01
「今日の宿題は忘れてきました!」
否、こやかましい奥山の数学課題はきっちりやって持ってきてある。いつもは忘れる俺だが、今日ばかりは持ってきたのだ。
というのも今日課題を忘れたものは授業終了後補修を受ける必要があるらしい。そんなもん受けてられん。
「馬鹿だなあ。今日補修だぜ?ご愁傷様」
机のうえで頬杖をついているのは本田ユウジ。ユウジは、いつも通り、溢れ出る侮蔑感を隠そうともせず呆れた様子だ。
「なんつってな、実は持ってきてあるんだい」
「なんだそれ、つまんねえの」
我ながらくだらない嘘だとは思ったが、致し方あるまい。人間は嘘をつく生き物なのだから。
しっかりとやり終えた課題を見せようと、俺は使い古したスクールバッグを漁った。
が、見つからない。
昨晩しっかりとやり終え、スクールバッグに入れたあの課題が見つからない。
そんな馬鹿な。
「それも嘘か?嘘の重ねぬりは寒いぞ〜」
ユウジはさっきよりもずっと呆れた様子だ。
「いや待ってくれ、本当にないぞ?」
俺はスクールバッグに中身を全て、自分の机の上に広げたが、当該の課題プリントはでてこなかった。
「うそだろ...」
思わず漏れた言葉。家に忘れたのだ。最悪だ。
「演技がうまいねえお前は。それともほんとに忘れた?かわいそうに」
ニヤニヤとした笑みを浮かべるユウジの顔がうざったい。
「うるせえな、ちくしょう今日の合コンぱあじゃねえか」
「ま、また行こうぜ。今日はお前の分まで楽しんできてやっからよ」
「へえへえ」
時計を見るともうじき朝のホームルームだ。俺は自分の席へと戻る。
朝の教室というには独特な雰囲気がある。冬の乾いた空気で軋む床や扉。時代錯誤のストーブは学校という空間の特異性を感じさせる。
窓の外の寒空は、冬に割にやけに低く見えた。