小屋の脇に車を止め、ドアをノックし、中に入れて下さいと少し大きめの声で呟いた。

少ししてドアが開き、私より頭1つか2つ分くらい背の低い女性が出てきた。

年齢は恐らく10代後半くらいだろうか。

長めの髪は銀色で、ちょうど先程まで私を困らせていた雪のように透き通っていた。

瞳は青空のような深い青色。美しい人だった。

「すいません。ある家を探していたんですが、吹雪になり、道に迷ってしまいました。少しの間、中に入れて貰えないでしょうか。」

「はい。どうぞ、小さい家ですが。お入りください。」

と私を入れてくれた。

家の中は暖炉の炎のおかげで暖かかった。

「寒かったでしょう。お風呂がありますので入って下さい。」

と彼女は言ってくれた。

私は一瞬遠慮しようと思ったが、指の先が凍ったように冷たかったので、入ることにした。

風呂から上がると、彼女は夕食まで用意してくれていた。

私はお金は払うと言ったが、彼女は必要ないと断った。

それから私たちは自己紹介をした。

「フリードだ。30歳、仕事は今求職中。1ヶ月前までは軍隊にいた。」

「ソフィーです。今はいろいろあって野菜を育てたりして生計を立てています。」

私はあの地図を出し、例の家がどこにあるのか聞いてみた。

「この家はここです。フリードさんに手紙を出したのも私です。」

私は少し驚いたが、目的の家に辿り着けたという安心感はあった。

そして何故私の名前や住所を知っていて、私に助けを求めたのか聞いてみた。

「それは、私や両親について話さなければなりません。長くなりますが、いいですか?。」

と彼女は言ったが、私は勿論聞くことにした。

「私や私の母の家系は所謂魔女なんです。ですが代を重ねていく内にどんどん力は弱まって行き、私は何も魔術は使えません。母はいろいろなことが出来たみたいですが…。」

魔女…数百年前に存在したと聞いたが、てっきり今はもういないと思っていた。

「私と両親は昔、森の外の街に住んでいました。私は幼かったのであまり覚えていませんが…。母と父はそこで出会い、私もそこで生まれました。父は普通の人でしたが、優しかったと記憶しています。母は魔女とは言っても、悪い事は一切せず、街の人とも仲良くやっていたそうです。」

彼女は机の上のお茶を一口飲むと、話を続けた。

「しかしある日の夜、"魔女殺し"の男2人が家に押しかけてきて、追い払おうとした父を殺し、母も殺されそうになりました。母は私を連れて、男2人から必死に逃げました。そこで辿り着いたのがここです。母は父が殺されたショックですぐに病気になり、亡くなってしまいました。私は食料を買う為に一か八かで街へ行きました。そこでも事件は伝わっていましたが、協力してくれた人のおかげで私は生きられました。」

彼女は一度話を区切る。

「"魔女殺し"ってなんなんだ。君は…ソフィー達は何故狙われたんだ。」と私は聞いた。

「"魔女殺し"は通称です。正式名称などの詳しい事は分かりませんが、魔女というだけで迫害し、殺そうとする組織のようです。魔女への協力者も容赦無く痛めつけると聞いています。」

そう言えばかなり昔に聞いたような気もしたが、未だにそんな組織があったなんて。と私は驚いた。

「森に移ってからしばらくは特に動きは無く、安心していました。ですが、私が3日ほど前に街へ買い物に行った時、偶然"魔女殺し"が私の居場所を見つけ、近日中に襲撃しようとしているという噂を聞いたのです。」

「で、私に手紙を送ったと。でも何故私なんだ」

私は疑問をぶつける。

「はい。母が死ぬ直前、私が死んだ後に何か困った事があったらこの人に手紙を送って助けてもらうようにと貴方の名前と住所を教えられました。」

私は側に飾ってあった写真立ての中にいる幸せそうな家族3人の誰とも面識はない。そう思った。

「私にも何故貴方が選ばれたかはわからないのです。」

彼女は申し訳なさそうに言った。

「適当だな。」

私は苦笑いした。彼女もつられて笑う。

ふと窓の外を見ると、更に強くなった雪が降り積もっているのが見えた。

「とりあえず今日は逃げようにもこの吹雪じゃ無理だし、夜も遅い。明日また考えよう。」

成り行きで泊まる事になったが、後から自分が図々しいような気がした。が、彼女は特に嫌がるそぶりも見せなかった。

彼女は布団を敷いてくれた。明かりを消し、扉を閉める。

「おやすみなさい。」

「ああ、おやすみ。」

定型的な挨拶を交わした。

静かになると、より一層外の音が聞こえる。

魔女、と言っていたが私は今でも半信半疑だった。

だが、彼女の話はとても嘘のようには思えなかった。

今日の出来事を回想している内に、私は眠りに落ちた。


早朝

私はドアを激しく叩く音と、彼女の緊迫した声で目を覚ました。

「起きて下さい!大変です!あいつらが来てしまいました。」

あいつら…ああ、"魔女殺し"の…

ぼんやりとしていた意識が覚醒して行く。

「それは大変じゃないか!どうする?まだ何も考えていないというのに。」

すると

「早く出てこないとドアを壊して突入するぞ。」

奴らの我慢も限界のようだった。

「よし、私がドアを開けて制圧する。ソフィーは私が安全だと言ったら出てきてくれ。」

「分かりました…。」

彼女の瞳は不安の色に曇っていた。

「大丈夫、私は元軍人だからな!」

私は彼女を勇気づけるように強めの調子で言った。

彼女も少し安心した様だった。

ドアを勢いよく開ける。

「やっと出てきたか…?誰だお前はっ…。」

私はかつて習ったCQC(近接格闘術)を駆使し、ドアの前にいた男を気絶させた。

しかし、その背後にいたもう一人の男に銃を向けられていた。

「動くな。協力者だな。手を上げてそこに跪け。」

ああ…このままでは…私も彼女も捕まってしまう。

でも、もう…

その時だった。

家の中から飛んで来た何かが男の顔に当たった。

その一瞬の隙を突いて私は銃を取り上げ、制圧する事に成功した。

「ソフィー、ありがとう。君の助けのおかげだ。」

「怖かったですが、私達が捕まってしまうことの方がもっと怖かったので。」

「とりあえずロープか何か無いかな?」

「あっ探してきますね。」

彼女が家の中に入って数分後、細いロープを持って出てきた。

それで私は男2人の手足を縛り、側にあった大きな木に縛り付けておいた。

「これで当分は逃げられないだろう。自分達で切るか、心配した仲間が助けに来るかどっちが早いかな?」私は意地悪な口調で言った。

「ここはもう危険だ…私の家に行こう。必要な物を集めてきてくれ。」

「はい!」

彼女の瞳は元の色へ戻っていた。

彼女の持って来た衣服や少しばかりのお金を車に積み込む。

それから森を後にする。

雪は積もっていたが、晴れていたので道に迷う事は無かった。

街に出た。そこで給油し、

「そう言えば私は朝食を食べていないけど、ソフィーは?」

「実は私もです。」

「何処かに寄ろうか。行きたい所とかある?」

「あーっ私あのイタリアンが食べたいですっ!」

魔女とは言え、無邪気な笑顔は年頃の少女と寸分違わぬ物だった。

私達はそこで食事をし、少しの休憩の後出発した。

数時間後、自宅へ到着した。たった1日なのに、やけに懐かしく感じるのは何故だろう。

助手席に座っていた彼女は寝てしまっていた様だった。

私は彼女を起こすと、家へ入った。

「うわーっ大きな家ですねー!」

それは彼女の家が小さ過ぎただけじゃないかと思ったが、口には出さなかった。

一階。本を荒らしたまま出発したため、そこら中に本が散らかっている。

「散らかってて申し訳ない。すぐ片付ける。」

「フリードさん、本好きなんですか?私も大好きです!」

彼女は目を輝かせていた。

その後は彼女に空き部屋を貸し、一通りの掃除を済ませた。

「ふぅー綺麗になったな。」

と言った時にはもう彼女は本の世界に入り込んでいた。

私達の平和な日々が始まった。

しかしそのせいで、私は奴ら(魔女殺し)の存在など頭から消え去っていた。

数ヶ月後…私は働き始め、ソフィーもここでの生活に慣れて来た様だった。

仕事が休みだったので、私はソフィーを誘ってショッピングへ行った。

衣服などを買い、満足そうなソフィーだったが、駐車場に出て車に向かうその少しの間で、私達は背後から銃を突きつけられた。

そしてそれぞれ別の車に乗せられた。

犯人は勿論奴らだった。しかも今回は人数も多い。

流石に元軍人とは言え、非武装で人数不利、背後からの急襲とあっては為す術もなかった。

私は手足を縛られ目隠しをされ、車に揺られること数時間。

目隠しが外された。強烈な光が目に入る。

どうやら山の中にある研究所の様だ。

私は持ち物を全て没収されて牢に入れられ、そこで数日を過ごした。

そして"裁判"とやらにかけられた。

「被告人は魔女を匿い、2人の構成員に暴力行為を働いた罪で死刑に値する。」

何ともふざけた裁判だ。しかし私には抵抗する気力も無かった。

処刑場に連れていかれ、死ぬ覚悟を決めようとしたその時、眩い光が辺りを包んだ。

建物が崩れていく。

緊急事態という事で私達は外へ避難した。

他の牢に囚われていた、恐らく魔女であろう数名の女性とそれを庇い、捕まってしまった私の様な男も何人かいた。

外は夜の筈なのに辺りは真昼の様に明るかった。

皆の視線を追うと、そこには翼を生やし、眩い光を放っているソフィーの姿があった。

「ソフィー!!」

私は叫ぶ。

「フリードさん、私は魔術が使えなかったのでは無く、封印されていただけだったみたいです。私達魔女は、魔術を使うとどんどん寿命が短くなってしまいます。母はその為に私の魔術を封印していたのでしょう。私の幸せを願うために。ですが、フリードさんを、囚われた皆さんを助けたいという強い想いがその封印を解いてしまいました。」

「殺せ殺せ!撃て、撃ちまくれ!」

奴ら(魔女殺し)は銃を一斉に発砲するが、ソフィーには当たっていない、というよりも吸収されている様に見えただった。

「私は貴方達(魔女殺し)を決して許しません。たとえこの身が滅びようとも。」

光がより一層強くなった。

次の瞬間には奴らの姿は消えて無くなっていた。

「本当にありがとうございました、フリードさん。私は幸せでした。」

そして徐々に光が弱まっていき、ソフィーは小さな光の粒となって空へと消えていった。

「ソフィー…ソフィー!!」

私は呆然と立ち尽くしていた。

周りにはやっと解放されたと喜んでいた者も多かったが、私は複雑な気持ちだった。


家に帰る。彼女が使っていた部屋を見ると、今まで我慢して来たものが込み上げてきた。


ソフィー、私は決して君のことを忘れない。



それは、儚き夢物語

初めて小説を書いてみました。

最初の詩を書いてるうちに、これを小説に組み入れたらどうなるかなと思ったことが始まりでした。

最初の詩は魔女一族に関する詩という設定です。

ソフィーの母が何故主人公のことを知っていたかは私(作者)にもわかりません。

思いつきませんでした(!?)。

拙い文章で申し訳ないです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 繋がりが不自然なのは、思いついたら書いていた作品って感じですね。 「お風呂」と言われるシーンも車から降りてすぐなのに? となります。 最後は、組織の規模がわからないので、その場しのぎに見えて…
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