プロローグ
「俺、あのアーティスト嫌いでさあ」
アキラの高い声。しかし、教室内に響くことはない。休み時間の教室というのは、ライブ会場顔負けのうるささであるからだ。
数十人の生徒が思い思いに話す声、それがぶつかり会い、再び拡散する。冬の乾いた空気は音を和らげることもない。
「俺もあんまり好きじゃないな。なんつーか鼻につく」
アキラはクラス内でも、学年でも目立つタイプの人間だ。いわゆるスクールカーストで上位に位置する人間である。俺はそのアーティストが少し好きだったが、無意識的に話を合わせていた。
「まじ?気が合うなあお前」
とアキラ。次の瞬間。
とんでもない嫌悪感がこみ上げてきた。その対象は目の前にいるいけすかないアキラでもなく、他人に話を合わせる情けない俺でもない。
くだんのアーティストに対してである。
またやってしまった。
人間がどれだけ、無意識的に嘘をつくかをまた痛感する。
あっという間に俺は、くだんのアーティストが"鼻につかない"、そんな感情を持って大嫌いになっていた。
なんでこんなことになってしまったんだ。こんな力...不便なだけだ。
木造建ての校舎がやけに窮屈で、なんだかここに閉じ込められているような気がした。