02
俺が家に帰ると、母さんが話しかけてきた。
「今月の小遣いってもうあげたっけ?」
「いや、もらってねえよ」
本当はもらった。しっかりと自室の引き出しにしまい込んである。すまないなあ母さん、高校生は金がかかるのだよ。
「あらそう。そしたらはいこれ」
母さんは裸の5000円を俺に手渡した。
「せんきゅー」
俺は金だけ受け取るとすぐに2階にあがった。年季の入った階段は、踏み込むたびに悲鳴をあげる。
ラッキーラッキー、今月は小遣い2回ももらっちゃったよ。
上機嫌でもらった5000円をしまうべく、引き出しをあけた。
引き出しの中には1万円冊が一枚と、1000円札が3枚。
おかしい。5000円が足りない。
この間1度目の小遣いとしてもらったばかりの5000円札がそこにはなかったのだ。
母さんが盗むとは思えないし...俺の勘違いか?
母さんに以前に一度今月の小遣いを既にもらったことを、確認するわけにもいかず、考えこんでいると母さんが部屋にやってきた。
「あんた、来週からテストだよね?勉強してる?」
やっべ、すっかり忘れてた。
我が家はそれなりに勉強に厳しい。ある程度の成績が取れないと小遣いが減額されてしまう。しかし俺の成績は下降気味だ。
「いや、再来週から。まだ先だよ」
俺はとっさに嘘をついてしまった。まあいいだろうこれくらい。遅かれ早かれテストの点は見せざるを得ないから結局同じなんだけどな。
仕方ない。今日はちょっとは勉強するか。
珍しく勉強机に腰掛け、それなりに勉強した。ペンを紙に書きつける音が久しぶりに部屋に響いた夜だった。
翌日、いつものように学校、朝礼で担任の本田が連絡事項を伝えていた。
「ええ、それからテストは再来週に延期になった。詳しい日程はまた追って連絡する」
耳を疑った。
「えーーーー!!?」
教室中から大きな声。喜ぶものもいれば、呆れるものもいた。一様に言えることはみんな今までにない急な変更に戸惑っていた。
唇が乾いている。喉の奥がカサついてかきむしりたい。一方で額には汗が滲んでいる気がした。
『嘘からでたまこと』そんなことわざを思い出した。
どうにも俺のついた嘘は、"全て実現される"らしい。